ストレスチェック制度の概要や実施する際の注意点などについて調べている管理職の方もいらっしゃるでしょう。ストレスチェック制度の対象者は契約期間や労働時間などによって判断できます。従業員が受検するかどうかは任意のため、強制しないように注意しましょう。
この記事では、新入社員が感じるストレスや企業がメンタルヘルスケアの方法なども解説します。
新入社員が感じるストレスとは

新入社員が感じるストレスには、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、業務内容・人間関係・労働環境に分けて解説します。
業務内容に関するストレス
ここでは、産業能率大学総合研究所が2024年度に入社する新入社員を対象に、2024年3月27日~4月10日に行った調査をもとに解説します。
仕事でストレスを感じやすい状況について、「仕事量の多さや難しい業務に直面し、自分だけでは対応できないと感じるとき」「業務を具体的に進める方法や規則が曖昧で、何をどう進めるべきか迷うとき」という回答は全体で3番目、4番目に多い結果となりました。このことから、業務内容に関してストレスを感じていると考えている新入社員が一定数いることが分かります。
人間関係に関するストレス
産業能率大学総合研究所の調査によると、仕事でストレスを感じやすい状況について「上司や同僚、顧客との間にトラブルが発生し、人間関係が元で悩むとき」という回答は全体で2番目に多い割合でした。全回答者の半数以上が選択していることから、人間関係に関してストレスを感じそうだと考える新入社員が多いことが分かります。
新しい環境に馴染むのが大変だったり、厳しい指導をする上司の存在にストレスを感じたりすることがあると、新入社員は業務面だけでなく人間関係においてもストレスを感じるでしょう。
労働環境に関するストレス
新入社員が感じるストレスの一つが、環境に関するものです。具体的には「就業時間に合わせて生活習慣が変わったこと」「満員電車での通勤に苦痛を感じること」などが挙げられます。
また、残業や評価、待遇などに不満を感じることもあるでしょう。
産業能率大学総合研究所の調査によると、仕事でストレスを感じやすい状況について「自分の努力や成果に対する評価が適切でないと感じるとき」と19.2%の新入社員が回答しました。また、「給料や職位、業務内容などの待遇に不満を感じるとき」と回答した人は14.2%です。評価や待遇といった労働環境へのストレスを感じそうだと考える新入社員がいると示されています。
参考:
学校法人産業能率大学総合研究所「2024年度 新入社員の会社生活調査(第35回)」
新入社員にストレスチェックを行うメリット

新入社員にストレスチェックを行うメリットを、厚生労働省が事業場とそこで働く労働者を対象に行ったアンケート調査をもとに紹介します。
ストレスへの意識が高まる
厚生労働省によると、アンケートを受けた半分以上の労働者がストレスチェックの効果として「自分のストレスを意識するようになった」と回答しています。また、調査に参加した事業場の半数以上が、「労働者のメンタルヘルスセルフケアへの関心の高まり」を効果として感じました。
ストレスチェック制度の目的はメンタル不調の事前防止です。事業者がストレスチェックの集団分析結果を把握したり社員自身がストレスに気づいたりすることで、セルフケアや職場環境の改善などに取り組めるでしょう。
新入社員によってはストレスが大きいケースもあるため、本人が不調をきたしてしまう前にストレスチェックを行うことが重要だといえます。
離職防止に繋がる
厚生労働省のアンケートによれば、事業場が感じるストレスチェック制度の効果として「離職する労働者の減少」という回答も挙げられています。
また、メンタルヘルス不調や長時間労働が従業員の離職原因になる場合もあります。アンケートでは「メンタルヘルス不調者の減少」「長時間働く労働者の減少」なども制度の効果として回答されているため、ストレスチェックが離職防止に役立つ可能性があるでしょう。
若手社員の離職を防止するための対策については、以下の記事もご覧ください。
「若手社員の離職防止の対策とは|離職理由や対策の必要性を紹介」
職場環境の改善が期待できる
ストレスチェックを活用することで、職場環境の改善が期待できます。厚生労働省では、ストレスチェックの集団分析結果や職場環境の改善の事例を示しています。
例 集団分析結果により、上司や同僚の支援についての点数が全国平均と比べて低い部署が判明した。職場の状況分析を行うと、コミュニケーション不足によりうまく連携ができていないと分かった。職場環境の改善として、お互いに支援しやすいチームを作ることを目標にしたり、1つの仕事を何人かで行うことで積極的にコミュニケーションが発生する環境を作ったりした。その結果、総合健康リスクや上司からの支援などを改善できた。 |
アンケートでは、事業場がストレスチェック制度で感じる効果として「事業場の雰囲気の改善」「労働者の満足度向上」などが挙げられています。
参考:
厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて[PDF形式:8,793KB][8.6MB](令和4年7月12日修正)」
ストレスチェック制度について

ここでは、ストレスチェック制度について解説します。
実施義務がある事業所
ストレスチェック制度を行う義務があるのは、事業場で使用する労働者数が常時50人以上いる場合です。常時50人未満の場合は、ストレスチェック制度の実施は努力義務です。
労働者の受検は任意
労働者が受検するかどうかは任意です。ただし、メンタルヘルス不調を事前に防止するため、すべての労働者による受検が理想的だと厚生労働省は示しています。
対象者
ストレスチェック制度の実施対象は一般定期健康診断の対象者と同様に、以下の条件に該当する労働者です。
- 無期契約の労働者(有期契約者であって、契約期間が1年以上の労働者、契約更新によって1年以上勤務する予定のある労働者、1年以上続けて勤務している労働者を含む)
- 1週間の労働時間数が、事業場内で同じ種類の業務を行うほかの労働者の週の所定労働時間数の4分の3以上
週の労働時間数が条件2で記載された所定労働時間数の4分の3未満でも、条件1を満たしたうえで、事業場内で同じ種類の業務を行うほかの労働者の週の所定労働時間数のおおむね半分以上であれば、ストレスチェックの実施が推奨されています。
実施頻度
ストレスチェックは1年に1回行います。2回以上の実施やストレスが大きくなる繁忙期に実施する場合は、衛生委員会などでの調査審議によって労働者と使用者で合意する必要があります。
注意点
ストレスチェック制度には、次のような注意点があります。
- 受検を強制しない
- 個人情報を保護する
- 社員の不利益になる取り扱いをしない
受検を強制しない
先述のとおり、労働者のストレスチェック受検は義務ではありません。任意である理由は、メンタルヘルスの不調で治療を行っており受検に対して大きな負担を感じる労働者などにまで受検を強制する必要がないからです。
ただし、従業員のメンタル不調防止のため、ストレスチェックはすべての労働者が受検するのが理想的だとされています。そのため、受検しない労働者に不利益取り扱いが行われない環境を確保していれば、事業者は従業員に受検を勧めることが可能です。業務命令として強制しないよう、勧奨の方法は衛生委員会などで協議したうえで従業員に周知しておきましょう。
個人情報を保護する
医師などの実施者と、実施事務従事者には守秘義務があります。ストレスチェックを行った医師などが労働者から同意を得ていない状態では、企業は本人の結果を確認できません。
なお、人事労務管理部門の職員が実施事務に携わる場合、秘密保持義務があることや情報管理の大切さを本人に認識してもらうことが重要です。
社員の不利益になる取り扱いをしない
ストレスチェックの結果、高ストレス者であり面接指導が必要だと医師などに認められた労働者は、面接指導を希望できます。
企業は、ストレスチェックや面接指導で得た情報をもとに、本人の健康に必要な範囲を超えた不利益取り扱いを行ってはいけません。以下は、行ってはならない不利益取り扱いの一例です。
- 従業員がストレスチェックを受けないことを理由に、不利益取り扱いを行うこと
- 従業員が企業への受検結果の提供を拒否したことを理由に、不利益取り扱いを行うこと
- 従業員が面接指導を希望または申し出ないことを理由に、不利益取り扱いを行うこと
- 面接指導の結果を理由に、従業員に解雇や退職勧奨を行うこと
参考:
厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」
企業が新入社員のメンタルヘルスケアを行う方法

ここでは、企業が新入社員のメンタルヘルスケアを行う方法について解説します。
「心の健康づくり計画」を作成する
メンタルヘルスケアは継続的に実施することが重要です。また、職場の実態に応じた取り組みが求められます。そのため、衛生委員会などで調査・審議を行い、「心の健康づくり計画」を策定しましょう。
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によると、「心の健康づくり計画」で記載するべき内容は以下のとおりです。
- 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること。
- 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること。
- 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること。
- メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること。
- 労働者の健康情報の保護に関すること。
- 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること。
- その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること。
引用元:厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
「心の健康づくり計画」ではストレスチェック制度の位置づけを明確にしておきましょう。また、メンタルヘルスケアを充実させるため、「心の健康づくり計画」を行う際は実施状況などを評価し、改善していくことが大切です。
セルフケア研修を行う
従業員が「ストレスチェック制度を利用してストレスに気づく」「ストレスを適切に理解・対処する」といったセルフケアができるよう、企業は情報提供や研修の実施などを行いましょう。
セルフケア研修は、新入社員の入社時など、ストレスがかかりやすいタイミングで実施することが推奨されます。ストレスへの対応力が上がるような実施内容にするのが理想的とされています。研修では新入社員が感じがちなストレスを示したり、ストレスへの対応策を考えてもらったりすると良いでしょう。
そのほか、相談窓口やよく相談される内容などを紹介し、窓口の利用によって本人に不利益が生じないことを伝えるのも大切です。
相談窓口を設置する
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によると、企業は従業員が自分から相談を受けられる環境を整備するものとされています。
社内相談窓口の利用者のなかには「心が軽くなった」「気持ちが楽になった」などと感じた人も。このことからも、窓口の設置と適切な運用は重要といえます。
なお、社内相談窓口に抵抗を感じる労働者のため、社外相談窓口を設置することも有効でしょう。
ウェルビーイングチャンピオンを募集する
ここでは、ハーバード・ビジネス・スクールの助教授であるアシュレー・ウィランズ氏らが公開している情報をもとに解説します。
労働者のメンタルヘルスケアのために、従業員のなかからボランティアとしてウェルビーイングチャンピオンを募集するのも選択肢の一つです。
ウェルビーイングチャンピオンには、職場のウェルビーイングを支える役割があります。具体的な取り組みとしては「企業の改善点を特定する」「意思決定者にフィードバックを行う」「ピアサポートを行う」などです。
ピアサポートにより、レジリエンスの形成や職場内に広がる孤独への対処などができます。
レジリエンスについては、以下の記事もご覧ください。
「レジリエンスとは?企業にもたらす影響や向上方法を解説」
社員が支援を受けやすい環境を整える
ここでは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの助教授であるローラ M. ジョージ氏らが公開している情報をもとに解説します。
メンタルヘルス支援を受けやすい環境を作るには、同僚がサービスを利用していることや、その同僚の不調についてのストーリーテリングが有効といえます。
スイスの多国籍企業で行った実験では、同僚がメンタルヘルスプログラムを利用しているという情報を読んだ従業員は、読まなかった人よりもプログラムに興味を持ちました。
また、プログラムを利用している同僚の不調に関するストーリーを従業員が読んだ場合、プログラムの登録リンクを押す確率が増えました。増加した確率は、同僚の利用理由が不安やストレスの場合は8%、虐待的な人間関係への対処の場合は6.6%です。
このことから、従業員にメンタルヘルス支援を受けやすくするにはストーリーテリングが効果的だと分かります。また、同僚の情報を知って、日常的な不安やストレスがメンタルヘルスの定義に含まれるようになったと考えられます。
参考:
厚生労働省「職場における心の健康づくり」
厚生労働省「若年労働者へのメンタルヘルス対策 ~セルフケア・ラインケア・家族との連携など~」
厚生労働省「メンタルヘルスに関する社内相談窓口設置のポイント」
Harvard Business Review「職場のウェルネスプログラムが役に立たない5つの理由」
Harvard Business Review「なぜ職場のメンタルヘルス支援の利用者は増えないのか」
まとめ
ストレスチェック制度には、ストレスやメンタルヘルスセルフケアへの意識が高まる効果があります。行う際は、社員に受検を強制しないように注意しましょう。
自社でメンタルヘルスケアを行う方法は、「心の健康づくり計画」の作成やセルフケア研修の実施、ウェルビーイングチャンピオンの募集などさまざまです。新入社員に支障なく働き続けてもらうためにも、企業がメンタルヘルスケアに取り組んでいきましょう。