このページのまとめ

  • 派遣切りとは派遣先企業が派遣社員との契約を途中で終了させること
  • 派遣切り自体は違法ではない
  • 派遣切りをする場合は法律に基づいて行うことが重要

派遣社員の増加に伴い、派遣切りが社会問題になっています。契約期間が残っているにもかかわらず、企業の都合で契約を途中解除するためです。派遣切り自体は違法ではありませんが、急に契約を解除される従業員は生活ができずに困窮してしまいます。不当解雇とみなされ、裁判に発展するリスクもあることを知りましょう。このコラムでは、派遣切りの概要や、違法性を解説します。

派遣切りとは 

派遣切りとは、派遣先企業がコストカットなどを目的に、派遣社員との契約を途中で終了させることです。具体的には、派遣先企業が、派遣元企業との労働者契約を解除した状況です。派遣社員は、派遣会社に雇用された状態で、派遣先企業に勤務します。そのため、派遣会社と派遣先企業の契約が解除されてしまえば、派遣社員は勤務する場所がなくなります。この労働契約を途中で解除することを派遣切りと呼びます。

派遣切りの種類

派遣切りには、派遣先との契約が解除される場合と、派遣会社から解除される場合の2種類があります。

派遣先で勤務できなくなる場合

派遣先で勤務できなくなる理由は、派遣会社と派遣先の労働契約が途中解除されたからです。そのため、契約更新がなくなり、同じ派遣先では勤務できなくなってしまいます。この場合、派遣会社が別の派遣先を探し、新しく契約を行うことが一般的です。

派遣会社から解雇される場合

派遣会社と派遣先企業の契約解除に伴い、労働者も解雇されてしまうケースです。基本的には、契約期間を守る必要があるため、契約の途中解除はできません。しかし、派遣会社自体の企業運営が難しくなり、雇用解消を行うケースがあります。この場合、派遣会社と派遣先企業の契約が終了となるため、労働者もあわせて契約解消が行われてしまいます。

企業が派遣切りを行う理由 

企業が派遣切りを行う理由は、人件費削減だけではありません。従業員自身に問題がある場合や3年ルールに抵触しないようにする場合もあります。派遣切りが行われる理由を抑えておきましょう。

人件費削減

派遣先企業の業績が悪化した場合、派遣社員が優先的に解雇されてしまいます。直接雇用の従業員を解雇すると違法になる場合が多いからです。そうすると、労働契約を解除しても、違法にならない派遣社員が人員整理の対象になってしまいます。派遣切りで多いケースが、人件費削減だと覚えておきましょう。

従業員の能力や勤務態度の問題

従業員の能力不足や、勤務態度に問題がある場合、派遣切りにあうケースも存在します。たとえば、遅刻や欠勤が多い、勤務中の居眠り、指示を聞かないなどが原因です。このように、勤務態度が悪い場合には、裁判でも解雇が有効になった事例もあります。

派遣の3年ルール逃れ

派遣社員には、3年ルールと呼ばれる仕組みがあります。3年ルールとは、派遣社員を3年以上同じ事業所に派遣できないルールです。そのため、派遣会社と派遣先は、次のいずれかの選択肢をとる必要があります。

  • 派遣先企業と派遣社員が直接雇用を結ぶ
  • 派遣先企業の別の課に異動させる
  • 無期雇用契約に変更する
  • 派遣会社は別の派遣先を紹介する

一般的には、派遣先が直接雇用に切り替えたり、無期雇用契約を結びます。しかし、直接雇用を行うリスクや、無期雇用契約は定年まで雇用する必要があるなど、派遣先企業はデメリットも抱えてしまいます。このデメリットを避けるために、派遣切りを行い、3年ルールを逃れようとするケースがあります。

参照元:厚生労働省「派遣で働く皆様へ

日本での派遣切りの事例 

日本でも、経済状況の悪化を理由に、派遣切りが行われました。社会問題にもなっており、厚生労働省も注意喚起を示す事態に発展しています。具体的には、2008年のリーマンショック、2020年の派遣法改正があります。

2008年のリーマンショック

2008年にリーマンショックが発生し、日本の経済状況が悪化しました。その際、自社の経営を守るため、派遣切りを行う企業の増加が問題になりました。派遣社員は直接雇用の社員と比べて、契約終了を行いやすい立場です。そのため、直接雇用の社員と比べた場合に、優先して解雇されてしまう事態がありました。政府は、リーマンショックの影響を受け、労働者派遣制度の見直しを表明しています。その後、派遣法改正が行われ、派遣社員の立場を守る法律も制定されました。

2020年の派遣法改正

2020年に派遣法が改正されました。主な目的は同一労働同一賃金を実現するためです。同一労働同一賃金では、同じ業務を行う従業員は、雇用形態にかかわらず、待遇に差をつけてはならないと定めています。そのため、派遣社員の待遇が改善され、給与アップや交通費支給などが行われます。
しかし、派遣社員の待遇が改善され、賃金が上がることで、企業の負担は増加します。そのため、派遣法改正の前に、派遣社員を削減する派遣切りが増加しました。派遣法改正は派遣社員の待遇改善に役立ったものの、派遣社員の数を減らす原因にもなってしまったわけです。

参照元:厚生労働省「派遣労働者雇用安定化特別奨励金について

労務も押さえておくべき派遣切りへの対処法

派遣切りの対処法に関して、労務担当者も押さえておきましょう。自社で派遣社員を雇用している場合、トラブルになる可能性もあります。基本的には、派遣先企業と派遣会社での話し合いになるので、適切な対処が必要です。

解雇の妥当性を話し合う

派遣先企業と派遣会社の労働契約がなくなっても、すぐに従業員を解雇できるわけではありません。一方的に解雇を言い渡してしまうと、不当解雇に当たる可能性があります。たとえば、企業間の労働契約がなくなったことを理由とする解雇、即日解雇は違法との判決が出ています。従業員の解雇が妥当なのか、話し合いを行いましょう。

新しい派遣先を探してもらう

従業員の立場では、新しい派遣先を探してもらいましょう。派遣会社との雇用契約が残っている場合、派遣会社は新しい派遣先を探す必要があるためです。もちろん、派遣切りでトラブルになってしまった派遣会社では働けないと考える人も多くいます。その場合、別の派遣会社に登録したり、通常どおりの転職活動を行うことも視野に入れましょう。

失業保険の手続きを行う

新しい派遣先が見つからなかった場合には、失業保険を受けることができます。失業保険の給付条件を満たしているのであれば、手続きを行いましょう。派遣先、または派遣会社が原因で離職した場合、会社都合退職が認められます。会社都合退職では、失業手当の給付が早くなったり、給付日数が増える場合もあるため、離職票の記載内容を確認しましょう。

派遣切りの違法性

派遣切りが違法にあたる可能性があるのは、主に以下のケースです。

30日前に解雇予告をしない

契約解除の30日前に解雇予告がなければ違法になる可能性があります。労働基準法によって、社員を解雇する場合、30日よりも前に解雇予告が必要と示されているためです。もし、解雇予告ができなかった場合には、30日に満たない日数分、解雇予告手当を支払います。このように、30日前に解雇予告がない場合、違法になる可能性が高いと考えましょう。

参照元:厚生労働省「労働契約の終了に関するルール

解雇理由に社会通念上の相当性がない

解雇理由に社会通念上の相当性がない場合、違法と判断される可能性があります。社会通念上の相当性とは、裁判長が認定する社会一般の常識のことです。
労働基準法第16条では、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする』と定められています。そのため、寝坊や勤務態度だけが原因では、解雇できない可能性があることを抑えておきましょう。

まとめ

正社員だけではなく、契約社員や派遣社員など、働き方の多様化が進んでいます。従業員が働きやすい環境整備が進む反面、派遣切りのような問題も生じているのが現状です。派遣切り自体は違法にはならず、人件費削減の手段として利用されてしまう場合があることに気を付けましょう。また、企業としては、派遣切りをそもそも実施しない状況を作ること、正当な手続きで契約を終えることが重要です。不当解雇は裁判に発展する可能性もあるため、十分に注意しましょう。