「職場に不機嫌アピールが激しい部下がいて、扱いに困っている…」
このような悩みを持つ管理職は多いでしょう。
一人の部下の不機嫌アピールを放置すると、やがてネガティブな感情が職場全体に蔓延する恐れがあるため、上司として早急に対処したいと考えるのは自然なことです。
本記事では、不機嫌を表に出す部下への適切な対処方法について解説します。
部下の不機嫌を適切に解消することで、職場全体の雰囲気や士気の改善に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
不機嫌を表に出す部下は多い

職場でつい不機嫌を表に出してしまう人は決して少なくありません。
株式会社ビズヒッツが社会人男女を対象に実施した調査によると、「仕事中にイライラが態度に出てしまうことがありますか」との問いに、77.2%が「よくある」「たまにある」と回答しています。
「全くない」と回答した人はわずか3.0%に留まっており、多くの人が職場での感情のコントロールに課題を抱えている事実が見て取れます。
部下が不機嫌になるのはどんなとき?
以下は、同調査で「仕事中にイライラが出てしまう瞬間」として、とくに多く挙げられた意見です(複数回答、n=500)。
- 1位:上司・同僚・部下への不満がある(170人)
- 2位:仕事が予定通り進まない(110人)
- 3位:忙しすぎて余裕がない(82人)
- 4位:仕事を邪魔される(40人)
- 5位:理不尽なことがあった(34人)
- 6位:コミュニケーションがうまくいかない(32人)
- 7位:仕事内容に不満がある(28人)
最も注目すべきは、1位の「上司・同僚・部下への不満がある(170人)」が、2位の「仕事が予定通り進まない(110人)」を大きく引き離している点です。
仕事中のイライラの根本的な原因として、業務そのものよりも、職場における人間関係が圧倒的に重要であることが見て取れます。
また、2位の「仕事が予定通り進まない(110人)」や3位の「忙しすぎて余裕がない(82人)」、4位の「仕事を邪魔される(40人)」は、業務に対するコントロール感の欠如からストレスが生じていると解釈できます。
自分のペースや計画通りに仕事を進められないことが、フラストレーションにつながるのでしょう。
これらの結果から、部下の仕事中のイライラを解消するためには、コミュニケーションや業務プロセスの見直しなど、職場環境の抜本的な改善を最優先すべきだといえます。
不機嫌を表に出す人に対して、単に「不機嫌アピールしないでほしい」と個人の責任として押しつけるだけでは、問題の根本的な解決にはなりません。
不機嫌アピールする部下の心理とは?
不機嫌を表に出す部下の心理は個々の状況によっても異なるため、一概に説明できるものではありません。
しかし、おそらく多くの場合に共通するのが「自分のイライラを周囲に理解してほしい」という願望でしょう。
つまり、不機嫌アピールをすることで、「この状況(人間関係や業務の量・効率)は異常であり、一刻も早く改善すべきだ」というメッセージを、言葉ではなく態度によって周囲に認識させようとしているのです。
さらに、自分の感じている不満やストレスが「自分だけの問題ではない」「妥当な反応だ」と、周囲から共感や承認を得たいという欲求の表れとも解釈できます。
このような心理は、程度の差こそあれ、誰の心にも働き得るものです。
したがって、不機嫌な態度を取る人を「幼稚な人だ」と個人の性格の問題として決めつけ、非難するだけでは、問題の根本的な解決にはつながらないでしょう。
参考:
PR TIMES「【仕事中にイライラが態度に出てしまう瞬間と出さないための方法ランキング】男女500人アンケート調査」
不機嫌を表に出す部下を放置するのはNG

先ほども説明した通り、部下が不機嫌な態度を表に出す背景には、多くの場合、人間関係や業務効率の悪さなど、職場環境に根本的な原因が潜んでいます。そのため、部下個人の性格の問題として片づけるべきではありません。
しかし、原因が環境にあるからといって、部下の不機嫌アピールを放置するのは絶対に避けるべきです。
人のネガティブな感情やストレスは、まるで病気のように周囲のメンバーにも「伝染」してしまうためです。
我々の脳には「ミラーニューロン」と呼ばれる特別な神経細胞があり、これが感情伝染の鍵を握っています。
ミラーニューロンは、他人の行動や感情を見たときに、あたかも自分がそれを体験しているかのように活動するとされています。
たとえば、誰かのあくびを見たときに自分もあくびをしたくなるのと同様に、一人の部下が不機嫌な態度を示すと、そのネガティブな感情が「副流煙」のように周囲に取り込まれ、職場の雰囲気が全体的に重く、どんよりとしたものになるのです。
このようなネガティブな感情伝染によって、職場には以下のような深刻な悪影響がもたらされるといいます。
- 集中力の低下: イライラや不安が伝染することで、業務への集中力が著しく低下する
- ストレスホルモンの増加: 近くに強いストレスを感じている人がいるだけで、ストレスホルモン(コルチゾール)が自分の体内でも増加し、心身の健康を損なう可能性がある
したがって、不機嫌を表に出す部下が職場にいる場合、管理職は以下の両側面からアプローチすることが必要不可欠です。
- 職場環境の改善:コミュニケーションの改善や業務プロセスの見直しなど、根本的な原因の解消に着手すること
- 部下の態度への働きかけ:感情伝染のリスクを理解した上で、部下に対して建設的なコミュニケーションを取るよう働きかけること
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法」
不機嫌を表に出す部下に対する対処法

ハーバード・ビジネス・レビューの記事をもとに、不機嫌を表に出す部下に対する適切な対処方法を紹介します。
感情の背景を理解する姿勢を持つ
先ほども述べたように、部下が不機嫌な態度を表に出す背景には、「自分のイライラを周囲に理解してほしい」という願望が隠れている場合が多くあります。
ここで、部下を「幼稚だ」「社会人失格だ」などと個人の資質として決めつけてしまうと、部下の隠れたニーズやSOSを見逃し、問題の根本的な解決が遠のいてしまいます。
したがって、上司は部下を非難するのではなく、部下の感情の背景を理解しようとする姿勢を持つことが重要です。この姿勢を持つことで、部下が抱える真の問題を探るための対話が可能になります。
部下の心を開き、問題の本質に迫るためには、どのような言葉を選ぶかがカギとなります。
| 悪い対応例 (決めつけ) | 良い対応例(理解の姿勢) |
|---|---|
| 「そんな態度は社会人失格だ。すぐに改めろ」 | 「最近の様子を見ていると、かなりストレスを抱えているようだね。何か話せることはあるかい?」 |
| 「不満があるならはっきり言え。察しろというのは甘えだ」 | 「最近、仕事量が多すぎるんじゃないかと心配している。実際のところはどう?」 |
| 「君だけじゃない、みんな大変なんだ。弱音を吐くな」 | 「今、非常に大変だと感じているのはよくわかる。具体的に何が一番悩みの種なのか、教えてくれる?」 |
上記の「良い対応例」のように、「あなたの態度を見て心配している」という視点から対話を始めることで、部下は攻撃されているのではなく、気にかけてもらっていると感じやすくなります。
このような「感情の背景を理解する姿勢」こそが、次のステップとして「状況に応じた適切な対応方法」を選ぶための最初の重要な土台となるのです。
状況に応じて対応を変える
不機嫌アピールをする部下への対応は、部下の「感情の制御度」と「仕事の緊急度」によって、「今すぐ介入すべきか」「そっとしておくべきか」「支援すべきか」を使い分ける必要があります。
場当たり的な対応ではなく、以下の3つの状況に基づいて柔軟に対応することが、問題を生産的な行動へとつなげるカギとなるでしょう。
1. 【介入が必要】急ぎの仕事に支障が出そうなとき
不機嫌な態度が目の前の重要な仕事の質や進捗に悪影響を及ぼしそうな場合は、感情を立て直させ、集中を促すために即座の介入が必要です。
| 部下の状態 | 感情を制御できていない+急ぎの仕事がある |
| 上司の対応 | 感情を立て直させる(仕事に集中させる) |
| 具体例 | プレゼン直前に部下が不機嫌な様子で資料を乱暴に扱っている場合、「このプレゼンは君の集大成だ。今は目の前の発表に集中しよう。後でゆっくり話を聞く時間を作るから」と励まし、自信を持たせる |
2. 【支援が効果的】急ぎの仕事がないとき
不機嫌を表に出しているものの、すぐに仕事に影響するわけではない場合、まずは相手の感情を受け入れ、その後に具体的な支援を提案する二段階対応が最も効果的です。
| 部下の状態 | 感情を制御できていない+急ぎの仕事がない |
| 上司の対応 | ①共感+②支援 |
| 具体例 | 部下が机に突っ伏して不機嫌そうなとき、「最近、複数のプロジェクトで板挟みになって、本当に疲れているんだろうね(①共感)。もしよかったら、一緒にタスクの優先順位を見直すか、少し負荷を軽くできないか考えようか(②支援)?」と声をかける |
3. 【関与は不要】自分で感情を制御し、仕事に集中できているとき
部下が内心でイライラしていても、それを抑え込み、重要なタスクに集中できているように見える場合、不用意な声かけは逆効果になることがあります。今はそっとしておき、静かに見守ることが適切な対応です。
| 部下の状態 | 感情を制御できているように見える+急ぎの仕事がある |
| 上司の対応 | 今はそっとしておく(仕事に集中させる) |
| 具体例 | 部下の顔は不機嫌だが、作業は順調に進んでいる場合、「大丈夫?」「頑張れよ」といった余計な声かけは避ける。仕事が終わった後で「少し疲れているように見えたから、何かあったらいつでも声をかけてね」とフォローする |
このように、上司が部下の状況(仕事の緊急度と感情コントロールレベル)を冷静に判断し、対応方法を柔軟に変えることが、不機嫌アピールを単なる不満で終わらせず、生産的な行動へとつなげるカギとなります。
感情に寄り添うスキルを磨く
上司が部下の感情を適切にサポートする能力を高めるためには、日々の意識的な取り組みと訓練が不可欠です。
以下の3ステップを踏むことが、部下の感情に寄り添い、難しい状況でも最適な対応を選ぶための効果的な訓練となります。
【ステップ1:自分の対応の「癖」を知る】
まず、自分が無意識にとってしまう対応パターンが、本当に部下の感情に寄り添えているかを日常的に振り返り、自己認識を深めます。
| 自分の「癖」の例 | 隠れた影響(確認すべきこと) |
|---|---|
| 反射的な問題解決:「○○が不満?じゃあ、こうすれば?」と即座に助言する | 部下は解決策ではなく、ただ話を聞いてほしいだけかもしれない |
| 感情的な話題の回避:「大丈夫だよ」「何とかなるよ」と、すぐに話題を切り替える | 部下は「適当にあしらわれた」と感じ、不機嫌アピールを強めるかもしれない |
【ステップ2:相手の「反応」から学ぶ】
自分の対応が相手にどう影響したか、あるいは自分が同じことをされたらどう感じるかを観察し、体感的に学びます。
| 観察・想像の例 | 学び(行動へのフィードバック) |
|---|---|
| 部下に「君ならできる」と励ました後、一瞬でも表情が和らいだかを観察する | ポジティブな言葉が、一時的に集中力を取り戻すのに役立つとわかる |
| 自分が落ち込んでいるとき、上司に「しっかりしろ」と言われたらどう感じるかを想像する | 感情を否定する言葉は、人をさらに追い詰めることを体感的に理解できる |
【ステップ3:対応の「引き出し」を増やす】
「共感」「励まし」「支援」など、状況に応じた多様な言葉や行動のレパートリーを身につけ、適切な対応を選べるように訓練します。
| 対応の「引き出し」例 | 目的と効果 |
|---|---|
| 共感:「その気持ち、わかるよ。これだけ大変ならそう感じるのも当然だ。」 | 感情を肯定し、安心感を与える |
| 励まし:「この難しいプロジェクトを君に任せているのは、これまでの実績があるからだ。」 | 根拠を示して自信を取り戻させる |
| 非言語的支援:不機嫌な部下の机に、そっと「お疲れ様」のメモを置く | 言葉ではなく、気にかけていることを伝える |
このような鍛錬を日頃から積むことで、部下の不機嫌アピールという難しい状況に直面しても、感情的に反応することなく状況を冷静に分析し、上司として最適な対応を柔軟に選び取れるようになるでしょう。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「優れたリーダーは部下の怒りや悲しみに寄り添う」
まとめ
不機嫌を表に出す部下への適切な対処方法について解説しました。
部下が不機嫌な態度を表に出す背景には、多くの場合、人間関係の課題や業務効率の悪さなど、職場環境に根本的な原因が潜んでいます。
したがって、不機嫌アピールをする部下が職場にいる場合、管理職は「職場環境の改善」および「部下の感情への対処」という二側面からアプローチすることが必要不可欠です。
本記事の内容を実践し、部下の不機嫌を適切に解消することで、感情のネガティブな伝染を防ぎ、職場全体の雰囲気や士気の改善に役立てることができるでしょう。

