「部下がただ仕事をこなすだけで、業務外で一切勉強してくれない…」
「部下の自発的な勉強を促すにはどうすればいい?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。
社会的に成功するためには勉強が必要不可欠なのは明らかですが、多くの部下は日々の業務に追われ、勉強の必要性を感じていないのが現状です。
本記事では、勉強をしない部下が陥る末路や、部下に自発的な学習を促すコツについて解説します。
部下が自発的に勉強する仕組みを作ることで、希少性の高い人材を育成したい方は、ぜひ参考にしてください。
勉強をしない部下の末路

グロービス経営大学院の研究結果をもとに、勉強をしない部下が陥る可能性のある末路について解説します。
出世しにくい
日常的に勉強をしていない部下は、出世できない可能性が高いです。
以下は、1日あたりの平均勉強時間を役職別にまとめたデータです。
役職 | 1日あたりの平均勉強時間 |
---|---|
一般社員 | 14.6分 |
課長・次長 | 30.4分 |
部長・本部長 | 49.6分 |
役員・取締役 | 21.1分 |
このデータを見ると、役職が高い人ほど1日の勉強時間が長い傾向にあり、日々の学習が昇進につながっている可能性が示唆されています。
日々の勉強が出世につながる理由として、以下のようなものが考えられます。
- 昇進に必要な試験に合格できる:多くの企業では、昇進の条件として特定の資格や試験が設定されている(例:管理職の昇進試験)。日々の学習は、これらの試験に合格するために必要な知識を習得する上で必要不可欠
- 幅広い知識を習得できる:役職が上がるにつれて、特定の専門分野だけでなく、財務やマーケティング、人事などの幅広い知識が求められる。日々の学習を通じて多様な知識を習得することで、多角的な視点から物事を判断できるようになり、部下の様々な課題や相談にも適切に対応できるようになる
- 問題解決能力が向上する:現代のビジネス環境では、前例のない複雑な問題が次々と発生する。日々の学習で得た知識を業務に応用することで、論理的思考力や柔軟な発想力が鍛えられ、困難な状況でも冷静かつ効果的に対応できるようになる。高い問題解決能力は、企業の将来を担う人材として高く評価されやすい
逆に、日頃から勉強をしない部下は、出世に必要な知識やスキルが不足し、一般社員からいつまでも抜け出せない可能性が高いでしょう。
年収が上がりにくい
以下は、1日あたりの平均勉強時間と年収の相関関係をまとめたデータです。
年収 | 1日あたりの平均勉強時間 |
---|---|
200万円未満 | 4.7分 |
200万円以上400万円未満 | 11.2分 |
400万円以上600万円未満 | 18.1分 |
600万円以上800万円未満 | 22.7分 |
800万円以上1000万円未満 | 24.6分 |
1000万円以上 | 44.0分 |
この結果から、日々の勉強が年収アップに直結している傾向が見て取れます。
継続的な学習は、特定の専門分野の知識を深め、新しいスキルを習得することにつながります。ゆえに、その分野における専門家としての地位を確立でき、他の人にはない希少価値を持つ人材になれるのです。
とくに、需要が高いにもかかわらず、そのスキルを持つ人が少ない場合、企業にとって喉から手が出るほど欲しい存在となり、その価値に見合った高い年収を得やすくなります。医師や会計士といった難関資格を持つ人が高年収なのは、このためです。
逆に、自ら学ぶ習慣がない人は、新しい知識や技術の習得が遅れ、時代に取り残されてしまうリスクがあります。その結果、「替えが効く」人材と見なされ、年収が上がりにくいだけでなく、企業のリストラの対象となる可能性も高まるのです。
幸福感が得られにくい
自発的な勉強をしていない部下は、日々の生活の中で幸福感が得られにくい可能性が高いです。
以下は、1日あたりの勉強時間と「主観的幸福度」「キャリア満足度」「仕事能力に対する自信」の相関関係をまとめたデータです。
1日あたりの勉強時間 | 主観的幸福度* | キャリア満足度* | 仕事能力に対する自信* |
---|---|---|---|
0分 | 5.71 | 4.96 | 5.26 |
1分以上60分未満 | 6.10 | 5.21 | 5.62 |
60分以上120分未満 | 6.15 | 5.93 | 6.27 |
120分以上 | 6.34 | 5.46 | 5.97 |
*幸福度や満足度、自信が大きいほど数値は高い
このデータを見れば、勉強時間が長い人ほど幸福度が高い傾向にあることが明らかです。
日々の学習が幸福度の向上につながる理由としては、以下のようなものが考えられます。
- 自己肯定感の向上:勉強は、新しい知識やスキルを習得する過程そのものが達成感につながる。「できなかったことができるようになる」「知らなかったことを理解する」といった経験は、「自分は成長している」という感覚を育み、自己肯定感を高める。自己肯定感は精神的な安定剤となり、幸福感につながる
- 人生の選択肢の拡大:継続的な学習によって知識やスキルが習得できれば、現在の仕事に限らず新しい分野へ挑戦する可能性が生まれ、キャリアの選択肢が広がる。「いつでも自分の人生を変えられる」という思考は、将来への漠然とした不安を和らげ、自分の人生を自分でコントロールしているという感覚を与える。このような自由度が、幸福度を大きく高める要因となる
逆に、自ら勉強しない人は成長を実感する機会が少なく、キャリアの選択肢も広がりにくいため、幸福感を感じにくい傾向にあるのでしょう。
関連記事:
参考:
グロービス経営大学院大学「働く社会人における日々の勉強時間と主観的幸福度の関係」
部下の多くは自発的な勉強をしない

株式会社ライフアドバンスが社会人男女を対象に行った調査によれば、「日常的に勉強していますか?」との問いに、「している」と答えた人はわずか22.8%だったといいます。
大部分は「時々しかしていない(53.2%)」もしくは「全くしていない(24.0%)」と回答しており、部下の多くは日頃から自主的に勉強する習慣を持っていない事実が見て取れます。
以下は、同調査で「勉強をしない理由」として挙げられた主な意見です。
- 時間やお金、精神的な余裕がない
- 何を学んだらよいかわからない
- 勉強の必要性を感じない
上記の理由は多様に見えますが、根本にあるのは「勉強の必要性を感じない」という点に集約できます。
たとえば、本当に勉強が必要だと感じていれば、忙しくても隙間時間を活用したり、お金をかけずに学習できる方法を探したりするはずです。
また、「何を学んだらよいかわからない」というのも、まさに勉強が自分にとって必要であるという認識がないことの表れといえるでしょう。
以上のことからもわかる通り、多くの部下は「放っておくと自ら進んで勉強しない」傾向があるため、会社や上司が積極的に自発的な学習を促すことが重要といえます。
日本の社会人は世界的に見ても学習意欲が低い
以下は、「高等教育機関へ入学した25~30歳以上」の割合を国際比較したデータです。
項目 | OECD*平均 | 日本 |
---|---|---|
25歳以上の短期高等教育機関への入学者の割合 | 33.9% (トップはアイスランドの79.8%) | 4.6% |
25歳以上の「学士」課程への入学者の割合 | 16.6% (トップはスイスの29.7%) | 2.5% |
30歳以上の「修士」課程への入学者の割合 | 26.3% (トップはイスラエルの54.8%) | 12.9% |
30歳以上の「博士」課程への入学者の割合 | 39.8% (トップはアイスランドの77.3%) | 41.6% |
*OECD:経済成長と社会福祉の向上を目的とした国際的な経済協力機関。2025年9月現在、38カ国が加盟している
もちろん、高等教育機関へ通うことだけが、社会人の勉強手段ではありません。しかし、上記のデータは、日本の社会人の学習意欲が世界的に見ても低い傾向にあることを示唆しています。
グローバル化が進む現代において、企業や個人の競争力を高めるためには、継続的な学習とスキルアップが必要不可欠です。
日本が今後世界から遅れをとらないためにも、部下に自発的な勉強を促すことは重要といえます。
参考:
PR TIMES「【日常的な勉強について】社会人男女500人アンケート調査」
部下に自発的な勉強を促すコツ

部下が自ら進んで勉強するようになるために、上司が意識すべきポイントについて解説します。
「面白がる力」を育てる
部下に自発的な勉強を促すためには、「面白がる力」を育てることが重要です。
人が何かを継続する理由は、「意味がある」か「面白い」かのどちらか(または両方)だとされています。
このうち「意味がある」という動機は、目的と手段が明確にリンクしていなければ効果が発揮されません。
たとえば、「仕事に役立つ」「将来のためになる」といった理由で勉強を始めても、目的が漠然としているため、継続することは難しいでしょう。
一方で、「面白い」と感じることは、人を行動へと駆り立てる強力なモチベーションになります。部下が「勉強そのものを面白い」と思えるようになれば、強制しなくても自然と学び続けるようになるはずです。
部下の「面白がる力」を育てるためには、以下の3点を意識して働きかけることが有効です。
ポイント | 具体例 |
---|---|
【「論理」への興味を促す】単に知識の断片を与えるのではなく、その背後にある論理や法則に目を向けさせる | 似たような製品やサービスをいくつか並べて、「これらの成功に共通する法則は何だろう?」「他と違う点はどこだろう?」と一緒に考えてみる |
【「ハッとする」体験を共有する】異なる分野の知識が意外な形でつながる瞬間や、当たり前だと思っていたことが別の側面から見えてくる体験を共有する | 一見難解な経済学の理論を、「実はスーパーでの買い物にも当てはまるんだよ」といった日常の出来事と結びつけて説明する |
【成功体験を振り返らせる】部下自身が過去に「面白い」と感じて取り組んだ経験を振り返り、「なぜ面白かったのか」を言語化させる。こうすることで、自分自身の「面白がるツボ」を自覚する手助けができる | 信頼関係を築くのが難しかったクライアントとの関係構築に成功した部下に、「どうやってそこまで深く信頼関係を築けた?」「どんな瞬間に『この人と話すのは面白い』と感じた?」と尋ねてみる。 |
単に「この資格を取れ」「この本を読め」と指示するだけでなく、学ぶこと自体を楽しいと感じられるようサポートすることが、部下の自律的な成長を促す鍵となるでしょう。
「小さな報酬」を与える
部下の自発的な勉強を促す方法として、「小さな報酬」を与えることも有効です。
「小さな報酬」が持つ効果は、以下の研究によって証明されています。
▼米国のビジネススクールで受講生約1,300人を対象に行われた研究
本研究は、対象者を以下の2グループに分けて実施した。 ・報酬グループ:任意の課題を完了するたびに、金銭的価値がごくわずかな報酬が与えられる・無報酬グループ:課題を完了しても何も与えられない その結果、わずかな報酬にもかかわらず、報酬グループの課題提出数は無報酬グループの約4倍に達した。 さらに、報酬が一切与えられない試験においても、報酬グループは無報酬グループよりも約3割多くの問題を解き、正答率も高かった。 |
上記の研究結果は、「小さな報酬」が一時的な行動を促すだけでなく、学習そのものに対する内発的な興味を引き出し、自発的な学習を促進することを示しています。
大きな報酬は「報酬のために行動している」という意識を生みやすいのに対し、小さな報酬は「なぜこんなわずかな報酬のために頑張っているのだろう?」という認知的不協和を引き起こします。
この認知的不協和を解消するために、人は「この行動(勉強)自体が面白いからだ」「自分のためになるからだ」と、内的な理由を自ら見つけ出そうとするのでしょう。
このような心理的なメカニズムを応用すれば、部下の学習意欲を効果的に引き出すことが可能です。
▼「小さな報酬」の施策例
- 社内研修のポイント制度:任意参加の勉強会や研修の受講に対して、社内カフェの割引券と交換できる独自のポイントを付与する
- スキルアップの可視化:特定の資格を取得した従業員に対し、社内SNSや週報でデジタルバッジや表彰状を付与する
このように、金銭的な価値がわずかでも、部下の自主的な行動を後押しするささやかなきっかけを与えることが、持続的な勉強を促す鍵となるのです。
「ワークフロー内学習」を推進する
本来であれば、部下が誰から言われるでもなく、自らの意思で業務時間外に勉強している状態が理想的です。
しかし、部下の自主性に任せた学習には限界があります。多くの部下は日々の業務で手一杯なため、業務時間外に勉強するモチベーションを維持するのは容易ではありません。
このような問題の解決策となるのが「ワークフロー内学習」です。
ワークフロー内学習とは、「日々の仕事の流れの中に、学ぶ機会を自然に組み込む」という新しい学習の考え方です。
ワークフロー内学習は、従来の「研修を受講する」といった学習方法とは異なり、仕事中に「○○について知りたい」「もっと良い方法はないのか?」と感じたその瞬間に、必要な情報が得られることを目指します。
ワークフロー内学習の最大の利点は、勉強が「特別なこと」ではなく、「仕事の一部」になる点です。忙しくて勉強する時間がないという問題を解決し、学んだことがすぐに仕事に活かせるため、モチベーションの維持にもつながるでしょう。
▼ワークフロー学習の施策例
- 勉強時間のスケジューリング:上司と部下で話し合い、週に数十分でも勉強時間を業務スケジュールに正式に組み込む。こうすることで、勉強が後回しにされにくくなる
- 知識共有の促進:優れたアイデアやノウハウが生まれたら、すぐに組織全体で共有できる仕組みを作る(例:Slackに学習専用のチャンネルを設けて、誰もが気軽に情報を共有できるようにする)
- チャットボットの導入:社内ツールにチャットボットを導入し、従業員が質問を投げかけた際に、リアルタイムで関連情報や学習コンテンツを提供する
- メールの活用:日常的に使うメールを学習ツールとして活用する。厳選された役立つ情報を定期的にメールで配信することで、個人の学習をサポートする
部下の自主性に任せるだけでなく、学習しやすい環境と仕組みを会社が提供することで、結果として自発的な学習意欲を引き出し、継続させる効果が期待できるのです。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「勉強の秘訣について(その1)知識の量と質」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「勉強の秘訣について(その2)面白がる力」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「「小さな報酬」が学習のモチベーションを高める」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「毎日のワークフローに学習を組み込む方法」
まとめ
勉強をしない部下が陥る末路や、部下に自発的な学習を促すコツについて解説しました。
過去のさまざまな研究により、従業員が「勉強に費やす時間」が「収入」「役職」「幸福度」などと強い相関関係があることが明らかになっています。
しかし、多くの部下は日々の業務に追われ、勉強の必要性を感じていないのが現状です。
本記事で紹介した内容を実践し、部下の自発的な勉強を促進し、希少な人材の育成に役立ててください。