管理職は、会社の数ある役職の中でもとくに負荷の大きいポジションであり、管理職の仕事に疲れたと感じる人も多いでしょう。
この疲労状態を放置してしまうと、やがては心身に不調をきたす恐れがあります。そのため、「管理職に疲れた」と感じたら、そのサインを無視せず、早急に対処することが大切です。
本記事では、管理職が「疲れた」と感じやすい原因や、その際に取るべき対処法について解説します。
ストレスを適切なレベルに保ち、長く健康的に働き続けたい管理職の方は、ぜひ参考にしてください。
「管理職に疲れた」と感じる人は多い

株式会社あしたのチームが30歳以下の管理職を対象に実施した調査によると、「管理職をやめられるならやめたいと思いますか?」との問いに、半数を超える54.1%が「そう思う」と回答しています。
この結果は若手管理職のみを対象としたものではあるものの、管理職として働くことに疲れ、役職を降りたいと考えている人が多く存在していることが見てとれます。
疲れを放置するとどうなる?
管理職として働くことに疲れてしまうのは、それだけ日々の業務で大きなストレスを感じていることを示しています。
この状態を放置してしまうと、徐々に心身に不調をきたし、最悪の場合、長期にわたる休職を余儀なくされる恐れがあります。
実際に、マイナビ転職が実施した「管理職の悩みと実態調査」では、「管理職になって、人生はどう変わったか」という問いに対し、65.9%もの人が「心身の健康が損なわれた」と回答しているほどです。
管理職として理想的なキャリアを築くためには、長く健康的に働き続けることが非常に大切です。しかし、一度心身の不調によって仕事から離れる期間ができてしまうと、それだけで理想のキャリアを歩める可能性が下がるでしょう。
管理職は一般社員と比べて業務量が多く、責任も重いポジションです。だからこそ、心身が疲弊して不調が生じる前に、日頃から適切な対策を講じることが必要不可欠だといえます。
参考:
PR TIMES「30歳以下の若手管理職の半数以上が「管理職をやめられるならやめたい」と回答。【30歳以下の若手管理職に関する調査 <マネジメントの悩み編>】」
PR TIMES「マイナビ転職、「管理職の悩みと実態調査」を発表」
管理職が疲れやすい原因

先ほど紹介した株式会社あしたのチームの調査の中で、管理職が抱える具体的な悩みが明らかになっています。以下は、その中でもとくに多かった意見です(括弧内は回答者の割合)。
- チームの人材不足(30.1%)
- 部下とのコミュニケーション(26.4%)
- 部下の育成と教育(25.9%)
- 上司と部下の板挟み(25.9%)
この結果をもとに、管理職が仕事上で疲れを感じやすい原因について解説します。
仕事量が多い
業務の進捗管理や人材育成、運営戦略の策定など、管理職の仕事は多岐にわたります。業務量が多い分、労働時間も長くなりがちなため、十分な休息が取れずに疲れを感じやすい傾向にあります。
とくに近年では、働き方改革の普及により、部下に長時間労働を強いることが難しくなったため、管理職の負担がさらに大きくなっているといわれています。
管理職の業務負担を手っ取り早く軽減するためには、人員を増やすべきだと考える人もいるでしょう。しかし、現在の日本は多くの業界で人手不足が課題となっており、人員を増やすことは決して容易ではありません。
実際に、株式会社東京商工リサーチが行った調査によれば、69.32%もの企業が「(正社員が)不足している」と回答しているほどです。
また、人手を増やすとその分採用や教育に余計なコストがかかるため、この点からも必ずしも最善の策とはいえません。
以上のことから、管理職が長時間労働に陥らないためには、
- 手を抜けるところは手を抜く
- 無駄な業務を廃止する
- 手の空いている部下に仕事を積極的に割り振る
などといったポイントを意識し、限られた時間の中で効率的に業務を処理することが重要です。
部下とのコミュニケーションが難しい
部下とのコミュニケーションが難しい点も、管理職を疲れさせる要因の一つです。
管理職がチームを円滑に運営するためには、部下とのコミュニケーションは必要不可欠です。
たとえば、部下が仕事上で課題や悩みを抱えている際には、管理職がその部下とコミュニケーションを取ることで、適切なアドバイスやサポートを提供できるでしょう。
そうすれば、部下は自身の問題を解決しやすくなり、結果として能力やモチベーションが高まると期待されます。さらに、このような状態が継続することで、組織全体の生産性や定着率の向上にも寄与すると考えられます。
米国で行われた研究によると、職場でのコミュニケーションが不足している企業では、従業員一人あたり年間2万6千ドル(日本円で約370万円)もの経済損失が発生するという結果が出ています。
この結果からも、組織を効果的に運営するためには、部下との密なコミュニケーションが必要不可欠だとわかります。
なお、部下とのコミュニケーションは積極的に取ることが理想的ですが、むやみに取りすぎるとかえって逆効果になる可能性もあるため、注意が必要です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、コミュニケーションの取りすぎは部下から「時間を奪われている」と感じられ、かえって不満を高めてしまうこともあるとされています。
したがって、管理職が部下とコミュニケーションを取る際は、
- 双方向のやり取りを意識する
- 相手が別のことに集中している時に話しかけない
などといった点を意識し、一方的なコミュニケーションにならないよう心がけることが大切です。
部下がうまく育たない
管理職の数ある業務の中でも、とくに重要なのが「部下の育成」です。しかし、部下育成がうまくいかず、疲弊している管理職は少なくありません。
部下の育成がうまくいかない原因の一つに、事前に部下の育成計画を立てず、行き当たりばったりの指導・教育を行っていることが考えられます。
適切な指導・教育方法は人によって異なり、全員に対して同じ方法で指導・教育しても期待する効果が得られるとは限りません。
そのため、管理職は部下一人ひとりの性格や能力、適性などを見極めたうえで、それぞれに最適な育成計画を立て、それに沿って指導・教育を行うことが大切です。
また、育成計画は定期的に見直し、適宜修正を加えることで、部下の成長スピードをさらに促進できるでしょう。
上司と部下の板挟みになる
管理職は、上司と部下の間で板挟みになることが少なくありません。
たとえば、営業職の管理職であれば、上司から「もっと売上を上げろ」と厳しく言われる一方で、部下からは「これ以上は無理です」と訴えられる、といった状況が起こりえます。
このように、上司と部下の相反する要望の間に挟まれ、疲れてしまう管理職は多いといわれています。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、このような板挟みが起こる要因として、「上司と部下の相互理解が不足している」ことが考えられるといいます。
そのため、管理職は上司と部下双方と密にコミュニケーションを取り、お互いが理解を深めるよう仲介することが重要です。
先ほどの例でいえば、以下のような働きかけが効果的でしょう。
- 対上司:部下の労働時間に関するデータなどを示し、これ以上部下に負担を強いることが難しい状況を説明し、理解を促す。そのうえで、新たな人員の補充や必要な設備投資など、具体的な解決策を提案・相談する
- 対部下:上司がなぜ厳しい目標やノルマを課しているのかを、会社の目標や今後の方向性と関連付けながら詳細に説明し、その意図を理解してもらうよう努める
このような働きかけによって、上司と部下の相互理解を深めることができれば、両者の間で板挟みになることも少なくなるでしょう。
参考:
東京商工リサーチ「「人手不足」企業、69.3%で前年よりも悪化 建設業は8割超が「正社員不足」で対策急務」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「話しすぎる上司にならないための4つのルール」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「中間管理職は上司と部下で矛盾する要求にどう対処すべきか」
「管理職に疲れた」と感じたら

ハーバード・ビジネス・レビューの記事(以下、同記事)をもとに、管理職の仕事に疲れたと感じた場合に、心がけるべきポイントについて解説します。
ストレスが適正レベルかチェックする
先ほども述べたように、管理職の仕事に疲れたと感じるのは、それだけ日々の業務でストレスが蓄積している証です。この状態を放置すると、心身に不調をきたす恐れがあります。
したがって、管理職はストレスを適切なレベルに保つよう、日頃から意識することが重要です。
同記事によると、ストレスレベルが適正値を超えると、以下のような兆候が見られるといいます。
- 身体的な兆候:頭痛、不眠、心拍数の上昇、体調を崩しやすくなるなど
- 精神的な兆候:不安、無気力、集中力の低下など
- 感情的な兆候:イライラ、焦り、喧嘩腰になるなど
- 行動の兆候:決断力がなくなる、締め切りを守れない、ミスが増えるなど
- 発言の兆候:「疲れた」「無理だ」「やる気が出ない」など
もし、上記のような兆候が見られる場合は、すでに心身に不調が生じ始めているサインであり、早急な対処が必要となるかもしれません。
ストレスを適正レベルに戻す
同記事では、過剰なストレスを適正レベルに戻すための対処法として、以下の7つを実践することを推奨しています。
対処法 | 具体例 |
---|---|
【スイートスポットを特定する】自分がどんな時に最高の状態なのか(ストレスのスイートスポット)を知り、必要な休息やサポートを確保する | 「集中力が高いのは、8時間寝た日の午前中だ」と気づいたため、意識的に毎日8時間の睡眠を確保する |
【感情をコントロールする】深呼吸やマインドフルネス(瞑想)で冷静さを保ち、ストレスを前向きなエネルギーに変える | イライラした際は、4秒吸って、7秒息を止め、8秒かけてゆっくり吐く深呼吸を数回くり返す |
【休息を習慣化する】疲れてから休むのではなく、定期的に仕事から離れる時間を設ける | 就業中は1時間ごとに5分間、席を立ってストレッチをしたり、窓の外を眺めたりする |
【改善可能な点を行動に移す】スケジュールや仕事量など、自分で変えられる部分を見つけて改善する | 集中したい業務は午前の早い時間に、打ち合わせは午後にまとめるなど、自分のパフォーマンスが上がるようにスケジュールを調整する |
【社会的なつながりを活用する】信頼できる同僚や友人と交流し、ストレスを軽減する | 週末に友人と食事に出かけたり、オンラインでビデオ通話をして近況を報告し合ったりする |
【自分の価値観と向き合う】自分の信念に反する行動はストレスになるため、極力避ける努力をする | 上司から顧客に不正確な情報を伝えるよう指示された際に、誠実でありたいという自分の価値観と照らし合わせ、正直に状況を説明する代替案を提案する |
【専門家の助けを求める】自分での対処が難しい場合は、カウンセラーや産業医に相談する | 気分が落ち込んだり、眠れなかったりする日が続くので、心療内科を受診する |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「常態化したバーンアウトに対抗する7つのテクニック」
まとめ
管理職が「疲れた」と感じやすい原因や、その際に取るべき対処法について解説しました。
管理職は数ある役職の中でもとくに負荷の大きいポジションであり、疲労を感じている人も多いといわれています。この疲労状態を放置してしまうと、やがては心身に不調をきたし、最悪の場合、長期間の休職を余儀なくされる恐れがあります。
そのため、「管理職に疲れた」と感じたら、そのサインを無視せず、早急に対処することが大切です。
本記事で紹介した内容を実践し、ストレスを適切なレベルに保ちながら健康的に働き続けることで、理想的なキャリアの形成に役立ててください。