「承認欲求が強い部下の扱いに困っている…」
「部下の承認欲求をうまく満たす方法が知りたい」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。承認欲求は人であれば誰もが大なり小なり持つものですが、過剰に強いと周囲の従業員に大きなストレスをかける恐れがあります。
本記事では、承認欲求が強い部下の特徴や、そのような部下の適切な対処法について解説します。部下の承認欲求を満たすことで、職場全体の生産性やモチベーションを向上させたい方は、ぜひ参考にしてください。
承認欲求とは

承認欲求とは、他者から「認められたい」「評価されたい」という欲求を指す言葉です。
心理学者のマズローによると、人間の欲求は以下の5つの段階に分けられ、「下位の欲求が満たされると、次の段階の欲求を満たそうとする」仕組みになっているとされています(マズローの欲求5段階説)。
これら5段階の欲求のうち、承認欲求は4段階目に位置しています。
欲求 | 概要 |
---|---|
【第1段階】 生理的欲求 | 人が生存するために必要な基本的な欲求(例:食欲、睡眠欲、排泄欲) |
【第2段階】 安全欲求 | 身の安全や安定を確保したいという欲求(例:安全な家に住みたい、安定した収入を得たい) |
【第3段階】 社会的欲求 | 集団に所属したい、他者とつながりたいという欲求(例:会社の同僚と仲良くなりたい) |
【第4段階】 承認欲求 | 他者から認められたい、評価されたいという欲求(例:「仕事ができる人だ」と周りから思われたい) |
【第5段階】 自己実現欲求 | 自らの潜在能力を最大限に発揮し、理想の自分になりたいという欲求(例:独立して新しい事業にチャレンジしたい) |
承認欲求は人なら誰もが持つものです。当然、会社で働く従業員も全員が大なり小なり承認欲求を持っています。
そして、従業員の承認欲求とモチベーションには、強い相関関係があるとされています。
HRテック事業を手がける株式会社Take Actionが、社会人男女を対象に実施した調査でも、「あなたは仕事上で承認欲求が満たされることで、仕事に対するモチベーションが上がりますか?」との問いに対して、72.0%が「はい」と回答しています。
したがって、部下のモチベーションを高めたい場合は、承認欲求を満たすように上司が働きかけることが効果的です。
参考:
PR TIMES「7割以上のビジネスパーソンが、承認欲求が満たされることで、仕事に対するモチベーションがアップ!!」
承認欲求が強い部下の特徴

人によって性格や能力が異なるように、承認欲求の強さにも個人差があります。ここでは、承認欲求が強い部下によく見られる特徴を紹介します。
自己アピールが激しい
承認欲求が強い部下は、「周囲からどう見られているか」をとにかく気にするため、自己アピールが激しい傾向にあります。
実際に、職場で日常的に以下のような自己アピールをしている部下はいないでしょうか。
- 忙しいアピール(「忙しい=優秀だから仕事を多く任されている」と思われたい)
- 過去の自慢・武勇伝(「能力が高い人だ」と思われたい)
- プライベート充実アピール(「うらやましい」と思われたい)
こうした自慢やアピールを聞かされる側は、興味がなくても「すごい」「大変だね」などと反応しなければならず、多くの人は不快に感じることでしょう。
このような状態を放置すると、周囲の従業員に余計なストレスがかかり、生産性やモチベーションに悪影響をおよぼしかねません。
したがって、自己アピールが激しい部下に対しては上司が適切に対処し、承認欲求を満たしてあげることが重要です。
否定されることを嫌がる
承認欲求が強い部下の多くは、自分の価値を他者からの評価に委ねています。
そのため、自身の仕事の進め方や能力などについて、周囲から否定されることを嫌がる傾向にあります。
たとえば、仕事の納期に遅れた部下に対して、上司が注意したと仮定しましょう。普通の部下であれば、上司の指摘を受け入れた上で、納期に遅れた原因を分析し、今後の改善策を検討するはずです。
しかし、承認欲求の強い部下の場合、上司から注意されただけで「自分の能力が全否定された」と拡大解釈し、必要以上にショックを受けたり、上司に対して怒りを向けたりするかもしれません。
もちろん、部下の自信を高めるためにも、積極的に褒めることは大切です。しかし、ときには部下の課題や問題点について指摘し、改善を促すことも上司としての重要な責務です。
したがって、承認欲求が強い部下を注意・指導する際は、相手のプライドを傷つけないように工夫を凝らす必要があります。
自己肯定感が低い
承認欲求が強い部下は、実は自己肯定感が低い可能性が高いです。
心理学の分野では、承認欲求は主に以下の2種類に分類されます。
- 自己承認欲求:「自分で自分自身のことを高く評価したい」という欲求
- 他者承認欲求:「他者に自分自身のことを高く評価してもらいたい」という欲求
承認欲求が強い部下は、自己肯定感が低いため「自己承認欲求」を満たすことができず、代わりに他者からの評価を得ることで、この欲求を満たそうとしていると考えられます。
しかし、いくら他者からの評価を得たとしても、自己肯定感が低いままであれば自己承認欲求が満たされることはありません。つまり、自己肯定感が低い状態では、承認欲求が完全に満たされることはないのです。
したがって、承認欲求が強い部下に対して単に「すごいね」や「頑張ったね」と褒めるだけでは不十分であり、上司がその部下の自己肯定感を高めるように日頃から働きかけることが重要です。
若手の部下ほど承認欲求が強い

以下は、株式会社Take Actionが実施した「ビジネスパーソンの承認欲求に対する意識調査」において、承認欲求の強さを年代別にまとめたデータです。
▼Q. あなたは自身が承認されたことを周りにも伝えたいと思いますか?
年代 | 「アピールしたい」 「どちらかというとアピールしたい」 | 「アピールしたくない」 「どちらかというとアピールしたくない」 |
---|---|---|
20代 | 59.4% | 40.6% |
30代 | 42.5% | 57.5% |
40代 | 34.4% | 65.6% |
50代 | 34.4% | 65.6% |
60代以上 | 33.8% | 66.2% |
この結果を見ると、若い人ほど承認欲求は強く、歳を重ねるにつれて徐々に減退していく傾向にあることがわかります。
したがって、若手人材を定着させるためには、承認欲求の効果的な満たし方を知ることがとくに重要だといえます。
参考:
PR TIMES「ビジネスパーソンの2人に1人が、所属する会社では承認欲求が満たされていないと感じている!」
承認欲求が強い部下の対処法

先ほど紹介した株式会社Take Actionの調査において、「あなたは誰から承認されることが最も嬉しいと感じますか?」との問いに、32.8%が「上司」と回答しています。
ここでは、承認欲求が強い部下の欲求を満たすために、上司が心がけるべきポイントを紹介します。
目標を設定する
先ほども述べたように、部下の承認欲求を本当の意味で満たすためには、自己肯定感を高めることが必要不可欠です。
部下の自己肯定感を高める効果的な方法の1つとして、目標を設定することが挙げられます。
目標を設定することで、自分がどれだけ成長したかが目に見えやすくなり、それが自信へとつながる可能性が高いからです。また、目標が明確であれば努力すべき方向性もはっきりするため、成長スピードの促進も期待できます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、部下の目標を設定および管理する際の効果的なポイントとして、以下の4点を提唱しています。
ポイント | 具体例 |
---|---|
【具体的で明確な目標を設定する】 何を達成すべきかがはっきりすれば、行動計画が立てやすくなる。また、目標に数値や期限などを含めることで、進捗も把握しやすい | 以下の5要素を含んだ目標を設定する(SMARTの法則) ・Specific(具体的な) ・Measurable(測定可能な) ・Achievable(実現可能な) ・Relevant(関連性がある) ・Time-Bound(期限がある) |
【一定以上の困難を伴う目標を設定する】 目標が簡単すぎると達成感や成長が感じにくく、難しすぎると達成できなくても言い訳がきく。ギリギリ達成できる目標であれば、達成感や成長実感が得られやすい | 入社2年目の若手社員に対して、「月間5件以上の新規契約獲得」という目標を課す |
【短期的なサブ目標も設定する】 目標が手の届くところにあれば、成長している実感が得られやすい。目標までの距離が遠い場合は、マイルストーンとなるサブ目標を用意する | ・メイン目標:「月間5件以上の新規契約獲得」 ・サブ目標:「最低週1回は、電話やWebミーティングなどで取引先とコミュニケーションを取る」 |
【目標の達成度に応じて視点を変える】 目標達成までの距離が遠いうちは、これまでに成し遂げたことに注目する。目標達成が近づいてきたら、現時点からの距離に着目する。こうすることで、中だるみすることなくゴールに向かって走り続けられる | 入社後間もない新入社員には、これまででできるようになった仕事内容を振り返らせる |
積極的に褒める
承認欲求が強い部下に評価すべき点がある場合には、積極的に褒めてあげることが大切です。
上司が頻繁に褒めることで部下の承認欲求が満たされれば、周囲に過剰な自己アピールすることも少なくなると期待できます。
以下は、人材育成事業を営むゼンガー・フォークマン社が実施した調査における、「上司の褒めるスキル」と「従業員のエンゲージメントレベル(仕事に対するやりがいや満足度を表す指標)」の関係性をまとめたものです。
上司の「褒める」スキルのレベル | 従業員のエンゲージメントレベル |
---|---|
上位10% | 69.8パーセンタイル* |
下位10% | 27.4パーセンタイル |
*パーセンタイル:小さい順に並べられたデータの中で、何%目にあたるかを示す
上記の結果を見ると、他者を褒めるのが上手な上司のもとでは、部下のエンゲージメントも高くなる傾向にあることがわかります。
なお、先ほど紹介した株式会社Take Actionの調査によると、「あなたが仕事上で最も承認して欲しいことは何ですか?」との問いに、23.9%が「過程、役割」、15.8%は「努力」と回答しています。
仕事を進める上での過程や努力を評価されれば、部下は「上司は自分のことをきちんと見てくれている」とより実感しやすいのでしょう。
したがって、部下を褒める際は仕事の成果だけを取り上げるのではなく、そこに至るまでのプロセスや努力も認めることが重要といえます。
▼【具体例】承認欲求が強い部下に対する褒め言葉
先日、プロジェクトの進行が遅れていたときに、あなたが率先してチームメンバーに声をかけ、タスクの整理を手伝ってくれて本当に助かりました。そのおかげで、チーム一丸となってスピードアップでき、プロジェクトの遅れを取り戻すことができました。 |
注意・指導の仕方を工夫する
先ほども述べたように、部下が抱える課題や問題点を指摘し、改善を促すことは、上司として重要な責務の1つです。
ただし、承認欲求が強い部下は他者から否定されることを嫌う傾向にあるため、闇雲に指導・教育を行っても反感を買うだけで、何も効果も得られない恐れがあります。
ハーバード大学の記事によると、従業員に対してネガティブなフィードバックを効果的に行うためのポイントとして、以下の6点を挙げています。
- すぐに伝える:注意・指導すべき点に気づいたら、できるだけ早くフィードバックする機会を設ける
- 個別に伝える:周囲にほかの従業員がいない環境で、1対1でフィードバックを行う
- 事実に焦点を当てる:相手の性格を否定せずに(「だらしない」「みっともない」などの言葉を投げかけない)、問題のあった行動のみを取り上げる
- 伝え方を工夫する:物腰やわらかな口調やボディランゲージを心がけ、相手に攻撃的な印象を与えない
- 相手の言い分を聞く:相手の意見を聞く姿勢を見せることで、共感や思いやりを示す
- サポートを提案する:相手が課題を解決するために、自ら前向きに手助けしていく意思を伝える
▼【具体例】承認欲求が強い部下に対する注意・指導
A社から依頼されていた設計書の提出が遅れたために、チーム全体のスケジュールが後ろ倒しになり、クライアントにも納期の再調整をお願いする形となりました。その影響で、クライアントとの信頼関係にも少し影響が出てしまったと感じています。このような状況を防ぐために、次回からはこまめな進捗報告と、仕事の優先順位の見直しを行っていただきたいです。ほかに何か要望や提案があれば、可能な限り対応するので教えてもらえますか? |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下のタイプを見誤れば目標設定はマイナスに作用する」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員のモチベーションを確実に上げる3つの原理」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下に感謝の気持ちを伝える効果を軽視していないか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下へのネガティブフィードバックで犯しがちな5つの過ち」
まとめ
承認欲求が強い部下の特徴や、そのような部下の対処法について解説しました。
承認欲求は人であれば誰しもが大なり小なり持つものです。しかし、承認欲求が過剰に強い部下を放置してしまうと、周囲の従業員に大きなストレスをかける恐れがあるため、上司が適切に対処する必要があります。
本記事の内容を実践することで部下の承認欲求を満たし、職場全体の生産性やモチベーションの向上を目指してください。