「新入社員をOJTで教育できる人材がいない…」
「OJTで新人を教育する時間がない…」

このような悩みを抱える管理職も多いでしょう。新入社員を育成する上で、OJTは非常に効果的な教育手法です。しかし、新人のOJT教育において、何かしらの悩みや問題を抱えている企業は多いといわれています。

本記事では、新入社員のOJT教育について、よくある課題や成功させるためのポイントなどを解説します。新入社員に適切なOJT教育を施し、優秀な若手人材を育成したい方は、ぜひ参考にしてください。

OJTとは?OFF-JTや自己啓発との違い

OJTとは、新入社員や経験の浅い社員に対し、職場での実務を通じて必要な知識やスキルを学習させる教育手法です。たとえば営業職の場合だと、先輩社員の商談に同行させ、営業技術を間近で観察させるのもOJT教育に含まれます。

従業員に対する教育手法はOJT以外にも、OFF-JTや自己啓発などがあります(下表参照)。

教育手法概要
OJT職場での実務を通じて、必要な知識・スキルを習得する先輩社員の商談同行
OFF-JT職場外で行なわれる研修やセミナーに参加し、知識・スキルを体系的に学習するビジネスマナー研修
自己啓発業務外で自主的に取り組み、知識・スキルの向上を目指すTOEICの受験・対策

本記事では新入社員のOJT教育について、メリットやよくある課題、成功させるポイントなどを解説します。

新入社員をOJTで教育するメリット

新入社員をOJTで教育するメリットについて解説します。

教育コストを抑えられる

OJTは実務の一環で行われるため、教育コストを安く抑えられる可能性が高いです。

例として、新入社員を先輩社員の商談へ同行させる場合を想定すると、このOJT教育には、主に以下の2種類のコストが発生します。

  • 新人・先輩社員の人件費(時給)
  • 新人・先輩社員の交通費

もちろん例外はあるものの、OJT教育にかかるコストは上記のように、「本人+上司・先輩社員の人件費」が大部分を占めるケースが多いでしょう。

一方、OFF-JTの場合だと、OJTよりもコストが高くなる可能性が高いです。たとえば、社外で開催される研修に数日間参加した場合は、以下のようなコストが発生します。

  • 新人・同行社員の人件費(時給)
  • 外部研修・セミナーの受講費
  • 外部講師の人件費
  • 会場のレンタル・設営代
  • 交通費・宿泊費

産労総合研究所の調査結果によると、企業1社あたりの教育研修費用総額は平均で年間約7,000万円かかるとされています。この費用には受講者自身の人件費は含まれていないため、実際のコストはさらに大きくなるでしょう。

一人ひとりに合わせた教育ができる

新入社員のOJT教育は、新人一人ひとりに指導係の先輩社員がつくのが一般的とされています。そのため、新入社員それぞれのレベルや能力に合わせた教育がしやすいといえます。

たとえば、営業部に配属された新入社員の場合であれば、以下のように新人のスキルに合わせた教育プログラムを組むことが可能です。

  • 3ヶ月目までは、事務作業や先輩社員の商談への同行など、簡単な業務に取り組む
  • 4ヶ月目からは上司や先輩社員のフォローを少しずつ減らし、1人でできる仕事を増やす
  • 8ヶ月目以降は売上目標を定め、他の社員と同様に仕事を進める

一方OFF-JTの場合は、複数人を相手に実施されることが多いとされています。大人数に対して、同じ内容を一度に教えるのには向いていますが、各人のレベルに合わせた教育はしにくいでしょう。

人間関係を築きやすい

OJT教育において、新入社員は先輩社員から仕事のやり方を教わったり、フィードバックを受けたりすることで、日常的にコミュニケーションを取ります。そのため、良好な人間関係が築きやすいとされています。

新入社員の多くは、職場の人間関係に不安を感じているといわれています。一般社団法人日本能率協会が新入社員を対象に実施した調査でも、仕事をしていく上での不安について、最も多かった回答は「上司・同僚など職場の人とうまくやっていけるか(64.6%)」でした。もし、OJTを通じて先輩社員と良好な関係が構築できれば、人間関係の不安が解消され、モチベーションの向上も期待できます。

ただし、人間にはどうしても相性があるため、OJTによって人間関係がかえって悪化する可能性もゼロではありません。上司は新人とOJT担当の様子をこまめに観察し、万一関係改善が難しいと判断した場合は、OJT担当を変更するなどの対処が必要かもしれません。

実践的なスキルが身につく

OJT教育だと、新入社員に実践的なスキルが身につきやすいといわれています。先輩社員から現場での実務を通じて、直接指導やフィードバックを受けられるからです。

たとえば製造現場におけるOJT教育の場合、機械の正しい使い方やメンテナンス方法などを、その場で教わることができます。また、教わったやり方をすぐに実践し、フィードバックも受けられるため、知識や技術をよりスムーズに習得可能です。

もちろん、OFF-JTでも実践的なスキルが身につかない訳ではありません。しかし、現場から離れた環境で実施されることが多いため、知識や技術を体系的に学ぶのには向いているものの、実践的なスキルはOJTの方が習得しやすいといえます。

参考:

産労総合研究所「2022年度 教育研修費用の実態調査」

PR TIMES「【日本能率協会・アンケート調査】「2022年度 新入社員意識調査」~新入社員の理想の上司・先輩は「丁寧に指導する人」が7割!」

新入社員のOJT教育でよくある課題

厚生労働省の「令和5年度能力開発基本調査」の結果をもとに、新入社員のOJT教育でよく挙げられる課題について紹介します。

指導できる人材がいない

新入社員を指導できる人材がおらず、悩む企業や担当者は多いといわれています。厚生労働省の調査でも、人材育成に関する問題点について、もっとも多く挙げられたのが「指導する人材が不足している(57.1%)」でした。

指導する側の人材が不足している原因として、新人教育のノウハウが社内で共有されておらず、行き当たりばったりの教育をしてしまっていることが考えられます。その結果、指導にバラつきが生まれたり、新人に思ったような成長が見られなかったりするのでしょう。

以上のことから、新入社員を効果的に教育するには、まず指導担当の社員に対する教育やフォローが必要といえます。

教育にかける時間の余裕がない

新入社員の教育を担当する社員は、自分の通常業務に加えて、新人の教育に時間を割かなければなりません。そのため、「新入社員を教育する時間の余裕がない」という問題もよく挙げられます。

厚生労働省の調査でも、人材育成に関する問題点として、47.6%の企業や担当者が「人材育成を行う時間がない」と回答しています。

新入社員を教育する時間がない要因について、社内で人手が不足しており、新人教育に充てる時間が本当に足りないケースも中にはあるでしょう。しかし、実際は非効率な教育方法によって、無駄な時間を多く費やしている可能性も考えられます。

そのため、最小限のリソースで効率よく教育するノウハウを、社内で共有することが重要といえます。

すぐに辞めてしまう

せっかく育てた新入社員が、すぐに辞めてしまうケースも多いといわれています。厚生労働省の調査でも、53.2%の企業や担当者が「人材を育成しても辞めてしまう」ことで悩んでいるとされています。

新入社員が早期離職する原因として、新人教育のやり方に問題がある可能性が考えられます。満足のいく教育を受けられなかった新入社員は、「自分は会社から大切にされていない」と感じ、モチベーションが低下してしまう恐れがあるからです。

また、経営コンサルティング事業を営むウィンハーストグループの調査でも、「適切な新人教育を受けた従業員は、3年後も組織に留まる可能性が58%高くなる」ことがわかっています。この結果からも、新入社員教育と早期離職率には密接な関係があるといえるでしょう。

なお、新入社員が早期離職してしまう要因は、新人教育の良し悪しだけではありません。厚生労働省が若手社員(10~20代)を対象に実施した「令和5年雇用動向調査」によると、主な離職理由として以下が挙げられています。

  • 労働条件(労働時間や休日日数)が悪い
  • 人間関係が好ましくない
  • 仕事内容に不満がある
  • 収入(給料など)が少ない

新入社員が退職するのを防ぐポイントについて、詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

新人自身に学ぶ姿勢が足りない

OJT教育を受ける新入社員自身に学ぶ姿勢が足りず、教育がうまくいかないケースも多いといわれています。

厚生労働省の調査によると、27.3%の企業や担当者が「鍛えがいのある人材が集まらない」と回答しています。また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査でも、仕事をする能力を高めるうえでの課題について、とくに多く挙げられた意見が「従業員の間に能力を伸ばそうとする雰囲気が乏しい(20.5%)」でした。これらの結果から、新入社員教育がうまくいかないのは指導する側だけではなく、指導される方にも問題が見られる場合があるといえます。

新入社員に学ぶ姿勢がない要因の1つとして、仕事のミスマッチが起きている可能性が考えられます。ミスマッチを防ぐためには、現場の上司自らが採用活動に参加し、適切な人材を選抜する必要があるかもしれません(詳細は後述)。

金銭的に余裕がない

厚生労働省の調査によると、14.5%の企業や担当者が「育成を行うための金銭的余裕がない」点を、人材育成の問題点として挙げています。金銭的な問題から、新入社員に十分な教育ができていない企業も少なくないことがわかります。

しかし、金銭的に厳しくても、新入社員教育にかけるコストをカットすることは望ましくありません。ギャラップ社が世界中の企業を対象に実施した調査によると、従業員が1人退職するごとに、給与の半分~2倍相当の損失コストが発生することがわかっています。このコストには、従業員が退職したことで低下した生産性や、新たな社員を雇う費用も含まれています。

会社で新入社員を教育するにあたって、条件を満たせば補助金がもらえるケースもあります。新人教育に割く金銭的な余裕がどうしてもない場合は、この補助金に頼るのも一つの手です(詳細は後述)。

参考:

厚生労働省「令和5年度「能力開発基本調査」(調査結果の概要)」
厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(企業調査、労働者調査)結果」
Gallup “This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion”

新入社員のOJT教育の流れ

リンデンウッド大学の情報をもとに、新入社員のOJT教育の大まかな流れについて解説します。

ステップ1. 目標を定める

まずは新入社員をどのような人材に育てたいのか、教育の目標を定めましょう。目指す方向性を明確にすることで、育成の進捗や課題が把握しやすく、効果的な教育ができるからです。

なお、リンデンウッド大学では目標を設定するにあたって、「SMARTの法則」に従うことを推奨しています。SMARTの法則とは、以下の5つの基準に沿って目標を設定する手法を指します。

  • Specific(具体的な)
  • Measurable(測定可能な)
  • Achievable(実現可能な)
  • Relevant(関連性がある)
  • Time-Bound(期限がある)

▼(例)新入社員のSMART目標

3ヶ月以内に10件以上の保険契約を新規で獲得する

教育目標の設定方法について、詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

ステップ2. 計画を立てる

目標が設定できたら、次に教育計画を作成しましょう。計画を立てることで、目標達成するための具体的な道筋が決まり、新入社員を無駄なく効率的に教育できるからです。

リンデンウッド大学では、より具体的で効果的な教育計画を作成するために、以下の5つの項目を設けることを推奨しています。

  • 目標:どのような人材に育てたいか、どのようなスキルを身につけさせたいか
  • 方法:目標を達成するために、どのような教育や訓練を行うか
  • 進捗:目標をどの程度達成できているか、今後の予定はどうなっているか
  • コスト:目標を達成するまでにどのくらいの費用がかかるか
  • 評価基準:目標をクリアしたと判断できる基準は何か

▼(例)新入社員の教育計画

目標3ヶ月以内に20件以上の保険契約を新規で獲得する
方法・自社の保険商品の特徴やメリットを理解する
・優秀な先輩社員の商談風景を観察し、営業技術を学ぶ
・月に一度ロープレを行い、上司や先輩社員からフィードバックをもらう
進捗・6月末現在、新規契約数は11件
・自社商品の理解は商談をする上で問題ないレベルに達している
・このままのペースでは目標達成が厳しいため、7/3にロープレを実施し改善策を検討する
コスト・新人の人件費:約60万円
・上司・先輩社員の人件費:約10万円
評価基準・7/31までの新規契約獲得数が20件以上
・販売した保険商品について、後日クレームを受けない

新入社員の教育計画の作成方法について、詳細を知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

ステップ3. 指導する

続いて、教育計画に沿って新入社員を指導します。

リンデンウッド大学によると、指導する際はフィードバックもセットで実施するのが効果的とされています。こまめにフィードバックを行うことによって、新人は自分の成長度合いや課題を知ることができ、成長スピードが促進されるのはもちろん、モチベーションの向上にも役立つためです。

また、「GROWモデル」を用いることで、より具体的かつ効果的なフィードバックが可能になるとされています。ここでいうGROWとは、以下の頭文字をとった言葉です。

  • Goal(目標):新人の目標は?
  • Reality(現実):新人の現状は?これまでに上げた成果は?
  • Options(選択肢):目標を達成するための課題や障害は?それを解決する方法は?
  • Will(意志):まずは何から始める?成し遂げる決心はついた?

▼(例)新入社員へのフィードバック

Goal
(目標)
3ヶ月以内に20件以上の保険契約を新規で獲得する
Reality
(現実)
・約2ヶ月が経過し、11件の新規契約を獲得
・自社商品への理解は問題なし
Options
(選択肢)
・契約成約率がやや低く、目標ペースからやや遅れを取っている
・話し方や表情など、基本的な営業スキルが改善できるため、ロープレを実施予定
Will
(意志)
・基本的な営業スキルを改善するだけで、成約率はアップすると予想
・ロープレの日程や人員の調整を行う

ステップ4. 評価する

最後に、新入社員の仕事ぶりを評価しましょう。ここでいう評価とは、ステップ3のフィードバックとは別で、まとまった期間(半期や年度末)ごとに実施するものを指します。

株式会社シェイクが新入社員を対象に実施した調査によると、「どのようなときにモチベーションが高まるか」という質問に対し、主に以下のような回答が得られました。

回答割合
誰かから成果や努力を認められたとき55.7%
自分自身の力で目標を達成したり、ものごとをやり遂げたとき47.1%
自分自身の成長を感じたとき44.1%

上記の結果を見ると、新入社員の多くは承認欲求や成長欲求を持っていることがわかります。そのため、新人の努力や成果を正当に評価することで、モチベーションを高める効果が期待できます。

なお、評価はステップ2で設定した「評価基準」をもとに行いましょう。たとえば、評価基準が「7/31までの新規契約獲得数が20件以上」の場合は、7月中に20件の契約を獲得し終えた時点で目標達成と評価します。

参考:

Lindenwood University “Planning for Employee Development”

PR TIMES「【調査レポート公開】2022年度新⼊社員のリアルと自律をうながす育成のポイント~モチベーションが高まるポイントは「承認」「達成」「成長」~」

新入社員のOJT教育を成功させるためのポイント

新入社員のOJT教育を成功させるために、上司が心がけるべきポイントについて解説します。

OJT担当者の教育も実施する

新入社員を指導するOJT担当者に対しても、教育を実施することが重要です。

先ほども述べたように、新入社員を指導できる人材が不足している企業は多いといわれています。OJT担当者にも教育を施し、新人教育の効果的なノウハウが社内で共有されれば、このような問題は解決される可能性が高いです。

スタンフォード大学医学部では、OJT担当者を教育するにあたって、以下のステップを踏むことを推奨しています。

  • ステップ1. OJT教育の目標を定める
  • ステップ2. 目標達成に向けた計画を作成する
  • ステップ3. OJT研修や上司との定期的なミーティングなど、OJT教育の情報共有やアドバイスを行う
  • ステップ4. 目標が達成できているか、OJT教育の成果を評価する

上記を見ると、OJT担当者に対する教育は、新入社員への教育と流れがほぼ同じであることがわかります。手間が発生しますが、優秀な人材を育成し定着させるためにも、新入社員とOJT担当者の両方をフォローすることが大切といえます。

OFF-JTや自己啓発も組み合わせる

新入社員教育はOJTだけでなく、OFF-JTや自己啓発も組み合わせることが大切です。先輩社員は新人教育以外に自分の仕事も持っており、OJTだけで必要な知識・スキルをすべて教えるのは時間的に難しい可能性があるからです。

OFF-JTであればコストはかかるものの、まとまった人数に対して同時に同じ内容を教育できます。たとえばビジネスマナーは、すべての職種で習得する必要がある知識なので、社内もしくは社外の研修を受講する方が効率的でしょう。

また、自己啓発も新入社員自身が空いた時間で学習を行うため、限られた時間を有効活用できます。ただし、厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、自己啓発を行っている労働者は34.4%と少数であることがわかっています。自己啓発ができない理由としては、「仕事が忙しすぎる」「費用がかかりすぎる」などが挙げられています。そのため、新入社員に自己啓発を促したい場合は、

  • 自己啓発費用の一部を補助する
  • 資格を取得したら昇給する

など、「会社として自己啓発を推奨している」ことをアピールする施策が必要かもしれません。

教育時間を短縮できるシステムを導入する

新入社員教育に割く時間がどうしても足りない場合は、教育時間を短縮できるシステムを導入することも一つの手です。

近年ではAIの進化により、業務を効率化できるさまざまなツールやシステムが開発されています。たとえば、株式会社9Eでは、録画や文字起こしを一元的に担うAIツール「ACES Meet(エーシーズミート)」を導入しています。9Eでは、ACES Meetを会議や商談の議事録作成に用いるだけでなく、録画した映像を新入社員研修やOJTにも活用しました。その結果、OJTの育成工数を50%、ロープレの工数を60%削減したとされています。

新人教育のリソース不足に悩んでいる企業は、上記のような業務効率化システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

感謝の気持ちを日常的に示す

新入社員をはじめ、部下には日頃から感謝の気持ちを示すことが重要です。

人材育成事業を手がける株式会社ラーニングエージェンシーが実施した「仕事と感謝に関する調査」によると、「感謝を伝えられている人ほど仕事の充実度は高い」傾向であることがわかっています。つまり、上司から部下に感謝の気持ちを日常的に伝えることで、部下のモチベーションを高める効果が期待できます。

また同調査では、「感謝を「伝える頻度」は「伝えられる頻度」に比例する」という結果が出ています。したがって、上司が部下へ積極的に感謝を示すことで、部下からも感謝され、お互いに感謝し合う文化が職場内に根付く効果も期待できます。

ただし、適当に「ありがとう」と言うだけでは、部下へ感謝の気持ちが真に伝わるとは限りません。クリエイティブリーダーシップセンター(CCL)によると、部下への感謝を示す際は、以下のポイントを意識することが効果的とされています。

  • 部下の献身や努力に感謝する
  • 部下の性格や成果によって、伝え方を工夫する
  • 感謝の気持ちを具体的に表す
  • 嘘偽りのない気持ちを伝える

▼(例)新入社員への感謝のメッセージ

いつもお疲れ様です。最近頑張っていますね。とくに先週のプレゼンでは、あなたの丁寧な準備と一生懸命さが相手に伝わり、契約を獲得できたと思います。新入社員でありながら、あれだけのプレゼンができたことは高く評価されるべきです。

あなたの新しい環境や課題に対して常に挑戦する姿勢は、他のメンバーにとっても非常に良いお手本です。これからも一緒に頑張りましょう!

ワークライフバランスを重視する

新入社員のワークライフバランス、すなわち仕事だけでなくプライベートにも十分配慮することが大切です。

とくに近年の若手社員は、ワークライフバランスを重視する傾向が強いといわれています。株式会社SHIBUYA109エンタテイメントが、Z世代(15~24歳)を対象に実施した調査でも、87.9%が「ワークライフバランスを大事にしたい」と回答しています。

今の若者は、幼少期からインターネットやSNSを通じて、多種多様な情報に触れてきています。そのため、他の世代と比べて興味関心の幅が広く、人生設計において仕事と同程度に、プライベートの時間も重視しているのでしょう。

▼(例)新入社員のワークライフバランスへの配慮

  • 手が回っていないときは他の社員に仕事を振り、極力残業を発生させない
  • 有給休暇を積極的に取らせ、取得理由を問わない
  • 育児や介護がしやすいよう、在宅勤務を認める

採用活動へ積極的に参加する

新入社員教育を成功させるには、意欲的に学ぶ姿勢のある人材を入社させることが望ましいのは言うまでもありません。そのためにも、採用活動を人事部任せにせず、現場の上司自らが積極的に参加することが重要です。

採用活動に参加する手段として、たとえば求人応募者とカジュアル面談を行うのも有効でしょう。カジュアル面談とは、企業側と応募者がリラックスした雰囲気で対話し、相互理解を深める目的で行われるものです。カジュアル面談は通常の面接と違い選考ではなく、あくまで相互理解を深めるためのものなので、採用後のミスマッチを防ぐ効果が期待できます。株式会社学情が20代の若手社員を対象に実施した調査でも、69.5%がカジュアル面談を通じて「志望度が上がった」と回答しています。

他にも職場見学やインターンシップなど、採用活動に関わる手段は数多くあります。「新人教育は採用活動の時点からすでに始まっている」という意識を持ち、現場の上司が応募者に対して関心を持つことが大切といえます。

人材開発支援助成金を活用する

新入社員教育を行う金銭的な余裕がどうしてもない場合は、「人材開発支援助成金」を活用するのも一つの手です。

人材開発支援助成金とは、企業が従業員の能力開発や職業訓練を実施する際に、費用や賃金の一部を支援する制度です。助成額は会社の規模や雇用形態、コース、OJTかOFF-JTかなどによって異なります。たとえば、「人材育成支援コース」の場合、OJT実施助成額は下表のとおりです。

支給対象となる訓練等OJT実施助成額(1人1コース当たり)
通常賃金要件などを満たす場合
認定実習併用職業訓練20万円(11万円)25万円
(14万円)
有期実習型訓練10万円(9万円)13万円
(12万円)

※( )内は中小企業以外の助成額

ただし、人材開発支援助成金は誰でも受け取れる訳ではなく、申請する際もさまざまな提出書類が必要です。人材開発支援助成金の受け取り条件や申請方法について、詳細を知りたい方は厚生労働省の公式サイトを確認してください。

参考:

Stanford Medicine “Training and Skills of Mentors”
PR TIMES「株式会社9E、「ACES Meet」の導入でOJTの期間が1/4に短縮〜リモート環境で新人育成ができる体制を確立〜」
HRプロ「経営者や管理職も知っておきたい「日頃の感謝」と「仕事の充実度」の関連性。部下のモチベーションを上げるには」
PR TIMES「24卒・25卒に聞く!Z世代のキャリア観に関する意識調査」
PR TIMES「「カジュアル面談に参加し、志望度が上がった」と回答した20代が7割に迫る」
厚生労働省「人材開発支援助成金」

まとめ

新入社員のOJT教育について、よくある課題や成功させるためのポイントなどについて解説しました。

新入社員をOJTで教育するにあたって、何かしらの悩みや課題を抱えている企業は多いといわれています。OJT教育の適切なやり方を知ることで、これらの問題が解決できるかもしれません。

本記事で紹介したポイントをふまえ、新入社員に適切なOJT教育を施し、優秀な若手人材の育成を目指してください。