多くの企業が悩む「内定辞退」。内定辞退を防ぐには、最終面接合格後の合意形成が重要ですが、合意形成のうえで内定承諾してもらったとしても、内定辞退のリスクはあります。内定承諾後の内定辞退はどんな理由からなのか、そしてこの時期の内定辞退を防ぐには何をすればいいのか、詳しく解説していきます。

内定承諾後に起きる、学生の「内定ブルー」への対応法

内定受諾後に学生に起こり得る現象の1つに、「内定ブルー」があります。内定ブルーとは、せっかく就職活動を終えても、「本当にこの会社で良かったのだろうか」とモヤモヤし、ブルーな気持ちになってしまう……というものです。

内定ブルーは、「内定承諾により自分の『無限の可能性』を切り捨ててしまった」ことで起こります。
就職活動の段階では、どの業界や企業に応募しようが、どの職種を目指そうが本人の自由であり、言うなれば「無限の可能性」があります。しかし、最終的に1社を選び、内定を承諾した瞬間に、ほかの可能性をすべて捨てたことになります。可能性を捨ててしまったという事実が、そこはかとない不安として心に重くのしかかっているのです。

それでも、多くの人はこの不安を乗り越えて(もしくはやり過ごして)実際に入社へと進みますが、不安な気持ちに押しつぶされ、内定辞退を選んでしまう人も一定数存在します。従って、内定辞退を防ぎたいのであれば、内定受諾後も人事がフォローを続け、内定ブルーの軽減・解消を図る必要があります。

自社のさまざまな情報を提供することで不安を和らげるのも1つの方法ですが、おそらく内定受諾前に自社の情報はある程度出しきっているはず。そこでおすすめしたいのが、「内定者同士が交流する場を設ける」ことです。

内定者同士で、この会社に入社を決めた理由などを言い合うことで、共感する意見に出会って勇気づけられたり、入社企業の新たな魅力が発見できたりします。内定者の間で仲間意識も芽生え、「やっぱりこの会社でいいんだ」と自信を持ってもらえるようになるでしょう。

自由に交流させる「内定者懇親会」はお勧めできない

内定者同士の交流と言えば、内定者懇親会を思い浮かべる人が多いでしょう。ホテルやレストラン、社内などで立食パーティーを開き、内定者同士を自由に交流させるケースが多いですが、実はその方法はあまりおすすめできません。自由に交流させると、思わぬ事故が起こる可能性があるからです。

人には「相性」があります。立食パーティーでは交流がコントロールできないので、相性が悪い者同士が出会ってしまう恐れがあります。内定者懇親会で出会った人がどうしても好きになれず、「こんなやつがいる会社には入りたくない」と内定辞退する例は、実は決して少なくないのです。

内定ブルーを解消し、入社意欲を再び高めてもらうためには、懇親会の場で内定者同士の相性をコントロールすることが重要です。

ポイントは、「内定者全員を一気に集めない」こと。まずは内定者を「この人とこの人は相性が良さそうだな」という2~3人ほどの少人数グループに分解し、そのグループごとに交流会を実施しましょう。リアルな場でも、オンラインでもかまいません。相性が良い者同士であれば話がはずみますし、少人数なので人事が付きっきりでフォローもできます。

このような少人数の集まりを経て、今度は全員を集めて大規模な懇親会を行うといいでしょう。
皆さんにも覚えがあるかもしれませんが、大きなパーティーに参加したときに誰しもまず行うのは、「知っている人を探す」こと。少人数の交流会で知り合い、気心の知れた仲間がいれば、大人数の場に放り込まれても自然に仲間同士が集うので、楽しいひと時が過ごせますし、余計なコミュニケーション事故が起こりにくくなります。

さらにいえば、少人数での交流を経て行う大規模な懇親会であっても、相性コントロールを行ったほうが安心です。できれば立食形式ではなく、着座形式が理想です。内定者の相性を見ながら席を決め、その間を社員がぐるぐる回るようにすれば、コミュニケーションを完全にコントロールできます。

また、会話の内容もある程度決めておき、社員が先導しましょう。「この人たちはこういうことに不安を持っているから、こんな話を振って勇気づけよう」などと人事部内で事前に話し合っておき、シミュレーションしておくといいでしょう。

ちなみに、立食形式ではいくら話す内容を準備しておいたところで、空気の読めない内定者につかまって質問攻めにされたりして、お目当ての内定者となかなか話せなかったりするものです。席をしっかり決めてコントロールすることで、「内定者は気が合う人ばかりで、社員の人も知りたいことをじっくり教えてくれた。入社が楽しみになってきたなあ」という感想につながり、内定ブルーが徐々に解消されていきます。

【本記事の執筆者】

曽和 利光(そわ・としみつ)

株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。