「他責思考が強い部下がいて、扱いに困っている…」
「他責思考が強い部下に自責思考を身につけさせるコツは?」

このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。他責思考が強い部下は、本人の能力が向上しにくいのはもちろん、周囲の従業員にも悪影響をおよぼす恐れがあるため、上司が早急に対処する必要があります。

本記事では、他責思考が強い人・自責思考が強い人それぞれの特徴や、他責思考が強い部下に自責思考を身につけさせるためのポイントについて解説します。部下に自責思考を身につけさせることで、人材育成の効率化を図りたい方は、ぜひ参考にしてください。

他責思考・自責思考とは?

「他責思考」「自責思考」の意味はそれぞれ以下のとおりです。

  • 他責思考:失敗や問題発生の原因は「他者や環境」にあるとする考え方(例:「このプロジェクトが失敗したのは、他のチームが必要な情報を提供してくれなかったからだ」)
  • 自責思考:失敗や問題発生の原因は「自分」にあるとする考え方(例:「このプロジェクトが失敗したのは、自分のスケジュール管理方法に問題があったからだ」)

これらをふまえた上で、「他責思考が強い人」および「自責思考が強い人」の特徴をそれぞれ紹介します。

他責思考が強い人の特徴

心理学の権威であるソウル・ローゼンツァイク氏によると、他責思考が強い人には以下のような特徴が見られるといいます。

  • 怒りっぽい:些細なミスや問題に対して過剰に反応する。失敗の状況を十分に理解しないまま、すぐに他者を非難する
  • 用心深い:失敗を恐れており、常に最悪の事態を想定して行動しており、失敗から学ぶことができない。リスクの伴う挑戦を避ける
  • 疑り深い:自分は他人から正当に評価されていないと感じる。他者からのフィードバックは、自分に対する批判とみなして受け入れない
  • 言い訳が多い:自分の行動や判断を常に正当化する。責任を取るべき立場の人を非難し、自分の責任は回避しようとする

人は仕事上で何かしら失敗をした際に、その原因を分析し、改善策を講じることで成長します。しかし、他責思考が強い人は責任を回避することばかりを考え、自省することがないため、成長スピードが遅くなりやすいのです。

また、他責思考が強い人は他者を不当に責める傾向にあるため、周囲と良好な人間関係を築くのが難しいとされています。

自責思考が強い人の特徴

他責思考が強い人とは対照的に、自責思考が強い人には以下のような特徴が見られます。

  • 責任感が強い:自分の行動や判断に対して責任を持つ。他者を非難するのではなく、自分ができることを見つけて改善しようとする
  • 挑戦心がある:失敗から学ぼうとする姿勢を持っている。リスクを過度に恐れることなく、行動や判断ができる
  • 謙虚:自分のミスや問題を素直に認めることができる。他者の意見や批判を前向きに受け入れ、自己改善に努める

仕事上で何かしら問題が発生した際に、自責思考が強い人はまず「自分に何か問題はなかったか」を自省する習慣が身についています。「自省する→改善策を講じる」というサイクルを常に回し続けられるため、成長スピードが早くなりやすいのです。

さらに、自責思考が強い人は他者を不必要に責めることが少ないため、周囲と良好な人間関係を築きやすい傾向にあります。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「失敗と責任の心理学」

他責思考の強い部下に不満を抱える上司は多い

法律関連のサービスを提供する株式会社アシロが、部下を持ったことがある社会人男女を対象に実施した調査によると、「部下に不満はありますか?」との問いに対し、79.9%が「ある」と回答しています。

以下は、部下に対する不満として挙げられた主な意見です。

  • 言い訳が多い/謝らない(約16.8%)
  • 話を聞かない/意見を聞き入れない(約14.4%)

上記はまさに他責思考が強い人の特徴であり、このような部下に不満を抱えている上司が多いことが見て取れます。

先ほども述べたように、他責思考が強い人は能力面で成長しにくいだけでなく、他者に対して攻撃的な態度を取る傾向があります。この状態を放置すると、やがて職場全体のモチベーションや生産性に悪影響を及ぼす恐れもあります。

したがって、他責思考が強い部下がいる場合は、その部下に自責思考が身につくように上司が働きかけることが重要です。

参考:

ベンナビ労働問題「8割の上司が部下に不満があると判明!2,432人の上司にアンケート調査を実施」

他責思考が強い部下に自責思考を身につけさせるポイント

他責思考が強い部下に対して、自責思考を身につけさせるために上司が心がけるべきポイントを解説します。

攻撃的な言動を止める

くり返し述べているとおり、他責思考が強い部下は他者に対して攻撃的な言動をとる傾向にあります。

米国で実施された研究によると、職場での攻撃的な言動は多くの企業で問題となっており、国内全体で年間1兆9,700億ドルもの損失が発生しているとのことです。この損失額には、被害を受けた従業員の士気が低下したことによる生産性の低下や、離職率の増加などのコストが含まれています。

したがって、他責思考が強い部下の攻撃的な言動を見かけた場合には、上司が早急に対処することが重要です。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、従業員の攻撃的な言動を効果的に止めるためのコツとして、以下の4点を提唱しています。

  • 無理にすぐに対処しない:気持ちが高ぶっている場合は冷却期間を置く(感情が高ぶった状態では冷静な対応が難しく、かえって状況を悪化させかねない)
  • 被害者を思いやる:被害者とコミュニケーションを取り、サポートを申し出ることで、思いやりや共感を示す
  • 加害者との関係性を考慮する:加害者と信頼関係が構築できている場合は直接やり取りし、関係ができていない場合は別の社員や上長にも介入してもらう
  • お互いに思いやる文化を育む:上司としての権限で組織規範を整備し、攻撃的な言動を許さない職場文化を浸透させる

言い訳の要因を排除する

他責思考が強い部下は、間違いやミスを犯した場合でも自分の非を認めず、言い訳ばかり並べる傾向にあります。

このような部下に自責思考を身につけさせるためには、言い訳になり得る要因を事前に排除しておくことが重要です。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、従業員の言い訳を阻止するためのポイントとして、以下の3点を紹介しています。

ポイント概要具体例
【認識のズレを解消する】
明確な目標を共有する
達成してほしい目標や評価基準を明示し、部下が目指すべき方向性をはっきりとさせる(部下の能力や課題を明確に示すことができる)「今四半期の売上目標は2,000万円です。そのために新規顧客を10社獲得する必要があります。また、顧客満足度スコア85点以上を合格ラインとします」
【能力不足を補う】
業務のやり方を説明する
過去の事例なども交えながら、業務の進め方を事前に詳しく説明する(「知らなかった」「聞いていない」などの言い訳を排除するため)。適宜質問を挟むことで相手の理解度を確認し、一方的な会話にならないよう注意する「新規顧客への提案書作成では、まず業界分析→課題抽出→解決策提示という流れで進めます。具体的には…(中略)。この業務の流れは理解できましたか?確認のため、主な手順やポイントを説明してもらえますか?」
【モチベーション低下を防ぐ】
問題を予測する
最初は熱量高く仕事に取り組んでいたものの、途中で壁に直面してしまうと、やる気をなくして言い訳を並べるようになる。起こり得る問題を予測した上で、適切な戦略を事前に立てておく「大規模なプロジェクトなので、3ヶ月目頃に進捗の遅れが出始めるかもしれません。その時期に向けて、予めリソースの確保を計画しておきましょう」

失敗に寛容な文化を育む

先ほども述べたように、他責思考の強い人は失敗を過剰に恐れている可能性があります。失敗への恐怖心が強いために、他者に責任を押し付けることで自分の身を守ろうとするのです。

このような部下の失敗に対する心理的なハードルを下げるためには、失敗に寛容な職場文化を育むことが有効だと考えられます。周囲から失敗が受け入れられる環境であれば、失敗の原因を他者に押し付ける必要がなくなるからです。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、失敗に寛容な職場文化を形成するには、以下の2点を意識することが重要とされています。

  • 上司が自分の非を認める:上司自身が過去に犯したミスや失敗を打ち明け、そこから得た学びをチーム内で共有する(上司が自らの非を認めることで、部下も自分の失敗を公表しやすくなる)
  • 失敗を共有させる:失敗した従業員を責める代わりに、失敗の内容や原因をチーム内で共有させる(チーム内にナレッジが蓄積され、今後同様の失敗をくり返すリスクを軽減できる)

上司がこれらの働きかけを積極的に行うことで、職場の心理的安全性(従業員が安心して自身の意見や感情を自由に表現できる状態)が高まると期待できます。

上司自身が自責思考を身につける

Job総研が社会人男女を対象に実施した調査によると、「嫌いな上司はいますか?」との問いに、60.4%が「いる」と回答しています。

以下は、嫌いな上司の特徴として挙げられた主な意見です(括弧内は回答者の割合)。

  • 責任転嫁をしてくる(24.1%)
  • 自分を棚上げする(21.6%)
  • 感情的ですぐに怒鳴る(20.6%)

この結果を見ると、上司自身が他責思考であり、仕事上で問題が起きたときの責任を部下に押し付けているケースも多々あることがわかります。

上司自身が他責思考であるにもかかわらず、部下に対して「自責思考を身につけろ」と求めても、その言葉に説得力がありません。

部下の仕事ぶりや言動に何かしら問題があると感じた場合は、まず上司である自分自身の指導や教育方法に原因がないか、疑うことが大切です。

上司が自責思考のロールモデルとなれば、部下にも自然と自責思考が身についていくと期待できます。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「攻撃的な同僚の暴走を止め、被害を抑える介入方法」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「言いわけばかりする部下のマネジメント法」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」

JobQ Town「嫌いな上司の特徴とは?アンケートを元にランキング形式でご紹介!」

まとめ

他責思考が強い人・自責思考が強い人それぞれの特徴や、他責思考が強い部下に自責思考を身につけさせるためのポイントについて解説しました。

他責思考が強い人は、仕事の能力が成長しにくいだけでなく、他者に対して攻撃的な態度を取る傾向があります。この状態を放置すると、やがて職場全体のモチベーションや生産性に悪影響を及ぼす恐れもあるため、上司が早急に対処することが重要です。

本記事で紹介した内容を実践し、部下に自責思考を身につけさせることで、人材育成の効率化を図ってください。