人手不足なのに人件費削減が行われ、新しい人員を雇えないまま業務に追われている管理職の方もいるでしょう。

人員の採用により人手不足を解消できない場合、業務量を削減し、従業員の作業負担を軽くすることも大切です。具体的には、外注やテクノロジーの導入、収益性の低いサービスの提供の中止などが挙げられます。

この記事では、企業が人件費削減を行う理由や、人手不足により現場に生じる悪影響についても解説します。

人手不足にもかかわらず人件費削減を行う理由とは

以下では、人手不足にもかかわらず企業が人件費削減を行う理由について解説します。

収益力を向上させる

経済産業省のミラサポplusによると、企業がコストを削減する目的は、収益力の改善にあります。

人件費などの企業活動に必要なコストを減らすことで、企業は利益を増やせます。人件費には基本給のほか、残業代や交通費、福利厚生費などが含まれるため、コストに占める割合が高い点が特徴です。

企業の収支状況は、金融機関から融資を受けられるかどうかに影響します。「2016年版 中小企業白書」によると、経営課題解決のための投資計画に融資を断られた理由として、「収支状況が良くない」と回答した企業は56.7%でした。

このことから、収支状況の悪化は企業成長を妨げる可能性があるため、企業が収益を重視するのも当然といえます。

ただし、ミラサポplusでは人件費の削減について、安易に実施して従業員のモチベーションを低下させるのではなく、まずは業務の効率化などによってトータルコスト削減を目指すべきだとしています。

ほかに費用を割り当てる

企業の経営に必要な資金を確保するために、人件費を削減する企業もいるでしょう。

財務省の「年次別法人企業統計調査(令和5年度)」によると、資金調達の内訳は外部調達の7.6%に対して、内部調達が92.4%でした。内部調達のうち、内部留保は61.7%に及びます。内部留保とは、社内に蓄積された利益などのことです。

このことから、企業内部でのコスト削減による利益の蓄積により、企業経営に必要な運転資金を賄おうとする場合も少なくないといえます。削減するコストとして、人件費が選択されるケースもあるでしょう。

参考:
ミラサポplus「事例から学ぶ!「コスト削減」」
中小企業庁「2016年版 中小企業白書」
財務総合政策研究所「調査の結果」

人手不足によって現場に生じる問題

以下では、人手不足によって現場に生じる問題について解説します。

社員の意欲が低下する

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、人手不足は従業員のモチベーション低下に繋がります。人手不足の職場では、客を待たせたり必要な作業が間に合わなかったりといった問題が起きるケースもあります。

このような状況下では、従業員は問題対応に追われるため、本来取り組むべき業務パフォーマンスの向上に時間をかけられず、モチベーションが下がってしまうのです。

四日市商工会議所の「雇用問題(人手不足)に関するアンケート調査報告書」によると、人手不足が職場環境に与えている影響について、回答した企業のうち「従業員の意欲や働きがいが下がる」と答えたのは30.2%でした。今後の影響の恐れとしては、54.2%の企業が同様の回答をしています。このことからも、人手不足と社員のモチベーション低下には相関関係があるといえます。

業務の質が低下する

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、人手不足の職場では業務に十分な時間が割けず、ミスや手抜きなどが生じる可能性があります。具体的には、「在庫を取り違える」「サービスの提供が遅れたり質が低下したりする」といった影響が考えられます。それにより、売り上げの低下にも繋がり得るでしょう。

四日市商工会議所の調査では、人手不足が経営に与えている影響について「ミスや遅れ、クオリティの低下、クレームの増加など」と回答した企業は20.4%です。ただし、今後そうなる懸念を持っている企業は41.2%と多くいます。人手不足により業務の質が低下しクレームが増加すれば、その対応に追われたり企業の評判に影響が出たりすることも考えられるでしょう。

離職者が増える

人手不足になると一人に対しての業務負担が増えることから、労働時間が増加するケースも少なくないでしょう。労働時間や休日などの条件が悪いと、従業員の離職に繋がることも考えられます。

内閣府の「令和6年度年次経済財政報告」によると、人手不足から生じる悪影響について、「労働時間が増えた」と回答した企業が一番多い結果でした。

また、厚生労働省の「-令和5年雇用動向調査結果の概況-」によると、転職した人が前職を辞めた理由について「労働時間や休日など条件が悪かった」と回答した男性は8.1%、女性は11.1%でした。

これらのことから、人手不足により労働時間が増えれば、従業員の退職に繋がることも推察できます。

なお、直接的な関連を示すデータとして、四日市商工会議所の調査によると、人手不足により「離職者が増加した」と回答した企業は36.5%です。人手不足の影響で今後そうなる可能性があると考える企業は、43.5%にも上ります。

人手不足に悩む企業は離職者の増加に直面している場合もあるほか、今後もさらなる人手不足を予想しているケースもあることが分かります。

若手社員の離職防止のための対策については、以下の記事もご覧ください。

社員のメンタルヘルスに悪影響が出る

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、人手不足により休暇を取れなくなることで、従業員や管理職の方が燃え尽き症候群に陥りやすくなります。

また、SHRMの記事によると、ストレスやメンタルヘルス問題の要因として、調査回答者の29%が「人手不足」、51%が「仕事量」と回答しています。このことから、人手不足や人手不足から生じる仕事量の増加などが、メンタルヘルスを悪化させる原因になり得ることが分かります。

実際に、四日市商工会議所の調査によれば、人手不足によって「メンタルヘルスなどが悪化し、休職者が増えた」と回答した企業は15.6%です。また、今後そうなる懸念を抱いていると32%の企業が回答しました。

従業員のメンタルヘルスが悪化すれば、本人が被害を被るだけでなく、休職によってさらに職場が人手不足になることも考えられます。企業はこのような事態を防ぐため、人手不足を改善したり、業務負担を軽くしたりするための対策を検討しましょう。

部下が仕事を抱えすぎてしまうことによる影響については、以下の記事もご覧ください。

参考:
Harvard Business Review “効率化とコスト削減が招く「人手不足」という高い代償”
四日市商工会議所「新着情報」
厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要」
内閣府「年次経済財政報告」
SHRM”SHRM Research: Work Is Negatively Impacting Employees’ Mental Health”

人手不足でも新しい人員を雇えない場合の対処法

以下では、人手不足でも新しい人員を雇えない場合に、企業が取るべき対処法について解説します。

業務を外注する

IFAC(国際会計士連盟)の記事によると、人手不足の対処法の一つとして必要な業務量の削減が挙げられます。削減には業務の外注が役立ちます。たとえば、ITでの運用や人事での給与処理などです。業務量を減らせば、人手を増やさなくても既存の人員で作業に対応しやすくなると考えられます。

NACUSO(全国信用組合サービス機構)が公開する情報には、ある金融機関で延滞債権の回収業務を外注するメリットが挙げられています。自分たちの職務を減らせるほか、外注する分野について採用や研修を行う必要がないため、それらのコスト削減が可能です。外注先に依頼すれば自社でテクノロジーを導入しなくて済むため、その分の費用も減らせます。専門的なスキルを持つ外注先を利用すれば、業務の質も保つことも可能でしょう。

外注先は、管理能力、実績、コンプライアンスなどの観点から選びましょう。

業務の必要性や進め方を見直す

デューク大学の記事によると、業務の進め方に問題がある場合は、1週間以内に従業員が習得できる迅速な改善策を検討することが重要です。初期投資に費用がかかったとしても、不満を持つ従業員が離職し、採用や研修などを何度も繰り返すより安価になる可能性があります。

改善策の例としては、無駄な作業を防ぐためのマニュアルの見直しや作業の明確化などのほか、定型業務の自動化ツールの導入や外注などが考えられるでしょう。なお、改善策の検討の際は、外部コンサルタントや人事部に管理してもらい、社員に負担が生じないようにしましょう。

また、IFAC(国際会計士連盟)の記事によると、人手が多く必要な割に収益性の低いサービスの提供をやめることも、業務量を削減し労働力不足に対処する一つの方法です。業務の必要性や進め方を含め、全体的な業務の見直しを行いましょう。

テクノロジーを取り入れる

ミシガン中小企業協会の記事によると、人手不足の状況を緩和するには、従業員の負担を減らすためテクノロジーを取り入れることが大切です。たとえば、スタッフが通話を行うカスタマーサービスでは、チャットボットを導入することで転送される通話数を減らせます。

そのほか、中小企業庁の「中小企業・小規模事業者の人手不足への対応事例」によると、企業の取り組み例として「機械化できる工程を検討し、ITを導入する」「発注をWebサイトで行えるシステムを導入する」などのテクノロジーに関する例が挙げられています。

一つの業務に対する従業員の作業負担が減れば、その分ほかの業務に時間をかけられるでしょう。テクノロジーを利用し、従業員の業務削減や効率化につなげ、人手不足を乗り切れるようにしましょう。

労働生産性向上の方法については、以下の記事もご覧ください。

参考:
IFAC“Are We Looking Beyond Hiring to Solve the Staffing Crisis?”
NACUSO “Outsourcing as a solution for labor shortage amidst rising delinquencies”
Duke HUMAN RESOURCES “Managing an Understaffed Team”
SMALL BUSINESS Association of MICHIGAN 
中小企業庁「中小企業・小規模事業者の人手不足への対応事例」

まとめ

企業は自社の経営のために、人件費の削減を行う場合もあるでしょう。人手不足の状態では業務の質が低下したり離職者が増加したりといった悪影響に繋がるケースもあります。人手不足を改善しようにも新しい人員を雇えない場合、業務量を削減するために外注やテクノロジーを導入するほか、業務の必要性や進め方を見直すのも一つの方法です。