「周りに迷惑をかけるわがままな部下がいて困っている…」
「わがままな部下は放置しておいても大丈夫?」
このような悩みや疑問をもつ管理職も多いでしょう。わがままな部下は自己中心的で他人を軽んじる言動をとる傾向が強く、職場に大きな悪影響をおよぼす恐れがあるため、早急かつ適切に対処する必要があります。
本記事では、わがままな部下を減らすために心がけるべきポイントなどについて解説します。社員一人ひとりがお互いを大切に思い合える職場づくりを目指す方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の監修者
曽和 利光(そわ・としみつ)
株式会社人材研究所 代表取締役社長
新卒で株式会社リクルートに入社後、ライフネット生命保険株式会社と株式会社オープンハウスを経て、2011年に株式会社人材研究所を設立。「人と、組織の可能性の最大化」をテーマに掲げ、人事、採用にコンサルティング事業などを展開。『人事と採用のセオリー』など、これまで多くの書籍を出版し、いずれも大きな話題を集めている。
わがままな部下の特徴
世界最大の経営学会である米国経営学会(AOM)の情報をもとに、わがままな部下の特徴を解説します。
手柄を横取りする
わがままな部下は、「常に注目・賞賛されたい」という願望を持っている傾向が強いです。そのため、以下のような形で、仕事の手柄を横取りする可能性があります。
横取り方法 | 例 |
---|---|
成果を独り占めにする | 複数メンバーで終わらせた業務を、自分一人でやったと報告する |
いいとこ取りをする | 面倒な資料作成を後輩に押し付け、当日の発表だけ担当する |
手柄を捏造する | 同僚のアイデアを盗み、自分のオリジナル案として提出する |
デブリー大学によると、社員の仕事の成果を公正に評価することはモチベーションアップだけでなく、生産性の向上や離職率の低下にも効果的だとされています。逆に、手柄を横取りする社員を放置することは、他の社員に悪影響をおよぼす恐れがあるともいえます。
他人の時間を大切にしない
わがままな部下の中には、自分のことだけを考え、他人の時間を平気で奪う人も多いといわれています。
その一例として、相手の都合を考えずに、頻繁に電話で連絡してくる社員にいら立った経験はないでしょうか。電話はメールやチャットのように、文字を入力する手間を省き、スムーズに連絡を取れる手段です。しかし、受け取る側は電話によって仕事を中断しなければならず、時間を奪われている感覚になるかもしれません。
デジタルマーケティング事業を営む株式会社NEXERの調査によると、「社内連絡について“電話連絡であることが迷惑”だと感じたことがありますか?」との問いに、45.8%が「ある」と回答しています。緊急時などは除き、自分のタイミングでやり取りができるメールやチャットを好む人が多いようです。
以下のように、電話以外にも他人の時間を奪う行為は数多くあります。
- 調べればすぐにわかることを質問する
- 会議に遅刻する
- 打合せでどうでもいいことをダラダラ話す
上記のような行為を日常的に行う「時間泥棒」は、他の社員の生産性を下げることになりかねないため、扱いに注意が必要です。
有益な情報を共有しない
わがままな部下は、有益な情報を共有しない傾向があります。
例として、部下が業務を効率化する方法を発見したとします。協調性の高い社員であれば、その方法を他の社員にも共有し、チーム全体での生産性アップを目指すでしょう。しかし、わがままな部下の場合、その方法を誰にも教えずに、自分だけのノウハウとして独り占めする可能性が高いです。
ナレッジマネジメント(KM)の教育・研究機関であるKMIによると、自己中心的な社員が情報を共有しない場合、以下が原因として考えられます。
- 情報共有する時間が無駄だと考えている
- 他の社員よりも優位でありたい
- 情報共有の必要性を感じない
上記を見ると、わがままな部下はチームとして結果を残すことよりも、自分が成果を挙げることが最優先事項だとわかります。
責任感がない
わがままな部下には、責任感が欠如していることが多いとされています。
株式会社ネクストレベルが、部下を持った経験がある人を対象に「困った部下」の特徴を尋ねたところ、もっとも多かった回答が「責任感がない」(34.9%)でした。また、責任感がない部下の行動として、同調査では以下のようなエピソードが挙げられました。
- 指示しても「わからない」という理由で、他の従業員に仕事を押し付ける
- 仕事の期限ぎりぎりになって「できない」と泣きついてくる
- 仕事の説明をしている途中でいきなり立ち上がって昼食に出かけた
- 急に連絡が取れなくなり、そのまま休職した
上記を見ると、責任感がない人間は「他力本願である」ことがわかります。仕事で何かしら問題に直面しても、「周りの誰かが解決するから、自分が努力する必要はない」と考えているのかもしれません。
周囲のアドバイスを聞かない
わがままな部下は、周囲からのアドバイスを聞かない傾向が強いとされています。ベンナビ労働問題の調査でも、部下を持ったことがある人の約11.5%は、「話を聞かない/意見を聞き入れない」部下に不満を感じていることがわかっています。
▼周囲のアドバイスを聞かない部下の特徴
特徴 | 例 |
---|---|
助言を無視する | 効率的な業務の進め方を教えても、我流を貫く |
注意・指導を受け入れない | 遅刻しないよう注意しても、言い訳ばかりで反省しない |
先ほども述べたとおり、自己中心的な人間は「常に注目・賞賛されたい」という願望を持ちがちです。そのため、「アドバイスされる=自分自身を否定される」ように感じてしまうのかもしれません。
ルールを守らない
会社では就業規則にも、職場ごとに独自のルールが決められている場合が多いでしょう。自己中心的な部下は、これらのルールを守らない傾向が強いとされています。
ネバダ大学の研究グループによると、従業員がルールを守らない要因としては、主に以下が挙げられます。
ルールを破る要因 | 例 |
---|---|
自分が得するため | ルール:職場で提供されている備品は、業務以外で使用してはいけない →プライベートでも備品を使用する |
業務を効率化するため | ルール:部署Aに仕事を依頼する際は、上長に申請書を提出しなければならない →部署Aの担当者に直接仕事を依頼する |
必要性を感じないため | ルール:毎日、業務終了後に日報を提出しなければならない →日報を提出しない |
職場のルールは、業務上何かしらの理由があって定められたはずです。1人の社員がルールを破ることで、会社や他の社員が損失を被る場合は、適切な処置・処分が必要になるでしょう。
権利ばかり主張する
わがままな部下は、権利主張が激しいことが多いといわれています。
もちろん、部下が権利を主張する行為自体は問題ありません。労働者は労働基準法や民法に基づき、以下のような権利を認められているからです。
労働者の権利 | 概要 |
---|---|
賃金の受け取り | 賃金は労働者に直接、通貨でその全額を支払わなければならない(労働基準法第24条)。 ※賃金には、残業代や退職金なども含まれる |
休憩・休日の取得 | 一定の労働時間を超えた場合、所定の休憩時間を与えなければならない(労働基準法第34条)。 毎週最低1日は休日を与えなければならない(同35条)。 一定の要件を満たした場合、継続勤務年数に応じて有給休暇を付与しなければならない(同39条)。 |
退職の自由 | 期間に定めのない雇用契約の場合、申し入れ日から2週間以上経過すればいつでも退職できる(民法第627条)。 ※期間に定めがある雇用契約の場合、契約期間中は原則退職できない |
上記以外にも、就業規則や労働契約書で規定されている権利を求めることは至極当然といえます。
一方で、自己中心的な部下に多いのは「労働者としての義務を果たさずに、権利ばかり主張している」ケースです。このような自分勝手な社員を放置すると、権利主張がどんどんエスカレートしていくだけでなく、周りの社員にも悪影響をおよぼす可能性があるとされています。
権利主張が激しい部下の問題点や適切な対処法について、より詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
参考:
Academy of Management “15 Signs You Work with a Narcissist, Machiavellian, or Psychopath”
DeVryWorks “5 Reasons Recognition Matters… and 1 Powerful Yet Underutilized Lever for Recognition”
PR TIMES「【社内の電話連絡】45.8%の方が“迷惑”だと感じたことが「ある」」
Knowledge Management Institute “Why Employees Don’t Share Knowledge with Each Other”
ベンナビ労働問題「8割の上司が部下に不満があると判明!2,432人の上司にアンケート調査を実施」
わがままな部下が職場に与える影響
わがままで他人を思いやれない部下を放っておくと、組織にさまざまな悪影響をおよぼす恐れがあります。
ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究によると、従業員は職場で軽視されていると感じると、他の社員のことも同様に軽視し始めるようになることがわかっています。この状態を放置すると、組織は以下のような損害を受けるといわれています。
- メンタルヘルスの悪化
- 生産性の低下
- 離職率の上昇
以上のことから、もし一部の部下に自己中心的で他人を軽んじる言動が見られる場合は、それが周りの社員にも伝染する前に、上司が早急に対処することが重要といえます。
参考:
University at Buffalo “Toxic behavior recycled in the workplace, study finds”
わがままな部下が増えた原因は上司の指導力不足?
以前と比べ、わがままな部下が増えた大きな要因として、「上司の指導力が不足している」のはたしかでしょう。
近年では職場内でのハラスメントの基準が厳しくなっており、部下への指導方法に悩む上司が多いといわれています。株式会社アスマークが中間管理職を対象に実施した調査では、「部下にパワハラだと思われそうで指導しづらいと感じることはありますか」との問いに、約46%が「よくある」「時々ある」と回答しています。ハラスメントで訴えられるのを恐れて、強く指導できない上司が増えたことで、自己中心的で横柄な態度をとる部下も増えたのでしょう。
ただし、職場にわがままな社員がいるからといって、上司の指導力に100%問題があるとは限りません。たとえば、彼らの中には生まれつき、もしくは育った環境の影響で、「自己愛性パーソナリティ障害」と呼ばれる精神疾患を抱えている者がいるかもしれません。
オンライン医学事典のMSDマニュアルによると、自己愛性パーソナリティ障害には以下のような、わがままな社員に特有の特徴が見られるとされています。
- 周りから賞賛されたい欲求が強い
- 自分の能力を過大評価する
- 自分の業績を誇張する
- 他者の能力を過小評価する
このような精神疾患を抱えている社員だと、いくら上司が適切に指導しても、発言や行動を改善できない可能性があります。上司の力だけで解決できない場合は、周りの社員や専門家に相談するのも一つの手段です。
参考:
PR TIMES「上司に聞いた”叱責”に関する実態調査~「パワハラと思われそうで指導しづらい」と感じる30代男性は5割以上」
わがままな部下を減らすために上司が心がけるべきポイント
わがままな部下に対して、上司がとるべき適切な対処法を解説します。
チームワーク重視の文化を育む
社内全体で「チームワークを重視する文化」を育むことが重要です。一人ひとりがチームワークの重要性を理解していれば、以下のような利己的な行動は起きにくくなると考えられます。
- 他人の手柄を横取りする
- 有益な情報を独り占めする
- ルールを守らない
サウスカロライナ大学エイキン校によると、社内でチームワーク重視の文化を築くには、以下のポイントを意識すると効果的とされています。
ポイント | 具体例 |
---|---|
目指す方向性を一致させる | 会社のビジョンを共有する(目的:チームとして達成すべき目標や、個々の役割が理解しやすくなる) |
チームビルディング・アクティビティを行う | ペアを組み、片方が職場でのネガティブな経験を話し、もう片方がそれをポジティブに捉えなおす(目的:逆境を生産的な経験に変えるために協力する) |
オフィス内外でイベントを開催する | 業務時間中に飲み会を開催する(目的:社員が異なる環境で一緒に時間を過ごすことで、チームの一体感を高める) |
協力的な模範行動を示す | 過去にチームで協力したことで成功した事例を、社内全体で共有する(目的:具体的な模範行動を知ることで、社員もチームワークの重要性を理解しやすい) |
批判しない | チームの目標が達成できなくても、責任を押しつけない(目的:改善点を話し合うことで、チーム全体で成長できる) |
仕事の報告書をこまめに提出させる
部下の仕事内容を正確に把握するために、仕事の報告書をこまめに提出させましょう。
先ほども述べたとおり、わがままな部下の中には、他の社員の手柄を横取りする者もいます。米国人材マネジメント協会(SHRM)によると、自分の手柄を他の社員に横取りされた場合は、「仕事の記録を証拠として提出する」のが有効と述べています。
部下に日報や週報などの形で報告書を提出させれば、手柄の横取りなどのトラブルを未然に防げる可能性が高いです。この際、作業内容や関係者との打合せ内容など、仕事内容を詳細に記録させておけば、証拠としての信頼度をさらに高められるでしょう。
フィードバックを積極的に行う
部下の仕事のパフォーマンスやプロセスに対して、積極的にフィードバックを行うことが重要です。
すでに述べたとおり、わがままな部下の中には、責任感が欠如している者も多いといわれています。このようなタイプは、定期的にフィードバックを行うことで改善できるかもしれません。
法人向けのコーチングサービスを提供する株式会社コーチ・エィの調査によると、上司からフィードバックを受ける頻度が高いほど、「自分の目標と組織の目標のつながりを理解している」社員が多いことがわかっています(下表参照)。
フィードバックの頻度 | 自分の目標と組織の目標のつながりを理解している |
---|---|
週1回以上 | 50% |
月1回以上 | 35% |
年に数回程度 | 17% |
フィードバックを受けていない | 18% |
また同調査では、フィードバックを頻繁に受けている社員ほど、モチベーション高く仕事に取り組んでいることも判明しています。会社と社員が目指す方向性が統一されることで、「会社を成長させたい」という意欲が増すからでしょう。
なお、オレゴン州立大学の研究結果によると、フィードバックをする際は「ポジティブなフィードバックを多めに(最低でも80%以上)」行うのがよいとされています。人間はネガティブな出来事の方が記憶に残りやすい構造になっており、ネガティブなフィードバックばかりだと、かえってモチベーションを低下させかねないからです。
また、ポジティブなフィードバックをする際は、仕事の成果だけでなく、その過程や努力も評価するとより効果的とされています。
▼(例)ポジティブなフィードバック
「ここ最近、毎日遅くまで資料を作ってくれてありがとうございます。あなたのおかげで、A社との商談は無事に成功しました。」 |
行動に焦点を当てて注意する
部下を注意する際は、行動に焦点を当てて注意しましょう。
ルールを守らない、他の社員に迷惑をかけるなど、部下に問題行動が見られる場合は、上司から注意しなければならないケースもあるでしょう。マルケット大学によると、部下を注意する際は、以下の3点を意識すると効果的とされています。
- 問題行為に気づいたら「すぐに」注意する
- 「人格」ではなく「行動」を注意する
- 「ポジティブなメッセージ」も混ぜる
上記の中でも、とくに【「人格」ではなく「行動」を注意する】という点が重要です。人格や性格を否定してしまうと、余計に反抗的になり、関係性が悪化する恐れがあるからです。
▼(例)遅刻が多い部下に注意する場合
良い例 | 「昨日はA社とのプレゼン資料を作ってくれてありがとうございます。1点、注意していただきたいことがあります。今週だけで、3回遅刻していますね。あなたが遅刻することで、他のメンバーに迷惑がかかることもあるので気をつけてください。」 |
悪い例 | 「最近遅刻が多いですよ。やる気がないんですか?」 |
無理な要求ははっきりと断る
部下の無理な要求ははっきりと断りしましょう。
先ほども述べたように、わがままな部下はしばしば権利を主張します。もちろん、労働者として認められている権利を主張された場合は、素直に受け入れるべきでしょう。しかし、法律や就業規則で規定されていない、無茶な要求をされた場合ははっきり「ノー」と拒否することが重要です。
非営利の人材教育組織であるアメリカン・マネジメント・アソシエーション(AMA)によると、部下の要求を拒否するには以下の3ステップを踏むのが有効とされています。
ステップ | 例 |
---|---|
1. はっきりと拒否する | 「テレワークは認められません」 |
2. 理由を説明する | 「我々の仕事は店舗に来るお客様を相手にするため、家でできることがほとんどありません」 |
3. 代替案を提示する | 「他の部署だとテレワークが認められているところもあるので、部署異動が可能か聞いてみましょうか?」 |
改善が見られない場合は上長や専門家に相談する
わがままな部下の問題行動に対して、いくら指導しても一向に改善が見られない場合もあるかもしれません。この場合は、上長や専門家に相談するのも一つの手です。
浅野総合法律事務所の見解によると、部下が上司の言うことを聞かない場合は、「逆パワハラ(部下から上司へのパワハラ)」が成立する可能性があるとされています。具体的には、以下のような行為が逆パワハラに該当します。
- その日締め切りの業務を、残業して終わらせるよう指示したが、無視して定時で帰る
- 部署で定められている業務フローを無視し、独自のやり方で業務を進める
- 業務態度について注意すると、「パワハラだ」と脅される
上司も一人の人間であり、部下から上記のような嫌がらせを受け続けると、精神的に疲弊してしまうかもしれません。いくら指導しても改善が見込めない場合は、一人で抱えこまずに、周りの力を借りることも大切です。
参考:
SHRM “Ask HR: What Should I Do When Someone Takes Credit for My Work?”
PR TIMES「上司からのフィードバック頻度が高いほど、「自分の目標と組織の目標のつながりを理解している」人が多いことが明らかに」
Marquette University “The thriving workplace: how to deal with difficult employees”
American Management Association “How to Say No to an Employee Request”
弁護士法人Authense法律事務所「逆パワハラとは?上司が取るべき対応を弁護士がわかりやすく解説」
まとめ
わがままな部下を減らすために、上司が心がけるべきポイントについて解説しました。
わがままな部下は、自己中心的で他人を軽んじる言動をとる傾向があります。このような社員を放置すると、生産性の低下や離職率アップなど、職場に大きな悪影響をおよぼす恐れがあります。
本記事で紹介したポイントをふまえ、部下のわがままな言動には適切に対処し、社員一人ひとりがお互いを大切に思い合える職場づくりを目指しましょう。
日常的な問題行為の場合、「鉄は熱いうちに打て」ということわざの通り、行為があった瞬間の指摘が重要です。そのためには、上長以外の社員も含めた「全員がお互いを育てる」という考え方が必要です。それは、ある問題行為を、その場にいなかった上司が人から聞いた話でもって指摘をすると、指摘された社員は不公正感を生じさせるためです。
ある企業では、これまで役職者の役割定義における“人材育成”という行動を、責任は役職者にありつつも一定の等級以上の等級要件に“人材育成”の要素を含めたところ、互いに嬉しかった行動や違和感がある行動をフィードバックしあい、期末の行動指針評価のスコアが平均20%上昇しました。