「異常にミスが多い部下がいて困っている…」
「部下のミスを減らすためにはどうすればいい?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。周囲と比べて明らかにミスが多い部下に対しては、その背景にある原因を分析した上で、状況に応じて適切に対処することが重要です。
本記事では、部下にミスが多い原因や、そのような部下を指導する際のコツについて解説します。部下のミスを効果的に減らすことで、職場の生産性向上につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。
部下が仕事上でやりがちなミス

以下は、株式会社ビズヒッツが社会人男女を対象に実施した調査において、「仕事でやりがちなミス」として挙げられた主な意見です。
回答 | 割合 | 具体例 |
---|---|---|
入力ミス・書き間違い | 32.0% | ・書類の誤字脱字 ・数字の打ち間違い |
やるべきことを忘れる | 13.8% | ・口頭で頼まれた仕事のやり忘れ ・メールの送信し忘れ |
確認不足・見落とし | 11.0% | ・指示書の期日を間違える ・不明点を相手に確認せず、見当違いのことをする |
連絡・報告漏れ | 4.4% | ・上司への進捗報告を忘れる ・同僚への仕事の引き継ぎをし忘れる |
作業・操作ミス | 4.4% | ・機械の操作を間違える ・誤って重要なファイルを削除する |
思い込みで仕事を進める | 4.0% | ・上司の指示を十分に理解しないまま仕事を進め、後で大幅な修正を求められる |
見間違い・聞き間違い | 3.4% | ・伝票の数字を見間違える ・電話応対で相手の名前を聞き間違える |
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授によると、従業員が仕事上で陥る失敗は、主に以下の3種類に分類できるといいます。
- 予防可能な失敗:業務上で起きることが事前に予測できる失敗
- 複雑さに起因する失敗:複数の要因が複雑に絡み合って起こる、予測が困難な失敗
- 知的な失敗:新しい知識や洞察を得るための試行錯誤の過程で生まれる、本質的に価値のある失敗
先ほど紹介した「部下が仕事でやりがちなミス」は、いずれも「予防可能な失敗」に該当する、可能な限り避けるべきものです。
したがって、上司は部下が頻繁にミスを犯してしまう原因を理解した上で、具体的な対策を講じることが重要といえます。
参考:
PR TIMES「【仕事でやりがちなミスランキング】男女500人アンケート調査」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「失敗に学ぶ経営」
部下にミスが多い原因

以下は、転職系Webメディアを運営する株式会社スタジオテイルが実施した調査において、「(仕事上の)大きなミス・失敗を起こす要因」として挙げられた主な意見です(括弧内は回答者の割合)。
- 知識・経験不足(36%)
- 忙しさ・体調不良(20%)
- 確認漏れ・チェック体制の不備(20%)
- 業務の慣れからの慢心(10%)
この結果をもとに、部下にミスが多いときに考えられる原因を解説します。
業務経験が不足している
部下にミスが多い原因として、その部下の業務経験が不足していることが考えられます。
多くの人は業務経験をある程度積むことで、どのような箇所でミスが起こりやすいのかが理解できるようになります。たとえば、請求書作成時に「6」と「9」の打ち間違いが起こりやすいとわかっていれば、その点に注意を払うだけでミスの大部分は防ぐことが可能です。
しかし、業務経験が不足している場合は、そもそもどのようなミスが起こりやすいのかを予測することが困難です。事前に発生し得るミスが把握できなければ、注意すべき焦点が定まらず、ミスをしてしまう可能性も高まります。
業務経験不足によるミスを防ぐための対策としては、過去に職場内で発生したミス、つまり起こりやすいミスを事前に部下へ共有しておくことが有効です。
そのためには、個々の失敗体験を積極的に共有し、学び合う文化を職場内で育むことが重要です。
業務量が多い
部下のミスが多発している場合、その部下の業務量が多すぎることが原因かもしれません。
業務量が多くなると、限られた時間の中で手早く仕事を処理しなければなりません。一つひとつのタスクにかけられる時間に制約があれば、ミスが起こりやすいのも当然です。
また、業務量が多いとその分疲労が蓄積しやすく、注意力が散漫になることでさらにミスしやすくなるという悪循環に陥る可能性もあります。
業務量が一部のメンバーに偏ってしまう要因の一つとして、職場の「心理的安全性」が低く、部下が仕事を断りにくいと感じていることが考えられます。心理的安全性とは、「組織の中で自分の意見や疑問を率直に、安心して発言できる状態」を指します。
たとえば、他の業務で手一杯の部下に対して新たな仕事を依頼した際、心理的安全性が高い職場であれば、部下は上司に対して「現在、他の業務で手一杯のため対応することが難しいです」と遠慮なく伝えることができるでしょう。
一方で、心理的安全性が低い場合は、部下は上司からの評価が下がることを恐れて「できません」と断ることができず、結果として一人で多くの仕事を抱えこむことになりかねません。
以上のことから、上司は部下一人ひとりの業務量を定期的にチェックし、負荷が偏るのを防ぐと同時に、職場の心理的安全性を高めるための対策を講じることが重要です。
チェック体制に不備がある
部下にミスが頻発している場合は、職場のチェック体制に不備がある可能性も考えられます。
どれだけ慎重に仕事を進めていても、思いがけずミスを犯してしまうことは珍しくありません。もしここで、第三者がチェックを行いミスに気づくことができれば、後々起こり得る問題やトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
たとえば、取引先に対する請求書を作成する際など、ミスをすることで組織が大きな損失を受ける恐れがある業務については、必ず第三者によるダブルチェックを義務づけるといった決まりを設けるとよいでしょう。
このように、ミスを最大限に防ぐためのチェック体制を整備し、運用していくことも、上司の重要な責務の一つです。
仕事に慣れて慢心している
部下が仕事に慣れてきたことで気の緩みが生まれ、ミスが増えている可能性も考えられます。
一般的に、新入社員や異動してきたばかりの頃は自分自身の未熟さを自覚しているため、一つひとつの業務に時間をかけ、慎重に取り組む姿勢が見られる傾向にあります。また、上司や先輩社員によるチェック体制が機能することで、大きなミスが未然に防がれているケースも多いでしょう。
しかし、人は業務に慣れるにつれて、自分の能力を過信するようになりがちです。その結果、注意力が散漫になり、これまでであれば防げたはずの重大なミスを起こしてしまう事例も少なくありません。
このようなミスを防ぐためには、上司が日頃から部下に対して「仕事に慣れたときこそ細心の注意を払う」という意識を根づかせることが大切です。
参考:
PR TIMES「「職場の忘れられない大きなミス・大失敗」の7割は「うっかり」。100名のアンケート結果」
ミスが多い部下を指導するコツ

ミスが多い部下を指導する際に、上司が心がけるべきポイントを紹介します。
ミスの責任を認めさせる
過去にハーバード・ビジネス・スクールが行った研究によれば、人が失敗からより多くの学びを得るためには、「失敗の責任が自分にある」と認識することが不可欠だとされています。
逆に、失敗の原因が自分以外にあると考えている場合は、失敗から得られる学びが限定的になりやすいといいます。
したがって、部下がミスを犯した際は、まずその責任を部下自身に認識させることが重要です。もちろん、責任を認めさせるのは、あくまで「ミスの原因は自分にある」と部下に理解させるためであり、厳しく叱責したりペナルティを与えたりするためではありません。
なお、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、部下にミスの責任を認めさせる効果的なアプローチとして、「”未来”に焦点を当てた質問をする」を提唱しています。
たとえば、部下が重要な書類の提出を怠り、取引先を怒らせてしまったケースを考えてみましょう。
このとき、「どうして提出するのを忘れたんだ」といった、”過去”の行動を問い詰めるような質問をしてしまうと、部下は自己弁護の意識を働かせ、責任の所在を曖昧にしようとする傾向にあります。その結果、表面的な言い訳を述べることに終始してしまい、ミスから教訓を引き出すことが難しくなります。
一方で、「次に同様の業務に取り組む際には、どのような点に注意すべきだと思いますか」といった、”未来”に目を向けた質問を投げかけるとどうでしょうか。
部下は自身のミスに対する責任をしっかりと認めた上で、なぜそのミスが起こってしまったのか、そして今後同じ過ちを繰り返さないためには具体的にどのような対策を講じるべきかを、自ら考え、学びへとつなげる可能性が高まると期待できます。
思いやりや共感を示す
部下がミスをした際に、厳しく叱責することが必ずしも最善の策とは限りません。むしろ、思いやりや共感を示す方が、より効果的な指導につながる場合があります。
仕事上のミスは基本的に避けるべきものですが、誰しもがミスをしたくてしているわけではありません。
ミスしたことをすでに反省している部下に対して、上司がさらに追い打ちをかけるように厳しく叱責しても、部下の気持ちを深く傷つけるだけで、建設的な学びは得られにくいでしょう。
過去にイギリスで行われた研究でも、従業員のミスに対して怒りに任せた対応をすると、従業員の上司に対する忠誠心や信頼感が低下するという結果が示されています。
一方で、ワシントン大学が行った研究によれば、上司から思いやりや共感を示された従業員は、上司への信頼感をより強く抱く傾向にあることがわかっています。
部下のミスに対して思いやりや共感を示すためのコツとして、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では以下の3点を挙げています。
- 冷静になる時間をとる:ミスが発覚した直後は、どうしても感情的になりやすい。一旦時間を置くことで、怒りやイライラの感情が落ち着き、客観的な視点からより合理的な対処法を検討できる
- 相手の立場に身を置く:部下がなぜミスをしてしまったのか、ミスをした当人は今どのような気持ちでいるのかを想像する。相手の状況や感情を理解しようと努めることで、一方的な叱責ではなく、寄り添った対応がしやすくなる
- ミスを許す:部下のミスに怒りやイライラの感情を持ち続けていると、冷静な判断や建設的な指導が難しくなる。ミスを許容することで、合理的な対処ができるだけでなく、上司と部下の双方のストレスレベルを軽減することにもつながる
座席配置を調整する
ミスが多い部下のパフォーマンスを改善するには、座席配置を調整することが有効な場合もあります。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、職場における従業員のパフォーマンスは、誰が隣に座るかによって大きく左右されるとのことです。
実際に、隣席の従業員を生産性が平均的な人から2倍の人に替えただけで、その従業員の生産性が約10%向上したという研究結果も出ています。
さらに、異なるタイプの従業員を隣同士に配置すれば、より高い相乗効果が期待できます。隣席が自分と異なるタイプだと、互いに相手から自身の弱みを改善するためのヒントを得ようとする傾向があるからです。
これを裏づけるデータとして、「仕事の処理は速いが質は低い」タイプと「仕事の質は高いが処理は遅い」タイプを隣同士にしたところ、仕事の生産性が13%、達成率(未解決のタスクの少なさ)が17%も向上したという研究結果もあるといいます。
これらの知見から、ミスが多い部下の隣には、ミスが少ない慎重なタイプの従業員を配置することが有効な対策の一つと考えられます。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「自分に責任があるかわからない状況で、失敗から学ぶことはできるのか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下がミスを犯したら、上司はどんな言葉をかけるべきか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下への「思いやり」は「叱責」に勝る」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「生産性を高めたければ座席の配置を見直しなさい」
まとめ
部下にミスが多い原因や、そのような部下を指導する際のコツについて解説しました。
人は誰しもミスをするものであり、部下が時折ミスをする程度であれば過度に心配する必要はありません。しかし、周囲と比べて明らかにミスが多い部下に対しては、その背景にある原因を分析した上で、状況に応じて適切に対処することが重要です。
本記事で紹介した内容を実践することで、部下のミスを効果的に減らし、職場の生産性向上につなげてください。