キャリアプランとは、将来なりたい姿や達成したい目標を定めたうえで、それを達成するための具体的な道筋をまとめたものです。
社会人として長期間にわたって満足のいくキャリアを歩むためには、明確なキャリアプランを持つことが必要不可欠です。
本記事では、キャリアプランを持つことの重要性や、部下のキャリアプラン作成を支援するコツについて解説します。部下が最適なキャリアプランを作成できるようにサポートすることで、優秀な人材の育成および定着を図りたい方は、ぜひ参考にしてください。
部下にとってキャリアプランが重要な理由

部下がキャリアプランを設定することで得られるメリットを解説します。
成長スピードが速まる
明確なキャリアプランを持つことは、部下の成長を加速させるために必要不可欠な要素です。
目指すべきゴールが定まっていれば、そこへ最短で到達するための具体的な道筋が立てられ、「今、何をすべきか」が自ずと明らかになります。
たとえば、「5年後に管理職として活躍する」という具体的なキャリアプランがあれば、その実現のために必要な経験(後輩や部下の指導経験、プロジェクトリーダーなど)が明確になるでしょう。
過去にオレゴン大学文理学部が行った研究によると、ある特定のタスクについて、より具体的な目標を与えられた参加者はそうでない者と比べて、パフォーマンスが高い傾向にあったとされています。
この結果から、キャリアプランを設定することで、日々の業務で何をすべきかがはっきりとしていれば、部下の能力を無駄なく効率的に向上させることが可能だと期待できます。
一方で、もしキャリアプランが不明瞭であれば目指す方向性が定まらないため、部下は日々の業務をただ漫然とこなすだけになりかねません。それでは、部下の能力が向上しにくいのはもちろんのこと、仕事へのやりがいを見出すことも難しく、モチベーションの低下を招く恐れがあります。
軌道修正がしやすい
キャリアにおいて、誰もが必ずしも順風満帆な道を歩めるとは限りません。しかし、明確なキャリアプランを持っていれば、自分の現在地を把握しやすくなり、目標に向けた軌道修正も容易になります。
たとえば、「35歳で管理職になる」という目標を掲げている場合に、もし現状の昇進スピードでは計画に遅れが生じそうだと気づいたら、以下のようにその原因を分析したうえで、具体的な改善策を講じることができるでしょう。
▼【具体例】キャリアの途中でつまずいた際の分析
原因 | 改善策 |
---|---|
管理職のポストに空きがない | ポストに空きがある部署への異動を希望する |
リーダーとしての経験が不足している | 次期プロジェクトのリーダーに自ら立候補する |
一方で、キャリアプランを持たずに日々仕事をこなすだけでは、万が一自分が誤った方向に進んでいたとしても、そのことに気づかない可能性が高いです。その結果、キャリアにおける貴重な時間を、自分にとってあまり意義のない仕事に費やすことになるかもしれません。
やりがいを持って仕事に取り組める
部下がやりがいを持って仕事に取り組むためには、キャリアプランを定めることが必要不可欠です。明確なキャリアプランがあれば、現在の仕事が将来の目標にどう繋がっているのかを理解できるため、仕事に目的や意義を見出しやすくなります。
一方で、キャリアプランがない場合、部下は目の前の仕事をただこなすだけになり、そこに意味や価値を見出すのが難しくなる可能性が高いです。
Job総研が社会人男女を対象に実施した「キャリアに関する意識調査」によると、「今後のキャリアへの不安はありますか」との問いに対して、72.0%が「ある」と回答しています。さらに、そのうち65.4%が「(将来について)漠然とした不安がある」と述べています。
この「漠然とした不安」の多くは、自分の将来像が明確ではなく、目指すゴールから逆算したキャリアを築けていないことに起因していると考えられます。
部下が主体的に仕事に取り組み、自信を持ってキャリアを歩めるようにするためにも、キャリアプランを設定することは重要だといえます。
ミスマッチが起きにくい
部下のキャリアプランが明確に定まっていれば、仕事のミスマッチを防げる可能性が高いです。
たとえば、部下が「10年後に営業部の管理職を務め、売上10億円を達成する」という具体的なキャリアプランを描いていると仮定します。
このような明確な目標があれば、営業職またはそれに関連する部署に配属することで、必要な専門知識やスキルを効率よく習得でき、目標達成に向けたキャリアを着実に築くことができるはずです。
一方で、キャリアプランがない場合は、会社側の都合で配属が決定されることが多く、結果的にミスマッチも起きやすくなるでしょう。
実際に、マンパワーグループ株式会社が企業の人事担当者を対象に実施した調査によると、約80%の企業が「新卒採用後のミスマッチを経験した」と回答しています。
また、「ミスマッチの結果、起きてしまったことは何か?」という問いに対しては、57.9%が「採用した社員が早期退職した」と答えています。
これらの結果から、仕事のミスマッチは従業員のモチベーションを低下させ、組織の定着率にも悪影響を及ぼすことがわかります。
以上のことから、部下のミスマッチを防ぐには、あらかじめ各自のキャリアプランを明確に立てたうえで、そのプランに応じた適切な仕事を担当させることが重要です。
参考:
University of Oregon News “How goal-setting research can keep your resolutions on track”
PR TIMES「Job総研による『2022年 キャリアに関する意識調査』を実施 7割が今後のキャリアに不安 賃金上がらず不透明な未来に当惑」
ManpowerGroup「新卒採用におけるミスマッチは8割超!ミスマッチによる悪影響の1位は採用した社員の早期退職」
部下のキャリア形成支援が不十分な企業は多い

マンパワーグループ株式会社が、企業の経営者および人事担当者を対象に実施した調査によると、「従業員のキャリア形成を重視しているか」という問いに対し、54%が「重要視している」と回答しています。
一方で、「上司と部下間でのキャリア面談の実施状況」について尋ねたところ、次のような意見が多く挙げられました。
- 実施しているが、上司が適切にフィードバックできていない(26%)
- 上司・部下間でのキャリア面談は実施していない(25%)
- 実施しているが、部下のキャリアや要望が十分にヒアリングできていない(22%)
- 実施しているが、実質的に行われていない、形骸化している(20%)
これらの結果から、多くの企業が従業員のキャリア形成の重要性を理解している一方で、実際には十分な支援を行えていない現状が浮き彫りとなっています。
キャリアプランは、部下自身が主体的に作成すべきものですが、すべての部下が最初から明確なプランを描けるわけではありません。
だからこそ、上司はキャリア形成を部下に任せきりにせず、部下の目指す方向性に基づいたキャリアプランの作成をサポートすることが重要です。
参考:
ManpowerGroup「マンパワーグループ調査、従業員のキャリア形成を重視している企業は約5割」
部下のキャリアプラン作成を支援するコツ

部下のキャリアプラン作成を支援するにあたって、上司が押さえておくべきポイントを紹介します。
部下の興味や強みを知る
部下にとって最適なキャリアプランを作成するためには、一人ひとりが何に興味を持ち、どのような強みを持っているのかを理解することが重要です。
人にはそれぞれ仕事の適性が存在します。自分に向いていない仕事や、面白味を感じられない仕事を続けていてもモチベーションを高く維持することは難しく、能力も向上しにくいでしょう。
一方で、自分の得意な仕事や、心から楽しいと思える仕事であれば、日々の業務に主体的に取り組むことができ、成長スピードも大きく促進されると期待できます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、部下との何気ない会話の中で、以下のような質問を意識的に投げかけることで、その部下の興味や強みを自然な形で把握できるとされています。
尋ねる内容 | 質問例 |
---|---|
得意なこと | ・大きなストレスもなくできることは? ・これまでに周囲から褒められたスキルは? |
興味があること・楽しいこと | ・どの仕事をしているときが一番楽しい? ・仕事を自由に決められるとしたら、何をする? |
やりがいを感じられること | ・これまでに成し遂げた成果の中で、最も自慢できるものは? ・人生で最も重視していることは?今の仕事はそれに関連している? |
自身の成長を実感できること | ・自身の成長を実感できたエピソードはありますか? ・最近の仕事の中で、最も達成感を感じたのはどんなとき? |
自分が理想とする人間関係 | ・どういう関係性の相手なら、一番仕事がやりやすい? ・チームで仕事に取り組む際、どのような関わり方が心地よいと感じる? |
能力開発の機会を与える
部下のキャリアプランが定まったら、能力開発の機会を積極的に提供することが重要です。
各人が目指す道に沿った能力開発の機会を与えられれば、必要な知識やスキルを効率的に習得でき、理想的なキャリアを歩める可能性が高まるからです。
また、能力開発の機会を提供することは、単にスキルを向上させるだけでなく、部下のモチベーション向上にも寄与すると期待できます。
実際に、過去に米国で実施された調査では、能力開発の機会を多く与えられた従業員はそうでない者と比べて、「エンゲージメント(会社への愛着度を表す指標)が15%高く、定着率も34%高い」という結果が示されています。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、従業員に能力開発の機会を効果的に提供するためのポイントとして、以下の3点を提唱しています。
ポイント | 事例 |
---|---|
【早期から学習機会を与える】若手の頃から学習機会を多く与えられれば、その後に経験する仕事がよりインパクトの大きいものとなる | リンクトイン社では「インデー(InDay)」と呼ばれる、全従業員が自由に参加できる能力開発イベントを毎月開催している |
【学習を習慣化する】能力開発が習慣化されていれば、従業員は無理なくスキルの向上に励むことができる | ユーデミー社の従業員は、毎月開催される「ドロップ・エブリシング・アンド・ラーン(DEAL)」に必ず参加することになっている。DEALでは、自分が受けたい能力開発の講義を自由に受講できる |
【全従業員にコーチング*を行う】一般的にコーチングは、企業の上層部や成績優秀者だけが受けられる場合が多い。一般社員もコーチングを受けられるようにすることで、キャリアの幅が大きく広がる | ベターメント社では、すべての階級の従業員が年に3~6回、1対1でコーチングを受けられる機会を提供している |
*コーチング:相手が持つ能力や可能性を最大限に引き出すコミュニケーション技法。コーチングを受けることで、パフォーマンスの向上や人間関係の改善などの効果が得られるとされている
キャリアの進捗を確認する
部下のキャリアプランは、作成できたら終わりではありません。そのプランが示す方向へ部下が順調に進んでいるか、定期的に進捗を確認することが重要です。
誰もが長いキャリアを常に順風満帆に歩める保障はなく、ときには予期せぬ困難に直面したり、意図せず道を踏み外したりすることもあります。しかし、キャリアの進捗確認を定期的に行えていれば、早めに軌道修正することで問題が容易に解決できるかもしれません。
キャリアの進捗確認は当然ながら頻繁に実施するのが望ましく、理想としては2~3ヶ月に1回、少なくとも人事評価面談のタイミングでは必ず実施するべきでしょう。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、従業員が望むキャリアの実現可能性を高めるためには「キャリアスチュワードシップ」と呼ばれる、従業員自身がキャリアを主体的に管理・運営しようとする姿勢が重要だとされています。
以下は同記事で提唱されている、キャリアスチュワードシップを高めるための5つの質問です。キャリアの進捗確認を行う際は、これらの質問を部下に投げかけるとよいでしょう。
質問 | 具体例 |
---|---|
【どれだけ満足しているか】キャリアの土台となる「幸福感」や「モチベーション」の源泉を探る | あなたがキャリアにおいて大切にしている価値観は何ですか?今の仕事で、その価値観はどの程度実現できていますか?10段階で評価してください |
【積極的に学習しているか】自身の市場価値を高め、変化に対応できる能力を身につけられているか確認する | 今年1年間でどのような知識やスキルを身につけましたか?今後1年間でどのような能力を身につけたいですか?具体的な学習計画も教えてください |
【方向性は正しいか】目先な業務に埋没することなく、長期的な目標を見据えているか確認する | 10年後に、どのような自分になっていたいですか?それを実現するために、今後どのような経験を積みたいですか? |
【今とるべき行動は何か】長期的な目標の達成に向けて、具体的な行動をとるよう促す | 3年後に海外支部で働くために、今日からできる取り組みはありますか? |
【どのような人間関係の構築が必要か】キャリアを成功させるための重要な要素である「人間関係」に焦点を当てる | 現在関わりのある人たちの中で、より関係性を深めることで自分の成長や目標達成につながる可能性があるのは誰ですか? また、どのように関係性を深めていきたいですか? |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下がパーパスに目覚める5つの質問」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員の能力開発を通じて定着率を高める3つの方法」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「次のキャリアを決断する前に答えておくべき5つの質問」
まとめ
キャリアプランを持つことの重要性や、部下のキャリアプラン作成を支援するコツについて解説しました。
明確なキャリアプランを持っている部下は、仕事に対するやりがいや満足度が強く、能力の成長も早い傾向にあります。
本記事の内容を実践し、部下が最適なキャリアプランを作成できるよう手助けすることで、優秀な人材の育成および定着を目指してください。