「話が通じない部下の扱いに困っている…」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。
部下とうまく意思疎通がとれない原因は、必ずしも部下だけにあるわけではありません。むしろ、上司の話し方や態度に問題があるケースも少なくないのです。
本記事では、部下に対して「話が通じない」と感じたときに、上司が意識すべきポイントについて解説します。
部下と円滑なコミュニケーションを取ることで、組織全体の士気や生産性の向上につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。
話が通じない部下の特徴

以下は、株式会社アシロが管理職経験者を対象に実施した調査で、「部下とのコミュニケーションにおける不満」として挙げられた主な意見です。
- 言われたことしかできない(26.7%)
- 指示をうまくくみ取れない(23.6%)
- 報連相がない(18.4%)
- 反応が薄い(17.2%)
- 言い訳が多い/謝らない(16.8%)
- 話を聞かない/意見を聞き入れない(14.4%)
この結果をもとに、話が通じない部下にありがちな特徴を紹介します。
指示を正確に把握できない
話が通じない部下の大きな特徴として、「指示を正確に理解できない」点が挙げられます。
部下が指示を理解できないことが原因で、上司の期待と異なる結果につながったり、同じことを何度も説明し直す必要が生じたりするため、「話が通じない」という印象を与えてしまうのです。
指示を理解できない部下には、具体的に以下のような傾向が見られます。
- 自分の都合の良いように指示を解釈する
- 指示の背景や目的を理解しようとせず、言われたことだけを実行する
- 不明な点があっても質問や確認をせず、あいまいな理解のまま作業を進める
- 複数の指示を同時に受けると混乱し、ミスが多くなる
もちろん、上司の指示の仕方に問題があるために、部下が間違った行動をとってしまうことも少なくありません。
しかし、指示が明確であるにもかかわらず、部下が想定とは違う行動をとってしまうと、上司は安心して仕事を任せることができなくなるでしょう。
指示が伝わらない背景には“指示待ち化”もあります。原因から手当てしておきましょう。
報連相をしない

話が通じない部下は、多くの場合、「報連相(報告・連絡・相談)をしない」傾向にあります。
言うまでもなく、報連相は円滑な業務遂行に欠かせない、ビジネスにおける基本中の基本となる行動です。
報連相が滞ると、上司は部下の業務の進捗状況や、直面している課題を把握できません。その結果、部下が抱える問題が大きくなってから初めて発覚し、手遅れになるケースも少なくないのです。
部下が報連相をしない原因として、主に以下の2パターンが考えられます。
- 心理的なハードルを感じている:「怒られるのではないか」「評価が下がるのではないか」という恐れや、「上司が忙しそうで話しかけづらい」という遠慮から、報告や相談をためらってしまう
- 報連相の必要性を理解していない:自分の報連相がチームや上司にとってどれだけ重要かを理解できていない。もしくは、自分の能力を過信しており、報連相をしなくても自分ひとりで業務を完遂できると思い込んでいる
上記の通り、部下が報連相をしない原因は、必ずしも部下だけにあるとは限りません。上司の態度やチームの雰囲気が、部下が報連相をためらう要因になっていることもあるのです。
そのため、報連相がないからといって一方的に部下を責めるのではなく、「部下が報連相しやすい環境をどう作っていくか」を考えることが、上司に求められる重要な視点といえます。
反応が薄い
話が通じない部下の特徴として、「反応が薄い」点も挙げられます。
指示や説明をしている際に、部下から頷きや相槌といった反応がないと、「本当に理解しているのだろうか」「話が響いていないのでは」などといった不安にかられてしまいます。
そのため、たとえ部下が話を正確に理解していたとしても、感情や考えが見えにくいと心理的な距離が生まれ、お互いの信頼関係を築くことが難しくなるでしょう。
反応が薄い部下は、話を聞いていないだけとは限らず、非言語的なコミュニケーション(表情やジェスチャー)が苦手な可能性も考えられます。
したがって、反応がないからといって部下を責めるのではなく、上司の側から「何か質問はある?」「この件について、どう思う?」といった言葉を投げかけ、部下が安心して自分の考えや気持ちを表現できるような雰囲気を作っていくことが大切です。
相手の話を聞かない
「相手の話を聞かない」という点も、話が通じない部下の大きな特徴として挙げられます。
ここでいう「相手の話を聞かない」は、主に以下の2パターンに分けられます。
- 物理的に聞いていない:ぼんやりと上の空で、他のことを考えている。また、話の内容を理解しないまま、適当に「はい、はい」と相槌を打ちながら聞き流すことも多い。このタイプは話を聞いているようで聞いていないため、後で何度も同じことを説明する必要が生じる
- 心理的に聞いていない:プライドが高く、自分の意見ややり方が常に正しいと思い込み、他者のアドバイスや指摘を受け入れない。このタイプは、自分の課題や弱点を受け入れ克服しようとするプロセスを踏めないため、能力が成長しにくい
いずれのパターンにしても、「相手の話を聞かない」という行動の根底には、上司と部下の間に信頼関係が築けていないという問題が潜んでいることが少なくありません。
そのため、まずは上司が率先して部下の話に耳を傾け、その意見や考えを理解しようとする姿勢を見せることが重要です。
そうすることで、「この上司は自分のことを理解しようとしてくれている」という信頼感が生まれ、部下も次第に上司の話に耳を傾けるようになるでしょう。
参考:
PR TIMES「約8割の上司が部下に対して不満を抱えていると判明!部下を持ったことがある男女2,432人にアンケート調査を実施」
話が通じないのは部下のせいとは限らない

部下に「話が通じない」と感じると、おそらく多くの上司は部下に対していら立ちを覚えることでしょう。
しかし、話が通じない原因は、必ずしも部下だけにあるわけではありません。むしろ、上司側に問題があるケースも少なくないのです。
エン・ジャパン株式会社が社会人男女を対象に行った調査によると、「上司とのコミュニケーションに課題を感じるか?」という問いに対し、72%が「感じる」と回答しています。
以下は、その課題として挙げられた主な意見です。
- 指示・指導がわかりにくい(48%)
- 相談や質問をしづらい(46%)
- 相手との精神的な距離を感じる(44%)
- 提案や意見を言いづらい(39%)
- 細かなニュアンスが伝わりにくい(28%)
この調査結果は、「話が通じない」という問題が、決して部下一人だけの問題ではないことを示しています。
以上のことから、部下との意思疎通がうまくいかないと感じた際は、まずは日頃の自分の発言や態度に問題がないか、上司自身が振り返ることが大切です。
そのうえで、もし自分自身に原因があると気づいた場合は、それを素直に認め、改善することが、部下とのコミュニケーションを円滑にするきっかけとなるでしょう。
また、土台となる「安心して話せる場」づくりも並走させましょう。
参考:
エン・ジャパン株式会社「1800人のビジネスパーソンに聞いた「上司・部下間のコミュニケーション」調査」
部下に話が通じないと感じたときの対処法

ハーバード・ビジネス・レビューの記事をもとに、部下に話が通じないと感じた際に、上司が意識すべきポイントについて解説します。
指示に「5要件」を含める
部下に指示が通じないと感じる場合は、まずは自分の指示の出し方に問題がないか振り返ることが重要です。
部下は、仕事の目的や自分の役割について納得感を求める傾向にあるといいます。
そのため、こういった背景を無視して指示を出してしまうと、相手は「なぜ命令されなければならないんだ」と反感を持つリスクがあります。
また、上司が「言わなくてもわかるだろう」と考えることは、実際には部下に全く伝わっていないことが少なくありません。
指示が曖昧だと、部下はどのように動けばいいか判断できず、結果として期待と異なる行動をとってしまうのです。
部下に効果的に動いてもらうためには、以下の「5要件」を含んだ指示が必要不可欠とされています。
5要件 | 具体例 |
---|---|
【1. 何を求めているのか?】「〇〇をやってほしい」と伝えるだけでなく、何をどこまでやってほしいのか、具体的に伝える | 部下に提案書の作成を依頼する際、提案書に必要な項目をすべてリストアップし、「このリストに挙げている内容をすべて含めてください」と伝える |
【2. 誰に求めているのか?】「誰かやっておいて」とチーム全体に頼むのではなく、責任の所在を明確にするために、担当者を具体的に指名する | 「このチームで提案書の作成を手伝ってほしいです。Aさんは、市場調査のデータをまとめてもらっていいですか?」 |
【3. 期限はいつか?】「できるだけ早く」といった曖昧な表現ではなく、「x月xx日xx時まで」のように、具体的な日時を伝える | 「提案書は事前にこちらでも確認したいので、一旦9月30日の午後5時までに提出してもらえますか?」 |
【4. どんな状態になればOKか?】相手がどうすれば自分の期待に応えられるのか、具体的な行動の指針を示す | 「先方が提案書を見て、他社に対する自社商品の優位性が一目でわかるようにまとめてください。」 |
【5. なぜ必要なのか?】指示の背景にある「目的」や「理由」を共有することで、部下は納得し、自発的に協力してくれるようになる | 「先日Aさんが作成した提案書は、客観的なデータとともに自社商品の優位性が示せており、非常にわかりやすいと感じました。今回もぜひAさんに作ってもらいたいです」 |
無反応にはアクションを起こす
自分の話や指示に対する部下の反応が薄いと感じた場合は、明確な反応を引き出すためのアクションを上司自ら起こすことが大切です。
例として、「火曜日までに資料を作成してほしい」と部下に依頼したとします。この指示に対する部下の正当な返答として考えられるのは、以下の4つのパターンです。
- 承諾(例:「はい、やります」)
- 拒否(例:「今は手一杯でできません」
- 代替案(例:「火曜日は無理ですが、水曜日までにならできます」
- 保留(例:「月曜日の午前中までに返答します」
上記以外の「やれたらやります」「検討しておきます」といった曖昧な返答は、実質的に「無反応」と同じです。
もし部下からこのような曖昧な返答が返ってきた場合、自分の指示が無視されている可能性があります。この状態で上司が何も問いかけずにいると、その仕事は放置され、時間と労力の無駄になりかねません。
そのため、曖昧な返答に対しては、具体的な行動を促す問いかけをすることが効果的です。
たとえば、「それでは、資料作成を引き受けられるかどうか、月曜日の正午に改めて聞いてもいいですか?」と尋ねることで、部下は「いつまでに」「何について」返答すべきかが明確になり、曖昧なまま終わるのを防ぐことができるでしょう。
威圧的な態度をとらない
上司が部下に対し話が通じないと感じるのは、部下が本当に話を理解していないのではなく、上司の放つ威圧的な雰囲気が原因かもしれません。
部下は、上司の威圧感を前にすると、疑問や懸念を素直に表現できなくなり、本音を隠したり、当たり障りのない返事をしたりする傾向にあります。これが「話が通じていない」と感じる状況を生み出すのです。
人が放つ威圧感は、言葉だけでなく、無意識の非言語的なサインによっても伝わります。
たとえば、米国の医療現場で行われた実験では、医師の椅子が患者より30cm高いだけで、患者は強い威圧感を感じることが判明しています。
この結果は、人は相手より高い位置にいるだけで、無意識に「自分が上だ」という信号を送り、話しにくい雰囲気を作ってしまうことを示しています。
上司も知らず知らずのうちに、こうした非言語的な威圧感を職場で発している可能性があります。そして、この威圧感が部下を萎縮させ、円滑なコミュニケーションを妨げる大きな原因になり得るのです。
部下が本音を話しやすい環境を作るためには、上司が以下の点を意識し、威圧感を減らす努力をすることが効果的とされています。
工夫するポイント | 具体例 |
---|---|
立ち方・座り方 | ・腕を組まず、自然な姿勢でいる・部下と同じ目線になるため、必要なら自分も立ち上がる |
表情・声 | ・笑顔を意識し、穏やかな声で話す・部下の話には適度な相槌を打つ |
服装 | ・TPOに応じて、カジュアルな服装も取り入れる |
会話の工夫 | ・まず部下の意見を聞くことから始める・命令ではなく、「〜してみたらどう?」と提案する形で話す・小さなことでも「ありがとう」と感謝を伝える |
物理的な環境 | ・オフィスに丸いテーブルを置くなど、和やかな雰囲気を演出する・オフィスを出て、カフェなどで話す機会を作る・部下のデスクまで自分から出向いて話す |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーは人を動かすために「リクエストの手法」を習得せよ」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「上司のちょっとした振る舞いが部下の「率直さ」を左右する」
まとめ
部下に対して「話が通じない」と感じたときに、上司が意識すべきポイントについて解説しました。
部下とうまく意思疎通がとれない原因は、必ずしも部下だけにあるわけではありません。むしろ、上司の話し方や態度に問題があるケースも少なくないのです。
そのため、コミュニケーションがうまくいかない責任を一方的に部下に押し付けるのではなく、まずは上司自身が日頃の発言や態度を振り返ることが大切です。
本記事の内容を実践し、部下と円滑なコミュニケーションを取ることで、組織全体の士気や生産性の向上につなげてください。