市場環境や働き方の変化に伴い、管理職に求められるリーダー像も大きく変わってきています。従来のように「正解を持ち、的確に指示を出す」リーダーではなく、多様な価値観や働き方に対応し、信頼関係を築きながらチームを導く柔軟な姿勢が求められています。
でも実際には、「部下とうまく関われない」「自分のマネジメントがちゃんとできているのか不安」といった悩みを抱えている管理職の方も少なくありません。人材育成支援を行う株式会社オールディファレントの調査では、新任管理職の約8割が「自身の役割に課題を感じている」と回答しています。
本記事では、こうした背景をふまえ、今の時代に合ったリーダーのあり方と、日々の仕事にすぐに活かせるヒントやスキルをご紹介します。
参考:
リーダー像が変わる背景と、日本企業が直面する現実

近年では、リーダーに求められる役割が「目に見える成果を出すこと」から「人を動かし、育てること」へと変わりつつあります。以下では、その背景にある日本企業の構造的な課題と、変化が求められているリーダー像について整理します。
若手が管理職を目指さなくなっている
帝国データバンクの調査によれば、日本企業の約68%が「リーダー人材が不足している」と回答しています。
この背景には単なる人手不足にとどまらず、若手社員が「リーダー職に就きたくない」と感じている傾向があることが指摘されています。
実際に、約6割の企業が「若手が管理職を敬遠している」と回答しています。リーダーの仕事に対する心理的ハードルの高さや、業務量・責任の重さに対して十分な魅力が感じられないことが、意欲の低下につながっていると考えられます。
トップダウンから共創型へと求められる姿勢が変化
これまでの日本型組織では、上位の役職者が判断し、部下へ指示を出すトップダウン型のマネジメントが一般的でした。
しかし、変化のスピードが増す現在のビジネス環境においては、そのような一方向のスタイルだけでは組織の柔軟性や対応力が不足しがちです。
現在は、部下一人ひとりの価値観を尊重し、共に考えながら進んでいく「共創型リーダーシップ」への移行が求められています。具体的には、部下を支えることを重視する「サーバント・リーダーシップ」や、ビジョンを提示してチームを巻き込む「変革型リーダーシップ」などが代表的なスタイルとして挙げられます。
部下や組織からの期待も変化している
研修サービスを展開するインソースの調査では、「キャリアの相談に乗ってくれる」「働きがいを感じさせてくれる」「公平に評価してくれる」といった項目が、部下が管理職に求める内容として多く挙げられています。
これは、上司としての権限よりも、信頼や支援を重視する姿勢が求められていることを意味しています。
さらに、PR TIMESに掲載された企業調査では、多くの企業が「次世代リーダーに必要なのは目標達成力よりも、組織文化を育てる力」と回答しています。
つまり、リーダーには数字や成果だけでなく、チーム全体の価値観や雰囲気をつくる存在としての役割も期待されているということです。
このように、現代のリーダーには、単に指示を出す立場にとどまらず、メンバーと信頼を築きながら、ともに進んでいく姿勢が強く求められています。
組織の中で成果を支えるだけでなく、人と組織そのものを育てていく存在としての役割が、今後ますます重要になっていくといえるでしょう。
参考:
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2023年)」
National University “What is Transformational Leadership?”
ProFuture株式会社「次世代リーダーの育成に関する調査レポート」
TUNAG「サーバントリーダーシップの有名人や企業事例・メリットデメリットを解説」
現代のリーダーに求められる7つのスキル

チームをまとめ、みんなが気持ちよく働ける環境をつくりながら、しっかり成果を出すには、どんな力が必要なのでしょうか?ここでは、リーダーにとって大切な7つの基本スキルを、わかりやすく紹介します。
1. 目標を決めて、チームを前に進める力
リーダーには「チームでどこを目指すのか」をはっきりと示すことが求められます。ただ数字の目標を伝えるだけでなく、メンバーが「自分の仕事につながっている」と感じられるような意味づけも大切です。
たとえば「売上を上げよう」だけでなく、「お客様に選ばれるチームを目指そう」と伝えることで、日々の仕事にもやりがいが生まれます。進み具合をこまめに確認しながら、必要に応じて方向を調整する姿勢も大切です。
2. 伝える力と聴く力
メンバーと信頼関係を築くには、わかりやすく伝えることと、じっくり話を聴くことの両方が欠かせません。特に「聴く力」は、メンバーが本音を話しやすい雰囲気をつくるうえでとても重要です。
「この人なら話しても大丈夫」と思われるリーダーになることで、チームのコミュニケーションもスムーズになります。日ごろの声かけや、やさしいトーンでのフィードバックも心がけたいポイントです。
3. やる気を引き出す力
一人ひとりのやる気の源は違います。「達成感がうれしい」「誰かの役に立てると感じられるとがんばれる」など、人によって違うからこそ、よく観察して声をかけることが大切です。
「なぜこの仕事が大切なのか」を伝えたり、「よく頑張っていたね」ときちんと認めることで、自分から動ける力を引き出すことができます。
4. 育てる力とまかせる力
部下を育てるには、ただ教えるだけでなく、「やってみる機会」をつくることが大切です。「まずはやってみて、あとで一緒に振り返ろう」という姿勢でまかせることで、自分で考えて動けるようになります。
必要なときにはそっとサポートしながら、日々のフィードバックで成長を後押ししていきましょう。
5. 判断する力と問題を解決する力
現場では、さまざまな問題や判断が求められます。状況を冷静に見わたし、関係する人の意見も聞いたうえで、どう進めるかを決める力が必要です。決めたことをしっかり実行する行動力や、結果に責任を持つ姿勢もリーダーには求められます。
6. 気持ちに気づく力(EQ)
EQとは、自分の気持ちをうまくコントロールしながら、相手の気持ちにも配慮できる力のことです。
たとえば、イライラしたときに感情のまま言ってしまわず、一度落ち着いて対応することができると、まわりも安心します。また、メンバーが元気がない様子に気づいて声をかけるといった、さりげない気づかいも大切です。
7. 変化を前向きにとらえる力
世の中の変化にしっかり向き合いながら、自分から「もっと良くしよう」と行動できることも、これからのリーダーに必要な力です。
たとえば、新しいツールを取り入れたり、仕事の進め方を見直したりするとき、前向きに取り組む姿を見せることで、チームにもよい変化が広がっていきます。また、リーダー自身が学び続ける姿勢を持つことで、チームに良い影響を与えることができます。
以下の表は、本章で詳述したリーダーにとって不可欠なコアスキルを簡潔にまとめたものです。管理職の方々が自身の強みや課題を把握し、今後のスキルアップに役立てるための一助となれば幸いです。
表:リーダー必須のコアスキル一覧
スキル名 | 内容 | 具体的な行動・大切なこと |
チームの目標を決めて進める力 | チームで「どこを目指すか」をはっきりさせて、一緒にそこに向かっていく力 | ゴールを共有する/計画を立てる/進み具合を確認する |
伝える力と聴く力 | 信頼関係をつくりながら、スムーズにやりとりできる力 | よく聴く/わかりやすく伝える/共感する/安心して話せる雰囲気づくり |
やる気を引き出す力 | 一人ひとりのやる気のもとを見つけ、自分から動けるようにサポートする力 | 仕事の意味を伝える/努力を認める/その人に合った声かけをする |
育てる力とまかせる力 | 部下の成長を支え、自分で判断できるように後押しする力 | 得意・苦手を見極める/フィードバックする/仕事をうまく任せる |
判断する力と問題を解決する力 | 状況を見わたして、ベストな選択をして前に進める力 | 情報を集めて考える/リスクも考えながら決める/原因を見つける |
感情に気づいて調整する力(EQ) | 自分や相手の気持ちをうまく扱い、人間関係をよくする力 | 感情をコントロールする/相手の気持ちに気づく/落ち着いた対応をする |
変化を前向きにとらえて動く力 | 新しいことにチャレンジし、自分も学びながら周りを引っ張る力 | 新しいやり方を試す/自分も学び続ける/変化のきっかけをつくる |
参考:
日本能率協会マネジメントセンター「“できる管理職”が実践するマネジメントスキルとは?」
アルー株式会社「マネージャーに求められるリーダーシップとは?」
Center for Creative Leadership “Communication: 1 Idea, 3 Facts, 5 Tips”
Harvard Division of Continuing Education “How to Improve Your Emotional Intelligence”
Walden University “What Makes a Good Leader? Ten Essential Qualities to Learn”
Marquette University Online “Improving Employee Performance and Motivation”
オール・ディファレント株式会社「“組織を変える”リーダーに必要な力とは?」
管理職によくある悩みとリーダーシップの実践ヒント

現場の管理職が日々直面する悩みには共通点があります。以下では、よくある課題と、それに対する実践的なアプローチを紹介します。
チームの成果が上がらない
メンバーの頑張りがうまくかみ合わないと感じる場合、目指すゴールがしっかり共有されていないことが原因かもしれません。
まずは「どこを目指すのか」「なぜその目標が大事なのか」「いつまでにやるのか」をチームで話し合って確認することが大切です。そのうえで、KPIやマイルストーンを決めて進み具合を都度、確認するようにしましょう。
成果が出たときには、「どこが良かったのか」を具体的に伝えてほめることで、チーム全体のやる気がぐっと高まります。
部下との意思疎通が難しい
伝える力だけでなく、「聴く力」もリーダーには欠かせません。部下の話を途中で遮らず、最後までじっくり聴くことで、「ちゃんとわかろうとしてくれている」という安心感が生まれます。
わからない点があれば「それはどういうこと?」と優しく聞き返すことで、誤解も防げて理解が深まります。特に、1on1のようなじっくり話せる時間を大事にすると、日ごろから信頼関係を築きやすくなります。
部下が育たない
「失敗させたくない」「自分でやったほうが早い」と思って、つい細かく指示を出したり、仕事を抱え込んだりしている方も多くいらっしゃると思います。
しかし、部下が成長するためには、ある程度まかせてみる勇気も必要です。思いきって仕事をまかせたり、少し難しい課題に挑戦してもらうことで、自分から動く力が育ちます。
また、うまくいったことや改善点について、こまめに声をかけることも大切です。そうしたフィードバックが、部下のやる気や成長につながっていきます。
業務とマネジメントの両立が難しい
自分の仕事で成果を出しながら、チーム全体の管理もこなす「プレイングマネージャー」という立場は、とても忙しくなりがちです。「部下のサポートや調整に時間をかけたいけれど、余裕がない」という声もよく聞かれます。
そんなときは、まず自分が抱えている仕事を整理し、「今やるべきこと」と「後回しにできること」をはっきりさせましょう。そして、人に任せられる仕事は思い切って任せることが大切です。こうすることで、チームを見るための時間や気持ちのゆとりが生まれてきます。
リーダーとしての自信が持てない
「自分にリーダーは向いていないかも…」と感じてしまうことは、誰にでもあるものです。責任が大きいぶん、プレッシャーに押されてしまうこともありますよね。
そんなときは、まず身近な小さな変化に目を向けてみましょう。たとえば「部下が前より相談してくれるようになった」「チームの雰囲気が明るくなった」など、少しでも良くなった点があれば、それは立派な成果です。
こうした前向きな実感を積み重ねていくことで、少しずつ自信が育っていきます。
参考:
アルー株式会社「管理職の課題例11選!マネジメントがうまくいかないときに企業ができる対策」
日本能率協会マネジメントセンター「“できる管理職”が実践するマネジメントスキルとは?」
Center for Creative Leadership “Communication: 1 Idea, 3 Facts, 5 Tips”
CoTeam「プレイングマネージャーがうまくいかない理由と対策」
University of Georgia Extension “Time Management: 10 Strategies for Better Time Management”
Leadership111「管理職のためのリーダーシップ研修資料」
今日から始められるリーダーシップを高めるアクション

小さな行動の積み重ねが、信頼されるリーダーへの第一歩になります。ここでは、今日から無理なく実践できる5つのアクションを、具体例とともに紹介します。
週1回の1on1ミーティングを習慣化する
1on1は、部下の状況や気持ちを深く理解するための貴重な機会です。たとえば、「最近仕事の負担感はどう?」といった問いかけから始めることで、本音を引き出しやすくなります。ただ進捗を確認するのではなく、キャリアの希望や悩み、モチベーションの源泉についても話せる場にすることが重要です。
成果だけでなくプロセスを認める
「目標達成、おめでとう」だけで終わらせず、「厳しいスケジュールの中でも、関係部署と丁寧に連携していたのが良かったね」といったように、努力や工夫したプロセスも具体的に伝えましょう。これにより、メンバーは「見てもらえている」という安心感を持ち、次の行動への意欲が高まります。
指示よりも問いかけを意識する
リーダーがすべて決めるのではなく、「この件、あなたならどう進める?」というように問いかけることで、部下の思考を促し、主体性を引き出せます。たとえば企画の進め方に悩んでいる部下に対し、「選択肢を2〜3個挙げるとしたら何がありそう?」と促すことで、自然なアイデア展開につながります。
チーム内の対立には中立的に介入する
意見の対立が起きた際には、どちらかの肩を持つのではなく、両者の意見や立場を丁寧に聴き、「お互いが共通して目指していることは何か?」を軸に話を整理します。たとえば、「このプロジェクトのゴールって、●●を実現することだったよね」と合意点を再確認することで、建設的な対話が生まれます。
自分自身も学び続ける姿勢を見せる
チームに学ぶ文化を根づかせるには、まずリーダー自身が学ぶ姿勢を持つことが重要です。最近読んだビジネス書の感想を雑談で共有したり、セミナーや勉強会に参加している様子を話したりするだけでも、「上司も成長しようとしている」と感じてもらえます。
参考:
Walden University “Developing Leadership Skills”
おわりに
管理職に求められる役割は確かに増えていますが、すべてを完璧にこなす必要はありません。大切なのは「変化に向き合う姿勢」と「部下やチームへの誠実な関わり方」です。
この記事で紹介したスキルや行動を、自分の職場やチームに照らし合わせながら、できるところから少しずつ取り入れてみてください。
リーダーシップは特別な才能ではなく、日々の実践を通じて育まれていくものです。あなた自身の変化が、チームを前向きに動かす第一歩になるはずです。