「職場の風通しが悪く、部下からうまく意見を引き出せていない…」
「職場の風通しを改善するにはどうすればいい?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。
職場の風通しは組織のパフォーマンスや人間関係に大きな影響を与える要素であり、もし自社の風通しに問題があると感じている場合は、早急な対処が必要です。
本記事では、風通しの良い職場を作るうえで、会社や上司が心がけるべきポイントについて解説します。
誰もが活発に意見交換できる風通しの良い環境を作り出すことで、組織全体の活性化と成長を目指す方は、ぜひ参考にしてください。
風通しの良い職場とは

「風通しが良い」という言葉は、組織の文化や雰囲気を語るうえでよく使われます。
この言葉が指すのは、単に「従業員同士の仲が良い」という表面的な関係性ではありません。以下の辞書の定義にあるように、「風が吹き抜けるように、組織内部で情報や意思がスムーズに通じる状態」を指します。
▼「風通し」の意味(デジタル大辞泉より)
1. 風が吹き抜けること。また、そのぐあい。かざとおし。「風通しのいい部屋」2. 組織内部での意思や情報の通じるぐあい。かざとおし。「部内の風通しをよくする」 |
上記の定義を職場に当てはめると、「役職や立場に関係なく、お互いを尊重し、活発に意見交換ができる」環境こそが、風通しの良い職場だといえます。
以下は、風通しの良い職場に見られる具体的な特徴です。
- コミュニケーションが活発である:上司と部下、部署間など、あらゆる関係性において円滑なコミュニケーションが行われる。業務上の報告・連絡・相談(報連相)がスムーズに進み、困ったことがあればすぐに誰かに相談できる雰囲気がある
- 意見を言いやすい環境がある:「こんなことを言ったらどう思われるだろう」といった遠慮なく、自由に意見やアイデアを提案できる。たとえ反対意見が出たとしても、頭ごなしに否定されるのではなく、建設的な議論が行われる土壌がある
- 情報の透明性が高い:会社のビジョンや目標、経営状況といった重要な情報が従業員にオープンに共有されている。自分が何のために、どのような目的で仕事をしているのかが明確になるため、従業員のモチベーション維持や向上につながりやすい
風通しの良い職場作りの意義

株式会社ペンマークがZ世代の社会人(1996〜2005年生まれ)を対象に実施した調査で、「働きたい、または理想とする社風」として、もっとも多く挙げられた意見が「フラットで風通しが良い(40.3%)」でした。
この結果は、職場の風通しの良さが、若手社員を惹きつける重要な要素であることを示しています。
ここでは、風通しの良い職場を作ることで、従業員および組織にもたらされるメリットについて解説します。
従業員のエンゲージメントが向上する
風通しの良い職場では、従業員が会社に対して持つ愛着や貢献意欲、すなわちエンゲージメントが高まる傾向にあります。
これは、従業員が役職や立場に関係なく、自由に意見やアイデアを発信できる環境が、「心理的安全性」を高めることにつながるためです。
心理的安全性とは、簡潔に言うと「チームや組織の中で、誰もが安心して自分の意見や考えを発言できる状態」を指します。
従業員は心理的安全性が確保されていると感じることで、「この会社のために頑張りたい」「もっと貢献したい」という気持ちが強くなるのです。
実際に、過去のさまざまな研究でも、職場の心理的安全性と従業員のエンゲージメントには強い相関関係があることが示されています。
▼従業員のエンゲージメント向上による具体的な効果
- 主体性の向上:自分の貢献が組織に良い影響を与えると実感できるため、仕事への責任感や意欲が高まる
- チームワークの強化:お互いに助けを求めたり、気軽に相談したりできるため、チーム全体のパフォーマンスが向上し、一体感が生まれる
イノベーションが促進される
イノベーションとは、新しい捉え方や考え方に基づき、「これまでにない価値を生み出し、社会に大きな変化をもたらす」ことです。
風通しの良い職場では、イノベーションが生まれやすい環境が整っています。
先述の通り、風通しの良い職場では役職や年齢に関係なく、誰もが自由に意見を述べたり、質問したり、新しいアイデアを提案したりできます。
従業員が失敗や批判を恐れずに発言できる環境は、さまざまな視点やバックグラウンドを持つ人々のアイデアが集まる土壌となります。このような「多様性」こそが、これまでにない新しい発想を生み出す鍵となるのです。
また、風通しの良い職場では、集まったアイデアが自由に議論されることで、より良いものへと磨き上げられます。
活発な議論を通じて、アイデアの課題が洗い出されたり、新たな視点が加わったりすることで、より実践的で価値のあるものへと進化していくのです。このような議論のプロセス自体が、イノベーションの創出に不可欠な要素といえます。
不祥事を防止できる
職場の風通しの良さは、組織内で不祥事が起こるリスクを軽減するうえでも重要です。
風通しの良い職場では、従業員が不正行為や問題の兆候を発見した際、経営層や上司に率直な意見や懸念を伝えられます。経営層や上司もその意見を真摯に受け止め、迅速に対応するため、問題が大きくなる前に解決することが可能になります。
一方、風通しの悪い職場では、従業員は自身の評価が下がったり、批判されたりすることを恐れて、不正や問題に気づいても見て見ぬふりをする傾向にあります。
その結果、問題が取り返しのつかないレベルにまで大きくなるまで、誰も対処できないという事態を招きかねないのです。
実例として、米国の航空メーカーであるボーイング社では、過酷な製造スケジュールを強いられた従業員が、職を失うことを恐れて上層部に意見を述べられませんでした。
その結果、航空機に安全上の問題があることを事前に把握していながら納期を優先したために、二度の墜落事故を起こすという悲劇につながってしまったのです。
もちろん、風通しが良いだけで不祥事を完全に防げるわけではありません。しかし、不祥事のリスクを最小限に抑えるためには、風通しの良さが最も基本的な土台となるでしょう。
参考:
PR TIMES「【Z世代若手社員の意識調査】理想の社風、4割が「フラットで風通しが良い」と回答し最多。」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「心理的安全性とは何か、生みの親エイミー C. エドモンドソンに聞く」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員が声を上げられる組織文化がなぜ重要なのか」
風通しの良い職場作りのポイント

ハーバード・ビジネス・レビューの記事をもとに、風通しの良い職場を作るうえで心がけるべきポイントについて解説します。
上司が率先してミスを認める
どんなに優秀な人でも、仕事上で何かしら失敗することはあります。上司も例外ではありません。
ミスをしてしまった際に、上司が率先して自らのミスを認め、謝ることができれば、部下も安心して失敗を報告できるようになるでしょう。
もし上司が完璧であるかのように振る舞い、過ちを一切認めなければ、部下は「ミスをすると罰せられる」「怒られる」といった恐怖心を抱くようになります。その結果、問題が起きても隠蔽したり、報告をためらったりするようになるのです。
このような状況下では、組織内で「失敗から学ぶ」文化が形成されず、今後も同じような失敗をくり返すことになるでしょう。
さらに、重大なミスや不正に気づいても報告が遅れることで、最終的に組織が大きな損失を被るリスクも高まります。
一方、上司が「自分も間違うことがある」と認めれば、部下は「この上司には正直に話しても大丈夫だ」という心理的な安心感を持てるようになるはずです。その結果、部下は安心してミスを報告したり、新しいことに挑戦したりできるようになります。
こうした職場環境が、結果的に部下一人ひとりの成長を促し、イノベーションを生む原動力となるのです。
▼【具体例】ミスを共有する
「私の確認不足が原因で、クライアントに誤った情報を伝えてしまいました。その結果、皆さんに余計な修正作業をさせてしまい、申し訳ありませんでした。今後はこのようなミスをなくすため、必ず二人以上でクロスチェックする仕組みをつくり、チーム全体で再発防止に努めようと思います」 |
匿名で意見を伝えられる仕組みを設ける
風通しの良い職場を作るためには、従業員が匿名で意見を伝えられる仕組みを設けることが重要です。
従業員が臆することなく、上司や経営陣に直接意見を伝えられる状態が理想ではあるものの、現実的には目上の相手に本音を話すのは勇気が必要だからです。
先ほど紹介したボーイング社の事例でいえば、従業員は機体の安全性に問題を感じていながら、上層部から報復されることを恐れて指摘ができませんでした。このように、個人的なリスクを伴う状況では、従業員の率直な意見が表に出てこないことが少なくありません。
匿名で意見を伝える仕組みが社内にあれば、従業員はこうした個人的な報復を恐れることなく、正直な意見や批判、内部告発を行えるようになると期待できます。
くり返しになりますが、最終的には年齢や立場に関係なく、誰もが自由に意見を言い合える職場文化を築くことが目標です。
しかし、組織の風通しがまだ不十分な初期段階においては、匿名での意見表明の仕組みが、従業員の発言を促す重要な第一歩となるでしょう。
▼【具体例】匿名で意見を収集する仕組み
- 目安箱:職場ごとに箱を設置し、手書きの意見を投函できるようにする
- 匿名アンケートフォーム: Google Formsなどのツールを活用し、匿名で回答できるアンケートを定期的に実施する
- オンブズマン制度:独立した中立的な第三者(社内または社外の専門家)が、従業員からの意見や苦情を匿名で受け付ける窓口を設ける
耳の痛い意見も受け入れる
従業員から意見を募ると、ときには耳が痛くなるような指摘や要望を受けることもあるでしょう。風通しの良い職場を作るためには、このような意見を積極的に受け入れることが必要不可欠です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、耳の痛い意見こそが重要である理由として、以下の3つを挙げています。
- 問題の早期発見につながる:ボーイング社の事例が示すように、現場の従業員は上司や経営陣が気づいていない重要な問題や危険な兆候を知っていることが多々ある。耳の痛い意見は、そうした潜在的な問題を早期に発見する貴重な手がかりとなる
- イノベーションを加速させる:イノベーションを起こすには、既存のやり方や考え方を疑う姿勢が不可欠。耳の痛い意見は、まさにその「疑い」を投げかけるものであり、新しい発想や改善点を見つけるための貴重なヒントとなる
- 上司の視野を広げる:上司が「自分は部下よりも優秀だ」と思い込み、耳を傾けなければ、誤った判断を下すリスクが高まる。耳の痛い意見を積極的に受け入れることは、上司が客観的な視点を保ち、自身の思考の偏り(バイアス)を認識するために不可欠
かつて米国で大手通信機器メーカーとして存在したモトローラ社では、全盛期の1980年代、従業員の批判的な意見を積極的に受け入れる文化がありました。
当時の同社には、現状維持に貢献した社員を評価する制度はなく、むしろ既存の前提に疑問を呈したり、上司に臆することなく異議を唱えたりする者が多く昇進していたとのことです。
このことからわかるように、従業員から意見を求める際には、ただ「率直な意見が欲しい」と言うだけでなく、実際に批判的な意見を述べた社員を評価し、その意見を尊重する姿勢を示す必要があります。
そうすることで、社員は「本音で話しても大丈夫だ」と確信し、安心して意見を伝えられるようになるでしょう。
言いにくい話を切り出すことに慣れる
部下からの意見を受け入れることは大切ですが、上司が部下に対して適切な批判や指摘をすることも同じくらい重要です。
部下の業績や勤務態度に問題があると感じた際に、相手との関係性が悪化することを恐れて、そのことを指摘できない上司も少なくないでしょう。
しかし、上司が指摘しなければ部下の課題は解決せず、いずれ組織が損失を被るような問題につながるリスクがあります。たとえば、普段から時間を守らない癖がある部下を放置すれば、やがて取引先との重要な商談に遅刻して、先方を怒らせてしまうかもしれません。
相手に指摘や批判をするのは、誰にとっても気持ちの良いことではないでしょう。しかし、本当に相手の成長を願う気持ちがあるなら、言いにくいこともはっきりと伝えるべきです。
くり返しになりますが、風通しの良い職場とは、上司が一方的に部下の意見を受け入れるだけの場所ではありません。
すべての関係者が互いに正直に、かつ建設的に意見を交わし合う関係性の上に成り立っているのです。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「風通しのよい組織をつくる」
まとめ
風通しの良い職場を作るうえで、企業や上司が心がけるべきポイントについて解説しました。
風通しの良い職場では、従業員のエンゲージメントが高まり、イノベーションが促進されやすい傾向にあるとされています。
逆に、風通しの悪い職場では組織の成長が停滞してしまう恐れがあるため、もし自社の風通しに問題があると感じている場合は、早急な対処が必要です。
本記事で紹介した内容を実践し、誰もが活発に意見交換できる風通しの良い環境を作り出すことで、組織全体の活性化と成長を目指しましょう。