ワークライフバランスとは、「仕事」と「私生活」の両方が充実している状態を指します。ワークライフバランスの重要性は理解しているものの、うまく実現できずに悩む管理職も多いでしょう。
本記事では、ワークライフバランスが重要な理由や、部下のワークライフバランスを向上させるために管理職が心がけるべきポイントを解説します。部下にとって働きやすい職場環境を作り出し、ワークライフバランスの改善を目指す方は、ぜひ参考にしてください。
管理職が部下のワークライフバランスを重視すべき理由

管理職が部下のワークライフバランスを重視すべき理由について解説します。
メンタルヘルスが向上する
ワークライフバランスが充実している職場では、長時間労働が抑制され、部下のメンタルヘルスに良い影響がもたらされる可能性が高いです。
逆に、ワークライフバランスを軽視する管理職のもとでは、長時間労働が続くことで十分な休息が得られず、部下のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす恐れがあります。
実際に米国で行われた研究では、毎週55時間以上働く長時間労働者はそうでない人と比べて、
- うつ病になる可能性が1.66倍高い
- 不安障害に悩まされる可能性が1.74倍高い
という結果が出ています。
もちろん、メンタルに不調をきたす要因は長時間労働だけではありません。しかし、長時間労働を防ぎ、部下が十分な休息をとれる環境を実現することで、メンタルヘルスに問題が生じるリスクを限りなく小さくすることができるでしょう。
モチベーションや生産性が高まる
これまで世界中で実施されてきた研究から、ワークライフバランスが充実している従業員ほど、仕事のモチベーションや生産性が高くなる傾向にあることがわかっています。
十分な休息をとることで集中力や判断力が向上し、その結果として作業効率も向上するのだと考えられます。また、ストレスレベルの低下により感情がポジティブになりやすくなり、仕事への意欲も高まるのでしょう。
仕事に人生を捧げることが、必ずしも悪いわけではありません。しかし、仕事に情熱を注ぎ過ぎると、仕事上で何かしらの逆境(低評価をうける、解雇されるなど)に直面した際に、立ち直るのが難しくなる恐れがあります。
一方で、ワークライフバランスが充実しており、仕事以外にも熱中できる趣味や活動を持つことができれば、このようなリスクが軽減されると期待できます。
優秀な人材が集まりやすい
ワークライフバランスが充実している職場ほど、優秀な人材が集まる可能性が高まります。
多くの求職者にとって、ワークライフバランスは企業に対する志望度を大きく左右する要素の1つです。とくに近年の若者は、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。
実際に、学生向けのWebメディア「ガクセイ協賛メディア」が大学生を対象に実施した調査でも、「就職活動の企業選びで重視することは?」という問いに、94%が「ワークライフバランスがとれること」と回答しています。
もちろん、ワークライフバランスを求めて応募してくる求職者が、必ずしも優秀であるとは限りません。しかし、自社のワークライフバランスに魅力を感じて応募してくる人が増えれば、その分、優秀な人材を引き当てられる確率も高まるはずです。
したがって、優れた若手人材を確保するためにも、ワークライフバランスを充実させることは、管理職にとって重要な責務だといえます。
参考:
Harvard Online “It’s Time to Prioritize Your Work-Life Balance”
ガクセイ協賛メディア「就職活動における企業選びのポイント、優先順位を徹底解説」
ワークライフバランスの実現に課題を抱える企業は多い

ここまで説明してきたように、ワークライフバランスを充実させることは、従業員と会社の双方にとって大きなメリットがあります。それにもかかわらず、ワークライフバランスの実現に課題を抱えている企業は少なくありません。
Job総研が社会人男女を対象に実施した「ワークライフ実態調査」によると、理想的なワークライフバランスとして72.2%が「プライベートを重視すること」と回答しています。
一方で、現実のワークライフバランスについて尋ねると、57.5%が「仕事を重視」と回答しています(以下は年代別の集計結果)。
プライベートを重視 | 仕事を重視 | |
---|---|---|
20代 | 理想:74.0% 現実:46.9% | 理想:26.0% 現実:53.1% |
30代 | 理想:74.4% 現実:38.9% | 理想:25.6% 現実:61.1% |
40代 | 理想:70.2% 現実:41.8% | 理想:29.8% 現実:58.2% |
50代 | 理想:58.3% 現実:26.7% | 理想:41.7% 現実:73.4% |
上記の結果を見ると、年齢に関係なく多くの人がプライベートの充実を求めている一方で、実際には仕事中心の生活を強いられていることがわかります。
参考:
PR TIMES「Job総研による『2023年 ワークライフ実態調査』を実施 理想はプライベート重視7割 実際は仕事に偏りギャップ顕著」
管理職が部下のワークライフバランス向上のためにできること

部下のワークライフバランスを向上させるために、管理職がすべきことを紹介します。
柔軟な働き方を認める
部下のプライベートの時間を十分に確保するためには、柔軟な働き方を認めることが効果的です。ここでいう柔軟な働き方とは、以下のようなものを指します。
- テレワーク:自宅などオフィス以外の場所で仕事を行う
- 時短勤務:1日の労働時間を短縮(5時間45分から6時間)して働く
- フレックスタイム制:コアタイム(必ず勤務する必要がある時間帯)を除き、自分の裁量で始業・終業時間を決める
上記のような働き方の大きな特徴として、「働く場所と時間を自由に決められる」点が挙げられます。
たとえば、育児で忙しい社員の場合、テレワークであれば家で子どもの面倒を見ながら業務を進めることが可能です。通勤の必要がないため、子どもが体調を崩した場合でも迅速に対応できるでしょう。
下記のサイボウズ株式会社の事例からもわかるように、柔軟な働き方を認めればワークライフバランスが充実し、従業員のモチベーションや定着率の向上にもつながると期待できます。
サイボウズ株式会社では元々、残業や休日出勤など、いわゆる「昭和の働き方」が横行している会社だった。その結果、退職者が続出しており、2005年には離職率が28%に達したという。この状況を打開するべく、同社では「従業員の働きやすさ」を向上させるための施策として、リモートワークを試験的に導入し始めた。やがて、社内でリモートワークの運用が本格的に定着したことで、2018年には各メンバーが働き方を自ら自由に宣言できる「新・働き方宣言制度」がスタート。このような施策の結果、従業員の働きやすさが格段に向上し、近年では離職率が3~5%にまで低下したという。 |
ただし、部下によっては柔軟な働き方が認められた結果、仕事とプライベートの区別がつかなくなり、かえってワークライフバランスが崩れてしまうケースもあります。
したがって、柔軟な働き方を認めている場合であっても、管理職は部下の業務量や労働時間を適切に管理し、プライベートに支障をきたしていないかチェックすることが重要です。
無駄な業務を減らす
部下の長時間労働を防ぐためには、現在ある無駄な業務を減らすことが重要です。会社では無駄な業務が多数存在しますが、その最たる例が「会議」でしょう。
マイナビスカウティングが実施した調査によると、従業員は1週間の労働時間のうち、14.8%を「会議の準備」および「会議の時間」に費やしているといいます。また、これらの会議のうち4~5割は無駄なものだとされています(いずれのデータも、回答者の中央値より算出)。
逆に言うと、無駄な会議の時間を削減すれば、それだけで部下の労働時間が短縮され、ワークライフバランスの向上が期待できるといえます。
以下は、ハーバード・ビジネス・レビューの記事で提唱されている、無駄な会議にかける時間を減らすためのコツです。
- 会議の予定を一旦すべて削除し、必要な会議のみを戻す(スケジュールを白紙にすることで、各会議の必要性を見直すようになる)
- アンケート調査を行い、各会議の価値を部下に評価してもらう(無駄な会議が客観的なデータとして明確になる)
- 会議中も自由に入退出できるようにする、近況報告をチャットで行うなどの工夫を施す(1つの会議にかける時間を短縮できる)
時間ではなく成果で評価する
部下の仕事ぶりを評価する際は、「かけた時間」ではなく「成果」を重視して評価することが重要です。
たとえば、毎日遅くまで残業している部下Aと、定時に帰宅する部下Bがいると仮定します。このとき、AとBの仕事上のパフォーマンスに差がないのであれば、両者は同等の評価を受けるべきです。
「Aの方が頑張っているから」と評価を高くしてしまうと、職場全体で長時間労働をよしとする風潮が蔓延しかねません。一方で、成果を重視して評価を行えば、部下は短時間でより大きな結果を出すための努力をするようになると期待できます。
ただし、成果を評価することが重要だからといって、プロセス面を一切評価すべきではないというわけではありません。人によって担当する仕事が異なると、成果の出やすさも異なり、成果だけでそれぞれの能力を正しく評価するのは難しいからです。
むしろ、完全な成果主義に陥ると、部下の不満を招く恐れがあるため危険です。
実際に、株式会社パーソル総合研究所が実施した調査でも、人事評価制度の不満点として、「自分の努力が十分に評価に反映されていない(42.0%)」「売上や数値目標ばかりでプロセスが十分に反映されない(40.1%)」などの意見が多く挙げられています(括弧内は回答者の割合)。
したがって、部下を評価する際は「どれだけ成果を上げたか」を重視しつつ、「どのような取り組みを行ったか」「関係者とコミュニケーションがとれていたか」など、労働時間以外の面で各人の努力を認めることも大切です。
管理職が手本を示す
部下のワークライフバランスを向上させるためには、まずは管理職が自身のワークライフバランスを充実させることが大切です。例として、社内でテレワークが推奨されているケースを想定します。
このとき、管理職が一切テレワークを活用せず、毎日オフィスに出社していれば、部下はどう感じるでしょうか。「上司が毎日出社しているから、自分も出社しなければ」と考え、テレワークを活用することを躊躇してしまうかもしれません。
逆に、管理職が積極的にテレワークを行っている職場であれば、部下もテレワークを活用しやすいはずです。
ワークライフバランスを充実させるための制度が社内に整っていたとしても、それを気兼ねなく利用できる雰囲気がなければ意味がありません。
したがって、まずは管理職がこれらの制度を積極的に活用し、部下に手本を示すことが重要です。
参考:
THE HYBRID WORK「離職率28%、採用難、売上低迷。ボロボロから挑んだサイボウズのハイブリッドワーク10年史」
マイナビスカウティング「【会議の半分は無駄?】無駄な会議になりがちな特徴と改善策【アンケート】」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「無駄な会議を特定し、劇的に減らす5つの方法」
まとめ
ワークライフバランスの重要性や、部下のワークライフバランスを向上させるために管理職が心がけるべきポイントについて解説しました。
ワークライフバランスの充実度は、部下のメンタルヘルスやモチベーションに大きな影響を与える要素の1つです。一方で、部下がワークライフバランスの充実を求めているにもかかわらず、現実には仕事中心の生活を強いられているケースも少なくありません。
本記事で紹介したポイントをふまえて、部下にとって働きやすい職場環境を作り出し、ワークライフバランスの向上を目指してください。