「最近職場全体で残業が慢性化している…」
「残業時間を削減するためにはどうすればいい?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。
長時間残業は従業員の健康や人材の定着率などに悪影響をもたらす恐れがあるため、常態化している場合はその原因を分析したうえで、適切に対処することが重要です。
本記事では、残業時間を削減する重要性や、そのための具体的なコツについて解説します。
無駄な労働時間を削減しつつ、組織全体の生産性向上と業績アップに役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
残業時間に関する基礎知識

労働基準法第32条では、労働時間の上限が「1日8時間・1週間40時間」と定められています。これを「法定労働時間」といい、会社はこの時間を超えて従業員を労働させてはいけない決まりになっています。
もし、法定労働時間を超える時間外労働、つまり残業をさせる必要がある場合は、会社と従業員の代表者との間で「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
ただし、36協定を締結したからといって、無制限に残業ができるわけではありません。原則として、残業時間の上限は「月45時間・年360時間」までと定められています。
「働き方改革」で残業時間は削減された?
2019年から始まった「働き方改革」により、多くの企業で残業時間が削減されているといわれていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
以下は、厚生労働省が実施した「毎月勤労統計調査」の結果をもとに、年度別の労働者の残業時間推移をまとめたものです。
▼残業時間の年度別推移
年度 | 残業時間(月間) |
---|---|
平成27年 | 14.5時間 |
平成28年 | 14.4時間 |
平成29年 | 14.6時間 |
平成30年 | 14.4時間 |
令和元年 | 14.1時間 |
令和2年 | 12.2時間 |
令和3年 | 13.3時間 |
令和4年 | 13.9時間 |
令和5年 | 13.7時間 |
令和6年 | 13.4時間 |
さらに、同省が実施した「労働時間制度等に関する実態調査」では、令和6年度における労働者の残業時間の分布割合が以下のようにまとめられています。
▼残業時間の分布割合(令和6年度)
残業時間 | 割合 |
---|---|
0時間 | 21.7% |
0時間超20時間以下 | 59.4% |
20時間超45時間以下 | 12.4% |
45時間超60時間以下 | 1.1% |
60時間超80時間以下 | 0.2% |
80時間超100時間未満 | 0.2% |
100時間以上 | 0.9% |
これらの調査結果から、たしかに働き方改革を契機に、多くの企業で残業時間が減少傾向にあることが見て取れます。
しかし一方で、36協定の上限を大きく超えて残業が行われている企業も一部存在し、依然として長時間残業が蔓延している企業は決して少なくないといえます。
▼関連記事
働き方改革で管理職の負担が増加?押さえておきたい3つの軽減策
参考:
厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要」
厚生労働省「労働時間制度等に関する実態調査結果について(速報値)」
残業時間を削減する重要性

従業員の残業時間を削減することで得られるメリットについて解説します。
無駄なコストを削減できる
従業員の残業時間を削減することは、残業代をはじめとした無駄なコストを減らすことにつながります。
従業員を残業させると、通常の賃金に加えて、以下のような「割増賃金」の支払い義務が発生します。
▼割増賃金(労働基準法第37条より)
種類 | 条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 通常の時間外労働(1日8時間・週40時間を超えた場合) | 25%以上 |
時間外労働が月60時間を超えた場合の超過分 | 50%以上 | |
休日労働 | 法定休日に労働した場合 | 35%以上 |
深夜労働 | 22時から翌5時までの間に労働した場合 | 25%以上 |
割増賃金が発生すると、ただでさえ大きな負担である人件費がさらに膨らんでしまいます。
また、残業時間中は人件費だけでなく、オフィスの電気代や水道代などの光熱費もかかるでしょう。
もし、業務の生産性を維持しながら残業時間を削減できれば、これらのコストを大幅に節約でき、企業の利益向上につながるはずです。
従業員の健康維持につながる
残業時間を削減し、長時間労働を抑制することは、従業員の心身の健康維持につながります。
逆に、残業が常態化すると休息が不足し、さまざまな健康問題を引き起こすリスクが高まります。
過去のさまざまな研究によって、長時間労働は以下のような健康問題と密接に関わっていることが明らかになっています。
- 脳・心臓疾患:月間の残業時間が45時間を超えると、徐々に脳・心臓疾患のリスクが高まる
- 心の不調:慢性的な疲労から不眠や頭痛が続き、最悪の場合、うつ病などの精神障害や自殺に至る恐れがある
- その他の健康障害:ストレスや疲労の蓄積は、胃十二指腸潰瘍や過敏性大腸炎、腰痛など、さまざまな不調の原因になり得る
従業員にこれらの健康問題が発生した場合、会社や上司の管理責任が問われるかもしれません。それ以前に、会社にとって大切な財産である従業員が不健康な状態でいるのは、誰にとっても望ましくないはずです。
無駄な残業をなくし、従業員が健康的に働ける環境を整えることができれば、組織全体の生産性やモチベーションの向上にもつながるでしょう。
人材の定着率を向上できる
近年では価値観の多様化により、趣味や家族との交流といった、仕事以外の時間が重視されるようになりました。
そのため、残業時間を削減し、プライベートな時間を確保できるよう支援することは、人材の定着率を向上させるうえで非常に重要とされています。
以下は、厚生労働省が実施した「雇用動向調査」の中で、転職者が「前職を辞めた理由」として、とくに多く挙げられた意見をまとめたものです。
前職を辞めた理由 | 回答割合 |
---|---|
職場の人間関係が好ましくなかった | 約12%(男性9.1%/女性14.6%) |
給料等収入が少なかった | 約8%(男性8.2%/女性8.4%) |
労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 約8%(男性8.1%/女性8.4%) |
会社の将来が不安だった | 約7%(男性5.2%/女性9.5%) |
仕事の内容に興味を持てなかった | 約6%(男性7.4%/女性5.0%) |
能力・個性・資格を生かせなかった | 約5%(男性5.1%/女性5.4%) |
さらに、株式会社オロがZ世代(18歳〜29歳)の社会人を対象に実施した調査では、「就職・転職先を考える際、新しい職場で残業があるかどうか、気にしますか?」との問いに、82.3%が「気にする」と回答しています。
これらの結果から見ても、組織に優秀な人材を定着させるためには、無駄な残業時間を削減し、従業員のワークライフバランスを実現することが重要といえます。
▼関連記事
参考:
PR TIMES「Z世代の「残業時間」に関する実態調査2023」
残業時間を削減するためのポイント

従業員の残業時間を削減するために、上司が心がけるべきポイントを解説します。
「人に仕事を振る」のではなく「仕事に人を振る」
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、多くの人が忙しいと感じる本当の原因は、「仕事の量が多すぎる」ことではなく、「予定外の仕事」や「非効率な仕事の進め方」にあるとされています。
この問題を解決する方法として、同記事では「人に仕事を振る」のではなく「仕事に人を振る」という考え方を提唱しています。
「人に仕事を振る」と「仕事に人を振る」の違いは以下の通りです。
▼「人に仕事を振る」(一般的な方法)
割り振り方 | 「誰に頼むか」を基準にタスクを割り振る |
具体例 | 「この資料作成はAさんにお願いしよう」「このプロジェクトはBさんが担当だ」 |
問題点 | ・仕事が特定の優秀な人や担当者に集中する・特定の担当者しか仕事の内容がわからない「属人化」が進む |
▼「仕事に人を振る」
割り振り方 | ・「この仕事を効率的に終わらせるには、誰がどう協力すべきか」を基準に割り振る・タスクのゴールを最優先に考え、仕事の内容に合わせて最適なチームを組み、一気に終わらせることを目指す・あらかじめスケジュールに余裕を持たせることで、急な仕事にも慌てず対応できるようにする |
具体例 | 「この資料を今日中に完成させるため、AさんとCさんの2人で協力して取り組もう」 |
メリット | ・個人の負担が減り、生産性が向上する・ノウハウが共有されることで、属人化を防げる |
以上のことから、「仕事に人を振る」という考え方は、残業時間の削減に効果的なのはもちろん、組織力を強化するためにも必要不可欠だといえます。
「やらなくてもいい仕事」をなくし「やるべき仕事」に注力する
残業時間を削減するには、「やらなくてもいい仕事」をなくし、「やるべき仕事」に集中することが重要です。
そのための方法として、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では「アイゼンハワー・マトリクス」の活用を推奨しています。
アイゼンハワー・マトリクスとは、タスクを「重要度」と「緊急度」の2つの軸で分類し、優先順位をつけるフレームワークです。
- 「緊急かつ重要」:すぐに対応すべき重要な仕事(例:締切が近いプロジェクト、緊急のクライアント対応)
- 「重要だが緊急ではない」:長期的に見て価値があるが、いますぐ取り組む必要はない仕事(例:事業計画の立案、新規事業の準備)
- 「緊急だが重要ではない」:誰にでもできるが、すぐに対応が必要な仕事(例:議事録の作成、備品の発注)
- 「緊急でも重要でもない」:やらなくても問題ない仕事(例:不要な会議への参加、無関係なメールのチェック)
上記のうち、「緊急でも重要でもない」タスクは言うまでもなく廃止するべきです。
また、「緊急だが重要ではない」タスクについても、会社として大きな付加価値を生み出すものではないため、自動化ツールや外部委託などを活用して、極力なくすことが理想的でしょう。
さらに同記事では、単に労働時間を短縮するだけでなく、「誰が・どの仕事に・どれくらいの時間をかけたか」を把握することも大切だと述べています。
勤怠管理データとプロジェクトごとの工数管理データを連携することで、従業員一人ひとりの労働時間を「見える化」するのです。
労働時間が見える化することで、以下のようなメリットが得られると期待できます。
- 過重労働の防止:特定の従業員に負担が偏っていないかを確認し、過重労働を防ぐことができる
- 適切な時間配分と人員配置:どのタスクにどれくらいの時間が必要かを正確に把握することで、より効率的な働き方を実現し、適材適所の人材配置につなげられる
「品質至上主義」ではなく「インパクト至上主義」に考え方を変える
組織全体の生産性を向上させ、残業時間を効果的に削減するためには、「品質至上主義」ではなく「インパクト至上主義」に考え方を変えることが大切です。
「品質至上主義」とは、仕事の細部にまで完璧さを求める考え方です。品質至上主義には、以下のような問題点があります。
- 時間の浪費(例:クライアントへの提案資料で、色やフォントなど見栄えを気にしすぎるあまり、肝心な提案内容の検討に費やす時間がなくなる)
- 変化への対応の遅れ(例:市場調査に3ヶ月かけて完璧な事業計画を立てたが、その間に競合他社が新サービスを開始し、計画が無駄になる)
- 成果につながらないこだわり(例:顧客が気にも留めないようなレポートの誤字脱字を、何度もチェックする)
これに対し、「インパクト至上主義」は、仕事の最終的な成果(インパクト)を重視する考え方です。インパクト至上主義では、以下の3つの点が鍵となります。
重視するポイント | 具体例 |
---|---|
【成果を最優先】どのような行動が、売上、利益、顧客満足度といった具体的な成果に結びつくかを常に考える | 顧客への提案書で、デザインの美しさよりも、売上をどれだけ伸ばせるかという具体的な数字を前面に出す |
【効率的な仕事】無駄な作業を省き、限られた時間の中で最大の成果を生み出すための方法を選ぶ | 進捗報告のための長時間の会議は避け、チャットツールで要点を共有して議論を効率化する |
【完璧よりも完了】完璧さを追い求めるよりも、まずは仕事を完了させ、そこから得られた成果をもとに改善していくことを目指す | 新規プロジェクトの企画書を作成する際、完璧な完成度を目指すのではなく、まずは主要なアイデアをまとめた草案を早めに提出し、フィードバックをもらう |
生産性を高めることは、単に仕事を早く終わらせることではありません。「どうすれば最大の成果を出せるか」を常に考え、賢く働くことを意味します。
「インパクト至上主義」の考え方をチーム全体で共有できれば、無駄な残業をなくし、より大きな成果を生み出せるようになるでしょう。
「INOテクニック」を実践する
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、仕事を効率的に処理するための時間管理術として「INOテクニック」を提唱しています。
INOテクニックは、すべてのタスクを完璧にこなそうとするのではなく、タスクを以下の3つのカテゴリーに分類し、それぞれに最適な力の入れ方をすることで、効率的に大きな成果を出すことを目指す考え方です。
カテゴリー | 具体例 |
---|---|
【I(Investment/投資的活動)】大きな成果や価値を生み出す、最も重要なタスク。最大限の時間と労力をかける | ・新しい事業戦略の立案・重要な顧客との商談・チームメンバーの育成 |
【N (Neutral/ニュートラルな活動)】必要なタスクではあるものの、ほどほどの質で十分。完璧を目指す必要はない | ・定例会議への参加・経費精算や備品発注・進捗報告のメール作成 |
【O(Optimize/調整的な活動)】 価値が低く、時間をかけたくない雑務。できるだけ手早く終わらせるか、誰かに任せる | ・不要な会議への参加・無関係なメールのチェック・過去の資料整理 |
INOテクニックの具体的な手順は以下の通りです。
- タスクの分類:現在抱えているタスクを、「I(投資的活動)」「N(ニュートラルな活動)」「O(調整的な活動)」の3カテゴリーに分類する
- 時間の配分:週の初めに、最も重要な「I(投資的活動)」を実施するタイミングを決め、あらかじめスケジュールを確保する。他のタスクは必然的に残った時間で処理することになる
- 実行中の調整:タスクの最中で、予想以上に時間がかかりそうだと感じた場合、それが「投資的活動」であればそのまま続行する。ただし、「ニュートラルな活動」や「調整的な活動」であれば、必要最低限で切り上げるか、後回しにする
- 振り返り:自分が何にどれだけの時間を費やしたかを記録し、週の終わりに振り返る。振り返りによって、時間の使い方を客観的に見直し、次回に活かせるようになる
INOテクニックは「やること」だけでなく「やらないこと」を意識的に決めることで、時間とエネルギーを影響度が高いポイントに効果的に集中させるための技術です。
INOテクニックを実践できれば、無駄な残業時間は削減しつつ、より大きな成果を生み出すことが可能になるでしょう。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「バーンアウトしない働き方 忙しさを減らす「第三の道」」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「知を探索し、付加価値を高める。それが正しい生産性向上アプローチだ」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「完璧主義者は自分に嘘をついている」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「優等生が陥りがちな時間管理の罠:
まとめ
残業時間を削減する重要性や、そのための具体的なコツについて解説しました。
残業は単に無駄なコストがかかるだけでなく、従業員の心身の健康を損ねたり、離職率を高めたりする原因にもなり得ます。
現在、職場に長時間残業が慢性化している場合は、その根本原因を分析したうえで、会社や上司が適切に対処することが重要です。
本記事で紹介した内容を実践することで、無駄な労働時間を削減しつつ、組織全体の生産性向上と業績アップに役立ててください。