「部下が急に不満を言わなくなって不安…」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。
たびたび不満を漏らしていた部下が、急に何も言わなくなった場合は、会社や上司に対する「期待」「改善意欲」が失われた危険な状態だと推測できます。
本記事では、部下が不満を言わなくならないよう、日頃から上司が意識すべきポイントについて解説します。
部下の不満を適切に解消することで、組織の生産性や士気の向上に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
職場で部下が抱えがちな不満とは

人間関係や労働条件、仕事内容など、部下が職場で不満を抱える理由は多岐にわたります。
以下は、株式会社ビズヒッツが社会人男女500人を対象に実施した調査で、「職場への不満」として主に挙げられた意見です。
- 人間関係・雰囲気が悪い(147人)
- 収入が少ない(85人)
- 労働時間・休日への不満(63人)
- 職場の環境・設備が悪い(30人)
- 仕事量・内容が不公平(29人)
- 正当に評価されない(27人)
上記のような不満は、可能な限りすべて解消している状態が理想です。
しかし、部下全員が一切不満を感じない完璧な職場を作り上げるのは、現実的には極めて困難だといえます。
個人の価値観や置かれた状況は千差万別であり、ある人にとっては理想的な環境や条件でも、別の人にとっては不満の種になりうるからです。
また、部下の漏らす不満の中には、単なる個人的なわがままも含まれ、すべてに対処しようとするとキリがありません。
大切なのは、部下の不満をゼロにすることではなく、不満をチーム改善のサインとして捉え、適切に対処する姿勢です。
不満をすべて解消できなくても、相手の意見に耳を傾け、共に解決しようとする姿勢を見せることで、部下との信頼関係は間違いなく深まります。この信頼関係こそが、チームの結束力を高める最も重要な要素といえるでしょう。
多くの部下は不満があれば行動に移す
株式会社ビズヒッツの同調査で、「不満に対して行動を起こしたか」を尋ねたところ、73.0%もの人が「行動を起こした」と回答しています。
以下は、実際に起こした行動として挙げられた意見です(n=365人)。
- 社内で相談する(225人)
- 自衛策をとる(36人)
- 改善策を提案する(17人)
これらの結果から、部下が職場での不満を上司や周囲に訴えるのは、ごく自然なことだといえます。
逆にいうと、これまで頻繁に不満を口にしていた部下が、突然何も言わなくなった場合は、何かしら異常事態が起きていると考えてよいでしょう。
参考:
PR TIMES「【職場の不満ランキング】男女500人アンケート調査」
部下が不満を言わなくなったのは退職する前兆?

たびたび不満を漏らしていた部下が、急に何も言わなくなった場合は、退職を検討している可能性が考えられます。
部下が不満を言うのは、裏を返せば「まだ会社に期待している」「現状を改善したい」という気持ちの表れであるともいえます。
一方、部下が不満を言わなくなるのは、このような「期待」や「改善意欲」が失われ、「どうせ言っても無駄だ」と諦め、すでに次のステップ(退職)に意識が向いている状態かもしれません。
もちろん、部下の不満に対して会社や上司が改善策を講じた結果、不満が解消されたという良いケースも考えられます。
しかし、とくに何かを改善したわけでもないのに不満を言わなくなった場合は、危険な兆候と捉えた方がよいでしょう。
以上のことから、不満を言う部下は決して適当にあしらわず、しっかりと話を聞き、会社や上司として不満を解消しようとする姿勢を見せることが重要です。
部下が不満を言わなくなる前に対処するコツ

部下が不満を言わなくなる前に、適切に対処するためのコツを紹介します。
有意義な不満は即対応する
部下が口にする不満の中には、組織が抱える重大な問題を指摘するものも少なくありません。
このような「有意義な不満」には、実現できるできないにかかわらず即対応することが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、不満を抱える部下への効果的な対応方法として、以下の3つの行動指針を示しています。
行動指針 | 具体例 |
---|---|
【不満を聞いていることを明確に示す】部下が「意見を言っても無駄だ」と感じるのを防ぐため、真剣に話を聞いた姿勢を明確に示す | ・リフレクティブ・リスニング:部下の意見を自分の言葉で要約し確認する。「残業時間を減らすため、業務量を調整してほしいのですね」などと伝え、相手の話を正確に把握したことを示す・次のステップの約束:「明日の午前中に一度タスクリストを見直します」などといった形で、その場で具体的な検討日時や対応開始の約束する |
【不満の根本原因を探る】部下の指摘は表面的な問題である可能性が高いため、その裏に隠れている真の原因を見つけるために、さらに一歩踏み込んで分析を行う | ・「なぜ」の深掘り:「残業が増える一番大きな原因は何か?」などと自問し、非効率なプロセスやボトルネックを特定する・「自分ごと」化:部下の不満を「私たちのチームのコミュニケーション」「私の優先順位付け」など「自分ごと」の問題として捉える |
【透明性をもって最終決定を伝える】最終的な決断に至った背景や理由を説明する。他の従業員や関係者との兼ね合いで、やむなく要望に応えられない場合でも、その旨を正直に伝える | ・意思決定の基準を説明:「Xプロジェクトは非常に重要度が高いため、タスク量を減らすことはできません。他の業務については、別のメンバーに任せるか、ツールで自動化する方向で進めます」・一部の意見の活用:「あなたの『業務量の調整』の要望を尊重し、今後、新しいタスクを依頼する際は、必ず『今週の残業見込み時間』を確認し、調整してから依頼するプロセスを私自身が徹底します」 |
また、日々の対話に加え、仕組みで“声”を拾う工夫が効果的です。
個人的なわがままには毅然と対応する
部下が口にする不満は、すべてが組織にとって有意義なものとは限りません。中には、個人的な不平やわがままを周囲にまき散らしているだけの場合もあるでしょう。
日常的な不平不満は、脳の神経回路を強化し、その人をネガティブな思考パターンに陥りやすくさせるといいます。その結果、感謝や称賛といったポジティブな感情を抱く余地がなくなってしまいます。
また、ネガティブな感情はときに周囲に伝染し、精神を疲弊させることもあります。最悪の場合は職場全体が不平不満で溢れ、メンバーがお互いをネガティブな感情を吐き出す「ゴミ箱」のように扱う状況になりかねません。
このような状態を避けるため、日常的に不平不満をまき散らす部下は放置せず、以下のように厳しく接することが大切です。
- 建設的な対話の線引き:「あなたの不満は理解しましたが、同じ話に何度も付き合うつもりはありません。解決に向かう対話にしか時間を使えません」と、くり返しの愚痴をきっぱりと拒否する
- 現状と影響を冷静に伝達:絶え間ない不平不満が組織全体に悪影響を与え、周囲を消耗させているという事実を、感情的にならずに冷静に伝える
- 「建設的な不満」の定義付け:「不満自体は悪ではないが、建設的な不満とは、現状を変えるための具体的な提案や解決策を伴うものです。単なる同情を求める愚痴とは違う」という区別を明確に教える
- 発言の目的を確認させる:「あなたは問題を解決したいのですか、それとも、ただ不満を言いたいだけですか?」と問いかけ、部下自身に発言の目的を再確認させる。解決を目指すなら、自身の言動を見直すことが必要だと伝える
- 感謝の姿勢を提案:不満を言いたくなったときを「危険信号」と捉え、その代わりに「自分が恵まれていること」や「仕事で達成できた小さなこと」など、感謝の念を探すことに意識を向けさせる
- 最終的な結果を警告:騒ぎ立てることでいつも要求が通るわけではないことに気づかせる。周囲に悪影響を及ぼし続けると、組織内で疎外される可能性があることを示唆し、危機感を持たせる
不満を聞く自分自身を労う
部下の不満は仕事上のものに限らず、人間関係やプライベートの問題など、その内容は多岐にわたります。
上司は、職場のこうしたネガティブな感情(毒物)を引き受け、適切に処理し、組織を円滑に運営する役割を担っています。
このような「毒物取扱責任者」の役割は組織にとって重要であるにもかかわらず、その努力は周囲から認められにくい傾向にあります。
また、上司自身が他人のネガティブな感情に常にさらされることで、共感疲労や燃え尽き症候群に陥るリスクにも絶えず直面しています。
上司が自身の健康を守りつつ、毒物を効果的に処理するためには、以下のような対策が必要不可欠です。
対策 | 具体例 |
---|---|
【理解に集中する】人の悩みを聞くとき、無意識に相手のネガティブな感情を自分の中に取り込んでしまうと、気分やパフォーマンスの低下につながる。相手の立場になって感情を「察する」(共感する)のではなく、状況を「理解する」ことに集中する | 「その問題は、あなたの日々の業務や優先順位に具体的にどのような影響を与えていますか?」と問いかける |
【境界線を設定する】他者をサポートすることにやりがいを感じていても、自分のための時間を設けることが不可欠。上司の役割はセラピストではなく、仕事をサポートするリーダーであることを忘れない。個人的な問題には深入りしすぎない | 11~12時を1日の中で相談を受け付けられる時間帯とし、あらかじめ周知しておく |
【ポジティブな影響を意識する】自分がもたらしている良い影響を意識的に振り返り、ネガティブな感情に対処することによる有害な影響を和らげる | 「今日、私のサポートによってこの人が得られたポジティブな変化は何だろうか?」と自問する |
【自分を大切にする】他者を思いやるように自分自身にも優しくする(セルフコンパッション)。全員の悩みを完全に解決することは不可能だと受け入れる | 疲れていると感じたとき、「これは負担の大きい役割なのだから、疲れて当然だ。今日は少し早く返ろう」と自分を労う |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員の声を組織にうまく反映させる方法」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「不平不満ばかりを訴える同僚にどう対処すべきか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーが自分を守りつつ、部下のストレスに対処する5つの戦略」
まとめ
部下が不満を言わなくならないよう、日頃から上司が意識すべきポイントについて解説しました。
部下が不満を口にするのは、「会社に期待している」「現状を改善したい」という気持ちの表れであるといえます。
たびたび不満を漏らしていた部下が、急に何も言わなくなった場合は、このような「期待」や「改善意欲」が失われた危険な状態だと推測できます。
したがって、部下の不満は適当にあしらわず、しっかりと話を聞き、会社や上司として不満を解消しようとする姿勢を見せることが重要です。
本記事の内容を実践し、部下の不満を適切に解消することで、組織の生産性や士気の向上に役立ててください。