「管理職が罰ゲーム化しており、社内に担い手が全然いない…」
このような悩みを抱える企業も多いでしょう。
たしかに、管理職は業務量が多く、精神的な負担も大きい役職です。しかし、そこには一般社員とは異なる魅力ややりがいが存在し、決して「罰ゲーム」のような役回りではありません。
本記事では、「管理職は罰ゲームだ」と言われる理由や、「脱・罰ゲーム化」するために企業が心がけるべきポイントについて解説します。
「管理職=罰ゲーム」というネガティブなイメージから脱却し、管理職の担い手不足を解消したい方は、ぜひ参考にしてください。
「管理職は罰ゲームだ」と言われる理由

エン・ジャパン株式会社が社会人男女を対象に実施した調査によると、管理職未経験者の50%が「管理職になることに興味がない」と回答しています。
この結果は、多くの人が管理職の仕事に対してネガティブなイメージを抱いており、「管理職=罰ゲーム」と捉えられている現状を示唆しています。
以下は、同調査で「管理職になることに興味がない」理由として挙げられた主な意見です。
理由 | 回答割合 |
---|---|
管理職に向いていないと思うから | 52%(男性44%/女性56%) |
仕事量や仕事時間が増えるから | 28%(男性25%/女性32%) |
責任の重い仕事はしたくないから | 28%(男性23%/女性33%) |
給与が伴わないから | 19%(男性25%/女性16%) |
やりたい仕事ができなくなるから | 15%(男性21%/女性12%) |
上記をもとに、「管理職は罰ゲームだ」と言われる背景について解説します。
責任が重すぎる
管理職が「罰ゲーム」のように感じられる要因の一つとして、その責任の重さが挙げられます。
ここで、営業部を例に考えてみましょう。
一般社員の場合、自分に課されたノルマを達成することだけに注力すればよかったはずです。
しかし、管理職になると状況は一変します。自身の成績はもちろんのこと、部下一人ひとりの成績やチーム全体の売上といった、個人の努力だけではコントロールできない部分にまで責任が及びます。
さらに、部下が大きなミスやトラブルを起こした際、たとえ自分に過失が一切なかったとしても、管理職としてその責任を負い、対応しなければなりません。
このように、管理職は自分のことだけでなく、他者の行動や結果にまで責任を負うことになるため、その重圧に耐えられないと感じる人が多いようです。
仕事の負荷と給料が釣り合わない
一般的に、管理職になれば基本給のアップや役職手当の付与などにより、収入が増えるケースが多いです。
しかし、その昇給分をはるかに上回る仕事の負荷の増大が、管理職を「罰ゲーム」と感じさせる一因となっています。
管理職になると、プレイヤーとしての業務に加えて、以下のような多岐にわたる仕事が加わります。
- 部下の指導・教育
- 業績の管理
- 事業戦略の立案や目標設定
- 他部署や上層部との連携
- トラブルへの対応
上記はあくまで一例であり、すべてを挙げようとするとキリがありません。これだけ業務が増えれば、定時までに仕事を終えるのは難しくなり、残業が発生してしまうことも多々あるでしょう。
しかも、労働基準法上の「管理監督者」にあたる管理職の場合は、残業代が支給されないため、どれだけ長時間働いても収入は変わりません。
これらの要因が複合的に絡み合い、「給料は上がっても、業務量と責任がそれ以上に重い」「一般社員として残業代をもらっていた方が収入が多かった」といった、「管理職は割に合わない」と感じる状況が生まれてしまうのです。
ワークライフバランスが崩れる
ワークライフバランスが崩れることを恐れ、管理職を「罰ゲーム」だと捉える人も多いようです。
ワークライフバランスとは、「仕事」と「生活」の調和を目指す考え方です。ここでいう「生活」には、趣味や休息、育児、健康管理など、仕事以外のすべての時間が含まれます。
近年、人生における価値観が多様化し、ワークライフバランスを重視する人が増えています。この傾向はとくに若年層で顕著です。
実際に、株式会社ワンキャリアが2025年卒の学生を対象に行った調査では、「企業選びで最も重視していること」として、二番目に多く挙げられた意見が「ワークライフバランスが確保できる(13.1%)」でした(一位は「企業内の雰囲気がいい(15.7%)」)。
従業員の多くは、管理職になることに対して「忙しくなる」「自分の時間がなくなる」といったネガティブなイメージを抱いています。
業務量や精神的な負担が増え、これまで築き上げてきたワークライフバランスが崩れてしまうのではないかと懸念し、昇進をためらうのでしょう。
やりたい仕事ができなくなる
管理職が「罰ゲーム」のように感じられる理由として、「やりたい仕事ができなくなる」という点も挙げられます。
管理職の主な業務は、チームや部署全体のマネジメントです。そのため、これまでのように自分の手で直接成果を生み出す「プレイヤー」としての業務からは離れることになります。
たとえば、プログラマーが管理職になると、コードを書く時間よりも、チームの進捗管理や部下の育成に時間を費やすことになるでしょう。
もし、コードを書くことに何よりも楽しみを感じていた人であれば、管理職になることはこれまでやりがいを感じていた仕事から離れることを意味します。
もちろん、管理職の仕事にもプレイヤーとは違うやりがいがあるはずです。
しかし、「管理職の仕事=面白くなさそう」というイメージから、「プレイヤーとしてこの道を極めたい」と考え、管理職への昇進を避けるケースが増えているのでしょう。
参考:
エン・ジャパン株式会社「ビジネスパーソン4700人に聞いた「管理職への意向」調査」
PR TIMES「【2025年卒 選考直前調査】企業を選ぶ上での最大の決め手は「企業説明会」」
管理職は本当に「罰ゲーム」なのか

業務量や責任の重さから、管理職になりたがらない人が多いのは事実です。しかし、管理職は本当に「罰ゲーム」のような役回りなのでしょうか?
以下は、先ほど紹介したエン・ジャパン株式会社の調査で、管理職経験者が「管理職になって良かったこと」として挙げた主な意見です。
- 自身の成長につながった:53%
- 自分の裁量で決められることが増えた:45%
- 部下・メンバーの成長など新しいやりがいにつながった:45%
- 給料が上がった:39%
これらの結果は、管理職の仕事は単なる罰ゲームではなく、一般社員とは異なる新たな魅力ややりがいがあることを示しています。
また、マンパワーグループ株式会社の調査によれば、現在役職についていない20〜50代の社会人男女で、「今後、管理職になりたい」と考える人の割合は以下のようになっています。
年代 | 管理職希望者の割合 |
---|---|
20代 | 28%(男性30%/女性26%) |
30代 | 23%(男性30%/女性16%) |
40代 | 10%(男性10%/女性10%) |
50代 | 7%(男性8%/女性6%) |
この結果を見ると、女性の管理職希望者がやや少ないという課題は残るものの、20〜30代の比較的若い層の中にも、管理職を目指す人が多くいることがわかります。
管理職の担い手不足に悩む企業は、このような管理職になることをポジティブに捉えている従業員を見つけ出し、早い段階から必要な教育を実施することが重要です。
参考:
マンパワーグループ「8割超の一般社員が「管理職になりたくない」と回答。その理由とは?」
管理職を「脱・罰ゲーム化」するポイント

管理職に対するネガティブなイメージを払拭し、「脱・罰ゲーム化」するために企業が心がけるべきポイントを解説します。
「自分は管理職に向いていない」という思い込みを払拭する
先ほど紹介したエン・ジャパン株式会社の調査結果でも明らかなように、従業員の多くは「自分は管理職に向いていない」と思い込んでいる傾向にあります。
管理職の担い手不足を解消するためには、このような思い込みを払拭することが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、管理職に対するよくある誤解として、以下の5つを挙げています。
- 【誤解1. 管理職になれば大きな権力が得られる】:管理職になっても、絶大な権力は手に入らない。むしろ、上司や部下、他部署など、さまざまな関係者との間で板挟みになり、身動きがとれないこともしばしばある
- 【誤解2. 権力は「肩書き」から生まれる】:権力は肩書きから生まれるわけではない。部下は命令に従うのではなく、信頼と尊敬を寄せる上司についていくもの。まずは自分の人格や能力、そしてチームへの貢献意欲を示すことで、信頼を勝ち取る必要がある
- 【誤解3. 部下は厳しく管理するべきだ】:部下を厳しく管理し、コントロールしようとすると、かえって自主性が失われ、チームの活力がなくなる。真のリーダーシップとは、部下に権限を委譲し、自発的に考え、行動できる環境を作ること
- 【誤解4. 部下一人ひとりと仲良くなればいい】:部下一人ひとりと個人的に仲良くすることも大切だが、それだけでは不十分。マネジャーの役割は、チーム全体を一つのまとまりとして機能させ、最大限のパフォーマンスを引き出すこと
- 【誤解5. 目の前の仕事をテキパキ処理すればいい】:日々の業務をスムーズに回すだけでなく、チームや組織をより良くするための改革者としての役割も重要。ときには自分の権限を超えることであっても、チームの成功のために変化を起こしていく必要がある
「自分は管理職に向いていない」と思い込んでいる従業員には、これらの誤解を伝えることが効果的です。
たとえば、「部下に厳しく接するのが苦手だから」という理由で管理職になりたがらない人には、「部下を厳しく管理するのではなく、権限を委ねることが重要だ」という真のリーダーシップを教えることが、その思い込みを払拭する助けになるでしょう。
管理職候補の育成を人事部任せにしない
将来の管理職候補の育成は、人事部が中心となって進めている企業が多いかもしれません。
しかし、後継者育成は人事部に任せきりにするのではなく、経営陣を中心とした全社的な取り組みとして進めることが必要不可欠です。
優秀な管理職がいない会社では、従業員も成長せず、時代の変化に対応できなくなります。その結果、買収や新しいライバル企業の出現といった、市場の大きな変化に直面した際、適切な人材を適切なポジションに配置できず、会社が危機的状況に陥るリスクが高まります。
多くの企業で後継者育成が人事部門に任されているのは、経営陣がこうした重要性を十分に理解していないためでしょう。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、後継者育成に成功している企業には、以下のような共通点があるといいます。
- 経営陣が主体となって育成を進める:後継者育成を人事部の仕事ではなく、会社にとって最も重要な経営課題だと認識し、経営陣が率先して関わることが不可欠
- 育成計画を立てる:単に候補者をリストアップするだけでなく、その候補者にどのような経験をさせ、どう成長させるかまでを具体的に計画する。こうすることで、早い段階から計画的に人材を育成できる
- 現場の管理職も巻き込む:現場の管理職は、部下一人ひとりの強みや課題を最もよく理解している。日々の業務を通じて部下の成長を直接見られる現場の管理職を、育成プロセスに積極的に関与させることが重要
- 育成と評価制度を連動させる:優秀な人材を育成し、部署間で共有することが、管理職自身の評価につながる仕組みを導入する。こうすることで、管理職は自部署の優秀な人材を囲い込むことなく、会社全体の将来を見据えて、適切なポストに送り出せるようになる
上記のように、経営陣が中心となり、全社的に後継者育成に積極的に取り組むことで、従業員は「この会社は本気で人材育成に取り組んでいる」と実感できるため、「管理職=罰ゲーム」というネガティブなイメージを払拭することにもつながるでしょう。
「本当に管理職になりたい」従業員から選抜する
数いる従業員の中から管理職候補を選ぶ際は、「仕事ができるか」「優秀な成績を収めているか」などを基準に選ぶのが一般的でしょう。
しかし、プレイヤーとして優秀な従業員が、必ずしも管理職としても優秀とは限りません。両者では求められる能力が大きく異なるからです。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、以下の4つのステップを踏むことで、「本当に管理職になりたい」という意欲を持つ従業員の中から、管理職候補者を選抜することを提唱しています。
- 【ステップ1. 誰でも立候補できるようにする】:「管理職になりたい」という意思がある従業員であれば、誰でも手を挙げられる仕組みを作る。こうすることで、従業員一人ひとりが「自分は本当にマネージャーに向いているか?」と真剣に考える機会が生まれる
- 【ステップ2. 厳格な選考プロセスを設ける】:立候補した人には、なぜ管理職になりたいのか、自身のどのような強みが活かせると思うのかをじっくり考えてもらう時間を設ける。エッセイや面接を通じて、やる気や潜在能力を見極める。選考の公平性を保つため、応募者の名前を伏せて評価するなどの工夫も有効
- 【ステップ3. 管理職の「リアル」を体験させる】:選考を通過した従業員には、研修を通して「管理職の仕事の難しさ」を体験してもらう。人事評価や給与、配置転換といった、デリケートな問題にどう向き合うかを考えさせる
- 【ステップ4. 「辞退=悪いこと」にしない】:研修の途中で「やっぱり自分は管理職には向いていない」と辞退する人が出てきても、そのことを責めるのではなく、「よく決断してくれた」と評価する。プレイヤーに戻っても不利益がないようにすることで、従業員と会社双方にとって良い結果につながる
これらのステップを経て選ばれた従業員は、たとえプレイヤーとしての実績がそこまで優秀ではなくても、「管理職になりたい」という強い意思を持った、管理職向きの人材だといえます。
実際に、米国のWPSヘルス・ソリューションズ社では、同様の選抜プログラムを実施した結果、66名の応募者から最終的に26名が残り、そのうち3名がすぐに管理職に昇進しました。
また、参加者の約75%が、プログラムで身につけたリーダーシップスキルを、仕事だけでなくプライベートでも役立てているといいます。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「次代のリーダーを全社で育てる」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「管理職育成の新たな概念をつくる」
まとめ
「管理職は罰ゲームだ」と言われる理由や、「脱・罰ゲーム化」するために企業が心がけるべきポイントについて解説しました。
たしかに、管理職は業務量が多く、精神的な負担も大きい役職です。しかし、そこには一般社員とは異なる魅力ややりがいが存在し、決して「罰ゲーム」のような役回りではありません。
管理職の担い手不足に悩む企業は、本記事で紹介した内容を参考に、「管理職=罰ゲーム」というネガティブなイメージからの脱却を目指してください。