人事評価でやる気をなくす部下について悩んでいる管理職の方もいるでしょう。評価によって部下のモチベーションが低下してしまうと、部署全体の生産性にも影響しかねません。

本記事では、人事評価で部下がやる気をなくす理由や効果的な人事評価の進め方を解説します。やる気を高める人事評価のポイントも紹介するので、人事評価を効果的に活用し、部下のモチベーションや生産性の向上を目指しましょう。

人事評価でやる気をなくす理由

人事評価でやる気をなくす理由について、ディシャ大学の助教授であるラギニ・ティワリ氏の論文を参考に解説します。人事評価は適切に行われれば、社員の成長を促し、モチベーションを高める効果があります。

しかし、現実には人事評価が社員のやる気をなくす原因となるケースも少なくありません。評価基準が曖昧だと、社員は自分の努力がどのように評価されるのか分からず、不安や不信感を抱きやすくなります。

また、評価プロセスが不透明だと、公平性に欠ける評価が行われているのではないかと疑念を抱き、モチベーションが低下する可能性があります。さらに、上司との良好なコミュニケーションが不足していると、評価への納得感が得られにくく、不満や不信感が募る原因となります。

また、上司が部下の努力や成果を適切に評価せず、一方的に批判や叱責ばかりしていると、社員のモチベーションは著しく低下するでしょう。さらに、人事評価が昇給や昇進といった報酬に直結していない場合も、社員のやる気をなくす要因となります。

努力が報われないと感じると、仕事への意欲が低下し、パフォーマンスの低下につながる可能性があります。このように、人事評価は社員のモチベーションに大きな影響を与えるため、組織は評価制度の設計や運用に十分に配慮する必要があります。

参考:

Tiwari, R. (2020). Relationship between Performance Appraisal and Employee Performance: A Study. IOSR Journal of Business and Management (IOSR-JBM), 22(12 Ser. IV), 57–61. https://www.iosrjournals.org/iosr-jbm/papers/Vol22-issue12/Series-4/H2212045761.pdf

人事評価の目的

本来、人事評価とは組織と社員、双方にとって有益であるべき仕組みです。個人の成長は、組織の目標達成のために不可欠であり、人事評価は目標達成のために個人の成長を促進する重要な機会といえます。

人事評価の目的について、同論文を参考に解説します。

個人の成長を促進するため

人事評価は、個人の成長を促進するために効果的な仕組みです。日々の業務の中で、自分の仕事ぶりを客観的に振り返る機会は意外と少ないものです。人事評価は、自分の強みや弱み、成長ポイントを明確にする貴重な機会となります。

上司や同僚からのフィードバックは、自分では気づきにくい点を知り、新たな視点を得るのに役立ちます。具体的な改善策や今後のキャリアプランについて話し合うことで、成長へのモチベーションを高めることができます。

また、人事評価は、研修やトレーニングなどの能力開発機会を提供するきっかけにもなります。評価結果に基づいて、自分に必要なスキルや知識を学ぶことで、さらなる成長を目指せます。

組織の目標達成のため

人事評価は、組織の目標達成のために社員のパフォーマンスを最大限に引き出すための重要なプロセスです。組織目標と個々の社員の目標を連動させることで、社員は自身のやるべきことを明確に理解し、モチベーションを高めることができます。

人事評価を通じて、社員の強みと弱みを把握することは、組織の強化につながります。たとえば、高い業績を上げた社員を表彰することで、他の社員の模範となり、組織全体の士気向上に貢献します。

逆に、目標達成に課題を抱える社員には、適切な研修や指導を提供することで、パフォーマンスの改善を支援します。また、人事評価は、社員の適性を見極め、適切な配置や昇進につなげる役割も果たします。

社員を適材適所に配置することで、組織全体の効率性と生産性を高めることができます。このように、人事評価は、個々の社員のパフォーマンス向上を促すだけでなく、組織全体の目標達成に大きく貢献する重要な役割を担っています。

効果的な人事評価の進め方

人事評価を成功させるために、評価前と評価時、評価後と、それぞれで重要なポイントについて知っておきましょう。人事評価を成功させる方法について、ハーバードビジネススクール教授であるフランク・V・セスペデス氏による記事を参考に解説します。

評価前の準備

評価前の準備では、評価基準を明確にし、適切な評価が可能な時間を確保しておくことが重要です。評価基準を明確化し、評価対象者と共有しましょう。何を重要視し、どの程度の成果を期待しているのか、具体的な行動について示すことで、評価対象者は目標を理解しやすくなります。

また、人事評価は、社員のキャリアや報酬に影響を与える重要な機会であり、時間をかけて真剣に話し合う必要があります。そのため、適切な評価が実施できる時間を十分に確保しなければいけません。

さらに、評価までは評価対象者の行動を注意深く観察し、記録を残しておくことも大切です。評価対象者の行動が組織内外に与えた影響を具体的に把握することで、より正確で建設的なフィードバックを提供できます。

評価時の5つのステップ

評価時には、以下の5つのステップを踏むことで、スムーズで生産的な面談になります。

  • ポジティブな意図を伝える
  • 具体的な行動に基づいて評価する
  • 行動の影響を説明する
  • 社員の意見を聞く
  • 次のステップを明確にする

まず、人事評価の目的が社員の成長を支援し、パフォーマンスを向上させることであることなど、ポジティブな意図を伝えることが重要です。

ポジティブな意図を明確に伝えることで、社員はフィードバックを受け入れやすくなり、前向きな姿勢で面談に臨むことができます。

次に、具体的な行動に基づいて評価する必要があります。抽象的な評価ではなく、具体的な行動や事例を挙げることで、社員は自分の強みや弱みを理解しやすくなります。たとえば、「コミュニケーション能力が高い」と述べるだけでなく、以下のように具体的なエピソードを交えて説明することで、説得力が増し、社員の納得感も高まります。

具体的なフィードバックの例:
上司:「先日の□□についての会議で、○○さんは、チームの意見を丁寧にまとめ、全員が発言しやすい雰囲気作りをしていた点が素晴らしかったです。特に、Bさんの意見にCさんが反論した際には、双方の意見を尊重しながら、冷静に議論をまとめていましたね。あの時の○○さんの対応のおかげで、会議がスムーズに進み、良い結果につながったと思います。」

上記のように、具体的なエピソードを交えて話す際に、行動の影響を併せて説明することも重要です。部下は、自分の行動が組織やチームにどのような影響を与えているかを認識していない場合があります。

行動と結果の因果関係を明確に説明することで、部下は自身の行動の重要性を理解し、責任感を持つことができます。また、一方的な評価ではなく、双方向のコミュニケーションを図ることも大切です。

部下の意見に耳を傾け、部下を尊重することで、信頼関係の構築にもつながります。最後に、人事評価後の次のステップを明確にすることが重要です。評価後は、具体的な行動計画を立て、今後の成長につなげることが重要です。

これらのステップを踏まえ、人事評価を部下と組織双方にとって有益な機会とするよう心がけましょう。

評価後のフォローアップ 

評価後、最も重要なのは、評価結果を具体的な行動につなげることです。定期的なフォローアップ機会を設定し、目標達成度に関するフィードバックを提供することで、社員のモチベーションを維持し、パフォーマンス向上をサポートしましょう。

メールやチャットを活用した簡単なメッセージでのフォローも効果的です。定期的なフォローアップは、人事担当者にとっても、社員の成長パターンを把握する機会となります。

参考:

Cespedes, F. V. (2022, July 18). How to conduct a great performance review. SHRM. https://www.shrm.org/topics-tools/news/employee-relations/how-to-conduct-great-performance-review

やる気を高める人事評価の3つのポイント

先述したとおり、人事評価に対して不信感を持ったり、昇給や昇進が望めないことがわかると、部下はやる気をなくしてしまいます。部下のやる気を高める人事評価を実施するためには、ここで紹介する3つのポイントに注意しましょう。

やる気を高める人事評価の3つのポイントについて、ハーバードビジネスレビューが公開するフェイスブックの人事部門を統括するロリ・ゴーラー氏らによる記事を参考に解説します。

公平な評価を行う

人事評価は、社員の貢献度を評価し、昇給や昇進を決定するために不可欠なプロセスです。人事評価における基準がない場合、評価は特定の人しか把握していない状況になり、公平な評価ができない可能性があります。

人事評価の公平性を高めるには、評価者の主観的な意見だけでなく、客観的なデータに基づいた評価を行うことが重要です。具体的には、以下のような対策が効果的です。

  • 複数の上司や同僚からの評価を取り入れる
  • 評価基準を明確化し共有する
  • 評価結果について評価対象者と話し合う機会を設ける

また、評価者の偏見が公平な評価を阻害する可能性があるため、客観的な評価基準を設ける必要もあるでしょう。社員が納得できる公平な評価制度を構築することで、社員のモチベーション向上につなげられます。

透明性を確保する

社員のやる気を高めるには、人事評価の透明性を確保することが重要です。人事評価における透明性とは、評価基準や評価プロセス、評価結果が明確で、社員が自身の評価について理解できる状態を指します。

社員は自身の立ち位置を理解するために透明性を求めており、人事評価はそれを担保する役割を果たしています。以下のような項目を基準として、総合評価につなげている企業もあります。

  • 技術面の貢献度
  • チームへの貢献度
  • 計画と実行

また、評価プロセスにおいては、同僚からの評価をマネージャーだけでなく同僚間でも共有することで透明性を高めています。

透明性を高めることで、社員は自身の貢献度が組織にどのように評価されているかを理解し、組織は高い業績を適切に評価することができます。これは、社員のモチベーション向上につながり、結果的に組織全体の活性化に役立つことになるでしょう。

人材育成を図る

社員のやる気を高めるためには、単に業績を評価するだけでなく、社員の成長を促進する仕組みが必要です。効果的な人材育成のためには、まず、現状のスキルや能力を正確に把握する必要があります。

その上で、社員一人ひとりのキャリア目標や成長意欲に合わせた育成プランを作成し、具体的な目標を設定することが重要です。目標設定においては、現状の能力から少し背伸びする程度の「チャレンジングだが達成可能な目標」を設定することが、モチベーション向上につながります。

また、定期的なフィードバックでは、良い点だけでなく、改善点についても具体的に伝え、成長を促す必要があります。ただし、一度に多くのフィードバックを与えると、社員が混乱してしまう可能性があるため、重要な点に絞って伝えることが大切です。

人事評価を通して、社員の成長をサポートし、キャリアアップを後押しすることで、モチベーション向上につなげることができるでしょう。

参考:

Goler, L.Gale.J.& Grant, A. (2017). Let’s Not Kill Performance Evaluations Yet.Harvard Business Review.2017(4), 144-153.https://dhbr.diamond.jp/articles/-/4732

まとめ

人事評価でやる気をなくす理由や人事評価を成功させる方法について解説しました。評価が低い場合だけでなく、評価への不信感がやる気をなくすケースも少なくありません。人事評価は、評価基準が明確で透明性が高く、公平であることが重要です。

さらに、人事評価は、個人の成長の機会でもあることを組織全体で認識することも大切です。人事評価を活用して、個人の成長をサポートし、キャリアアップを支援することで、部下のモチベーションを高めることができます。

本記事で紹介した内容を参考に、人事評価制度を見直し、部下のやる気を高め、組織の成長につなげましょう。