エンゲージメントサーベイとは、「従業員が仕事に対してどれだけ情熱を持ち、会社やチームに貢献したいと感じているか」を測定するための調査です。
エンゲージメントサーベイはただ実施すれば終わりではなく、調査実施後に「アクションプラン」を作成し、実行するところまでが重要とされています。
本記事では、アクションプランを作成・実行する手順や、その際に心がけるべきポイントについて解説します。
効果的なアクションプランを作成・実行することで、組織の課題解決に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
エンゲージメントサーベイのアクションプランとは

エンゲージメントサーベイのアクションプランとは、エンゲージメントサーベイで明らかになった課題や改善点を解決するために作成する、具体的な行動計画のことです。
アクションプランが重視される理由
エンゲージメントサーベイは、あくまで組織が抱える課題や改善点を知るための手段です。そのため、ただ調査を実施するだけで期待する効果が得られるものではありません。
大切なのは、調査で明らかになった問題点を踏まえ、具体的な行動に移すことです。
マッキンゼー・アンド・カンパニー社によると、多くの企業が従業員の「サーベイ疲れ」という問題に直面しているといいます。
サーベイ疲れとは、従業員の調査への参加意欲が低下している状態を指します。この状態で調査を実施しても、回答が得られなかったり、適当な回答が増えたりして、データの正確性が損なわれる可能性があります。
サーベイ疲れの原因は「調査の回数や長さ」だと思われがちですが、これは誤解です。
過去のさまざまな研究結果から、サーベイ疲れの最も大きな原因は、「会社が調査結果を活かしてくれない」ことだとされています。
過去に調査に協力したにもかかわらず、その結果について何の連絡もなかったり、具体的な改善が見られなかったりした経験が、従業員の調査に対するモチベーションを削いでしまうのです。
逆に、会社側が調査結果を積極的に従業員と共有し、それに基づいて行動を起こせば、従業員はその後の調査にも積極的に協力し、より好意的な回答をする傾向があることが研究で示されています。
以上のことから、従業員のエンゲージメントや組織課題を効果的に改善したいのであれば、調査後のアクションプランの作成は必要不可欠だといえます。
参考:
McKinsey & Company “Survey fatigue? Blame the leader, not the question”
アクションプランを作成・実行する手順

マカレスター大学の情報をもとに、エンゲージメントサーベイ実施後にアクションプランを作成し、実行に移すまでの手順を解説します。
ステップ1. 結果を共有する
エンゲージメントサーベイの結果は、単なる数字の羅列ではありません。チームの現状を映し出す鏡であり、未来への変化を促すための貴重な情報源です。
このステップの主な目的は、調査結果をチーム全体に透明性をもって共有し、率直な対話を促すことで、現状への共通理解を深めることにあります。
具体的には、以下の手順で進めます。
- 会議の開催:チームメンバー全員が参加できる会議を設定する。調査結果を提示し、議論する場を設ける
- 結果の透明性:良い結果もそうでない結果も、全ての調査結果を隠さずにチームに共有する
- 対話の促進:結果について議論するための十分な時間を確保する。必要に応じて、全体を3〜5人程度の少人数グループに分け、グループごとに意見を出し合ってもらうのも効果的
- 主要な推進要因の特定と議論:「主要な推進要因(Key Drivers)」、つまりエンゲージメントに最も影響力のある要素を特定し、議論する(例:「上司とコミュニケーションが不足していると感じている人が多い」という結果であれば、「上司とのコミュニケーション」が主要な推進要因と考えられる)
- 次のステップの共有:会議の終わりに、今後のプロセス(アクションプランの作成方法や時期など)について共有し、議論で終わらせずに行動につなげることを約束する
ステップ2. フィードバックを収集し分析する
ステップ1でエンゲージメントサーベイの結果を共有したことで、チーム内で「ここが課題だ」という共通認識ができたはずです。
しかし、調査のデータだけでは、「なぜこのような結果になったのか?」という理由や、具体的な改善策までは見えてきません。
そこで必要となるのが、「フィードバックの収集と分析」です。このステップでは、浮上した課題の「なぜ?」を深く掘り下げ、具体的な解決策につながるヒントやアイデアを従業員から引き出すことが主な目的となります。
具体的な手順は以下の通りです。
- 多様な方法でフィードバックを収集する:従業員が安心して本音を話せるよう、少人数でのグループワークや匿名アンケートなど、できるだけ多くの率直な意見を集められる方法を用いる
- 収集したフィードバックを整理・分類する:従業員から集めた意見を集約し、似た内容は一つにまとめることで、課題の根本原因を特定しやすくする(例:「上司とコミュニケーションが取りづらい」という課題に対し、「上司の言い方がキツい」「怒られそう」といった意見が多ければ、「上司が話しかけづらい雰囲気を出している」ことが根本原因として考えられる)
- 優先順位付け:課題が複数ある場合は、実現可能性や費用対効果なども考慮して優先順位をつける
これらの手順を踏むことで、単に「上司とのコミュニケーションが不足している」といった表面的な課題認識から、「上司が日頃から話しかけづらい雰囲気を出しており、部下の方から積極的なコミュニケーションが取れない」といった、より深く、具体的なアクションにつながる課題へと昇華させることができます。
ステップ3. アクションプランを作成する
これまでの分析で明らかになった課題を解決するために、このステップでは具体的で実行可能なアクションプラン(行動計画)を立てることが目的です。
まずは、ステップ2で特定した課題の中から、「最も重要で影響の大きいもの」を1〜3つに絞り込みます。次のエンゲージメントサーベイまでに達成可能で、チームに最大のインパクトを与えられるものを選びましょう。
そのうえで、絞り込んだ課題ごとに以下の「何を、いつまでに、誰が、どのように行うのか」を明確に決め、アクションプランに盛り込みます。
- 取り組む課題:どの課題に取り組むのかを明確にし、関連する調査結果も添える
- 具体的な行動(解決策):課題を解決するために具体的に何をするのかを記述する
- 担当者(責任者):その行動の責任は誰にあるのかを明確にする
- 完了予定日:いつまでにその行動を完了させるのかを設定する
作成したアクションプランは、必ずチーム全員に共有してください。これにより、メンバーは自分たちの意見が具体的な改善行動につながっていることを実感でき、今後の従業員調査へのモチベーションにもつながります。
▼【具体例】上司Aのアクションプラン
課題 | 部下とのコミュニケーションが不足している(先日実施したエンゲージメントサーベイにて、チームメンバーの75%が「上司とのコミュニケーションが不足している」と回答) |
具体的な行動計画 | ・部下から「言い方がキツい」「怖い」などの意見が挙げられたため、柔和な雰囲気を心がける。・月に一度は1 on 1ミーティングを実施し、部下とのコミュニケーションの機会を増やす・コミュニケーション方法に問題がある場合は積極的に指摘するようお願いし、部下からの批判も受け入れる |
担当者(責任者) | 上司A |
完了予定日 | 次回のエンゲージメントサーベイまで(12/10実施予定) |
ステップ4. アクションプランを実行する
アクションプランは、ただ作成しただけでは意味がありません。この最終ステップでは、ステップ3で立てたアクションプランを実際に行動に移し、その成果をチームに共有することが目的となります。
具体的な手順は以下の通りです。
- 計画通りに実行する:ステップ3で立てたアクションプランに沿って、各担当者が責任を持って行動する。設定した「目標完了日」を意識し、期限内にタスクを遂行することが重要
- 進捗状況を共有する:アクションプランの進捗度を定期的にチーム全員に共有する。万が一停滞している場合でも正直に伝え、必要に応じてチームで解決策を考える
- 調査結果との関連を強調する:実行中のアクションが、「エンゲージメントサーベイのフィードバックに基づいて行われている」ことを繰り返し明確に伝える。これにより、従業員の意見が活かされていることを示す(例:「今月より1on1ミーティングを実施することになったのは、先日の調査で『私(上司)とのコミュニケーション不足』が大きな課題として挙がったためです」)
- 効果を検証し、修正する:アクションを実施したら、それが本当に課題解決に貢献しているか、期待通りの効果があったかを検証する。効果が薄い場合は適宜プランを見直し、修正する(例:新たなコミュニケーション施策を導入した後、「以前より意見を言いやすくなりましたか?」といった簡単なヒアリング調査を行う)
- 成功事例を共有する:実施したアクションが成功したり、良い兆候が見られたりした場合は、メンバーへ積極的に共有する。これはチームのモチベーションを高め、次なる改善への意欲をかき立てる
くり返しになりますが、アクションプランは作成したら終わりではなく、実際に行動に移してはじめて効果が得られるものです。
従業員の信頼を築き、最終的に組織全体のエンゲージメントを高めるために、この最終ステップはもっとも重要なステップだといえます。
参考:
Macalester College “Action Planning Guide”
アクションプランを作成する際のポイント

ハーバード・ビジネス・レビューの記事(以下、同記事)をもとに、効果的なアクションプランを作成するためのポイントを紹介します。
従業員の心理的安全性を確保する
アクションプランを作成するうえで、従業員から有益な意見を多く引き出すためには、「心理的安全性」を確保することが必要不可欠です。
心理的安全性とは、「個人が組織やチーム内で、安心して自分の意見やアイデアを共有できる状態」を指します。
エンゲージメントサーベイなどの調査を実施する際、従業員は「意見を言ったら、後で特定されて問い詰められるのではないか」と疑う傾向があります。とくにネガティブな意見を表明した場合には、その懸念がより強まるでしょう。
そのため、従業員に対して調査を実施したり、調査結果について意見を求めたりする際は、その目的が「組織の抱える問題を特定し、解決策を見つけること」であることを強調し、「ネガティブな意見を出した人を特定するわけではない」とくり返し伝える必要があります。
また、以下のような調査方法を採用することも、従業員の心理的安全性の確保に有効だと考えられます。
- 匿名性の高いアンケートツールを利用する
- AIを活用し、回答者を特定することなく、大量の自由記述の意見を効率的に要約・分析する
従業員が安心して本音を話せる環境を整えることが、より実効性の高いアクションプランへとつながるのです。
相反する意見に対処する
多数の従業員から意見を集めると、意見が食い違うことも当然あります。
たとえば、上司とのコミュニケーション不足の解決策として、「1on1ミーティングを実施してほしい」という意見もあれば、「1on1ミーティングは時間の無駄だから必要ない」と考える人もいるでしょう。
これらの相反する意見は、どちらも従業員の大切な意見です。上司は両方の意見をないがしろにすることなく、適切に対処する必要があります。
同記事では、従業員同士の相反する意見に対処するポイントとして、以下の2点を提唱しています。
- 意思決定の基準を説明する:意見が分かれる中で、なぜ特定の解決策や方針を選んだのか、その「判断基準」を明確に伝える(例:「私自身、以前から皆さんとのコミュニケーションの機会が不足していると感じており、一人ひとりとじっくり話し合いができる1 on 1ミーティングを、これから実施していきたいと考えています」)
- 多様な意見が最終決定にどう影響したかを示す:最終決定に至るまでの、「さまざまな意見を考慮したうえで、この結論に至った」というプロセスを示す(例:「『1 on 1は時間の無駄だ』という意見もありましたが、私は皆さんとのコミュニケーション不足を解決するのに有効な手段だと思うので、今回は採用することにしました。ただし、頻繁に実施するのはたしかに時間の無駄だと思うので、多くても月に一度までとさせていただきます」)
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員の声を組織にうまく反映させる方法」
まとめ
エンゲージメントサーベイ実施後のアクションプランを作成・実行する手順や、その際に心がけるべきポイントについて解説しました。
エンゲージメントサーベイは、あくまで組織が抱える課題や改善点を知るための手段であり、ただ調査を実施するだけで期待する効果が得られるものではありません。
大切なのは、調査で明らかになった問題点を踏まえ、具体的な行動に移すことです。
本記事の内容を実践し、効果的なアクションプランを作成・実行することで、組織の課題解決に役立ててください。