人材採用のミスマッチを生む要因の1つである、「採用基準の設計ミス」。前回は、採用基準の設計方法には下記の3通りがあり、3通りそれぞれの方法で考え議論したうえで、採用基準を設計するのがベストだとお伝えしました。

①現実から抽出する方法~現場の意見やハイパフォーマーの特徴から抽出
②現実から抽出する方法~社員への適性検査から抽出
③理論から導き出す方法

今回は、②の社員への適性検査から抽出する方法について解説します。

行動観察で抽出できない特徴は、「適性検査」で洗い出す

前回ご説明したように、ハイパフォーマーの特徴を抽出するためには「行動観察」が有効です。しかし、行動観察は営業職やサービス職など「業務上の行動が外面的に表れる職種」に限定されてしまい、事務系の職種やエンジニア職など、PCに向かっている時間が長い職種には適用しづらいという側面があります。

もちろん、技術を駆使すれば行動観察できる方法はあります。『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』という本の中では、ビジネスパーソンに定点カメラやGPSなどで調査してAI分析を行い、ハイパフォーマーの共通点を洗い出しています。これに倣うという方法もアリかもしれませんが、かなりの先端事例であり現実的には難しいでしょう。

現時点で近しい方法が取れるのは、適性検査です。データによる客観的な情報からハイパフォーマーの分析を行えるので、どの企業にも取り入れやすいと思われます。

ただ、ハイパフォーマーに適性検査を受けてもらい、抽出された「ハイパフォーマーの特徴」の平均値をそのまま採用基準にするのはNGです。なぜなら、ハイパフォーマーにはさまざまなタイプがあり、それぞれの特徴を生かして高い成果を挙げているからです。

例えば、デキる営業の中には、対人コミュニケーションに長け、相手の懐に入り込むことで高い実績を上げている人もいれば、理論をもとに戦略を組み立てることで成果を出している人もいます。それを平均値にしてしまうのは、彼らの資質を表すどころか「誰でもない、特徴のないフィルタ」を作り出すだけだからです。

有効なのは、クラスタ分析。これについては皆さんすでにご存じだと思うので深く解説はしませんが、調査結果をクラスタごとに分けたうえで、それぞれのクラスタを平均値化する方法であれば、より厳密にハイパフォーマーの特徴を洗い出すことができます。

ハイパフォーマーに限定せず、全社員の適性検査を行うべき理由

なお、「ハイパフォーマーの特徴を洗い出す」という目的であっても、ハイパフォーマーに限定せず全社員の検査を行うべきです。なぜなら、「好業績者」と「低業績者」の間には一見大きな隔たりがあるように見えて、実は紙一重だったりするからです。

人事コンサルタントとしてさまざまな企業のハイパフォーマーを見ていますが、好業績者と低業績者のプロフィールは実はとても似ていて、一部分だけ異なるというケースが少なくないのです。

例えば、好業績者と低業績者ともにチャレンジ精神が旺盛である点は同じだが、好業績者は「慎重性」が伴っているのに対し、低業績者はそれがない、などです。いずれもチャレンジはするけれど、ただただチャレンジして撃沈するタイプと、チャレンジするけれど事前に調査して予防線を張っておくタイプとでは、成果が大きく異なります。にもかかわらず、好業績者だけを見て、「チャレンジ精神がある人=ハイパフォーマー」などと短絡的に捉えて採用基準を設計してしまっては元も子もありません。従って、全社員の検査結果をもとに、良い特徴、悪い特徴を洗い出し、好業績者と低業績者を弁別する要素を洗い出すことが重要です。

さらには、その全社員のデータをクラスタ分析し、職種別に好業績者はどのクラスタに多く存在し、低業績者はどこに存在するのか、さまざまな軸で現状を把握することで、より客観的なデータが取れるようになります。そして、データをもとに、どのようなバランスでポートフォリオを組むのかを具体的に検討する。変化が激しく、職種も細分化されている今の時代においては、これぐらいの粒度で求める人物像を決める必要があると考えます。

さて、次回はいよいよ採用基準の設計方法の3つ目、「理論から導き出す方法」について解説します。

【本記事の執筆者】

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長

新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。