「新入社員が何もできなくて困っている…」
「何もできない新入社員はどうやって指導すればいいの?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。新入社員が知識やスキルに乏しいのは仕方がないことですが、できる仕事がほとんどなければ、扱いに困るのも無理はありません。
本記事では、何もできない新入社員によく見られる特徴や、このような従業員を指導する際のコツについて解説します。新入社員を効果的に育成し、組織の生産性を向上させたい方は、ぜひ参考にしてください。
新入社員が何もできないのは当然?

まず前提として、入社直後の新入社員が何もできないのは、決しておかしなことではありません。とくに新卒の場合、学生を卒業したばかりで社会人経験もないため、教わっていない仕事はできなくて当然です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、新入社員が一から仕事のやり方を教わり、完全な戦力になるまでには8ヶ月程度かかるとされています。
現在第一線で活躍している社員も、新入社員時代には先輩社員から仕事のやり方を教わり、さまざまな仕事を経験することで成長してきたはずです。
したがって、「この新入社員はなぜ何もできないのだ」と嘆くのではなく、「新入社員は何もできなくて当然」とポジティブに考え、社会人としての心構えや仕事のやり方を根気よく教えることが大切です。
ただし、社会人として働く上で、社歴に関係なくできなければならないこと(例:時間を守る、挨拶をするなど)はあります。このような「人としてできて当然のこと」ができていない新入社員に対しては、周囲が厳しく注意・指導していく必要があるでしょう。
参考:
Harvard Business Review “Technology Can Save Onboarding from Itself”
何もできない新入社員の特徴

イベントの企画・運営を手がける株式会社コムネットや、営業コンサルティング事業を営むソルトブレーン・サービス株式会社が実施した調査の結果をもとに、何もできない新入社員によく見られる特徴を紹介します。
マナーがなっていない
何もできない新入社員の中には、マナーがなっていない人が多くいます。ここでいう「マナーがなっていない」とは、以下のような行動を指します。
- 敬語が使えない
- 遅刻が多い
- 挨拶をしない
名刺交換や電話応対の方法など、社会人特有のビジネスマナーについては、入社したての頃は身についていなくても仕方がないでしょう。
しかし、上記のような基本的なマナーは、人としてできて当然のことであり、「新入社員だからできない」という言い訳は通用しません。この状態を放置すると、やがて社内外の関係者に迷惑をかけることになりかねません。
したがって、基本的なマナーがなっていない新入社員に対しては、周囲の先輩社員や上司が厳しく注意・指導する必要があります。
また、可能であれば採用プロセスの段階で、最低限のマナーができているかを確認しておくことも重要です。
報連相ができない
何もできない新入社員の大きな特徴として、報連相(報告・連絡・相談)ができない点が挙げられます。
新入社員は経験が浅いため、仕事上でわからないことや問題に直面することが頻繁にあります。そんなときに、報連相をせずに一人で抱え込んでしまうと、問題はどんどん大きくなり、最終的には会社に大きな損害を与える恐れがあります。
一方で、周囲の先輩社員や上司に適切に報連相を行えば、適切なアドバイスや手助けがもらえ、問題が解決する可能性も高まるでしょう。
なお、報連相は学生時代にはあまり意識されない社会人特有のマインドであり、新入社員がその重要性を理解していないのも無理はありません。したがって、新入社員には入社後できるだけ早い段階で、報連相の重要性を教える必要があります。
物覚えが悪い
新入社員が何もできない要因の1つとして、物覚えが悪いことが考えられます。
たとえば、周囲と比べて仕事を覚えるのに時間がかかったり、同じミスを何度もくり返したりするのは、物覚えが悪い新入社員の特徴といえます。
もちろん、人の記憶力には個人差があり、一度聞いただけで仕事のやり方を完璧に覚えられる人もいれば、そうでない人もいるのは当然のことです。
しかし、たとえ物覚えに自信がない新入社員であっても、仕事を進める上で以下のような工夫を凝らすことで、その弱点をカバーすることは十分に可能です。
- 細かくメモを取る
- 一日の終わりに振り返りの時間を設ける
- 手順を整理してマニュアルにまとめる
このような工夫や努力を怠り、自身の物覚えの悪さを改善しようとしない新入社員に対しては、上司や先輩社員が適切な注意・指導を行う必要があるでしょう。
指示がないと動かない
何もできない新入社員には、上司や先輩社員からの指示がない限りは行動を起こさない、いわゆる「指示待ち人間」が多い傾向にあります。
もちろん、新入社員は経験が浅い分、仕事上で予期せぬ問題を引き起こす可能性が高いため、独断で行動しないように報連相を徹底させることは大切です。
しかし、たとえば手が空いた際に、周囲に対して「次は何をすればいいですか」「何か手伝えることはありますか」などの指示を仰ぐことすらしない態度は、主体性が欠如していると言わざるを得ません。
新入社員が指示待ちの状態に陥ってしまう要因の1つとして、仕事に対するモチベーションが低下していることが考えられます。
この状態を放置しても、主体性が自然と育まれる可能性は低いでしょう。そればかりか、仕事に必要な知識やスキルが身につかず、最悪の場合は早期離職につながることも懸念されます。
したがって、上司は新入社員のモチベーションが低下している要因を分析した上で、適切な対応を講じることが重要です。
ネガティブな言動が多い
何もできない新入社員の中には、ネガティブな言動を頻繁に行う人が少なくありません。ここで言う「ネガティブな言動」とは、以下のようなものを指します。
- 仕事の愚痴や他人の悪口を言う
- 頻繁にため息をつく
- 露骨に忙しいアピールをする
職場においてこのようなネガティブな言動が問題となる理由の一つに、「ネガティブな感情が周囲に伝染してしまう」という点が挙げられます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、ネガティブな感情やストレスを抱えている人を目にするだけで、26%もの人がストレスホルモンのレベルが高まったという研究データも存在します。
新入社員のネガティブな感情が周囲の従業員に伝染してしまうと、職場全体のモチベーションや生産性に悪影響をおよぼす恐れがあるため、そうなる前に早急に対処することが必要です。
さらに、ネガティブな言動への対応と並行して、従業員のポジティブ思考を育むための取り組み(例:日々の業務における、成功体験や良かった出来事を振り返る機会を設ける)を行うことも重要です。
他責思考が強い
何もできない新入社員に見られる特徴として、責任を自分以外のものに転嫁する「他責思考」が強い点も挙げられます。
たとえば、以下のような傾向が見られる新入社員は、他責思考が強いといえます。
- 仕事でミスをした際に、その原因を他の従業員や環境のせいにする
- 周囲に迷惑をかけても言い訳ばかり並べ、謝罪すらしない
人は誰しも、仕事をする上でミスや失敗を経験するものです。重要なのは、その過ちから教訓を得て、今後の業務に活かしていくことです。
しかし、他責思考が強い人は自分の言動を客観的に見つめ直すことがないため、失敗から何も学ぶことができず、せっかくの成長の機会を逃しがちです。
さらに、他責思考は周囲との良好な人間関係を築く上でも大きな障壁となります。
心理学の世界的な権威であるソウル・ローゼンツァイク氏によれば、他責思考の強い人は不当に他人を責める傾向にあるといいます。この態度を放置すれば、攻撃的な言動の矛先となった従業員のモチベーションは著しく低下し、結果として職場全体の生産性や従業員の定着率にも悪影響を及ぼしかねません。
したがって、新入社員に強い他責思考が見受けられた場合は、周囲の真面目な従業員に悪影響がおよぶ前に、上司が迅速に対処することが大切です。
参考:
株式会社コムネット「「話を聞かない」が第1位!ベテランを悩ます新人の行動」
ソフトブレーン・サービス株式会社「【上司部下の溝に関する実態調査】」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「失敗と責任の心理学」
新入社員が何もできない原因

新入社員が何もできない場合に、考えられる原因を解説します。
元々の能力や人格に難がある
人の能力や性格には、当然個人差があります。どれほど丁寧に指導や教育を行っても、新入社員が期待される水準に全く達しない場合は、その人の元々の能力や人格に問題があるのかもしれません。
たとえば、挨拶をする、時間を守るといった、社会人として以前に人としてできて当然のことができていない場合は、その人の根幹となる人格に問題があると言わざるを得ません。
人としての基礎的な能力や人格が欠如している従業員は、今後組織で働いていく中で、さまざまな関係者に迷惑をかける可能性が高いです。したがって、このような特性を持つ人材は採用プロセスの段階でしっかりと見極め、そもそも入社させないことが重要です。
仕事のミスマッチが起きている
新入社員の成長スピードが周囲と比較して著しく遅い場合は、仕事のミスマッチが起きているかもしれません。
人材サービス業を営むマンパワーグループ株式会社が、企業の人事担当者を対象に実施した調査によれば、8割を超える企業が「新卒採用においてミスマッチを経験した」と回答しています。
この結果を見ると、仕事のミスマッチが起きるのは決して珍しいことではないとわかります。
仕事の適性は人によって大きく異なります。営業職としてさまざまな取引先と関わることを好む人もいれば、研究職として新しい技術を生み出すことに喜びを感じる人もいるはずです。
自分に合わない仕事を続けることは多くの人にとって苦痛であり、前向きな気持ちで仕事に取り組むことができなければ、能力が向上しないのも当然といえます。
仕事のミスマッチを防ぐためには、採用プロセスの段階で応募者の適性を見極めた上で、業務を適切に割り当てることが必要不可欠です。
また、万が一ミスマッチが発生してしまった場合でも柔軟に異動や配置転換を行えるように、あらかじめ社内制度を整備しておくことが重要です。
指示や指導の方法に問題がある
新入社員が一向に何もできるようにならないからといって、その原因がすべて新入社員自身にあると決めつけるべきではありません。上司の指示の出し方や指導方法に問題がある可能性も考えられるからです。
たとえば、新入社員が業務上の疑問点を上司に質問した際、「今は忙しいから後にしてくれ」と冷たく対応されたらどうなるでしょうか。
おそらく、その新入社員は今後、仕事を進める上で疑問が生じても、上司に質問や相談することを躊躇してしまうでしょう。その結果、必要な知識やスキルがなかなか身につかず、時間だけがいたずらに過ぎてしまうかもしれません。
日経メディカルプロキャリアが行った「職場の上司に関する意識調査」によると、「上司に期待していることは?」との問いに対し、34.7%が「指示・指導・ゴール設定が的確」と回答しています。
一方で、「(上司のもとで働いた中で)どんなことで困りましたか?」という質問には、44.3%が「指示・指導・ゴール設定が的確でない」と答えています。
これらの結果から、多くの従業員が明確かつ適切な指示や指導を求めているにもかかわらず、実際にはその期待に応えられていない上司が多い現状が伺えます。
したがって、新入社員の成長スピードが周囲と比較して遅いと感じた際には、まず上司である自分自身の指示の出し方や指導方法に問題がないか、改善すべき点はないかを自省することが重要です。
参考:
Manpowergroup「新卒採用におけるミスマッチは8割超!ミスマッチによる悪影響の1位は採用した社員の早期退職」
日経メディカルプロキャリア「【第11回】職場の上司に関する意識調査」
何もできない新入社員を指導するコツ

何もできない新入社員を指導する上で、上司が心がけるべきポイントを解説します。
研修を受講させる
新入社員を効率的に育成するためには、研修を受講させることが有効です。
前述の通り、入社して間もない新入社員の知識やスキルが乏しいのは当然であり、本来であれば周囲が必要なことを一つひとつ丁寧に教える必要があります。
しかし、現実には多くの上司や先輩社員が自身の業務だけで手一杯であり、新入社員の指導に十分な時間を割けないケースも少なくありません。
実際に、厚生労働省が実施した「能力開発基本調査」でも、人材育成における問題点として、47.6%もの企業が「人材育成を行う時間がない」と回答しています。
一方で、業務を遂行する上で最低限必要となる知識やスキルを、研修という形で集中的に学習させれば、現場の上司や先輩社員が指導に費やす時間を大幅に削減できるはずです。
たとえば、社会人として働く上で必要不可欠なビジネスマナーは、研修プログラムを通じて短期間で体系的に習得できるでしょう。
日報を提出させる
新入社員に限らず、従業員を効果的に育成するには日報を提出させることが有効です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、日報を書くことで以下のようなメリットが得られるといいます。
- 短所を克服できる:客観的な視点を持って、自分の改善すべき点を把握できる(物覚えが悪い新入社員が、自身の課題や改善策を整理するのに役立つ)
- ポジティブになれる:自分の「長所」や仕事の「やりがい」など、ポジティブな側面に焦点を当てられる(ネガティブな言動が多い新入社員が、ポジティブ思考を身につけるのに役立つ)
- 忍耐力が身につく:ストレスを感じた出来事を書き表すことは、身体の免疫機能を高める効果があると実証されている(今後仕事上で困難に直面したときでも、過去の日報を見返すことで対処法が思いつきやすくなる)
- 計画力が向上する:目標に対してどれだけ近づけているか、改善すべき点があるかを知る道しるべとなる
日報は従業員が自身の業務を振り返るための有益な手段の一つです。しかし、日報を義務感で嫌々書かせてしまうと、本来の目的を損なう恐れがあります。
したがって、たとえば5~10分程度で簡単に振り返りを行えるシンプルなフォーマットを設けるなどして、従業員が気軽に日報を作成できるよう工夫を凝らすことが重要です。
心理的安全性を高める
新入社員を効果的に育成するためには、活発なコミュニケーションが必要不可欠です。そして、新入社員がより円滑にコミュニケーションを図れるようにするためには、心理的安全性を高めることが重要です。
心理的安全性とは、「組織において、メンバー一人ひとりが自分の意見や疑問などを臆することなく発言できる状態」を指します。
心理的安全性が高い環境であれば、新入社員は業務上で不明な点があれば、遠慮することなく周囲に質問をすることができます。また、何らかのトラブルに直面した場合でも、速やかに上司や先輩社員に報連相を行い、迅速かつ適切な解決策を導き出せるでしょう。
過去に米国で実施された研究によれば、新入社員の心理的安全性は入社後半年から1年以内に急激に低下する傾向にあり、一度低下してしまうと、元のレベルに戻るまでに20年以上かかることもあるといいます。
新入社員の多くは、入社直後には「上司や先輩は自分の意見を求めている」という期待感を持っているため、心理的安全性が高い状態で働き始めます。
ところが、その後にたった一度でも自身の意見を冷たくあしらわれたり、非難されたりする経験をすると、期待と現実のギャップから心理的安全性が一気に低下してしまうのだと考えられます。
したがって、「新入社員の心理的安全性は、他の従業員と比較してもとくに低下しやすい」という点を理解した上で、上司は日々の言動において適切な対応を心がけることが大切です。
なお、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、新入社員の心理的安全性の低下を防ぐためのコツとして、「感謝の態度を示す」ことを提唱しています。
たとえば、新入社員から仕事上のミスについて報告を受けた際に、「すぐに報告してくれてありがとう」といった感謝の言葉を伝えることで、その新入社員は今後も上司に対して安心してコミュニケーションを取りやすくなると期待できます。
目標を設定する
新入社員のモチベーションやパフォーマンスを向上させるためには、目標を設定することが効果的です。
目標は努力の方向性を明確にし、具体的な行動を促す道しるべとなります。さらに、目標に対する進捗を可視化すれば、達成度合いが実感でき、さらなる努力への強い動機付けとなるでしょう。
なお、過去に人間と動物を対象に行った実験では、どちらもゴールが明確になった状況下で、より熱意を持って迅速に作業に取り組む傾向が示されています。新入社員の目標を設定する際は、このような習性を意識した工夫が求められます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、従業員のパフォーマンスとモチベーションを高める目標設定の重要なポイントとして、以下の2点を提唱しています。
ポイント | 具体例 |
---|---|
【短期目標を設定する】 最終目標が遠い場合は、マイルストーンとなる短期目標を複数設ける | ●短期目標1(1ヶ月後)自社商品の知識に関する社内テストで80点以上を獲得する●短期目標2(3ヶ月後) 既存顧客への定期訪問を月に10件実施する●短期目標3(6ヶ月後) 新規契約を月に2件獲得する●最終目標(1年後) 既存顧客の売上を10%アップさせる 新規契約を月に20件獲得する |
【進捗によって焦点を変える】 目標に向けて動き出したばかりの時期は、それまでに成し遂げたことに着目する。終盤目標に近づいてきたら、現在地からゴールまでの距離に意識を向ける | 最終目標『新規契約を月に20件獲得する』 ●初期新規顧客開拓の準備段階の成果に着目する(「新規顧客リストを100件作成できた」など) ●中期 具体的な顧客との接点や反応に着目する(「15件の顧客から提案内容に関するポジティブなフィードバックを得られた」など) ●終盤 目標達成までの具体的な距離感と、残されたタスクに着目する(「現在までに12件の新規契約を獲得しており、目標の20件まであと8件だ」など) |
参考:
厚生労働省「令和5年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「毎日10分の日記をつければ、人は成長する」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「1日の終わりの5分に自問すべき3つの質問」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「新入社員の心理的安全性は、入社直後から急速に低下する」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員のモチベーションを確実に上げる3つの原理」
まとめ
何もできない新入社員によく見られる特徴や、このような従業員を指導する際のコツについて解説しました。
入社して間もない新入社員の多くは、実務に関する知識やスキルを持ち合わせていないため、何もできないのも無理はありません。しかし、入社後しばらく経っても能力の向上が見られない場合は、指導方法を見直した方がいいかもしれません。
本記事で紹介した内容を実践し、新入社員を効果的に育成し、組織の生産性向上に役立ててください。