- 部下がコミュニケーションを積極的にとってくれない
- 自分から話そうとしない
- 自分が拒否されているような気がする
そのように感じる上司や管理職も多くいます。今回は部下がコミュニケーションを拒否すると悩む方に向けて、その原因と改善策について、海外の論文などをもとに解説します。
この記事の監修者
三橋史佳(みつはしふみか)
株式会社人材研究所
青山学院大学卒業後、人事コンサルティング会社の(株)人材研究所に入社。これまで外資系大手企業やIT系ベンチャー企業、創業100年の老舗メーカーなど新卒・中途を問わず様々な企業の採用支援や組織分析に携わる。現在はキャリアコンサルタントの資格を持ちながら、人材研究所マネージャーとして部下を育成しながらコンサルティングに従事。
上司と現場メンバー間で十分にコミュニケーションが取れていない
パーソル総合研究所の調査によれば、上司・管理職と現場メンバーの間では、十分にコミュニケーションが取れていないという結果も報告されています。上司との面談で本音で話していないと答えた人が41.6%、チーム内の会議で本音で話していないと答えた人が43.0%いることがわかりました。
また、同調査では、事業部長や役員などの上層部は職場のメンバーや管理職が本音で話せていると感じており、管理職と現場メンバーの認識には大きな乖離があると考えられます。
これは、上層部が現場の実情を十分に把握していない可能性があることを示唆しており、現場メンバーが感じる不満や問題点が適切に上層部に伝わっていない可能性があります。
参考:
最近の若者はコミュニケーションが苦手
消費者庁が公表している調査によれば、13歳から29歳の男女に「自分の考えをはっきり相手に伝えられるか」を尋ねたところ、「あてはまらない」(「あてはまらない」または「どちらかといえばあてはまらない」)と答えた人は約50%もいることがわかりました。
また、JTBが公表している調査でも、58%以上がコミュニケーションが苦手と感じていることがわかっています。昔と比べて、インターネット・SNSの普及などで対面で会わなくてもコミュニケーションをとれる機会が増えたことも、コミュニケーションが苦手になっている要因として挙げられるのかもしれません。
「昔はもっと上司と部下同士でコミュニケーションをとっていたのに」「飲み会にも誘いづらくなって、どこでコミュニケーションをとればいいのか」と悩む管理職も多くいらっしゃると思いますが、現代のような時代背景もあり、若手と円滑にコミュニケーションをとることが難しくなっているといえます。
参考:
第1部 第2章 第1節 (2)若者の意識とコミュニケーション
株式会社JTB「コミュニケーションは苦手、58%と過半数 主体的な発信は苦手、受け身のコミュニケーションは得意」
なぜ部下はコミュニケーションを拒否するのか?
部下がなぜコミュニケーションを拒否したり、本音でのコミュニケーションを避けるのかについて、ケンブリッジ・ユニバーシティ・プレスが公表している論文をもとに解説します。
上司が「倫理的リーダーシップ」を過大評価している場合
上司が「倫理的リーダーシップ」を過大評価している場合、部下とのコミュニケーションの齟齬などが起きやすいとされています。倫理的リーダーシップとは、道徳的な価値観や原則に基づいて、誠実で公平、かつ正しい行動をとることです。
上司や管理職がこの倫理的リーダーシップを過大評価してしまうと、部下はその上司を「上司は自分の価値観ばかりを信じて、話が通じないな」と感じる可能性があり、そのために率直なフィードバックを避けることがあります。
たとえば、「昔はこうだった」「これがこの業界では当たり前だ」と上司がこれまでの経験をもとに、自分の行動や判断が常に正しいと信じ込んでしまう、または押し付けてしまうと、部下が意見を持っている場合でもそれを伝えることが難しくなります。
部下のフィードバックに対する上司の反応
部下が上司に対して業務における提言をした際の上司の反応によって、部下は「もう話すのをやめようかな」と感じてしまう可能性があります。
たとえば、部下が業務の改善点を上司に指摘した際に、「それは君が言うことじゃない」「目の前の業務だけをやっておいて」と言われると、部下はそれ以降フィードバックを避けるようになります。
上司や管理職も、多忙な日々の中でストレスを感じることが多く、部下からの指摘を受け入れるのは簡単ではないかもしれません。しかし、部下からのフィードバックもまた、組織全体の成長と改善に不可欠な要素です。
フィードバックの効果を信じない
上司が部下のフィードバックを重要視しない、もしくはそのフィードバックが部下の利益だけに基づいていると一方的に思い込んでしまっている場合、部下はコミュニケーションを避ける傾向にあります。
たとえば、部下が業務に関する改善案を提案をした際に、上司が「それはただの自己保身のため」「自分の評価につなげたいだけ」と一蹴することがあったとします。
このように、上司が部下の意見を軽視したり、個人的な動機によるものだと決めつけたりすると、部下は次第に意見を述べることをためらうようになります。上司が部下の意見を尊重し、建設的に受け入れる姿勢を持つことが重要です。
部下は努力しても変わらないと思い込んでいる
上司が部下が努力しても能力や特性が今後も変わらないと思い込んでいる場合、部下は行動を改善する努力を怠ることがあります。
これを固定理論と呼び、自分や他人の能力や特性を「生まれつき固定されたもの(=努力しても変わらないもの)」と認識することを指します。
たとえば、部下が「○○の仕事にチャレンジしてみたい」と提案しても、上司が「いま勉強してもできない」「 スキルがないから難しい」と言い放つと、部下は学習する意欲を失う可能性があります。その結果、部下は「何言ってもダメと言われるだろうな」と、上司とのコミュニケーションを拒否し、避ける傾向があるとされています。
参考:
Kuenzi, M., Brown, M. E., Mayer, D. M., & Priesemuth, M. (2019). Supervisor-subordinate (dis)agreement on ethical leadership: An investigation of its antecedents and relationship to organizational deviance. Business Ethics Quarterly, 29(1), 25-53. https://doi.org/10.1017/beq.2018.14
部下にコミュニケーションを拒否される状況を改善するためには?
部下がコミュニケーションを避けると感じている場合は、話し方はもちろん、自分に対する認識も改める必要があると同論文は主張しています。
以下ではどのように状況を改善すべきかを解説します。
自己認識を改める
「部下に問題がある」と一方的に決めつけるのではなく、「自分はどういう立ち振る舞いをしていたか」という自己認識を改める必要があります。
部下などの他者が自分の行動をどのように評価しているかを理解し、その評価の重要性を認識することが必要です。自分だけでは他者からの見え方を理解することは難しいため、外部の研修サービスの導入や、360度評価を導入するなども効果的です。
心理的安全性の確保
スタンフォード大学の組織行動学の教授ロバート・サットンの対談記事によれば、上司は従業員が意見を伝える際に安全だと感じる環境を作ることが重要とされています。
具体的には、会議のアジェンダにメンバーからの質疑応答を必ず入れることや、ミーティングで発言していない人にも意見を求めることで、全員が参加できるような雰囲気づくりが重要です。
たとえば、オンラインミーティングでは、発言していない人にも「○○さんはこれについてどうですか?」と直接声をかけることが推奨されています。
部下から質問やフィードバックを受けた際には、いきなり否定するのではなく、共感を示しながら意見を受け入れることで、「上司に話を聞いてもらえる」という雰囲気をつくることができます。
360度フィードバックの導入
組織が主体となり、上司と部下の両方に対して、効果的な360度フィードバックを導入することで、コミュニケーションの課題を改善できると考えられます。
360度評価は、評価対象者の上司、同僚、部下、そして時には自己評価や外部のステークホルダー(顧客や取引先など)からもフィードバックを受け取り、個人の強みや改善点を総合的に把握するために利用します。
これを導入することで、部下が上司に対してどのように感じているかを把握することができ、改善点を見出すことができます。
まとめ
部下にコミュニケーションを拒否されていると感じた際は、まずは部下の前でどのように振舞ってきたかを見直しましょう。その上でどのように今後改善していくべきかを意識し、日々の業務に取り入れていきましょう。