人事評価が低いことを理由に頑張らない部下への対応について悩んでいる管理職の方もいるでしょう。頑張らない理由としては、人事評価の評価基準があいまいで、公正さが感じられないことが挙げられます。
本記事では、部下が人事評価によって仕事を頑張らない理由や部下のやる気を高める方法について解説します。また、ギャロップが公開するスタンフォード大学教授らによる記事を参考に、人事評価を見直すポイントについても詳しく解説します。
部下が人事評価によって仕事を頑張らない理由

部下が人事評価によって頑張らない理由について、リクルートマネジメントソリューションズが実施した人事評価制度に対する意識調査を参考に解説します。
出典:人事評価制度に対する意識調査|リクルートマネジメントソリューションズ
目標が不明確である
目標が不明確だと、何のために頑張るのかが分からなくなり、モチベーションが低下し、頑張らなくなってしまいます。人事評価に不満を持つ社員の多くが、何を頑張ったら評価されるのかあいまいであることについて指摘しています。
たとえば、部下が新しい業務に挑戦しようとしたものの、目標が明確でなかったため、成果に結びつかず、評価もされなかったとします。このような経験を繰り返すと、部下は頑張っても無駄だと感じ、仕事への意欲を失ってしまう可能性があります。
目標設定の際には、上司と部下がしっかりと話し合い、具体的な行動目標や評価基準を明確にすることが重要です。
評価基準があいまいである
評価基準があいまいだと、部下は自分の仕事ぶりがどのように評価されるのか予測できません。努力の方向性を定めることができないと、評価結果にも納得感が得られないため、モチベーション低下につながります。
たとえば、ある部下が、上司から指示された業務を期日通りに完了させたとします。しかし、評価基準があいまいであれば、その成果が正当に評価されるかどうかは不透明です。もし、評価されなかった場合、部下は、評価されなかった理由を理解できず、今後の業務に対するモチベーションを維持することが難しくなります。
部下のモチベーションを維持・向上させるためには、評価基準を明確化し、部下が努力の方向性を理解できるようにすることが大切です。
評価に公平さを感じられない
努力の方向性が明確で、評価基準も明瞭であったとしても、評価に公平さを感じられない場合、部下のモチベーションは低下するでしょう。評価に公平さを感じられない原因は主に以下が考えられます。
- 評価者が個人的な感情で評価しているように見える
- 評価プロセスが不透明で、ブラックボックス化している
- 他の社員と比べて、不当に低い評価を受けていると感じる
人事評価において、評価者の個人的な感情で評価すると、評価にばらつきが生じ、偏った評価結果となる恐れがあります。また、評価基準や評価方法といった、評価プロセスを社員に説明していない場合、社員は正当な評価がなされているのかと不信感を抱くでしょう。
部下は努力が正当に評価され、適切なフィードバックや昇給・昇進につながると期待しています。しかし、努力が報われない状態が続くと、どうせ頑張っても無駄だ、と考えてしまうようになります。
人事評価を見直す必要性

人事評価によって頑張らない部下がいる場合、人事評価自体を見直すことも検討すべきでしょう。Job総研による2023年人事評価の実態調査を参考に、人事評価を見直す必要性について解説します。
人事評価に不満を感じる社員が過半数いる
人事評価制度に不満があると回答した社員は全体の75.2%にものぼります。この数字は、人事評価制度が部下のモチベーション向上に役立っているどころか、むしろ逆効果になっている可能性を示しています。
出典:Job総研(パーソルキャリア)|2023年人事評価の実態調査
同調査では、47.6%の人が評価の基準があいまいだと感じており、31.5%の人が努力をしても報われないと感じているとされています。これらの不満を持った部下はモチベーションが低下し頑張らなくなるでしょう。
結果として生産性や組織の成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。部下が納得でき、透明性が高く、公平な人事評価制度を構築することで、部下のモチベーション向上、ひいては企業の成長につなげることが期待できるでしょう。
人事評価を重視している社員が多い
人事評価を重視している社員が多いからこそ、評価制度に問題がある場合は見直す必要があります。同調査によると、全体の61.4%が、今後の人事評価に期待すると回答しています。具体的には、年収が上がることやキャリアアップにつながることを期待している人が多いようです。
出典:Job総研(パーソルキャリア)|2023年人事評価の実態調査
これは、社員が人事評価を自身のキャリアや昇給に直結するものとして、重要なものと捉えていることを示しています。部下が人事評価に期待しているにも関わらず、評価制度が不透明であったり、成果と報酬が連動していない場合、モチベーションの低下につながることがあります。
調査でも、モチベーション低下の理由として「成果と報酬が見合っていなかった」「評価の基準が不透明だった」といった意見が上位を占めています。社員が評価に期待を寄せているからこそ、現状にそぐわない制度になっている場合は、見直しを検討する必要があります。
頑張らない部下がいる原因が、人事評価制度にあると仮定した場合、部下が期待するような人事評価制度を実現することで、モチベーションの向上、ひいては業績向上が期待できるでしょう。
人事評価を見直す際のポイントとは

人事評価を見直す際のポイントについて、ギャラップが公開したスタンフォード大学教授ロバート・サットン氏らによる記事を参考に解説します。
評価機会が少ない
評価機会が少ないと、タイムリーなフィードバックが難しいだけでなく、部下が人事評価制度そのものに不信感を抱く恐れがあります。多くの社員は年に数回しかフィードバックを受けておらず、過去の出来事に対する評価は、既に問題が解決しているか、記憶が薄れている可能性が高いです。
そのため、年に数回の評価やフィードバックだけでは、効果的な改善につながらない可能性があり、部下の成長が期待できません。また、定期的なフィードバックがない場合、年に数回の人事評価だけで評価されることに不満を感じる社員もいるでしょう。
上司は、日頃から部下と定期的な1on1や面談を通して、詳細な指導や評価を行うなど、評価機会を増やすことで、より正当で正確な人事評価を実施することができるでしょう。
目的が絞られていない
人事評価の目的が絞られていないと、評価があいまいになり、効果的なフィードバックができません。昇給や昇進、行動評価、改善指導など複数の目的を同時に追求すると、評価者の負担が増え、評価があいまいになってしまいます。
さらに、人事評価の目的が多いと、それぞれの項目について正当な評価ができているのだろうかといった不満が出る可能性があり、評価される部下のモチベーションも低下する恐れがあります。
正当な評価を下し、部下に不信感を抱かせないためには、人事評価の目的を絞り、正確な評価を行うことが重要です。
評価スキルが不足している
評価者の評価スキルの不足は、不適切な評価やフィードバックにつながり、部下のモチベーション低下を招く恐れがあります。管理職の中で、評価やフィードバック、人材育成に関するトレーニングを受けていない人も少なくありません。
適切な評価やフィードバックが行われないと、部下は評価の公平性に疑問を抱き、モチベーションが低下する場合があります。評価スキルが不足している場合、部下の行動を具体的に指摘せず、抽象的なフィードバックを与えるため、部下は改善点を見出せません。
組織は、管理職向けの評価・フィードバック研修を実施し、スキル向上を図る必要があるでしょう。
個人の成果のみを評価する
個人の成果のみを評価すると、チームワークや顧客満足度が軽視され、組織全体の成果に悪影響を及ぼす可能性があります。たとえば、個人の売上目標達成のみを評価すると、社員は顧客よりも自分の成果を優先するようになり、顧客満足度が低下する可能性があります。
人事評価は、個人の成長だけでなく組織の成長促進も目的として実施する必要があります。そのため、チームワークや顧客満足度など、組織全体の目標達成に貢献する行動も評価基準に組み込み、組織全体の成果向上につなげるべきでしょう。
参考:
やる気を高める人事評価3つのポイント

同論文を参考に、やる気を高める人事評価の3つのポイントを紹介します。
目標共有と継続的なフィードバック
目標共有と継続的なフィードバックは、部下のやる気を高める上で非常に重要です。従来の年1〜2回程度の人事評価は、フィードバックが過去の出来事に関するものになりがちで効果が薄れてしまいます。
一方で、週ごとのフィードバックを受けた部下は、有意義なフィードバックを受けたと感じ、仕事への意欲が高まる傾向が強いとされています。目標を共有し、定期的に進捗状況や課題を話し合うことで、部下は自身の仕事ぶりを認識し、成長を実感できます。
頻繁に意味のある会話を通して、部下は自身の成長を認識し、仕事へのモチベーションを高めることができるでしょう。
多面的で公正な評価プロセス
上司だけでなく、同僚や顧客からのフィードバックなど、多面的で公正な評価プロセスは、部下の納得感と信頼感を高め、モチベーション向上につながります。多面的な評価を取り入れることで、様々な視点から部下を評価し、評価者の主観による偏りを軽減できます。
また、評価基準を明確化し、評価プロセスを透明化することで、部下は評価結果に納得しやすくなり、評価制度への信頼感が高まります。公正な評価プロセスは、部下のモチベーション維持に不可欠であり、多面的な評価は客観性と納得感を高める有効な手段といえるでしょう。
成長機会の提供とキャリアサポート
成長機会の提供とキャリアサポートは、部下の長期的なモチベーション向上に不可欠な要素となります。部下のモチベーションを維持するためには、人事評価の中で、部下の成長を促すフィードバックや目標設定、将来のキャリアパスについて話し合うことが重要です。
そのため、それぞれの部下がどうすれば成長できるか、キャリアについてどのように考えているかといったことについて、部下と話し合う必要があるでしょう。
上司は部下の強みや目標を深く理解し、個々の成長に焦点を当てたサポートを行うべきです。研修や具体的なフィードバックなど、成長機会を提供することで、部下のキャリアをサポートできます。
成長機会とキャリアサポートは、部下の将来への希望を育み、長期的なモチベーション向上につながります。
まとめ
人事評価によって頑張らない理由や対応について解説しました。人事評価によって仕事を頑張らない理由として、定期的なフィードバックや評価が少なく目標が不明確であることや評価基準のあいまいさ、評価に公平さが感じられないことが考えられます。
目標が分からなければ努力の方向性も定まらず、あいまいな評価基準や不公平感は、部下のモチベーションを著しく低下させるでしょう。こうした状況を改善するには、人事評価制度そのものを見直さなければいけない場合もあります。
部下のやる気を高めるには、人事評価を単なる評価ツールとしてではなく、成長を促進し、モチベーションを高めるためのコミュニケーションツールとして捉えることが重要です。
上司は、部下と積極的にコミュニケーションを取り、目標を共有し、継続的なフィードバックを行うことで、部下の努力を認め、成長をサポートしましょう。