「若手社員の離職による採用・教育コストの無駄をこれ以上増やしたくない」と思っている管理職の方は多いのではないでしょうか。採用・教育コストをかけた若手社員がどんどん辞めていくと、残された社員の士気も下がりショックが大きいでしょう。
後に解説しますが、約3割の若手社員が入社後3年以内に離職していることから、若手社員の早期離職は企業の課題となっていることがわかります。
本記事では、若手社員が辞める背景や兆候について解説します。さらに、若手社員を辞めさせない取り組みについても紹介しているので、ぜひ最後までご一読ください。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
若手社員が辞める背景とは
若手社員が辞める背景には、離職率と離職理由が関係しています。若手社員が辞める背景について、厚生労働省のデータに基づいて解説します。
若手社員の離職率
厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況によると、新規学卒就職者の入社後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が37.0%で、大学卒就職者が32.3%とされています。
以下は、厚生労働省が公開している若手社員の3年以内の離職率の推移です。
引用:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します|厚生労働省
景気によって多少の差はあるものの、直近20年で若手社員の離職率に大きな変化はありません。若者の離職は今に始まったことではなく、少なくとも直近20年の企業の課題であることがわかります。
若手社員が辞める理由
厚生労働省の若者の離職理由によると、若手社員が辞める理由は主に以下のとおりとされています。
- 給与に不満がある
- 会社の将来性や安定性に期待が持てない
- 仕事のストレスが大きい
- 労働時間が長い
- 職場の人間関係がつらい
- キャリアアップするため
- 仕事がおもしろくない
転職者が、前職を離職した理由として「給与に不満がある」が最も多く、続いて「会社の将来性や安定性に期待が持てない」と回答した人が多くなっています。
若手社員の辞める理由について、さらに詳しく知りたい人は以下の記事をご覧ください。
厚生労働省の「働くことの意識調査」では、新入社員の働く目的で最も多い回答が「楽しい生活がしたい」となっています。次いで、「自分の能力をためす生き方をしたい」「経済的に豊かな生活を送りたい」が多い回答とされています。
若手社員の働く目的と、先述した若手社員が辞める理由を踏まえると、ワーク・ライフ・バランスを重視しつつ、自分の能力を発揮できる環境やキャリアアップが実現できる職場が好まれる傾向があることがわかります。
辞める若手社員の兆候
若手社員が辞める前には、なにかしらの兆候が現れることが多いです。辞める前の兆候を知っておくと、上司のアクション次第で退職を引き留められる可能性があります。
若手社員が辞める兆候について、ジャーナル オブ マネジメント (JOM) によるユタ州立大学の経営学の准教授であるティモシー・M・ガードナーらが公表する論文に基づいて解説します。
仕事への集中力・熱意の低下
仕事への集中力が低下し、以前のような熱意が見られなくなった場合は、辞める前兆の可能性が高いため、要注意です。若手社員は、会社からの評価を得ることや仕事へのやりがいを感じることを望んでいますが、それらが満たされなかった時、仕事への集中力や熱意が低下する恐れがあります。
仕事のやりがいが感じられない原因として、上司からのフィードバックが少なく、自分の目標や役割が明確に理解できていないことも少なくありません。
単に体調が優れないなど、一時的な気分の低下の可能性もあるので、休暇を促したり労働時間の見直しをしたりすることで改善することもあるでしょう。
チームや上司との関係の変化
チームや上司との関係にネガティブな変化がある場合、それは辞める兆候かもしれません。若手社員が辞める兆候として、上司の指示に従わなくなったり、上司と距離を置いたり、チームや上司との関係にネガティブな変化が現れることがあります。
上司や同僚とのコミュニケーションを避けるだけでなく、孤立しがちになる傾向もあります。若手社員とのコミュニケーションが取りづらかったり、避けられていると感じたりした場合は、注意しましょう。
業務への消極的な姿勢
業務への消極的な姿勢は、仕事へのやりがいやモチベーションが低下している可能性があり、辞める前兆の可能性があります。
業務への消極的な姿勢は、主に以下のとおりです。
- 新しいプロジェクトや責任のある仕事を避ける
- 長期的な計画に参加しない
- 顧客への対応がおろそかになった
上記のような行動が見られる場合、今の会社で長く働く気持ちがなくなっていたり、仕事へのやりがいを感じなくなっていたりする可能性が高いです。
時間の使い方の変化
仕事に対する時間の使い方に変化がある場合、退職を考えている可能性があります。辞める前の時間の使い方の変化は、主に以下になります。
- 遅刻や早退が増える
- 平日に休みを取ることが増える
- 有給休暇を使う頻度が増える
- 退勤が早くなった
- 残業をしなくなった
会社への貢献意欲やモチベーションの低下などが原因となり、自由な時間を増やしたいといった考えから、辞める前の時間の使い方に変化が表れます。
転職活動や退職準備を示唆する行動
勤務中に私用の電話が多くなったり、平日の休みが増えたりといった行動は、転職活動を進めている可能性が高いです。
たとえば、今まで資格に興味がなかった若手社員が、資格の勉強を始めることも転職活動の際に有利になるための行動の1つです。また、デスクの整理をすることも退職準備をしている可能性があります。
転職活動や退職準備を示唆する行動は、すでに辞める意思が固まっている場合が多いため引き留めることは難しいかもしれません。
参考:
若手社員が辞める会社と辞めない会社の違いとは
若手社員が辞める会社と辞めない会社には、働きやすさや労働環境などにおいて異なる点がいくつかあります。若手社員が辞めない会社は、近年の若者の「働く目的」に対応できているケースが多いです。
若手社員が辞める会社と辞めにくい会社の特徴について、解説します。
若手社員が辞めやすい会社の特徴
若手社員が辞めやすい会社の特徴を、ボストン カレッジ ワーク & ファミリー センター(BCCWF)によるブラッド・ハリントン氏らの論文に基づいて解説します。
年功序列の賃金制度を採用している
若手社員は、会社を選ぶ際に給与を重視している傾向があります。厚生労働省の若者の離職理由で、転職者が離職する理由の上位に「給与への不満」が挙がっていることからも給与の高さを重視している若手社員が多いことがわかります。
給与を重視する若手社員にとって、年功序列の賃金体制が当たり前の会社は、働きづらいと感じます。頑張っても給与が上がらないと、給与の高さを重視する若手社員は、より給与の高い企業への転職を考える若手社員も少なくないでしょう。
ワーク・ライフ・バランスを重要視していない
株式会社リクルートの「Works Index 2022」の調査によると、個人が生き生きと働き続けられる状況を理想に作られた5つの指標の中で、ワーク・ライフ・バランスを重視している人が最も多いとされています。
引用:「Works Index 2022」|リクルートワークス研究所
残業や休日出勤が当たり前といった風潮や有給休暇が取りにくい雰囲気がある職場は、ワーク・ライフ・バランスを重視する若手社員が働きづらいと感じて、辞める可能性が高くなります。
社員のwell-beingを軽視している
社員のwell-beingを軽視している会社は、若手社員が辞めやすい傾向があります。well-beingとは、心身共に、満たされた状態のことを言います。
若手社員のwell-beingを軽視している行動は、主に以下になります。
- 上司からのサポート不足
- 若手社員の意見を尊重しない
- 長時間労働が常習化している
- キャリアサポートができていない
上記のような行動が常習化している職場では、若手社員はwell-beingが満たされず、離職を考える可能性が高まります。
参考:
若手社員が辞めにくい会社の特徴
若手社員が辞めにくい会社の特徴を、ウェルデン大学による経営学博士(DBA)のアルシャド・ラシード・タラール氏らの研究レポートに基づいて解説します。
適切な報酬体制を整えている
適切な報酬体制を整えている会社は、若手社員の離職率が低い傾向にあります。若者の離職理由として、給与への不満が多いことから、年功序列ではなく、成果や能力に応じた報酬制度を導入している企業は、若手社員にとって魅力的です。
たとえば、インセンティブ報酬や成功報酬などを導入することで、社員のモチベーションを高め、定着率向上につなげることができます。
成果や能力に応じた報酬制度を導入している企業は、仕事へのやりがいや給与の高さを重視する若手社員の離職を防ぐことができるでしょう。
人材育成への投資をしている
スキルアップやキャリアアップといった、従業員の能力開発への投資は、離職率の低下に大きく影響します。研修やトレーニング、新しいツールや技術に関する知識の提供は、以下の能力を向上させることができます。
- 従業員のビジネススキル
- 技術スキル
- 専門スキル
自分の能力を発揮し、キャリアアップをしたいと思っている若手社員も多いため、それらを実現できる会社は、若手社員にとって魅力的な会社です。積極的に人材育成への投資をしている会社は、若手社員の離職率を下げることができるでしょう。
労働環境が整っている
労働環境が整っている会社は、若手社員の離職率が低い傾向にあります。先述したとおり、15〜24歳のZ世代の全体の約87.9%が「ワーク・ライフ・バランスを大事にしたい」と回答していることからも、労働環境の重要性が高いことがわかります。
ワーク・ライフ・バランスを意識した労働環境にするためには、以下の施策が効果的です。
- 残業や休日出勤の削減
- テレワークの導入
- フレックスタイム制
- 育児休暇
このような取り組みは、社員の満足度を高め、定着率向上につながります。
参考:
若手社員を辞めさせないための取り組み
若手社員を辞めさせないための取り組みについて、ジャーナル・オブ・スモール・ビジネス・ストラテジー(JSBS)によるパシフィコ大学のロサ・マリア・フックス教授らの研究レポートに基づいて解説します。
個々のニーズに合わせた対応をする
若手社員の定着率を向上させるためには、個々のニーズに合わせた対応をすることが重要です。個々のニーズに合わせた対応として、主に以下が挙げられます。
- 定期的な面談とヒアリングを行なう
- 働き方に柔軟性を持たせる
- スキルアップやキャリアアップのためのサポートを行なう
- 成果や能力を適切に評価する
- コミュニケーションを活発化させる
- 社内アンケートをとる
個々のニーズに合わせた対応をするためには、若手社員の要望を知らなければいけません。若手社員一人ひとりの要望を理解した上で、それぞれに合ったコミュニケーションやキャリアサポートを行なうと良いでしょう。
定期的な面談やヒアリングには、1on1ミーティングがおすすめです。
1on1について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
企業理念に共感を得る
企業の価値観や企業理念を理解し、共感することで、若手社員は自分の仕事への価値や意味を見出すことができます。自分の目標や役割が明確でないと、なんのために仕事をしているのか分からなくなり、仕事のモチベーション低下につながります。
若手社員が「企業が目指すべき姿」と「社会への提供価値」について、理解し共感できる会社は、若手社員の定着率向上につながります。
参考:
HRテックの導入
HRテックを導入することで、若手社員の離職を防ぐことができます。HRテックとは、Human Resources(人事)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた言葉です。
具体的には、人事部門の業務効率化や戦略的な人材マネジメントを実現するためのITツールやサービスのことを指します。
たとえば、目標管理ツールを導入することで、社員の目標達成を支援し、モチベーションを高めることができます。また、評価システムを導入することで、社員の能力を適切に評価し、成長を促すことができます。
HRテックにより、適切な評価やスキルアップできる環境を整えることは、若手社員の働きやすさや仕事へのやりがいを感じられるため、辞めさせない取り組みとして効果的です。
離職対策の他に利益を出す方法
若手社員を辞めさせないことも大切ですが、どうしても離職を防げないこともあります。離職による人材不足での機会損失を減らすための方法を紹介します。
人材派遣を活用する
若手社員の離職や採用が難しいときは、人材派遣を活用しましょう。派遣社員を適切に活用することで、業務の柔軟性を確保しながら、人材不足によるコストを抑えることができます。
たとえば、需要の変動が激しい業界では、派遣社員を迅速に増員・軽減することで生産性を維持しつつ、固定費を削減しています。
専門的な技術や知識を持つ派遣社員を活用することで、人事不足による損失を抑えながら、利益を出すことができます。
中途採用に注力する
中途採用に注力することも、企業が離職対策に加えて利益を出す手段の1つです。中途採用により、経験豊富な人材を獲得し、即戦力として活用することができます。
また、中途採用をすると、既存社員に刺激を与えることができ、チームのモチベーション向上にも役立ちます。中途採用に注力することは、企業の競争力の強化と利益の増加が見込める効果的な手段といえます。
業務フローを見直す
業務フローを見直すことも、離職対策の他に利益を出すために有効な手段です。業務フローの見直しにより、効率化やコスト削減を実現し、生産性を向上させることが可能です。
具体的には、以下のステップで業務フローを見直します。
- 現状を把握する
- 課題を洗い出す
- 改善の目標を設定する
- 改善策を検討する
業務フローの改善は、1度改善して終わりではなく、定期的に見直し改善することが重要です。業務フローの改善により、生産性を向上させることで、企業の利益を出すことが可能です。
まとめ
若手社員が辞める理由には、給与への不満や会社の将来性や安定性に期待が持てないこと、仕事のストレスなどが挙げられます。若手社員の離職を防ぐためには、ワーク・ライフ・バランスを重視した労働環境の見直しや、キャリアアップやスキルアップができる環境が必要となります。
若手社員の個々のニーズを把握し、対応できる環境を整えることが、若手社員の離職率を下げる有効な手段となるでしょう。