目次
  1. このページのまとめ
  2. ジョブローテーションとは
    1. ジョブローテーションが注目されている背景
    2. 人事異動との違い
    3. 社内公募との違い
  3. ジョブローテーションの目的
    1. 人材育成
    2. 属人化の防止
    3. モチベーション管理
  4. ジョブローテーションのメリット
    1. 適材適所の人材配置が可能
    2. 社員間の交流が生まれ部門間の連携が円滑になる
    3. 業務の属人化防止
  5. ジョブローテーションのデメリット
    1. 生産性が低下する可能性
    2. 離職される可能性
    3. スペシャリストの育成に不向き
  6. ジョブローテーションに向いている企業
    1. 部署間の関連性が高い企業
    2. 企業文化を浸透させたい企業
    3. 広範な知識が必要な企業
    4. 社員数の多い企業
    5. 中長期的に人材育成に取り組める企業
  7. ジョブローテーションに向いていない企業
    1. 各業務の専門性が高い企業
    2. 職種や部署によって給与が異なる企業
    3. 長期プロジェクトを請け負う企業
    4. 中長期での人材育成が困難な企業
    5. 異動できる職種が少ない
  8. ジョブローテーションの導入方法
    1. 対象者の選定
    2. 配属先の決定
    3. 実施期間と目標の設定
    4. 対象者への連絡
    5. ジョブローテーションの実施
    6. 次の部署へ異動
  9. ジョブローテーションを導入する際のポイント
    1. ジョブローテーションの目的は明確か
    2. 社員に納得してもらえるか
    3. 社員のキャリア形成に役立つか
    4. サポート体制が整っているか
  10. まとめ

このページのまとめ

  • ジョブローテーションとは従業員の能力開発を目的に行われる異動
  • ジョブローテーションのメリットは人材育成と属人化の防止
  • ジョブローテーションは中長期的な視点で行う

従業員の能力開発を行うため、ジョブローテーションを導入する企業が増加しています。さまざまな業務を経験した従業員は、業務への理解度が増加し、将来の幹部やスペシャリストとして期待できるためです。ジョブローテーション導入には、企業の体制を整え、中長期的視点で考えることが重要です。このコラムでは、ジョブローテーションに向いている企業や、ジョブローテーション導入時の注意点などをご紹介します。

ジョブローテーションとは

ジョブローテーションとは、従業員の成長や能力開発を目的に行われる、戦略的な異動です。計画的人事異動や、戦略的人事異動とも呼ばれます。異動方法はさまざまで、転勤を伴う場合や、同じ部署内で業務内容だけが変わる場合、部署ごと変更になる場合など多岐にわたります。独立行政法人 労働政策研究研修機構が調査した結果によると、半数以上の企業がジョブローテーション制度を導入しており、正社員の人数が多くなるほど導入されている傾向にあります。

ジョブローテーションが注目されている背景

従来の日本は終身雇用が前提であり、人材育成では幹部候補の育成を目的としていました。入社した人材は長く企業に残り、部下を率いる立場が求められるからです。しかし、現在では部下を率いる能力だけではなく、社会全体を見る能力や、新しい価値観に対応する必要があります。そのため、さまざまな業務を体験し、視野や価値観を広げることのできる、ジョブローテーションが注目されています。

人事異動との違い

人事異動は、配置転換によって組織での社員の役割変更全般を指します。人事異動を行う目的は、部署の強化や欠員補充の意味合いを強く持ちます。一方で、ジョブローテーションは部署の強化だけではなく、人材育成の側面を持ちます。そのため、ジョブローテーションと人事異動では、目的が少し異なり、ジョブローテーションは従業員の育成の役割が強いといえるでしょう。

社内公募との違い

社内公募とは、会社がポストや役職を提示し、希望者を公募する制度です。ジョブローテーションと同じく、人事戦略を目的としていますが、従業員の選定方法が異なります。社内公募では、応募してきた従業員のなかから、最も適すると思われる従業員を選びます。一方で、ジョブローテーションは、従業員の意思ではなく、企業が対象の従業員を選びます。そのため、従業員が立候補する社内公募と、企業が対象を指定するジョブローテーションでは、選定方法が異なります。

ジョブローテーションの目的

ジョブローテーションの実施には、以下のような目的があります。

人材育成

従業員にさまざまな業務を経験させることで、業務への理解が深まります。1つの部署だけではなく、幅広い部署を経験できるため、組織全体の構図が体感できるからです。また、複数の業務経験を得ることで、従業員の適正を発見できます。個々の能力や性格によって得意分野は違うため、業務の適性を見つけることは重要です。得意な業務を発見し、成果を上げることができれば、従業員のモチベーションアップにもつながるでしょう。

属人化の防止

従業員が1つの業務だけを行う組織体制では、属人化が危惧されます。特定の従業員だけしか対応できない業務が発生するためです。属人化が発生すると、従業員の退職で混乱が発生したり、後任への引き継ぎが上手くできないなどの問題が発生します。一方、ジョブローテーションを導入すれば、業務をさまざまな従業員が経験するため、属人化を防ぐことにつながります。

モチベーション管理

同じ業務を長期間続けることで、従業員が成長を実感できず、モチベーションが停滞してしまう可能性があります。ジョブローテーションの導入は、従業員に新しい刺激を与え、モチベーション向上に効果的です。注意点として、業務や環境の変化がストレスになる従業員もいることです。新しいチャレンジや変化を好む従業員を優先するなど、個別にマネジメントを行いましょう。

ジョブローテーションのメリット

ジョブローテーションは従業員の成長促進だけではなく、適切な人材配置を実現します。得意不得意がわかり、従業員の能力を生かした人材配置ができるためです。また、属人化防止の効果もあり、後任への引き継ぎや、問題がおきたときのサポートを簡単にするメリットもあります。

適材適所の人材配置が可能

ジョブローテーションの導入は、従業員を適材適所に配置可能にします。複数の業務を経験すると、従業員の強みや弱み、得意分野を発見できるためです。たとえば、営業は得意だけど事務作業が苦手な従業員、現場よりも管理が得意な従業員など、さまざまな特性を発見できます。ジョブローテーションで異なる業務を経験させることは、従業員の新しい可能性を発見し、適材適所の配置を可能にします。

社員間の交流が生まれ部門間の連携が円滑になる

異なる業務や部門を経験すると、社員間の新しい交流が生まれます。その結果、部門間のコミュニケーションが活性化されたり、連携が向上するメリットが生まれます。また、ジョブローテーションの対象になっていない従業員も、対象者を通じた交流が期待できます。このように、ジョブローテーションは部門間の連携やコミュニケーション改善に効果的です。

業務の属人化防止

従業員にさまざまな業務を経験させることは、属人化の防止に効果的です。1つの業務を同じ従業員だけが行うことを防げるため、どの業務も複数の従業員が対応できる状況を作り出せます。たとえば、人事や総務は人員が固定化される場合が多く、引き継ぎやサポートに課題を抱える企業が多くあります。定期的にジョブローテーションを行うことで、属人化防止に効果が期待できます。

◯複数の業務経験によって視野が広がる

ジョブローテーションで複数の業務を行うことは、従業員の視野拡大につながります。異なる業務や部署を経験すると、業務全体への理解が深まるためです。部署ごとの連携や関係性も把握できるようになり、新しい視点で物事を考えることができるでしょう。このように、ジョブローテーションの経験は、従業員の視野拡大に効果的です。

ジョブローテーションのデメリット

複数の業務経験によって従業員の成長を促すジョブローテーションですが、成長を妨げたり、不満を生んでしまう可能性もあります。業務が変わることで専門性が薄れる事態や、キャリア志向に反した異動に気を付けましょう。ジョブローテーション実施時のデメリットを想定し、問題が起きない体制づくりが求められます。

生産性が低下する可能性

従業員が新しい業務を始めるジョブローテーションでは、生産性が低下する可能性があります。従業員が成果を上げるためには、時間が必要だからです。また、業務を教える従業員も必要になるため、指導期間は生産性が低下してしまいます。ジョブローテーションの期間は生産性が下がることを予測し、指導やサポート体制を整えておく必要があります。

離職される可能性

従業員のキャリア志向と異なるジョブローテーションをしてしまえば、離職につながる可能性があります。従業員の不満につながったり、希望のキャリアが実現しないと思われるためです。離職を防ぐためには、従業員のキャリア志向を確認し、希望部署や、希望しない部署を把握しておきましょう。たとえば、定期的な面談やアンケート調査を行うなどで、従業員の意向を知っておく事が必要です。

スペシャリストの育成に不向き

ジョブローテーションは、スペシャリストの育成には向いていません。従業員が同じ業務を長く続けることがなくなるためです。定期的に業務を変えることは、業務を専門的に理解したり、長期的な技術の蓄積を困難にします。また、専門的に業務を極めたい従業員にとっては、ジョブローテーションは歓迎されない可能性もあります。

ジョブローテーションに向いている企業

部署が多い企業や、中長期的な人材育成ができる余裕を持つ企業が、ジョブローテーションに向いています。部署間の連携向上でさらなる効果が期待できるためです。また、ジョブローテーションはすぐに効果を発揮する施策ではないため、余裕を持って育成できる体制が重要です。

部署間の関連性が高い企業

部署間の関連性が高い企業は、連携を実感できるため、ジョブローテーションに向いています。複数の部署を経験するほど、従業員の組織全体の理解が向上するでしょう。たとえば、サービスを行う現場と、顧客対応をメインで行う部署を体験すると、顧客ニーズをより深く体感できます。このような従業員は、サービスの構築を行うプロジェクトで、経験を発揮できるでしょう。

企業文化を浸透させたい企業

社員数や支店数が多い企業は、ジョブローテーションで企業文化を浸透させることができます。従業員の交流が活発的に行われることで、企業文化の浸透が期待できるためです。たとえば、M&Aで企業買収を行った場合は、ジョブローテーションで従業員を移動させることで、企業文化の浸透を期待できます。従業員の異動を活発に行い、交流を増やすことで、企業文化を浸透させましょう。

広範な知識が必要な企業

業務遂行に幅広い知識が必要な企業は、ジョブローテーションの実施に向いています。業務を経験し、知識を取り入れるほど、パフォーマンスが向上するためです。たとえば、本部と現場がわかれている企業は、両方経験しておくと相乗効果が生まれます。担当部署と別部署の知識を学ぶことは、行動や判断の助けになるでしょう。

社員数の多い企業

社員数の多い企業は人材に余裕があるため、ジョブローテーションに向いています。従業員の異動が行われても、人材不足にならないためです。一方で、従業員が少ない場合、異動によって業務に支障が出る可能性もあります。社員数の多い企業は、人材に余裕があれば、積極的にジョブローテーションを行いましょう。

中長期的に人材育成に取り組める企業

ジョブローテーション実施にあたって、中長期的な視野で人材育成に取り組めることが重要です。従業員の将来的なキャリアプランも見据えて実施できると、より効果的だからです。たとえば、新入社員にジョブローテーションを取り入れる企業は、未経験者を中長期的に育成する計画を立て、将来のキャリアプランに役立てています。また、ジョブローテーションにはコストも掛かるため、中長期で人材育成を行う余裕を持つ企業であることも大切です。

ジョブローテーションに向いていない企業

ジョブローテーションを導入しても成果が低く、上手くいかない企業もあります。たとえば、業務の専門性が高い企業は、業務の習熟度を下げる結果となり、ジョブローテーションのデメリットが大きくでてしまいます。自社の業務や組織体制がジョブローテーションに適しているか考えましょう。

各業務の専門性が高い企業

業務の専門性が高い企業は、ジョブローテーションの導入で生産性が落ちる可能性があります。専門性が高い業務は難しく、マニュアル化しづらいためです。ジョブローテーションで異動した従業員もすぐに成果を上げることはできず、指導する側も大変になります。専門性の高い業務はジョブローテーションから除外し、別の業務を対象にしましょう。

職種や部署によって給与が異なる企業

ジョブローテーションによって給与が変われば、従業員から批判を受ける可能性があります。職種や部署によって給与が異なる企業は気を付けましょう。また、ジョブローテーションの対象になる重要員だけ給与体系を変化させても、ほかの従業員から不満が生まれる可能性があります。このように、職種や部署によって給与が異なる企業は、ジョブローテーションの実施が困難です。

長期プロジェクトを請け負う企業

長期プロジェクトを請け負う際に、ジョブローテーションを行うことは困難です。プロジェクトメンバーが入れ替わることで、クオリティが下がったり、クライアントとの信頼関係を悪化させる可能性があるからです。自社のプロジェクトなら問題ありませんが、請負の場合はクライアントが存在します。担当者を変更することに問題はないか、事前の確認が必要になるでしょう。

中長期での人材育成が困難な企業

ジョブローテーションは、中長期で人材育成を行う施策です。そのため、中途採用の即戦力が多い企業や、人材の入れ替わりが激しい企業では、導入が困難です。ジョブローテーションの効果を発揮するためには、同じ人材を何度も異動させる必要があります。中長期的に育成できる環境かどうか、十分に検討しましょう。

異動できる職種が少ない

異動できる職種が少ない場合、ジョブローテーションの効果は下がってしまいます。学べる業務経験が少なく、生産性を下げるだけになってしまうからです。また、従業員も業務に変化を感じず、ジョブローテーションの効果を実感できません。異動できる職種が少ない企業は、導入を十分に検討したほうが良いでしょう。

ジョブローテーションの導入方法

ジョブローテーションを導入する際には、正しい手順で行うと効果的です。事前準備を行い、従業員の成長や部署の活性化に役立てるようにしましょう。

対象者の選定

ジョブローテーションでは、誰を対象にするかが重要です。年齢や勤続年数、業務内容をもとに、対象者を選びましょう。人事データが蓄積されている場合、有効活用できます。また、現代ではAIを活用して対象者を選定する企業も増加しています。

配属先の決定

候補者に適した配属先の選定は、ジョブローテーションにとって重要です。配属先によって、従業員の成長や、ジョブローテーションの効果が決まるためです。たとえば、対象者の性格や、キャリア志向をもとに選定しましょう。また、部署ごとの人員状況や、目標も合わせて考慮が必要です。

実施期間と目標の設定

ジョブローテーションの実施期間と目標の設定も行います。どのような目的で行うか、どのくらいの期間で何を習得させるかを決めます。期間や目標が曖昧になってしまえば、従業員が混乱してしまうので注意が必要です。

対象者への連絡

ジョブローテーションの対象者に、実施内容を連絡しましょう。その際、期間や目的だけではなく、なぜ選ばれたのか、何を期待しているかも同時に伝えます。対象者にジョブローテーションの役割や意義を理解させることで、モチベーション向上につながります。実施内容だけではなく、理由も併せて伝えましょう。

ジョブローテーションの実施

対象者が同意し、受け入れ部署の体制も整えば、ジョブローテーションを実施します。実施中もこまめに進捗確認を行いましょう。たとえば、期待したとおりの成長ができているか、目標を達成できているかなどを確認します。定期的に面談を行うなど、サポートも必要です。

次の部署へ異動

予定の期間が終われば、次のジョブローテーション先に異動します。新しく獲得したスキルやキャリアプランを参考に、配属先を決めましょう。

ジョブローテーションを導入する際のポイント

ジョブローテーションを行う際には、企業と従業員で目的意識の共有が重要です。なぜジョブローテーションを行うのか、何を期待しているか共有しましょう。また、企業の思惑だけで実行するのではなく、対象の従業員と話し合い、キャリア志向も事前に確認しましょう。

ジョブローテーションの目的は明確か

ジョブローテーションの実施目的を明確にし、従業員に伝えることが重要です。曖昧な目標設定や、とりあえず実施しているだけでは、効果は発揮されません。また、従業員の目的意識と企業の目的意識が異なっていないかも注意が必要です。ジョブローテーションの目的を明確にし、従業員に伝えましょう。

社員に納得してもらえるか

従業員のなかには、1つの業務を専門的に行い、スキルアップしたいと考える場合もあります。専門性を高めたい従業員を無理やりジョブローテーションしないように気を付けましょう。もし、従業員の意思に反したジョブローテーションを行うと、モチベーション低下や不満を生んでしまいます。企業の目的意識も重要ですが、従業員のキャリア志向や考えを無視しないようにしましょう。

社員のキャリア形成に役立つか

ジョブローテーションの導入を検討する際には、従業員のキャリア形成に役立つかどうかを考慮しましょう。企業の都合のみで行ってしまっては、本人のキャリアプランに悪影響を及ぼす可能性があるからです。また、従業員のモチベーション低下や、離職の可能性も危惧されます。ジョブローテーションの異動先が従業員のキャリアに役立つ部署であるのか、十分に検討しましょう。

サポート体制が整っているか

ジョブローテーションを受ける従業員は、新しい業務を何度も覚えます。そのため、サポート体制を整え、従業員の負担にならないように気を付けましょう。たとえば、わかりやすいマニュアルを用意したり、専門の指導員を設けるなど、成長しやすい工夫が必要です。また、異動先の部署も受け入れ体制を整え、ジョブローテーションがスムーズに行われる工夫をしましょう。

まとめ

従業員のさらなる成長には、ジョブローテーションが効果的です。異なる部署の業務内容や役割を知ることは、従業員の企業に対する理解を深めるからです。また、ジョブローテーションを実行する際には、中長期的な視点を持って行いましょう。場当たり的に行うのではなく、明確な目標と意図を持って行うことが重要です。従業員のキャリア志向を考慮しながら、自社の軸となる人材を創り上げましょう。