「部下から悩み相談を受けたけど、どうすればいいのかわからない…」
このような困りごとを持つ管理職も多いでしょう。部下が何かしら悩みを抱えながら働いているのは決して珍しいことではなく、上司として適切な対処法を知っておくことが重要です。
本記事では、部下から悩み相談を受けた際に、上司が心がけるべきポイントについて解説します。部下の悩みを効果的に解消し、働きやすい職場環境づくりを目指したい方は、ぜひ参考にしてください。
部下の多くは何かしらの悩みを抱えている

オンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社マイシェルパが、社会人男女を対象に実施した調査において、「悩みや不安の有無」について尋ねたところ、71.9%が「ある」と回答しています。
この結果から、部下の多くが何かしらの悩みを抱えながら仕事に取り組んでいることがわかります。
部下が抱えがちな仕事上の悩み
株式会社ネクストレベルが実施した調査によれば、働く社会人が「いま抱えている仕事の悩み」として、「給与が低い(37.2%)」「社内の人間関係(12.8%)」「会社の将来性・安定性(9.8%)」などといった意見が多く挙げられました。
以下は、その結果を年代別にまとめたものです。年代にかかわらず、部下の大部分は「お金」「人間関係」「将来の見通し」などに関する悩みを共通して抱えていることがわかります。
20代 | 30代 | 40代 | 50代 |
---|---|---|---|
給与が低い(42.1%) | 給与が低い(32.1%) | 給与が低い(40.3%) | 給与が低い(34.5%) |
社内の人間関係(15.8%) | 会社の将来性・安定性(13.1%) | 社内の人間関係(15.6%) | やる気が出ない(12.7%) |
やる気が出ない(7.0%) | 社内の人間関係(12.0%) | 会社の将来性・安定性(11.7%) | 会社の将来性・安定性(10.9%) |
上司としては、こうした部下の悩みの種をあらかじめ理解しておき、ときには彼らの悩み相談に乗り、適切に手を差し伸べることが重要です。
なお、部下の悩みは必ずしも仕事上のことだけに限定されません。ときには結婚や育児、介護といった、プライベートに関する相談を受けることもあるはずです。
たしかに、部下のプライベート上の問題には、上司の手助けによって解決できることもあるでしょう(例:育児で多忙な従業員に、在宅勤務を特例で許可する)。
しかし、部下のプライベートな領域に深く立ち入ることは線引きが難しく、上司にそこまでの義務があるとはいえません。
したがって、部下からプライベートな悩み相談を受けた際には親身に話を聞き、共感を示す姿勢は見せつつ、支援は業務に支障のない範囲に留めることが望ましいです。
参考:
PR TIMES「男女296人に聞いた、2023年版「仕事の悩み」ランキング!37.2%が「給与の低さ」が悩みと回答」
誰にも悩みを相談できない部下は多い

もし、部下が悩みを抱えているのであれば、積極的に相談してほしいと考える上司は少なくないでしょう。しかし、現実には多くの部下が職場で誰にも悩みを打ち明けられず、一人で抱え込んでいるといわれています。
キャリアコーチング事業を展開する株式会社GOAL-Bの調査によれば、「職場で仕事やキャリアの悩みを気軽に相談できる人はいますか?」との問いに対し、67%が「いない」と回答しています。
さらに、そのうちの46%は「(悩みについて)上司に相談しにくい」と感じているとのことです。
つまり、「部下が悩み相談をしない=悩みがない」とは限らず、実際には悩みがあるものの上司に相談するのは抵抗があるため、やむを得ず一人で抱え込んでいる可能性があるのです。
部下が上司に悩みを打ち明けにくい要因の一つとして、職場の「心理的安全性」が低いことが挙げられます。
心理的安全性とは、「チームや組織の中で、メンバー一人ひとりが自分の意見や考えを安心して表明できる」状態を指します。
心理的安全性が低い職場では、部下は自身の悩みを他者から否定されたり非難されたりすることを恐れ、上司への相談を躊躇してしまうと考えられます。
したがって、部下から積極的に悩みを引き出したいのであれば、まずは職場の心理的安全性を改善し、日頃から部下が安心して悩みを相談できるような環境づくりに努めることが大切です。
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参考:
PR TIMES「仕事やキャリアの「相談」に関するアンケート調査 67%が「職場の人に相談出来ない」と回答、男性は72%と高い傾向に 理由1位は「上司に相談しにくい」46%」
部下の悩みを放置することで起こりうる弊害

先ほど紹介した株式会社マイシェルパの調査にて、「悩みや不安などが仕事におよぼす影響」について尋ねたところ、以下のような意見が多く挙げられました。
- 仕事への熱意の低下を感じたことがある(31.3%)
- 集中力やパフォーマンス、生産性の低下を感じたことがある(30.0%)
- 仕事が終わっても緊張が取れない(20.9%)
- 仕事の不安やプレッシャーなどで眠れないことがある(17.4%)
この結果を見ると、部下が悩みを抱えているにもかかわらず、適切に対処せずに放置すると、部下のモチベーションやパフォーマンス、さらにはメンタルヘルスにも深刻な悪影響をおよぼす危険性があることが明らかです。
したがって、部下の悩み相談には積極的な姿勢で応じ、最適な解決策を共に模索することが求められます。
そのためには、部下の悩み相談を受ける際に押さえるべきポイントを理解し、実践することが必要不可欠です。
参考:
PR TIMES「働く人の7割以上が悩みや不安を抱えている。20〜30代で高まるカウンセリング意識、依然高い心理的・費用・時間の壁【メンタルヘルスとカウンセリング実態調査】」
部下の悩み相談を受けるときのポイント

ハーバード・ビジネス・レビューの記事をもとに、部下の悩み相談を受ける際に上司が心がけるべきポイントを解説します。
自分の経験を押しつけない
人は悩み相談を受けたとき、つい自分自身の過去の経験を頼りにアドバイスをしてしまいがちです。
しかし、自身の成功体験はあくまで特定の状況下におけるものであり、それが相談相手にも有効とは限りません。
たとえば、部下が同僚との人間関係で悩んでおり、上司に相談したとします。
このとき、過去に上司自身が同様のトラブルを解決した際の方法を部下に提案したとしても、問題が発生した原因や背景は両者で異なるため、同じ解決策が効果を発揮する保証はありません。
したがって、部下の悩み相談に応じる際は、自身の過去の経験を一方的に押しつけるのは避けるべきといえます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事でも提唱されているように、悩み相談の場において重要なのは、まず相手の話をよく聞き、「相手の状況に焦点を当てる」ことです。
先ほどの例でいえば、「あなたとAさんの間で、何がきっかけでうまくいかなくなったのか、もう少し詳しく教えてもらえますか?」などと質問し、問題が生じた背景や具体的な出来事を詳しく聞くことに集中するとよいでしょう。
共感を示す
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、人は自分自身が過去に経験した困難や、それを乗り越えるために費やした努力を、無意識のうちに実際よりも小さく捉えてしまう傾向があるといいます。
そのため、現在悩みを抱えている相手の苦しみを十分に理解できず、その痛みを軽視してしまうことも少なくありません。
同記事では、相手の経験を過小評価したり、安易に捉えたりする言動は、かえって相手の苦悩を深めてしまう可能性もあると述べています。
したがって、上司が部下の悩みと向き合う際には、自身の考えや基準で判断するのではなく、部下の立場や気持ちになって考え、共感を示すことが大切です。
たとえば、部下が仕事でなかなか成果が出せずに、深く落ち込んでいるとします。このとき、「ちょっと結果が出ないくらいで落ち込んでどうするの」「努力が足りないんじゃないか」などと言うのは、理屈としては正しくても、適切な対応とはいえません。
部下に共感を示すためには、「努力しているのに結果が出ないと、どうしても落ち込んでしまいますよね」といったように、相手の心情に寄り添う言葉をかけるとよいでしょう。
そうすることで、部下は自分の悩みを上司に理解してもらえていると感じ、苦しみも多少は軽減されるはずです。
結論を急がない
部下から悩みを相談されたとき、上司として「早く解決策を提示してあげなければ」と考える人も多いでしょう。
しかし、部下が抱える問題は、一度話を聞いただけで解決に導けるほど単純とは限りません。
むしろ、無理に焦って結論を出そうとすると、状況に合わない的外れな解決策を提示してしまう危険性もあります。
先ほども述べたように、悩み相談では問題を解決することよりも、まずは相手がどのような悩みを抱えているのか、状況を正確に把握することが大切です。
そして、部下の置かれている状況が理解できたら、上司として具体的にどのようなサポートができるのか、部下に問いかけることが効果的とされています。
たとえば、仕事にやりがいが感じられず、モチベーションが低下している部下に対しては、「あなたが仕事に前向きに取り組めるようになるために、私に何かできることはありますか?」と尋ねてみるとよいでしょう。
このように、質問を適切に織り交ぜながら対話を進めることで、上司と部下の間で認識のズレが生じるのを防ぎ、部下が自らの力で悩みを乗り越えるための糸口を見つけ出す手助けとなるはずです。
メンターをつける
上司の力だけでは部下の悩みを解決するのが難しい場合は、その部下にメンターをつけるのも一つの手です。
メンターとは、新入社員や若手社員に対して仕事のやり方を教えるだけでなく、ときには彼らの抱える悩みや不安にも耳を傾け、相談に乗る役割を指します。
このとき、メンターにはその部下と同様の悩みを「過去に経験していない」人を選ぶことが重要です。たとえば、同僚との人間関係に悩んでいる部下に対しては、過去に仕事で成果が出せずに悩んだ経験を持つ従業員をメンターにつけるとよいでしょう。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、メンターが部下と似たような悩みを経験している場合、問題解決に至らないばかりか、かえって状況を悪化させてしまうケースも多いとされています。
同じような悩みを経験していると、相手が直面している状況を深く理解しようとせず、過去の自分自身の経験を基準として問題を捉え、解決策を導き出そうとするからでしょう。
一方で、類似の悩みを過去に経験したことがない人であれば、まずは相手が置かれている状況を把握し、その心情を理解しようする傾向にあるといいます。その結果、相手も自身の悩みを安心して打ち明けられるため、状況を打開する糸口も見つけやすくなるのです。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下が悩みを抱えている時にリーダーが取るべき4つの行動」
まとめ
部下から悩み相談を受けた際に、上司が心がけるべきポイントについて解説しました。
部下の多くは、何かしらの悩みを抱えながら仕事に取り組んでいます。この状態を放置してしまうと、部下のパフォーマンスやモチベーション、メンタルヘルスに深刻な悪影響がおよぶ恐れがあるため、上司が適宜悩み相談に乗り、適切に対処することが重要です。
本記事の内容を実践することで部下の悩みを効果的に解消し、働きやすい職場環境づくりを目指してください。