「部下に仕事を任せたいが、自分でやった方が早い」
「部下に仕事を任せるための説明が少し面倒だな」
と部下に仕事を任せたいものの、なかなか前に進まない方もいらっしゃると思います。
部下に仕事を任せることは、上司や管理職が重要な業務に集中し、組織全体の効率を高めるために不可欠です。本記事では、部下に仕事を任せる重要性とその方法や注意点について解説します。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
なぜ部下に仕事を任せることが重要なのか
ギャラップ社の調査によれば、権限委譲が得意なCEOは、33%も高い収益を上げているとされています。仕事を任せる事が得意な経営者や管理職は、すべてを自分でこなすのではなく、チームの能力を信頼し、それぞれの部下にあった業務を任せることで部下に自信を持たせ、士気を高めています。
その結果、組織全体の生産性が向上し、持続的な成長を実現しているとされています。
参考:Harvard Business School”How to Delegate Effectively: 9 Tips for Managers”
仕事を部下にうまく任せられない人の特徴は?
仕事を部下に任せることによるメリットは理解できても、いざ任せるとなるとなかなか難しいものです。「仕事を任せるのが苦手だ」と感じている方も少なくありません。
以下では部下に仕事をうまく任せられない人の特徴について、ハーバードビジネススクールが公開する記事をもとに解説します。
部下に対する業務の説明に時間がかかると感じる
部下に仕事を任せることが苦手な方は、「業務の説明に時間がかかる」、「結果的に自分でやった方が早い」と考えがちです。このような考え方は短期的には効率的に思えますが、長期的には部下の成長を阻害し、上司自身も過重労働に陥るリスクがあります。
業務の説明に時間をかけることで、部下がスキルを身につけ、将来的には仕事を円滑に進めることができるようになります。上司は、説明にかける時間を「未来への投資」として捉え、部下の成長を支援する姿勢が求められます。
「自分だけが持つスキル」で必要不可欠な存在でいたい
スキルや経験を独占し、自分が組織にとって不可欠な存在であり続けたいという気持ちが強い人も、部下に仕事を任せにくい傾向にあります。
このような状態では上司は重要な決定や業務に集中できず、結果として組織全体の成長を妨げることになります。
経験や知識を共有し、部下に権限を委ねることで、上司自身が新たな挑戦に時間を割くことができ、チーム全体のパフォーマンスが向上します。
経験や知識の共有は、組織全体の成長を支える重要な要素であり、上司は積極的にこれを進めるべきでしょう。
業務を自分でやりたい
先述したポイントと近しい部分がありますが、ある業務をどうしても自分で手掛けたいと考える上司は、部下に仕事を任せることが難しいと感じることが多いです。
すべてを自分で抱え込むのではなく、部下に権限を持たせることで、チーム全体のスキルアップが図られ、効率的な進行が可能となります。上司は自分の役割を見直し、部下に仕事を任せることで、より大きな成果を上げるための環境を整える必要があります。
他の社員に負担をかけることに罪悪感
他の社員に負担をかけることに対して罪悪感を感じる上司も、部下に仕事を任せることが難しくなります。このような上司は、部下が忙しいと感じると、さらに仕事を任せるのをためらう傾向がありますが、自分で抱え込むと上司自身が過労になり、組織全体の効率が低下します。
部下の成長を信じて、勇気を持って任せることで、チーム全体の生産性の向上が期待できます。
部下への信頼や自信の欠如
部下を信頼できてない場合、仕事を任せるのが難しくなります。上司が「自分がやらないと仕事が進まない」と考えてしまうと、部下への権限移譲が進まず、結果として上司の負担が増えてしまいます。
部下に権限を持たせることで、部下は成長の機会を得るとともに、上司自身も重要な意思決定に集中できるようになります。
自分だけが仕事を正しくできると信じる
「自分だけがこの仕事を正確にこなせる」と信じている上司は、部下に仕事を任せることに抵抗を感じることが多いです。
この考え方は、上司自身の高い基準によるものであることが多いですが、すべてを自分で行うことは現実的ではありません。部下に仕事を任せることで、部下が新たなスキルを習得し、上司の負担が軽減され、チーム全体が効率よく業務を進めることが可能になります。
参考:Harvard Business School”How to Delegate Effectively: 9 Tips for Managers”
部下にスムーズに仕事を任せる方法
以下では部下に仕事をスムーズに任せるための方法について、先ほど紹介したハーバードビジネススクールの記事をもとに解説します。
任せられる仕事を見極める
まず、任せられる仕事を見極めることが重要です。すべての業務を任せられるわけではありません。一定の経験が求められる業務や機密性の高い業務は上司が担当し、それ以外の仕事を部下に任せることで、組織全体の効率を高めることができます。
また、仕事の優先順位を把握し、部下が負担なく業務を遂行できるように調整することも必要です。仕事の選定は、チーム全体のパフォーマンスを左右するため、慎重に行うべきといえます。
社員の強みと目標に合わせる
次に、部下の強みやキャリア目標に合わせて仕事を割り当てることが重要です。これにより、部下は自分のスキルを最大限に活かすことができ、モチベーションも高まります。部下が得意とする分野での仕事を任せることで、成果が上がりやすくなるだけでなく、部下の成長にもつながります。
また、上司は部下のキャリア目標を理解し、その目標に沿った仕事を与えることで、組織全体の成長を促進することができます。適材適所の考え方は、チームの成功に直結します。
望む成果を明確にする
仕事を任せる際には、望む成果を具体的に明示することが不可欠です。曖昧な指示では、部下は何を期待されているのか理解できず、結果的に誤った方向へ進んでしまう可能性があります。
目標や期待される成果を明確に伝えることで、部下は自信を持って業務に取り組むことができ、効率的な業務遂行が可能になります。また、上司としても、目標達成の進捗状況を把握しやすくなるため、必要に応じて適切なサポートを提供することができるでしょう。
リソースと権限を提供する
部下が仕事を遂行するために必要なリソースや権限を提供することも重要です。上司が十分なリソースや権限を与えない場合、部下は思うように業務を進めることができず、結果として業務全体の進行が遅れるリスクがあります。
上司は、部下が必要とする情報やツールを共有し、部下が自信を持って業務に取り組めるように環境を整えることが求められます。
オープンなコミュニケーションを意識する
部下が仕事に取り組む中で生じる疑問や問題を迅速に解決できるよう、オープンなコミュニケーションの場を設定することが重要です。
定期的なミーティングや進捗報告の場を設けることで、上司と部下の間の情報共有がスムーズに行われ、誤解やミスを防ぐことができます。良好なコミュニケーションは、チーム全体の連携を強化し、業務の効率化に寄与します。
失敗を許容する
部下が成長するためには、失敗を恐れずに挑戦できる環境が必要です。上司は、部下が失敗した際に過度に責めるのではなく、その経験を次に活かせるようサポートする姿勢が求められます。
失敗を許容することで、部下は安心して新しいことに挑戦でき、結果としてスキルアップや業務改善につながります。上司は、失敗を「成長の機会」として捉え、部下を励まし続けることで、チーム全体の能力を引き上げることができます。
忍耐強く接する
新しい仕事に挑戦する部下には、時間と忍耐が必要です。上司は、部下が新しい業務に慣れるまでサポートし、焦らずに部下の成長を見守ることが求められます。
初めての仕事に取り組む部下が期待通りに動けないこともありますが、上司はその過程を理解し、必要に応じてアドバイスや支援を行うことが重要です。忍耐強い姿勢で接することで、部下は自信を持ち、上司への信頼感も深まります。
フィードバックを提供し求める
定期的なフィードバックは、部下の成長を促進するために不可欠です。上司は、仕事を任せた後も、業務の進捗や成果に対して具体的なフィードバックを提供し、部下が改善すべき点や成功したポイントを理解できるようにしましょう。
また、部下からのフィードバックも積極的に受け入れ、上司自身の指導方法などを見直すことが大切です。双方向のフィードバックが行われることで、チーム全体のコミュニケーションが活性化し、より良い業務環境が築かれます。
成果を評価する
最後に、部下の成果を評価し、その努力を認めることが重要です。上司が成果を正当に評価することで、部下のモチベーションが高まり、今後の業務にも積極的に取り組むようになります。
評価は単に結果だけを見るのではなく、プロセスや努力も考慮することが大切です。また、成果を評価する際には、他の部下に対してもその貢献を称賛し、チーム全体の士気を高める工夫が求められます。
参考:Harvard Business School”How to Delegate Effectively: 9 Tips for Managers”
仕事を「任せる」と「押し付け」は違う
ウィチタ州立大学フランク・バートン・スクール・オブ・ビジネスの記事によると、仕事を任せる際に、「放棄」(または「押し付け」)をしてしまっている場合があるとされています。
簡単に言えば、押し付けとは、面倒だと感じることを他の人に委任する行為です。例えば、部下に仕事を任せて、「業務の報告は特に必要ない」と伝える場合などがこれに該当します。これでは完全に手を引いて、そのことについて二度と聞きたくない、関わりたくないと部下に捉えられてしまいます。
仕事を任せる際には部下のフォローアップ、仕事の進捗確認、評価、また指導することにも責任が発生し、一定の労力が必要になるのです。
円滑に仕事を任せていくためにも押し付けになっていないか、注意しましょう。
まとめ
部下に仕事を任せることは、組織の生産性向上とチームの成長に不可欠です。部下に仕事を任せる事により、部下のスキル育成や信頼関係の強化が図れます。適切な業務の選定、明確な目標設定、オープンなコミュニケーション、失敗を許容する姿勢が成功の鍵です。効果的な任せ方で、チーム全体のパフォーマンスを最大化しましょう。