「部下は積極的に褒めた方がいいの?」
「部下の褒め方がわからない…」
このような疑問や悩みを持つ管理職も多いでしょう。上司が部下を褒めることでさまざまなメリットが得られる反面、不適切な褒め方をしてしまうと逆効果になる恐れがあるため、注意が必要です。
本記事では、部下の効果的な褒め方について解説します。部下一人ひとりを効果的に褒めることで、職場全体の士気や生産性の向上につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。
部下を褒めるメリット

上司が部下を褒めることで得られるメリットについて解説します。
部下のモチベーションやパフォーマンスが向上する
上司が部下を褒めることで、部下の仕事に対するモチベーションやパフォーマンスを向上させる効果が期待できます。
人は他者から褒められることで自己肯定感が高まるといわれています。米国で行われた研究によれば、適度な自己肯定感は仕事のストレスを軽減し、より高いパフォーマンスを引き出す原動力になるとのことです。
また、脳科学の分野における研究では、褒め言葉は金銭的な報酬と同様に脳に良い影響をもたらすことが示されています。
さらに別の研究によると、他者から褒め言葉をかけられた人は、自分も周囲の人を褒めようとする傾向があるとされています。このような行動が周囲に広がっていけば、組織全体に「褒め合う文化」が自然と形成されるでしょう。
その結果、組織全体の士気や生産性が向上するだけでなく、メンバーの離職率が低下する可能性も示唆されています。
褒める側の幸福度も高まる
上司が部下を褒める行為は、褒められた部下だけでなく、褒めた側である上司自身の幸福度も高めるとされています。
実際に、米国で実施された研究では、人は他者を褒めることによって、自分が褒められるよりも大きな幸福感を得られるという結果が出ているほどです。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、この幸福感の理由が「社会的つながり」にあるとしています。
人が誰かを褒めるためには、その相手に注意を向け、その人の考えや感情に思いを馳せる必要があります。
このような「相手について考える」という行為が、より強固な社会的つながりを生み出し、良好な人間関係を促進することで、結果として幸福度を高めてくれるのです。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーは思いやりがもたらす効果を侮るべきではない」
上司の褒め方に不満を抱える部下は多い

上司が部下を褒めることには多くのメリットがありますが、残念ながら、上司の褒め方に不満を感じている部下は少なくありません。
実際に、株式会社サーベイリサーチセンターが社会人男女を対象に行った調査では、「上司の褒め方への満足度」について、36.8%もの人が「不満」と回答しているほどです。
以下は、その理由として挙げられた主な意見です(括弧内は回答者の割合)。
- 口先だけで褒める(40.9%)
- 公平に褒めない(27.3%)
- 気まぐれに褒める(24.7%)
- むやみに褒める(7.1%)
- 人前で褒める(3.2%)
この結果を見ると、「とりあえず褒めておけばいいだろう」と適当に褒めたり、相手への思いやりがない褒め方をしたりすると、部下のモチベーションを高めるどころか、かえって逆効果になることがわかります。
部下をうまく褒められない原因
先ほどの株式会社サーベイリサーチセンターの調査で、管理職を対象に「部下を褒めにくいと感じた経験」について尋ねたところ、68.3%もの管理職が「褒めにくいと感じたことがある」と回答しています。
その理由として挙げられた主な意見は以下の通りです。
- 褒める部分が見つからないから(36.9%)
- 褒めるタイミングがつかめないから(31.0%)
- 調子に乗るのではないかと思うから(28.0%)
- 他の部下もいるため、特定の部下を褒めにくいから(27.4%)
たしかに、その場しのぎで部下を適当に褒めても逆効果になる可能性がある以上、上記のような意見が出るのも無理はありません。
しかし、部下の不満を恐れて褒めることをためらっていては、部下のモチベーションや生産性を向上させる貴重なチャンスを逃すことになります。
このような事態を防ぐためには、褒めるタイミングや伝え方など、部下の効果的な褒め方を知ることが重要だといえます。
参考:
アットプレス「職場における「ほめる効果」に関するアンケート 調査結果」
部下の効果的な褒め方
部下を効果的に褒めるために、上司が意識すべきポイントを紹介します。
具体的に褒める
先ほど紹介した株式会社サーベイリサーチセンターの調査結果が示すように、部下は上司から口先だけで適当に褒められるのを嫌う傾向にあります。
そのため、部下への誉め言葉は具体的に述べることが大切です。
たとえば、単に「よかったよ」と伝えるだけでなく、「〇〇のときに、△△をしてくれたおかげで、◇◇が改善されたよ」といったように、相手の褒めるべき行動の詳細とそこから得られた結果を伝えるとよいでしょう。
こうすることで、相手は自分の貢献がどれほど重要であったかをより強く実感でき、褒め言葉の効果が高まるのです。
▼【例】具体的に褒める
(会議で有用な意見を提案してくれた部下に対して)「会議で提案してくれた新しい販売戦略のアイデア、とても助かりました。商品の魅力を効果的に伝える方法が明確になり、次のキャンペーンの方向性がぐっと進みました」 |
行動を褒める
部下を褒める際は、結果だけでなく「行動」も評価することが重要です。
仕事の成果は、必ずしも個人の力だけでどうにかできるものではありません。
もちろん、部下の上げた成果を評価するのも意義のあることですが、その結果につながった努力や工夫といった「行動」も同様に評価することがより大切です。
「行動」は部下が自分でコントロールできるものであり、そこを認められれば、部下は「自分は上司から認められている」とより強く感じることができ、モチベーションアップにつながるはずです。
また、仕事で成果が出せずに悩んでいる部下に対しても、「行動」を評価することで「自分は上司からちゃんと見てもらえている」と感じてもらえ、困難に立ち向かう力を育むことができるでしょう。
伝え方とタイミングを図る
効果的な褒め言葉の「伝え方」は、部下一人ひとりで異なります。
たとえば、承認欲求が強い部下だと、多くのメンバーが見ている前で褒められることを好むかもしれません。
一方で、恥ずかしがり屋な部下の場合、人前で褒められ注目を浴びるのを嫌がる可能性があります。このようなタイプには、個別に呼び出して褒めたり、手書きのメモで感謝の気持ちを伝えたりするのがよいでしょう。
また、部下を褒める際は「タイミング」も重要です。
具体的には、相手の褒めるべき行動に気づいたら、できるだけすぐに褒めることが好ましいです。
すぐに褒めることで、部下は「どのような行動が、なぜ評価されたのか」を明確に理解できます。その結果、今後も同様の望ましい行動を自発的にとるようになることが期待できます。
若手ほど積極的に褒める
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、上司が褒めて期待をかけることは、とくに若手社員に大きな影響を与えるとされています。
一方で、ある程度経験を積んだ部下の場合、すでに自己イメージが固まっており、自分を過去の実績通りの人間だとみなす傾向にあります。こうなると、いくら上司が褒めても、部下は自分自身に高い期待を抱くことが難しくなるとのことです。
企業においては、若手社員の時期にどれだけ期待を受けたかが、その後の業績や昇進スピードを決定する上で非常に重要になります。
実際に、米国で行われた調査でも、新入社員のその後のキャリアを左右する最も重要な要因は、「会社や上司が本人に最初に何を期待したか」であったという結果も出ているほどです。
入社1年目に高い期待に応えようとすることが、部下の積極的な姿勢や高い目標意識を引き出し、それが好業績や昇進につながり、さらなる成長を後押しする循環が生まれるのでしょう。
以上のことから、上司はまだ経験が浅く、能力も未熟な若手社員にこそ、積極的に褒め言葉をかけることが大切といえます。
年度初めは積極的に褒める
部下を褒める際は、年度初めに褒めることで、より高い効果が期待できます。
ここで、米国の大手コンサルティング会社で行われた調査結果を紹介します。同社では、1年を「初期」「中期」「後期」の3つの期間に分け、各期間の終わりにメンバーの業績評価を行っています。
業績評価時のフィードバック内容と従業員の業績との相関関係を分析したところ、上司が「初期」の段階でポジティブな言葉をかけることが、部下の年間のパフォーマンスを最も大きく向上させたとのことです。
このような結果が得られた理由として、上司が早い段階でポジティブな評価を下したことで、部下は「自分は期待されている」とより強く感じ、その期待に応えるために、年間を通じて優れたパフォーマンスを示そうと努力するからだと考えられます。
さらに同調査では、上司が「初期にポジティブな言葉」をかけ、「中期にややネガティブな言葉」をかけた場合に、部下が最も高いパフォーマンスを発揮したとされています。
これは、部下が「自分に対する上司の評価が下がった」と感じたときに、初期に受けた期待を取り戻そうと、さらに努力するからだと考えられます。
部下を成長させるためには、ただ褒めるだけでなく、ときには課題や弱みなど、ネガティブな点にも目を向けさせ、改善を促すことも重要です。
これらの結果を考慮すると、年度初めは部下を積極的に褒め、ネガティブな点については中盤の時期に伝えることが最も効果的であるといえます。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下に感謝の気持ちを伝える効果を軽視していないか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「ピグマリオン・マネジメント」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下をほめるなら、いつが最も効果的か」
「部下を褒めすぎると逆効果」は誤解

「部下を頻繁に褒めすぎると、効果が薄れたり、相手に不信感を与えてしまうのではないか?」
このように考える人もいるかもしれませんが、思いやりのある褒め言葉が「聞き飽きられる」ことはありません。
米国で行われた研究では、誉め言葉を毎日かけられた人でも、日が経つにつれて喜びが薄れることはなく、日々同程度に気分が明るくなっていたという結果が出ています。
人が定期的に食事を必要とするように、「人から見られ、認められ、評価されたい」という基本的な欲求は、仕事や人生においてくり返し現れる、非常に大切な欲求なのです。
では、なぜ誉め言葉をかけるのをためらってしまう人が多いのでしょうか?
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、それは褒めることへの「間違った思い込み」が原因とされています。
相手を褒めるかどうかを決めるとき、我々は「うまく伝えられるだろうか」「ぎこちなく聞こえないか」といった「不安」を感じる傾向にあります。この不安が、相手にメッセージを伝えようとする意思を揺るがしてしまうのです。
このような誤解を解消するためには、誉め言葉の「伝え方の上手さ」だけではなく、「伝えたい思いやり」に意識を向けることが大切といいます。
実際に、褒め言葉に込められた思いやりや誠実さ、好意に注目した場合、人は「もっと誰かを褒めたい」という気持ちが高まるとの研究結果もあるほどです。
人は自分の不完全さに意識が向きがちなため、褒めたい気持ちにブレーキをかけないためにも、相手への思いやりに意識を向けることが重要です。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「小さな感謝の言葉が組織文化を大きく変える」
まとめ
部下の効果的な褒め方について解説しました。
上司が部下を褒めることは、部下のモチベーションやパフォーマンスの向上につながるだけでなく、褒める側の上司自身の幸福度も高めるというメリットがあります。
ただし、適当に口先だけで部下を褒めても効果がないばかりか、かえって相手の不満を高める恐れもあるため、注意が必要です。
本記事で紹介したポイントを実践し、部下一人ひとりを効果的に褒めることで、職場全体の士気や生産性の向上につなげてください。