ワークライフバランスの取り組みについて、悩んでいる管理職の方もいるでしょう。Owl Labsの調査によると、Z世代の多くがストレスの増加に悩んでおり、転職理由や転職先を選ぶ基準として、ワークライフバランスを重視しているとされています。

こうした調査結果から、企業はワークライフバランスに取り組むことで、人材確保や生産性向上が期待できると考えられます。

本記事では、企業にとってのワークライフバランスのメリット・デメリットやワークライフバランスの取り組み方について解説します。

出典:Owl Labs. (2023). *State of Hybrid Work 2023*. Retrieved from https://owllabs.com/state-of-hybrid-work/2023?srsltid=AfmBOoo9KHpJ65lALgSYFimXuXDD93ld39nhwyzY4iqyOkMNBmZ1G_mv

ワークライフバランスとは

ワークライフバランスの定義や目的について、内閣府による「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を参考に解説します。

定義

ワークライフバランスとは、仕事と私生活の調和を意味します。仕事は生活の糧となるだけでなく、生きがいや喜びをもたらします。一方で、家庭生活や育児、介護、地域活動、自己啓発といった私生活も人生の充実には欠かせません。

ワークライフバランスは、これら2つの側面をどちらかに偏らせることなく、バランスよく両立させることを目指すことです。

3つの柱

内閣府は、以下3つをワークライフバランスが実現された社会の条件として挙げています。

  • 就労による経済的自立
  • 健康で豊かな生活のための時間の確保
  • 多様な働き方・生き方

意欲と能力に応じて誰もが働き、経済的に自立できる社会や長時間労働を見直し、仕事以外の時間や健康を確保できる社会を目指すことを推奨しています。

また、個人の事情や希望に応じて、多様な働き方や生き方が実現できる社会を目指しています。

ワークライフバランスの実現は、個人の幸福度を高めるだけでなく、企業の生産性向上や社会全体の活性化が期待できます。実現のためには、政府や企業、そして個人がそれぞれの役割を果たしていくことが重要です。

目的

ワークライフバランスの目的は、国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、人生の各段階に応じて多様な生き方を選択・実現できる社会を築くことです。

これにより、若者の経済的自立や結婚や子育てを支援するだけでなく、個人が家族や友人との時間、自己啓発、地域活動への参加など、私生活も充実させることができます。

日本におけるワークライフバランス推進の歴史

日本におけるワークライフバランス推進の現状について、厚生労働省の「仕事と生活の調和」を参考に解説します。

2007年、「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」において「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定されました。

その後、施策の進捗状況や経済状況の変化を踏まえ、新たな視点や取り組みが「憲章」と「行動指針」に反映されました。2010年には、政労使トップの交代を機に、仕事と生活の調和の実現に向けた積極的な姿勢を示すため、新たな合意に至っています。

主な施策は下記のとおりです。

  • 労働時間等の設定の見直し
  • 労働時間等設定改善に関する法律の制定
  • 働き方・休み方改善に向けた専門家によるコンサルティングサービス
  • ICTを活用した事業場外勤務の適切な導入と実施に関するガイドラインの策定
  • テレワーク普及促進に向けた施策
  • 仕事と生活の調和推進を目的とした各種プロジェクト

政府はこれらの施策を通して、仕事と生活の調和の実現に積極的に取り組み、労働環境の改善や多様な働き方の推進を目指しています。

継続的な見直しと改善は不可欠ですが、これらの取り組みによって、より良いワークライフバランスの実現に大きく貢献していくことが期待されます。

ワークライフバランスのメリット・デメリット

ワークライフバランスを導入する際のメリット・デメリットについて、ウォルデン大学が公開する、ハーバー・サイエンス・アンド・アーツ・チャーター・スクール(HSACS)の運用責任者であるジョージ・シェパード氏による論文を参考に解説します。

企業側のメリット

まずは、企業側のメリットについて解説します。

生産性の向上

ワークライフバランスに取り組むことで、企業の生産性の向上が期待できます。ワークライフバランスの実現は、社員のストレス軽減や燃え尽き症候群の防止に役立ちます。

また、ワークライフバランスに取り組んでいる企業で働く社員は、そうでない企業の社員と比較して、より高い責任感とモチベーションを持っているとされています。

ストレス軽減とモチベーションの向上は、社員の集中力や仕事への意欲を高め、結果として生産性向上につながります。育児や介護と仕事の両立がしやすくなることで、精神的な負担が軽減され、仕事に集中できる時間が増え、生産性が向上する可能性があります。

ワークライフバランスへの取り組みは、生産性向上をとおして、企業の業績向上に効果的といえるでしょう。

優秀な人材の採用と維持

ワークライフバランスに取り組んでいる企業は、社員の仕事への取り組み方や、組織に対する認識に良い影響を与え、優秀な人材の採用と維持に役立ちます。

ワークライフバランスに取り組んでいる企業は、社員の福利厚生を重視していることを求職者へアピールできます。ワークライフバランスへの配慮を企業の魅力として、応募者の増加が期待できます。

また、社員は、ワークライフバランスの施策を利用することで、仕事と私生活の両立がしやすくなり、ストレスや燃え尽き症候群のリスクを軽減できます。結果として、社員の満足度と定着率が向上し、離職率が低下します。

実際に、フレックスタイム制やフレキシブルな勤務形態、有給休暇制度といった施策は、社員のモチベーションや生産性、仕事への満足度を高め、欠勤や離職を減らし、定着率を高める上で効果的であるとされています。

ワークライフバランスは、社員が仕事と私生活のバランスをうまく取れるようにするための重要なツールとなり、企業にとって優秀な人材を惹きつけ、維持するために効果的といえるでしょう。

組織の持続可能性の向上

ワークライフバランスへの取り組みは、組織の持続可能性の向上が期待できます。ワークライフバランスの施策により、社員の満足度やモチベーション向上につながることで、離職率や欠勤率の低下、生産性向上といった効果が期待できます。

結果として、組織は優秀な人材を確保しやすくなり、組織全体の効率化の向上につながり、長期的な成長と存続にプラスの影響を与えると考えられます。

企業側のデメリット

続いて、企業がワークライフバランスに取り組むデメリットについて解説します。

コストがかかる

企業がワークライフバランスに取り組むデメリットとして、コスト増加の問題が考えられます。ワークライフバランス向上のための施策には、社員向けの託児施設の設置や、フレックスタイム制度の導入、在宅勤務制度の導入など、コストがかかるものがあります。

これらの施策は、社員の満足度や生産性向上に貢献する可能性がある一方で、企業にとっては施設の整備費やシステム改修費、研修費など、少なからずコストがかかります。特に、大規模な施策であればあるほど、初期投資や維持費用も大きくなる傾向があります。

そのため、企業はワークライフバランス施策の導入によるメリットとコスト増加のデメリットを慎重に比較検討する必要があります。場合によっては、施策の内容を工夫したり、段階的に導入を進めるなど、コストを抑えつつ効果を最大化するための工夫も必要となるでしょう。

意識改革が必要

企業がワークライフバランスに取り組むには、管理職と社員、双方の意識改革が必要です。ワークライフバランスに対する考え方や価値観は人それぞれ異なり、長時間労働を良しとする社員や、ワークライフバランス施策は生産性低下につながると考える管理職もいるでしょう。

ワークライフバランス施策を効果的に機能させるには、単に制度を導入するだけでなく、社員には、業務時間内に成果を出すという意識を、管理職は、成果を時間で測らないという意識を浸透させる必要があります。

この意識改革なくして、真のワークライフバランスの実現は難しいでしょう。社員が新しい働き方に適応するための研修や、管理職向けのワークライフバランスに関するセミナーなどを実施することで、意識改革を促進していくことが重要です。

従業員側のメリット

ワークライフバランスを導入する際の、従業員側のメリットについて解説します。

仕事と私生活のバランスが取りやすい

従業員にとって、ワークライフバランスのメリットとして、まず挙げられるのは、仕事と私生活のバランスが取りやすいことです。実際に、柔軟な勤務形態や有給休暇制度といったワークライフバランスを導入した民営化された公立学校では、従業員の満足度や生産性が向上したことが報告されています。

ワークライフバランス施策によって、従業員は、たとえばフレックスタイム制を活用して子どもの送迎時間に合わせて勤務時間を調整したり、在宅勤務制度を利用して家族の介護と仕事を両立させたりすることが可能になります。

このような柔軟な働き方ができる環境が整備されることで、仕事と私生活の両立における負担が軽減され、それぞれの時間をより有効に活用できるようになります。結果として、従業員は仕事と私生活のバランスが取りやすくなるでしょう。

生活の質が向上する

ワークライフバランスは、従業員の生活の質の向上にも大きく貢献します。ワークライフバランスを取り入れると、ストレスレベルの低下や健康状態の改善を実感し、仕事へのモチベーション向上や家族とのより良い関係構築といった効果が期待できます。

ワークライフバランスが実現すると、仕事のために私生活を犠牲にする必要がなくなり、趣味や家族との時間、自己啓発などに費やす時間を確保できるようになります。

また、ワークライフバランス施策の一環として、健康増進プログラムやストレスマネジメント研修などを提供する企業も増えています。これらの取り組みは、従業員の心身の健康増進に役立ち、結果として生活の質の向上につながります。

心身ともに健康で、私生活も充実することで、仕事への集中力や意欲も高まり、より良いパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。

従業員側のデメリット

続いて、ワークライフバランスに取り組む際の、従業員側のデメリットについて解説します。

キャリアへの悪影響がある

ワークライフバランスの施策を利用することで、仕事より家庭を優先しているとみなされ、昇進や昇給の機会が減る恐れがあります。たとえば、女性が育児休暇を取得したり、時短勤務を選択したりすることも、ワークライフバランスの施策を活用しない社員と比べて、キャリアへの悪影響が生じる恐れがあります。

ワークライフバランス施策は、従業員が仕事に専念する時間を減らすことを可能にする一方で、キャリアアップのスピードを遅らせる可能性があるということです。ワークライフバランスとキャリア形成の両立は、従業員にとって重要な課題と言えるでしょう。

収入が減る可能性がある

ワークライフバランスを重視する際、収入が減る可能性も考慮しなければなりません。時短勤務やフレックスタイム制、在宅勤務などを利用する場合、労働時間が減ることもあるため、それに応じて給与が減少することがあります。

民営化された公立学校では、本来はフルタイム勤務の従業員1人が行う業務を、2人以上で分担する雇用形態であるジョブシェアリングプログラムの利用率が低く、時間の経過とともに減少したことが報告されています。

これは、フルタイム勤務の従業員が多いこと、他のプログラムと比べてジョブシェアリングのメリットが少ないと感じられていることなどが原因と考えられます。収入減は生活の質に直結する問題であるため、ワークライフバランス施策を利用する際は、収入と生活水準の変化について慎重に検討する必要があります。

参考:

Sheppard, G. (2016). Work-life balance programs to improve employee performance. Walden Dissertations and Doctoral Studies Collection.https://scholarworks.waldenu.edu/cgi/viewcontent.cgi?params=/context/dissertations/article/3161/&path_info=Sheppard_waldenu_0543D_17062.pdf

企業ができるワークライフバランスの取り組み

企業ができるワークライフバランスの取り組みについて、内閣府による「平成17年度 少子化社会対策に関する先進的取組事例研究報告書」を参考に解説します。

出典:内閣府|平成17年度 少子化社会対策に関する先進的取組事例研究報告書

休業制度

休業制度として、育児休業や介護休業、休職者の復帰支援などが施策として実施されています。育児休業は、法律で定められた育児休業期間(原則1歳まで、延長で1歳6ヶ月まで)を超えて、2歳または3歳まで取得可能とする企業もあります。

また、男性の育児休業取得を促進するため、短期間の休業を有給とすることや取得奨励金を支給すること、配偶者の就労状況に関わらず取得可能とするなどの取り組みが見られます。

介護休業では、法律で定められた介護休業期間(原則93日)を超えて、1年間、取得可能としています。さらに、取得の回数制限をなくしたり、対象家族の範囲を拡大したりする企業もあります。

休職者の復帰支援では、休業前後の面談や職場情報の提供、ITツールを活用したコミュニケーション支援、保育所探しに関するアドバイスなど、スムーズに復職できるよう様々な支援が行われています。

休暇制度

休暇制度では、積立休暇制度や介護休暇、その他特別休暇などが実施されています。積立休暇制度は、有効期限の切れた年次有給休暇を積み立てや傷病、家族の看護などに利用できる制度です。

看護休暇は、子どもの看護や家族の介護のために取得でき、有給としている企業もあります。その他特別休暇は、妊産婦の通院や子どもの健診、配偶者の出産など、様々な事由に対応できる休暇です。

さらに、半日休暇や時間単位での休暇取得が可能な時間単位の休暇取得や誕生日や結婚記念日など、個人の記念日に休暇を取得できるアニバーサリー休暇などを取り入れている企業もあります。

働く時間の見直し

働く時間の見直しとして、フレックスタイム制や時差出勤、短時間勤務などが取り入れられています。フレックスタイム制は、労働時間を従業員自身で調整できる制度です。コアタイムを設けている場合と、コアタイムなしのフルフレックス制を導入している場合があります。

時差出勤は、出勤・退勤時刻をずらして勤務できる制度です。育児や介護との両立に役立つとされています。短時間勤務では、育児や介護のために、所定労働時間よりも短い時間で勤務できる制度です。

その他にも、実際の労働時間ではなく、一定時間働いたものとみなす制度として、裁量労働制やノー残業デーを設定したり、残業時間の削減目標を掲げたりする残業時間の削減への対策も行われています。

 働く場所の見直し

働く場所の見直しとして、在宅勤務やサテライトオフィスの設置、転勤の制限などが行われています。在宅勤務は、育児や介護、その他の事情により、自宅で仕事ができる制度です。ITツールを活用して社内システムにアクセスし、業務を行います。

サテライトオフィスは、自宅以外の場所で仕事ができるよう、会社が設置したオフィスです。通勤時間を短縮したり、育児や介護と両立しやすくしたりする効果があるとされています。

その他

その他の、施策としては、経済的支援や事業所内保育施設の設置、再雇用制度などがあります。経済的支援では、保育料の補助や出産祝い金の支給、育児・介護費用の補助など、従業員の経済的な負担を軽減するための支援があります。

事業所内保育施設とは、会社が設置し運営する保育施設のことです。事業所内に保育施設があることで、育児と仕事の両立がしやすくなります。

再雇用制度は、育児や介護などで一度退職した従業員を、一定の条件のもとで再雇用する制度です。さらに、情報提供・相談窓口の設置をしている企業もあり、育児・介護に関する情報提供や、仕事と家庭の両立に関する相談窓口を設置するなど、従業員をサポートする体制を整えています。

ワークライフバランスを取り入れる際の注意点

企業がワークライフバランスを取り入れる際の注意点について、同報告書を参考に解説します。

ニーズを把握する

企業が取り入れるワークライフバランスの施策は、従業員の多様なニーズに対応できるよう設計されるべきです。そのため、従業員へのアンケートやヒアリング、小規模なグループディスカッションなどを実施し、年齢や性別、家族構成、職種など属性ごとのニーズを詳細に把握することが重要です。

従業員がどのような課題を感じているのか、どのような支援を必要としているのかを理解することで、効果的な施策を立案できます。また、法定以上の施策を導入している企業の事例も参考に、自社の状況に合った施策を検討しましょう。

従業員のニーズを適切に捉え、期待に沿う施策を導入することで、従業員の満足度向上につながるだけでなく、企業イメージの向上や優秀な人材確保にも役立ちます。

施策の周知と利用を促進する

ワークライフバランスの施策を取り入れても、従業員に知られなければ意味がありません。メールやチャット、社内報などを活用し、施策の内容や利用方法、手続きなどを分かりやすく周知することが重要です。

特に、男性の育児休業取得促進など、利用実績が少ない施策については、管理職研修などで意識改革を図り、取得しやすい雰囲気づくりを推進する必要があります。

また、ロールモデルとなる事例を紹介したり、相談窓口を設けることで、利用を促進しましょう。施策の利用状況を定期的に確認し、利用率の低い施策については、その原因を分析し改善策を講じることも大切です。

積極的にコミュニケーションを取る

ワークライフバランスの施策の効果を最大化するためには、企業と従業員、また従業員同士の積極的なコミュニケーションが不可欠です。管理職は、部下の状況を把握し、必要に応じて施策の利用を促したり、業務調整などのサポートを行う必要があります。

また、従業員同士でも、お互いの状況を理解し、協力し合うことで、より働きやすい環境を築くことができます。定期的な面談やミーティング、社内イベントなどを活用し、コミュニケーションを活性化させましょう。

特に、在宅勤務などの場合、コミュニケーション不足に陥りやすいので、意識的な情報共有や交流の場を設けることが重要です。

継続的に見直しと改善を行う

社会環境や従業員のニーズは常に変化するため、ワークライフバランス施策も一度導入したら終わりではなく、継続的な見直しと改善が必要です。定期的に従業員へのアンケートを実施し、施策の効果や課題を把握することで、現状に即した改善を図ることができます。

他社の事例や法改正の情報も収集し、常に最適な施策を検討しましょう。また、施策の運用状況を確認し、問題点があれば迅速に対応することで、施策を効果的に運用できます。継続的な見直しと改善は、企業の成長と従業員のワークライフバランスの実現に不可欠といえるでしょう。

まとめ

企業によるワークライフバランスの取り組みについて解説しました。ワークライフバランスは、仕事と私生活の調和を意味しており、企業がワークライフバランスに取り組むことは、よりワークライフバランスの実現を後押しすることができます。

企業がワークライフバランスに取り組むためには、内閣府が推奨するワークライフバランスの施策や企業が実施している施策を参考にすると良いでしょう。

ワークライフバランス施策の導入後も、管理職は部下とのコミュニケーションをとおして、施策が適切に活用されているかなど、継続的な観測や改善が不可欠となります。従業員のニーズに応えるワークライフバランス施策を導入し、人材の確保や生産性の向上を目指しましょう。