「心理的安全性はなぜ重要なの?」
「職場の心理的安全性を高めるにはどうすればいい?」

このような疑問を持つ管理職も多いでしょう。職場における心理的安全性は、従業員のパフォーマンスやモチベーションに大きく影響する要素だとされています。

本記事では、職場における心理的安全性が重要な理由や、心理的安全性を高める方法について解説します。従業員にとって働きやすい職場環境の実現を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

心理的安全性とは

ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー C. エドモンドソン教授(「心理的安全性」の提唱者)は、心理的安全性を「率直であることが許される状態」と定義しています。

よりわかりやすく言い換えると、心理的安全性とは「組織内で個々が自分の意見や感情、考えを自由に表現できる状態」を意味します。

たとえば、年齢や立場に関係なく、従業員が会議中に自分の意見を遠慮なく述べることが可能な場合、その職場は「心理的安全性が高い」といえます。

逆に、上司の気分を害することを恐れて、従業員が率直な意見を述べるのをためらってしまうような職場は、残念ながら「心理的安全性が低い」といえるでしょう。

心理的安全性を測定できる7つの質問

自分が率いる部署やチームの心理的安全性に問題がないか、不安に感じる管理職も多いはずです。

エドモンドソン教授によれば、職場の心理的安全性の大まかなレベルを測定するためには、従業員に以下の7つの質問を投げかけることが有効だといいます。

質問目的
1. ミスをしたら他のメンバーから責められますか?チーム全体で失敗を学びの機会と捉えているかを確認する
2. チームの問題や難しい課題を気兼ねなく提起できますか?メンバー一人ひとりが自由に意見を言える環境が確保されているかを確認する
3. 自分と異なる考えや背景を持つメンバーを受け入れる風潮がありますか?チーム全体の多様性や個々の自己表現の自由度を確認する
4. 罰せられたり非難されたりすることなく、リスクの高い挑戦ができますか?失敗するリスクを恐れず、積極的に難しい課題にチャレンジできる環境かを確認する
5. 他のメンバーに助けを求めやすいですか?メンバー同士で互いに助け合う文化が根付いているかを確認する
6. あなたの足を引っ張るメンバーはいますか?メンバーの信頼度や協調性を確認する
7. あなた独自の能力がチーム内で評価され、適切に活用されていますか?メンバー一人ひとりが尊重されているかを確認する

これらの質問に対する回答結果をもとに、職場の心理的安全性が低いことが疑われる場合は、職場環境の早急な改善が必要かもしれません。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」

職場の心理的安全性が重要な理由

職場での心理的安全性が重要だとされている理由を解説します。

パフォーマンスやモチベーションが向上する

職場の心理的安全性が高いと、従業員のパフォーマンスが高まると期待できます。誰もが自分の意見を気兼ねなく発することができれば、職場全体でのコミュニケーションが活発になり、仕事を円滑に進めやすいからです。

また、以下のパーソル総合研究所の調査結果からもわかるとおり、職場の心理的安全性を高めることで、従業員のモチベーションを向上させる効果も期待できます。

同調査では、職場内で本音のコミュニケーションが取れている「本音度が高い」層と、そうでない「本音度が低い」層に対象者を分け、各項目を数値化(5点満点)して比較しています。

項目本音度が高い層本音度が低い層
ワーク・エンゲージメント*3.4pt2.8pt
個人パフォーマンス3.8pt3.2pt
はたらく幸せ実感4.7pt3.8pt
はたらく不幸せ実感2.6pt4.2pt
ジョブクラフティング**3.5pt3.0pt

*ワーク・エンゲージメント:仕事をポジティブな感情(やりがいや充実感)で捉えている状態

**ジョブクラフティング:仕事のやりがいや満足度を高めるために、自ら働き方や考え方に工夫を加えること

従業員一人ひとりの意見が尊重されることで、それぞれが「自分は大切に扱われている」と感じることができ、結果的に仕事に対するやりがいや幸福度のアップにつながるのでしょう。

職場に存在する問題を特定しやすい

心理的安全性が重要な理由として、職場が抱えるさまざまな問題を特定しやすい点が挙げられます。

一見業績が好調に見える会社でも、社内には何かしらの問題が存在することが少なくありません(例:スケジュールに無理がある、長時間労働が蔓延しているなど)。

これらの問題の中には、経営層や管理職だけでは気づきにくい、現場で働く従業員だからこそ気づけるものもあります。

心理的安全性が高い職場であれば、従業員はこれらの問題について遠慮なく声を上げることができるため、早期に改善策を講じることが可能です。

一方で、心理的安全性の低い職場の場合、従業員は声を上げることで不遇な扱いを受けることを恐れて、問題点を指摘しない可能性が高いです。この状態を放置すると、最悪の場合は米国ボーイング社の墜落事故のような、重大なトラブルが後々引き起こされてしまうかもしれません。

▼ボーイング737MAXの墜落事故

米国の大手航空機メーカー・ボーイングでは、当時の最新機種「737MAX」の製造工場において、現場の従業員に無理な製造スケジュールを強いていた。しかし、意見を上げることで職を失うことを恐れた従業員は、納期を守るために、同機の安全性に問題があったにもかかわらず、その事実を隠蔽した。その結果、2018年10月および2019年3月の二度にわたり墜落事故を起こし、計346名の乗客が犠牲になった。

チーム内で失敗を共有できる

どれだけ優秀な人であっても、仕事上で何かしら失敗をしてしまうことはあるはずです。

心理的安全性が高い職場では、「失敗は学びの機会」と捉えられる傾向が強く、従業員は自身の失敗をチーム内で共有しやすくなります。

チーム内で失敗の原因や改善策が共有されれば、他のメンバーが同じ失敗をくり返すリスクを低減でき、結果的にチーム全体として大きなメリットが得られるでしょう。

一方で、心理的安全性が低い職場では、失敗することで周囲から責められたり、評価を下げられたりする恐れがあります。このような環境では、従業員は失敗から何を学ぶかよりも、自分の失敗を隠すことに必死になる可能性が高いです。

その結果、職場内で失敗に関するナレッジや解決策が蓄積されず、他のメンバーも同様の失敗を繰り返してしまうことになるでしょう。

参考:

パーソル総合研究所「職場での対話に関する定量調査」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員が声を上げられる組織文化がなぜ重要なのか」

職場の心理的安全性に問題を抱える企業は多い

以下は、人材コンサルティング事業を手がける株式会社タバネルが、部下を持たない社会人男女を対象に実施した調査結果の一部です。

Q. あなたのチームは自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態か?

回答分類割合
「その状態である」【心理的安全性:高】群18%
「どちらかと言えばその状態である」【心理的安全性:中】群49%
「どちらかと言えばその状態ではない」「その状態ではない」【心理的安全性:低】群33%

この結果を見ると、心理的安全性を高いレベルで維持できている企業は決して多くないことがわかります。

また、ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、新入社員はとくに心理的安全性が低下しやすいとされています。

新入社員は社会人経験がない分、入社前は「自分は上司や先輩社員に必要とされるに違いない」と期待する傾向が強く、最初は心理的安全性が高い状態にあります。

しかし、入社後一度でも自分の存在が軽んじられたり、意見が軽視されたりすれば、期待と現実のギャップで心理的安全性が一気に低下してしまうのでしょう。

実際に米国で実施された研究によると、新入社員の心理的安全性は入社後半年から1年以内で急速に低下し、元のレベルに戻るまでに20年以上かかる可能性もあるとされています。

したがって、上司は若手社員の心理的安全性が低下しやすいことを理解した上で、適切に働きかけることが大切です。

参考:

HRプロ「所属チームの心理的安全性が「高い」と答えた若手社員は2割未満。「心理的安全性」と「目標理解」には相関関係も」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「新入社員の心理的安全性は、入社直後から急速に低下する」

職場の心理的安全性を高める方法

職場の心理的安全性を高めるために、上司が心がけるべきポイントを紹介します。

積極的に褒める

職場の心理的安全性を高めるためには、従業員を日頃から積極的に褒めることが重要です。

上司から褒められた従業員は、「自分は会社にとって必要な人材だ」と自覚でき、自分の意見を主張しやすくなると期待できます。

実際に米国で行われた研究では、「部下を褒めるのが上手な上司のもとでは、従業員のエンゲージメントレベルも高くなる」という結果が出ています(下記参照)。

上司の「褒める」スキルのレベル従業員のエンゲージメントレベル
上位10%69.8パーセンタイル*
下位10%27.4パーセンタイル

*パーセンタイル:小さい順に並べられたデータの中で、何%目にあたるかを示す

以下は、ハーバード・ビジネス・レビューの記事で提唱されている、従業員を効果的に褒めるために意識すべきポイントです。

  • すぐに褒める:褒めるべき行動に気づいたらすぐに褒めることで、従業員はより高く評価されていると感じやすい
  • 成果だけでなく行動も褒める:行動は個人の力でコントロールしやすい要素であり、成果よりも重点的に褒めるべきである
  • 具体的に褒める:従業員の具体的な行動と、それがチームに与えた影響を言葉で表すことで、その功績の重要性がより強調される
  • 公の場で特別扱いされることが恥ずかしいと感じる人も多い。内輪で個人的に称賛されるほうがよいという感覚も尊重されるべきだ。
  • 人によって褒め方を変える:大人数の前で褒められることを望む人もいれば、周りに誰もいないところで褒められたい人もいる
  • 頻繁に褒める:褒める頻度が高くなれば褒め方もうまくなる。また、相手は褒められることに慣れるため、より気軽に褒めやすくなる

▼【具体例】部下の効果的な褒め方

「先週のプロジェクト会議での進捗報告は、とてもよかったと思います。あなたが取りまとめてくれたタスクの進行管理や、各メンバーの進捗状況が一目で分かるようにされていて、全体のスムーズな進行に繋がりました」

自分の弱さを見せる

上司としてチームを率いるにあたって、従業員に対して威厳を示さなければならないと考えている方も多いかもしれません。

しかし、職場の心理的安全性を高めるためには、ときに上司が従業員に対して自身の弱さを見せることも大切です。上司が弱さをさらけ出せば、従業員も自分の意見や感情を率直に表現しやすくなるからです。

実際に、世界的な大企業であるマイクロソフト社やスターバックス社では、CEOが自身の短所や課題を包み隠さず示したことで企業文化の変革を起こし、業績を大きくアップさせた実績があります。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、上司が自分の弱さを効果的にさらけ出すポイントとして、以下の4点を挙げています。

  • 見栄を張らずに「知らない」「わからない」と伝える(例:「その点は私もわからないので、後で調べておきますね」)
  • 困ったときは素直に助けを求める(例:「プロジェクトのスケジュールに遅れが出ています。今後どうするべきか、皆さんのアイデアをください」)
  • 自分の課題や短所を克服しようと努力する(例:プレゼン能力に不安があるため、社外で開催している研修に参加する)
  • ミスをしたときは自分の非を認める(例:「私がスケジュール調整を誤り、皆さんに余計な負担をかけてしまいました。申し訳ありません」)

批判を受け入れる

従業員の中には、上司や会社に対して何かしらの不満を抱えている人もいるはずです。職場の心理的安全性を高めるためには、このような不満を従業員から引き出し、受け入れることが大切です。

また、上司が自ら批判されることを積極的に求めれば、やがて従業員同士でフィードバックし合う文化が職場内で形成されると期待できます。

ただし、目上の存在である上司を面と向かって批判するのは、決して簡単なことではありません。おそらく、多くの従業員は上司から批判を求められても、「特に不満はありません」などと当たり障りのない回答をするでしょう。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、従業員から本音を引き出すためのコツとして、以下の3点を紹介しています。

ポイント具体例
【沈黙に耐える】
答えにくい質問を投げかけると、相手はしばらく黙り込むかもしれない。しかし、人は沈黙状態を居心地が悪いと感じる傾向にあるため、沈黙が続くことで相手が耐えられなくなり、何かしら言葉を発する可能性が高まる
相手が口を開くまで、頭の中で数字を数えることに意識を集中する
【反論しない】
相手の意見に納得がいかなくても、反論せずにまずは受け入れる。むやみに反論してしまうと、相手は二度と本音を話してくれなくなるかもしれない
「私の指示の出し方がわかりにくいと感じているんですね。わかりました、ありがとうございます」
【行動に移す】
相手から得られた意見をもとに、改善策を考えて行動に移す。このように相手の意見を尊重する姿勢を見せれば、今後も本音を話してくれる可能性が高まる
指示を出した後に、「私の指示の中でわかりにくい部分はありませんでしたか?」と確認する

失敗を責めない

先ほども述べたように、心理的安全性が高い環境下では、従業員は自分の失敗を他のメンバーと共有しやすくなります。

したがって、従業員が失敗したときはむやみに責めるよりも、失敗から何を学んだかを考えて整理させることが重要です。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、仕事上でミスをしてしまった従業員を指導する際には、「未来」に焦点を当てた質問を投げかけることが効果的とされています。

例として、従業員が依頼されていた仕事の納期に間に合わず、取引先を怒らせてしまったと仮定します。

このとき、「ちゃんとスケジュールを組んでいたのか」「なぜ事前に相談しなかったのか」などといった質問を投げかけるとどうなるでしょうか。

このような「過去」に焦点を当てた質問をすると、部下は少しでも自分の責任を軽減させようと、言い訳めいた説明をする傾向にあるといいます。その結果、上司と従業員の間で納得のいく結論は得られず、ただ両者の関係性が悪化するだけで終わるのです。

一方で、「次に同じような状況になったときは、どうすればいいと思いますか?」といった未来に焦点を当てた質問をするとどうでしょうか。

この場合、従業員は自分の至らなかった点を素直に認めながらも、失敗から何を学び、今後どのように活かしていくのかを重点的に考えるはずです。

このように、従業員一人ひとりの失敗に対する考え方が変われば、職場全体の心理的安全性も高まると期待できます。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下に感謝の気持ちを伝える効果を軽視していないか」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーに必要なのは虚勢ではなく弱さを見せる勇気」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーが部下から「徹底的なホンネ」を得るための6つのコツ」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下がミスを犯したら、上司はどんな言葉をかけるべきか」

心理的安全性は高すぎてもよくない

ここまで職場における心理的安全性の重要性について解説してきましたが、心理的安全性は必ずしも高ければいいわけではありません。

実際に、ペンシルバニア大学が実施した研究によると、心理的安全性と仕事のパフォーマンスには正の相関関係があるものの、心理的安全性が一定のラインを超えると、かえってパフォーマンスが低下してしまうという結果が出ています。

心理的安全性が高すぎると、従業員は「失敗をしても責められることはない」と楽観的に考え、リスクの高い行動ばかりを取るようになることが原因として考えられます。

したがって、上司は従業員に対して失敗を恐れないチャレンジを促しつつも、仕事に対する責任感が欠如していると感じた場合には、その都度注意・指導を行うことが大切です。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「心理的安全性は高いほど好ましいとは限らない」

まとめ

職場における心理的安全性が重要な理由や、心理的安全性を高める方法について解説しました。

心理的安全性が高い職場では、従業員のパフォーマンスやモチベーションも高い傾向にあるとされています。もし、現状の心理的安全性が低いと感じた場合でも、従業員との関わり方を上司自らが変えることで、心理的安全性を大幅に向上させられるかもしれません。

本記事で紹介した内容を実践し、職場の心理的安全性を改善し、従業員にとって働きやすい職場環境の実現を目指してください。