採用した人が定着しない、活躍してくれないなどといった人材採用のミスマッチ。その要因の1つが「採用基準の設計ミス」です。どのように設計すればミスマッチを防げるのか、その方法をより詳しく解説します。

潜在能力や性格、志向など「ポテンシャル部分」で設計ミスが起こりやすい

採用基準の設計は、人材採用フローのファーストステップ。残念ながらこの時点で、本当に求めている人材像とズレてしまっているケースは少なくありません。

採用基準は、能力特性や性格特性、志向特性などをもとに作られますが、能力特性の部分、すなわち自社の業務に必要とされる知識や技能、経験、学歴などの属性、保有資格などを設計するのは、そう難しくはありません。もちろん、「本当に営業経験は3年以上必要なのか」「簿記は1級でないとだめなのか」などといった議論は必要ですが、どちらかというとデジタルな話であり、議論もシンプルに収まると思われます。

問題なのは、能力の中でも潜在的な能力や性格、志向といったポテンシャルの部分。この設計でミスマッチが起こるケースが多く、より精緻な議論と検討が必要となります。

では、ポテンシャル部分をどう見定め、採用基準を作ればいいのか?

考えられる方法は、「現実から抽出する方法」と「理論から導き出す方法」の2つ。そして、前者の方法は「現場の意見やハイパフォーマーの特徴から抽出する」「社員への適性検査から抽出する」という2つのパターンにわけられます。

この3通りそれぞれの方法で考え、3通りの挙がってきたものを見比べて議論し、採用基準を設計するのが最良の方法です。しかし、実際には現実の一部=経営者や現場リーダーの意見、ハイパフォーマーの特徴だけを見て決めてしまっている企業が非常に多いのです。そして、その意見の取り入れ方、特徴の見方にも問題があります。

ハイパフォーマーの特徴を正しく抽出する方法

経営者や現場リーダーが主観でイメージしている「欲しい人材像」は、実際に現場で活躍している人の特徴とズレがあるのが現状です。加えて、多くのハイパフォーマーは何をすれば成果が出るのかなんていちいち考えることなく、頭の中で最良の方法を自動処理して動いているので、彼らが語る「好業績の理由」も的を射ていない可能性があります。従って、彼らの意見をもとに採用基準を設計しても、実際の活躍理由とは大きくズレてしまう恐れがあります。

ハイパフォーマーの特徴を正しく抽出するには、「行動観察」が一番手軽で確実な方法です。営業職のハイパフォーマーであれば、営業に同行して行動を逐一観察し、「なぜあの場であのような行動を取ったのか」「なぜあのタイミングで発言したのか」などと確認する。これをしばらく繰り返すことで、ハイパフォーマーの頭の中にある営業のセオリーが見えるようになり、暗黙知(長年の経験やノウハウ、勘など簡単に言語化できない知識)が形式知化できるようになります。

ただ、これは営業職やサービス職など、業務上の行動が外面的に表れる職種では取り入れやすい方法ですが、最近では多くの仕事が知性化していて、1日中PCに向かっているという職種が少なくありません。例えば、マーケティング職などの企画系職種や人事など事務系スペシャリスト、SE職などは行動観察がしにくい職種と言えます。

行動観察から採用基準となる要素の抽出が難しい場合は、現実から抽出する方法の2つ目、「適性検査」が有効です。次回は適性検査からの正しい抽出方法についてご説明します。

【本記事の執筆者】

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。