日本企業では今、将来の組織を担うリーダー人材の不足が深刻な課題となっています。「管理職になりたくない若手が多い」「育成の仕組みが整っていない」「指導する側にも余裕がない」こうした現場の声が、リーダー育成を難しくしています。
この記事では、「次世代リーダーを育てるには、どんな課題があるのか?」を整理し、そのうえで効果的な研修プログラムの考え方や設計方法をご紹介します。
これから管理職育成に本腰を入れたい方、既存の研修を見直したい方はぜひご参考ください。
リーダーシップ研修が注目される背景・目的

多くの日本企業が、次世代のリーダー人材の不足という大きな課題に直面しています。
帝国データバンクの調査では、67.8%の企業が「管理職クラス以上の人材が不足している」と回答しており、その背景には、部下を育てる仕組みや支援体制の不十分さがあるとされています。
また、人材育成や組織開発を支援するEdworksが実施した調査によると、管理職の65%が「育成に対する会社の支援が足りない」と感じており、6割以上が「部下の育て方に悩んでいる」と答えています。さらに、労働者の約8割が「管理職になりたくない」と考えているという結果も示されており、リーダー職への意欲低下も深刻な問題です。
このような問題を解決するには、リーダーシップ研修の実施が重要です。ここでは、オハイオ大学が発表している情報をもとに、リーダーシップ研修によって得られる効果についてご紹介します。
1. リーダーシップ能力の強化
リーダーとして必要なスキルを身につけ、日々の業務に追われる「平均的な管理職」から「周囲を導く存在」への成長を支援します。300本以上の研究をまとめた調査では、リーダー研修を受けた人の多くが「平均的な管理職」から「上位2割に入る優れたリーダー」へと大きく成長したという結果も出ています。
2.リーダー職への意識改革
リーダー職に魅力を感じにくいという課題に対し、研修では「リーダーとして働く意味」や「やりがい」にフォーカスを当てます。他の参加者との対話や体験を通じて、自らの役割に前向きな意識を持てるよう働きかけます。
3. 部下育成・組織マネジメント力の向上
部下の力を引き出し、チームをまとめるマネジメント力は、多くの企業で不足が指摘されています。研修では、コミュニケーション力やコーチングスキルを中心に、実践的な育成の方法を学びます。
4.戦略遂行力・変革推進力の育成
変化の激しい時代においては、ビジョンを描き、実行に移す力が求められます。中長期的な視点で課題を捉える思考力と、変革を推進できるリーダーシップの両方を、研修の中で育てていきます。
参考:
帝国データバンク「企業におけるリーダー人材不足の実態(2025年3月)」
EdWorks「リーダー人材育成に関する企業の課題と意識調査(2024年8月)」
Center for Creative Leadership “3 Keys to Making Leadership Development Work”
日本企業におけるリーダー育成の現状

少子高齢化やプレイングマネージャー化の影響で、管理職も日々の業務に追われ、部下を育てる余裕が持てないという声が多く聞かれます。帝国データバンクの調査でも「人手不足で育成まで手が回らない」という実情が報告されています。
また、若手とのコミュニケーションに悩む管理職も増えており、リモートワークの影響や価値観のギャップが壁になっているケースも少なくありません。
こうしたなか、約6割の管理職が「会社からの育成支援がほしい」と回答しており、研修に対するニーズは年々高まっています。
参考:
帝国データバンク「企業におけるリーダー人材不足の実態(2025年3月)」
EdWorks「リーダー人材育成に関する企業の課題と意識調査(2024年8月)」
効果的なリーダー研修プログラムのポイント

効果的なリーダー研修を実施するには、1回きりの研修ではなく、数か月にわたって段階的に進める“継続型”のプログラム設計がおすすめです。特に、対面での集合研修を基本としながら、職場での実践と振り返りを繰り返すスタイルが効果的です。
各セッションの間には、参加者が学んだ内容を実際の業務で試す期間を設けましょう。そのうえで、次回の研修ではその経験を共有し、他の参加者の取り組みからも学びを得る場をつくります。
このように「学ぶ→実践する→振り返る→共有する→次の学びへ」というサイクルを回すことで、リーダーに求められる行動や意識を着実に育んでいくことができます。
継続的な学びと実践を重視するリーダー研修では、その設計にもいくつかの工夫が必要です。以下では、効果的な研修を実現するために押さえておきたい5つの要素を紹介します。
1. 事前のニーズ分析
まず重要なのは、研修の対象となる管理職が現在どのような課題を抱えているのか、どのような力を伸ばす必要があるのかを把握することです。
アンケートやインタビュー、360度評価などを活用して現状を可視化し、その結果に基づいて研修内容を設計します。「本当に必要なことだけを学ぶ」ための、準備段階が欠かせません。
2. 多様な学びの方法(マルチメソッド)
研修では、講義だけに頼るのではなく、グループディスカッションやロールプレイ、ケーススタディ、実習など、複数の手法を組み合わせることが大切です。「聞いて終わり」ではなく、「自分で考え、話し、やってみる」ことで理解が深まり、現場でも活かしやすくなります。
3. ステップ形式と分散学習
1回きりの研修ではなく、テーマごとに分けて複数回にわたって実施する「ステップ形式」も効果的です。例えば、月1回のペースで研修を行い、その合間に職場で学んだことを実践する期間を設けることで、知識と経験が結びつき、学びがより定着しやすくなります。
4. 個別フィードバックとコーチング
各回の研修に加え、講師やコーチからの個別フィードバックの機会を設けることで、受講者一人ひとりの成長をサポートします。診断ツールや演習の様子をもとに、「自分では気づきにくいクセや課題」に目を向けることができ、自身の強みや改善点がより明確になります。
5. 職場での実践とフォローアップ
学びを現場に持ち帰って終わりではなく、実際に行動へつなげることも重要です。例えば「来月のプロジェクトで学んだマネジメント手法を実践してみる」といった具体的なアクション課題を設定し、最終回ではその成果を発表・共有する時間を設けます。
さらに、研修終了後もフォローアップ研修やオンライン教材を提供することで、継続的な成長を支援する仕組みづくりが求められます。
職場経験を学びに変える「70-20-10モデル」
こうした設計のベースとなっているのが、米国CCE(Center for Creative Leadership)が提唱する「70-20-10モデル」です。このモデルでは、リーダーの成長は研修だけで完結せず、職場での経験や人との関わりを通じてこそ深まるとされています。
具体的には、学びの割合を次のように捉えます。
10%: 研修や講義などの座学による学び
20%: 上司や同僚との関わり、メンターからの助言などを通じた学び
70%: 日々の業務の中で得られる実践的な学び
この考え方をもとに、研修前後の職場経験や、先輩リーダーからのサポートなども組み込んだプログラム設計を行っています。例えば、受講者同士や経営層とのネットワーキングの場を設けることで、研修後も情報交換や相談ができる関係性を築くことができます。
このように、知識を「学ぶ」だけで終わらせず、現場で「使える」形にしていく。そのための仕組みづくりが、リーダー研修では何よりも重要です。
次は、具体的にどのような内容で研修を進めていくのかをご紹介します。
参考:
Center for Creative Leadership “3 Keys to Making Leadership Development Work”
効果的なリーダーシップ研修の内容

リーダーに必要な力を段階的に身につけていくために、学習内容を5つのステップに分けて構成しましょう。それぞれのステップでは、テーマごとの講義や演習を通して学び、職場で実践・振り返りを行うことで、スキルを定着させていきます。
ステップ1:リーダーシップの基本と自分を知る
まず最初は、自分自身がどんなリーダーになりたいかを考えることから始めます。プレイヤー(実務担当者)からリーダーへと視点を切り替え、「何が求められるのか」「どんな振る舞いが信頼につながるのか」を学びます。
リーダーの行動原則(例:「模範を示す」「未来を語る」など)に触れながら、360度フィードバックや性格診断などを使って、自分の強みや課題を把握します。また、感情のコントロールや自己理解(EQ:感情知能)にも触れ、「リーダーとしての自分像」を明確にすることが、このステップの目標です。
ステップ2:伝える力とコーチングの基本
2つ目のステップでは、「伝える力」と「聴く力」を磨いていきます。
管理職が強化したいスキルの1位に挙げられるコミュニケーション力。ここでは、相手の話をよく聴く「傾聴(アクティブリスニング)」や、わかりやすく・納得感のある伝え方を、実践を交えて学びます。
さらに、部下のやる気や成長意欲を引き出す「コーチング」の技術も習得。GROWモデルなどを活用しながら、フィードバックや質問の仕方をロールプレイで身につけていきます。
ステップ3:ビジョンを描き、戦略的に考える
このステップでは、チームや組織をリードしていく上で欠かせない「先を見据える力」に取り組みます。
まず、リーダーとしてのビジョンの描き方と、その重要性を学びます。自分のチームにとっての“目指す姿”を言葉にする演習を通して、方向性を明確にします。
また、課題の発見や意思決定を助ける戦略的思考(例:SWOT分析、課題解決の手法)も学び、経営視点を養います。グループワークや事例分析を通じて、実践感覚をつかみます。
ステップ4:チームを動かし、部下を育てる
4つ目のステップでは、「チームをまとめる力」と「人を育てる力」にフォーカスします。仕事の割り振りや任せ方(タスクの分担、権限委譲)について学びつつ、チームメンバーの強みを活かす方法を考えます。
さらに、目標設定やフィードバックの仕方、1on1ミーティングの進め方など、部下の成長を支援するための実践的なスキルも取り上げます。多様な価値観を持つメンバーをまとめる「ダイバーシティマネジメント」の視点も学び、実際のチーム運営に役立てていきます。
ステップ5:実践演習とアクションプランづくり
最後のステップでは、これまでに学んだことを使って、実践に近い課題に取り組みます。
実際の業務やケーススタディをもとに、グループで課題の解決策を考え、発表します。また、ロールプレイでは難しい場面(部下のトラブル対応、変革への説得など)を想定し、臨機応変に対応する力を養います。
最後に、自分が職場に戻ってから「何をするか」「どう実践するか」を具体的にまとめるアクションプラン(行動計画)を作成します。これをもとに、学びを日々の業務に落とし込み、リーダーとしての行動を継続していけるよう支援します。
これら5つのステップを通じて、「自分自身の理解」から始まり、「他者との関わり方」、そして「チームや組織の運営」へと、段階的にリーダーシップの力を育てていくカリキュラムです。各ステップの合間には職場での実践期間を設けており、学んだ内容を実務で試し、次の研修で振り返るというサイクルを繰り返すことで、理解をより深めていきます。
参考:
帝国データバンク「企業におけるリーダー人材不足の実態(2025年3月)」
EdWorks「リーダー人材育成に関する企業の課題と意識調査(2024年8月)」
Center for Creative Leadership “3 Keys to Making Leadership Development Work”Boise State University “The 5 Practices of Exemplary Leadership”
SEDL “Vision, Leadership, and Change”
研修の効果的な実施方法とは

研修では、ただ知識を詰め込むのではなく、体験を通じて学び、職場で活かせる力を育てることを大切にしましょう。対面形式の集合研修を中心に、参加者同士が刺激し合い、学び合えるような設計であることが重要です。
ここでは、特に工夫すべき5つのポイントをご紹介します。
1. 参加型の学びを重視した進行スタイル
講師が一方的に話すのではなく、受講者に問いかけたり、グループで話し合ったりする時間を多く取り入れましょう。「話を聞いて終わり」ではなく、「自分の考えを言葉にし、人の意見も聞く」ことで理解が深まり、学びがより実感を伴ったものになります。
また、参加者同士でフィードバックし合う場面も設けることで、仲間から学ぶ“ピアラーニングの効果も引き出します。
2. 実践に近い演習で自信を育てる
各ステップでは、ケーススタディの分析やロールプレイ、グループ課題の発表など、実際の仕事を想定した演習を行いましょう。
例えば、「部下との1on1面談をどう進めるか」をテーマに、リアルなやりとりをロールプレイ形式で練習。その場で講師や参加者からアドバイスを受けられるので、現場で使える自信が身につきます。「安全に失敗できる場所」で学ぶことが、大きな成長につながります。
3. 講師・社内リーダーとの対話
研修を担当する講師は、リーダー育成の専門知識と現場経験を持つトレーナーが最適です。理論だけでなく、実際の成功事例・失敗事例も交えながら、現実的でわかりやすい内容を届けるようにしましょう。
また、必要に応じて社内のシニアリーダーや経営層にも登場してもらい、会社のビジョンや期待を直接伝える場も設けると良いでしょう。トップの想いや方針に触れることで、参加者のやる気がぐっと高まります。
4. 学びを支えるリソースと継続の仕組み
研修中や研修後に使えるハンドブックやeラーニング教材、関連資料なども提供しましょう。学んだことをあとから振り返ったり、職場で再確認したりできるようにすることで、学びの定着と実践の継続をサポートします。
さらに、研修を終えたメンバー同士がつながりを持ち続けられるように、社内で「学びのコミュニティ」や勉強会を開催し、継続的な情報交換の場をつくることも大切です。
5. 研修の効果を“見える化”してフォローにつなげる
研修の前後で、参加者の意識や行動の変化をアンケートや簡易診断などで確認しましょう。変化の“見える化”を通じて、参加者自身が「自分は変わった」と実感できることも、次の成長への大きな一歩になります。
また、研修後3~6か月後にはフォローアップの機会も設け、行動計画の進捗や課題を共有。学びを職場に根づかせるための継続支援を行いましょう。
以上のように、リーダーの研修プログラムは、参加者がじっくりと学びに向き合える環境と仕組みを整えることが大切です。知識を一方的に伝えるだけでなく、「実践→振り返り→次のチャレンジ」という成長のサイクルを回しながら、現場で活かせる力を育てていくのが特徴です。
研修中はもちろん、終了後も学びを続けられるよう、受講者同士のつながりや、上司からのサポートも活用しながら、リーダーとしての成長をしっかりと後押しできるようにしましょう。
参考:
Center for Creative Leadership “3 Keys to Making Leadership Development Work”
リーダー研修を実施することによって期待できる効果

研修を通じて得られるのは、管理職一人ひとりのスキルアップだけではありません。リーダーが変わることで、チーム全体、ひいては組織全体にも良い変化が広がっていくことが期待されます。
以下では、研修の実施によって得られる主な効果を4つに分けてご紹介します。
1. 管理職の自信と行動力が高まる
研修を通じてリーダーとしての考え方やスキルを学ぶことで、管理職はこれまで以上に自信を持って行動できるようになります。「自分の強みは何か」「部下にどう関わればよいか」が明確になることで、日々の業務でもリーダーシップを発揮しやすくなります。
ある調査では、リーダー研修を受けた管理職は、リーダー行動が約28%向上し、その部下の業績も平均して8%改善したという結果も出ています。研修で得たスキルを実際の業務で活かすことで、本人だけでなく、まわりにも良い影響が波及していきます。
2. チームや職場全体のパフォーマンスが向上する
リーダーが部下をよく見て声をかけたり、方向性を示したりできるようになると、チーム全体の動きも変わってきます。メンバーが安心して働ける環境ができることで、エンゲージメント(仕事への熱意)が高まり、離職率の低下や生産性の向上にもつながります。
実際に、リーダーシップ研修を全社的に導入している企業は、一部の管理職だけに実施している企業よりも、4倍以上の確率で高い業績を上げているという海外の調査結果もあります。
3. 次世代リーダーの層が厚くなる
研修を受けた管理職は、将来の経営を担うリーダー候補としての素地を備えた人材になります。彼らが経験を積みながら組織内で成長していくことで、後継者不足や人材の偏りといった課題の解消にもつながります。
また、研修を通じて築かれたネットワークは、部署や役職を越えた協力関係にも発展します。将来的に社内横断プロジェクトを進める際にも、このつながりが力を発揮します。
4. 管理職のやる気を引き出し、役職に前向きになる
「管理職になりたくない」という若手社員の声が増えている中で、研修によって得られる成功体験や仲間との刺激は、役職に対するイメージをポジティブに変える効果もあります。
実際に、同じ立場で頑張る仲間と学び合うことで、リーダーとしてのやりがいや誇りを感じる人も多く、「管理職になってよかった」「もっと上を目指したい」と思えるようになります。このように、モチベーションの向上は、次世代リーダーを自ら育てていく好循環を生み出すきっかけにもなります。
参考:
帝国データバンク「企業におけるリーダー人材不足の実態(2025年3月)」
まとめ
次世代リーダーの育成は、企業の持続的な成長を支える重要な取り組みです。しかし現場では、「日々の業務に追われて育成の時間が確保できない」「部下との関わり方がわからない」といった課題の声が多く聞かれます。こうした状況だからこそ、計画的で実践的な育成支援がますます求められています。
効果的な研修プログラムを設計するには、知識を一方的に伝えるのではなく、段階的に実践を重ねながら学びを深めていく構成が不可欠です。職場で活かせるスキルとして定着させるには、実務との接続を意識したプログラムづくりが鍵となります。
また、参加者同士が互いに刺激し合える「学び合いの場」や、学んだことをすぐに行動に移せる仕掛けを組み込むことで、より主体的に成長へと踏み出せる環境が整います。
リーダー育成のあり方を見直すタイミングとして、こうした研修の考え方や設計手法をぜひ参考にしてみてください。