「同じことを何度言っても、部下がわかってくれない…」

このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。部下の物分かりが悪いと感じた場合には、まずその原因を分析した上で、適切に対応することが大切です。

本記事では、部下が上司の話を理解できない原因や、このような部下に対する対処法などを解説します。部下を効果的に指導・教育し、優れた人材の育成を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

何度言ってもわからない部下に悩む上司は多い

「仕事内容を何度説明しても理解してくれない」

「何度注意しても同じミスを繰り返す」

部下について、このような悩みを持つ上司は多いといわれています。

実際に、株式会社ネクストレベルが管理職経験者を対象に実施した調査では、「困った部下」の特徴として以下の意見が多く挙げられています(括弧内は回答者の割合)。

  • 話が通じない(28.9%)
  • ミスが多い・直らない(25.9%)

一人の部下に対して同じことを何度も説明しなければならないのは、上司にとって時間の無駄であると同時に、ストレスもかなり大きいはずです。そのため、つい部下にイライラしたり、強く当たったりすることもあるでしょう。

しかし、部下が上司の話を理解できない場合に、その原因が100%部下にあるとは限りません。仕事の割り振り方や指示の出し方など、上司側に問題がある可能性も考えられるからです。

したがって、部下の物分かりが悪いと感じた場合は、まずその原因を分析した上で、適切な対応を取ることが重要です。

参考:

PR TIMES「166人の上司が選んだ「こんな部下は困る!ランキング」発表」

部下に何度言ってもわかってもらえない原因

人材派遣業を営む株式会社R&Gが実施した調査の結果をもとに、部下が上司の話を何度聞いても理解できない原因を紹介します。

物覚えが悪い

部下の物覚えが悪い場合は、上司が何度同じ説明をしてもなかなか理解してもらえない可能性があります。

人の記憶力には個人差があります。実際に、一度聞いただけで仕事をほぼ完璧に覚えられる人もいれば、何度聞いても一向に覚えられない人もいるはずです。

記憶力は大人になってから劇的に改善できるものではないため、部下の物覚えが悪いこと自体は責めるべきではありません。

しかし、物覚えがよくないにもかかわらず、部下がそれを補うための努力(例:メモを取る、自分なりのマニュアルを作成するなど)を怠っている場合は、上司から指摘する必要があるでしょう。

仕事の振り返りをしていない

部下が同じミスや失敗を何度もくり返してしまう場合は、仕事の振り返りが十分に行われていない可能性が考えられます。

例として、部下が仕事の納期に遅れて関係者に迷惑をかけてしまったケースを想定します。

このとき、失敗の原因を振り返ることもなく、これまで通りのやり方で仕事を続けていれば、この部下はまた同じ過ちを犯す恐れがあります。

一方で、この部下が納期に間に合わなかった原因を自分なりに分析し、具体的な改善策を講じることができれば、同じ失敗をくり返す可能性は低くなるはずです(例:「やることが多すぎて、何から手を付ければいいのかわからなかった」→「次からはタスクに優先順位をつけよう」)。

人が成長するためには、まずは自分の弱みや課題と向き合うことが必要不可欠です。したがって、部下が自身の仕事ぶりを振り返る機会を積極的に設けて、内省を促すことが大切です。

仕事が合っていない

能力のレベルや興味の範囲は、人によって大きく異なります。部下の成長スピードがあまりにも遅いと感じる場合は、その仕事が合っていない可能性も考えられます。

たとえば、コミュニケーション能力が高く人と接することが好きな部下に対して、単調な事務作業ばかりを押し付ければ、モチベーションが上がらずパフォーマンスも低下するでしょう。

また、入社して間もない新入社員に対してベテラン社員と同等のノルマを課しても、過度なストレスやプレッシャーをかけるだけで、成長にはつながらない恐れがあります。

したがって、上司は部下のスキルレベルや興味・関心をしっかりと把握し、できるだけそれに合致した仕事を割り当てることが重要です。

指示の出し方に問題がある

部下が思うように仕事を進められていない場合は、上司の指示の出し方に問題がある可能性もあります。

例として、まだ業務経験が浅い部下に対して「このデータをエクセルで集計しておいて」とだけ指示を出し、その後何のフォローも行わなかったらどうなるでしょうか。このような曖昧な指示だけでは、「何をどのようにすればいいのか」がわかりにくいため、上司が納得のいく資料を作成することは難しいはずです。

エン・ジャパン株式会社が実施した調査によると、「尊敬する上司の特徴」として、53%が「指示・指導が的確」と回答しています。一方で、「困った上司の特徴」としては、55%が「指示・指導が曖昧」を挙げています。

これらの結果から、指示の出し方や仕事の教え方が、上司に対する部下の信頼度を大きく左右する要素であることは明らかです。

以上のことから、自分の発言に対して部下の理解が悪いと感じた場合、まずは自らの指示の出し方に問題がないかを振り返ることが大切です。

参考:

PR TIMES「【なかなか仕事が覚えられない?仕事を覚えるための工夫ランキング】男女500人アンケート調査」

エン・ジャパン「1万人が回答!「上司と部下」意識調査―『エン転職』ユーザーアンケート―」

何度言ってもわからない部下に対する対処法

何度言っても話が理解できない部下に対して、上司がとるべき対処法を解説します。

日報を提出させる

先ほども述べたように、部下の内省を促すためには、自身の仕事ぶりを振り返る機会を意図的に与えることが重要です。その方法の一つとして、日報を提出させることが有効だと考えられます。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、日報を作成するメリットとして以下の4点を挙げています。

  • プラス思考になれる:自分のポジティブな側面(「長所」や「やりがいを感じられる仕事」など)に焦点を当てやすい
  • 内省を促進できる:自分自身を客観的な視点で見つめなおすことで、課題や改善点を見つけやすい
  • 計画性が高まる:目標に対してどれだけ前進できているか、目標に近づくためには今後何をすべきかなどが明確になりやすい
  • 忍耐力が向上する:仮に大きな困難な直面した場合でも、過去の記録を振り返ることで対処法が見つけやすくなる

なお、とくに日報の形式に決まりはないものの、同記事では以下の3点を記載することを推奨しています。

ポイント具体例
今日はどんな1日だったか・自分の力で始めて契約を勝ち取れた
・準備不足で取引先を怒らせてしまった
今日は何を学んだか・自力で契約を取れるくらいに成長していることを実感できた
・取引先のニーズを確認した上で、それに応えられるよう事前に準備しておくことが大切だと気づいた
今日は誰と交流したか・取引先と商談を行った
・上司からフィードバックをもらった

メモを取らせる

物覚えが悪く、仕事上の重要なことを忘れやすい部下に対しては、メモを取る習慣を身につけさせることが有効です。

仕事のやり方やスケジュール、上司から受けた指示・フィードバックなどを文字で残しておけば、仮に忘れてしまった場合でも、メモを見直すだけですぐに思い出すことができます。

また、日々の反省点や課題なども一緒に記録しておけば、仕事の振り返りがしやすくなるでしょう。

先ほども述べたように、人の記憶力は簡単に改善できるものではありません。しかし、メモを取る習慣が身についていれば、多少の物覚えの悪さは誰でもカバーができるはずです。

なお、近年ではパソコンやタブレットなどの電子機器でメモを取る人も増えていますが、記憶に定着させることを目的とするならば、手書きのメモの方が適切かもしれません。

実際にプリンストン大学が実施した実験では、講義のメモを「パソコンで取った学生」と「手書きで取った学生」に対し同一のテストを行ったところ、手書きでメモを取った学生の方が良い成績を残したという結果が出ています。

パソコンでメモを取る場合は、発言者の話を文字に起こすことが主な目的になり、記憶に定着しにくいのでしょう。

一方で、手書きの場合は相手の発言をすべて文字にするのが難しいため、自分なりの言葉で要点をまとめようとすることが、記憶に定着しやすくなる要因と考えられます。

やりがいを感じられる仕事を割り振る

ペンシルバニア大学の研究結果によると、「従業員が自発的に取り組みたいと感じるタスクを処理する際は、その遂行レベルが非常に高くなる」傾向にあることが明らかになっています。

したがって、部下のモチベーションやパフォーマンスを向上させるためには、各々の強みや興味に合致した「やりがいを感じられる仕事」を割り振ることが大切です。

とはいえ、部下がどのような仕事にやりがいを感じるかは、上司はもちろん部下自身でさえも、必ずしも理解していない場合があるでしょう。

そんなときに有効なのが、「ジョブクラフティング」を部下に促すことです。ジョブクラフティングとは、「自分の働き方に工夫を加えることで、仕事のやりがいや満足度を高める手法」を指します。

▼ジョブクラフティングの例

  • 仕事を「重要度」と「緊急度」の2軸に分けて分類し、重要度と緊急度の双方が高い仕事を優先的に進める
  • 上司や先輩社員に対して、自ら積極的にアドバイスを求める
  • 営業職について、「不特定多数の人とコミュニケーションが取れる、おしゃべり好きの自分にピッタリの仕事」と捉え直す

ジョブクラフティングを実践することで部下の自己理解が向上すれば、どのような仕事にやりがいを感じるのかを分析しやすくなると期待できます。

効果的な指示の出し方を知る

先ほども述べたように、部下が期待通りに仕事を進めてくれない場合は、上司の指示の出し方に問題がある可能性も考えられます。

そのため、部下に対する効果的な指示の出し方を知ることが大切です。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、「人を動かすための指示」に必要な要素として、以下の5つを挙げています。

要素概要具体例
何をわざわざ言う必要がないと思われる内容も含めて、仕事の具体的な内容をすべて列挙する「3/3のイベント用のプレゼン資料を作成してください。スライドは10枚程度で、イベントの概要やタイムスケジュール、講演者の情報、予算概要などを含めてください」
誰に「誰かがやってくれるだろう」と期待せず、担当してほしい相手を名指しする「資料の作成はAさんが行ってください」
いつまでに「できるだけ早く」などの曖昧な表現ではなく、具体的な日時を期限として伝える「1/31の12時までに、資料のたたき台を作成して私に提出してください」
どこまで上司が求める「仕事の合格ライン」を具体的に説明する「スライドのデザインはシンプルかつ一貫性を持たせて、講演者のプロフィールは細かく記載して欲しいです。あと、予算概要のページで、予想される費用とその内訳をわかりやすく提示してください」
なぜ目的意識や納得感を高めるために、その仕事を依頼する理由・背景を説明する「この資料は、2/7の打合せでB社に説明するために使用します。B社に対して、我々が準備万端であることをアピールし、信頼を築くための重要な資料です」

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「毎日10分の日記をつければ、人は成長する」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「1日の終わりの5分に自問すべき3つの質問」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「なぜ、手書きのメモはノートPCに勝るのか」

ScienceDirect.com “The performance implications of ambivalent initiative: The interplay of autonomous and controlled motivations”

厚生労働省「「働きがい」をもって働ける環境の実現に向けた課題について」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーは人を動かすために「リクエストの手法」を習得せよ」

まとめ

同じ内容を何度説明しても理解できない部下の相手をするのは、上司にとって非常にストレスが大きいことでしょう。

しかし、部下が上司の話を理解できない場合、その原因が必ずしも部下だけにあるとは限りません。上司の指示の出し方やコミュニケーションの取り方などに問題がある可能性も考えられるからです。

したがって、部下の物分かりが悪いと感じた場合は、まずその原因を分析し、適切に対処することが重要です。

本記事で紹介した内容を参考にし、部下を効果的に指導・教育し、優れた人材の育成に役立ててください。