近年、管理職への昇進を打診しても辞退する社員が増えています。優秀な部下が昇進を望まない現象は、組織の将来に影響を与える大きな課題です。次世代リーダーの育成が求められる中、昇進を希望する人材が少なければ、企業の成長戦略にも影響が及びます。

本記事では、部下が昇進を拒む理由を掘り下げ、管理職としてどのように対応すべきかを探ります。日本の現状に加え、海外の動向にも目を向けながら、研究データをもとに解決策を紹介します。

昇進を望まない社員が増えている理由

かつては昇進がキャリアアップの象徴とされていましたが、今では「管理職にならなくてもよい」と考える人が増えています。昇進を避ける傾向は若手に限らず、さまざまな年代や性別で広がっており、海外でも同じような動きが見られます。

以下では、なぜ昇進を望まない社員が増えているのか、その背景を詳しく見ていきます。

なぜ若手社員は管理職になりたがらないのか

「管理職になりたくない」と考える社員は年々増加しています。企業の管理職・リーダー層向けにコーチング研修や組織開発支援を提供するビジネスコーチ株式会社の調査によると、一般社員の約79%が管理職への昇進を望んでいないことが明らかになっています。

特に若手の間でこの傾向は顕著です。博報堂生活総研の調査では、20~30代のうち「出世したい」と考える人はわずか2割程度にとどまることが報告されています。若手の昇進意欲の低下は、単なる価値観の変化だけでなく、働き方に対する考え方が大きく変わってきていることを示しています。

かつては「昇進して給料を上げる」ことがキャリアの理想像とされていましたが、現在ではプライベートの充実やワークライフバランスの確保、仕事の負担を抑えることを重視する人が増えているのが現状です。

年代や性別で異なる昇進意識の違い

昇進に対する意欲は、年代や性別によっても異なります。マイナビの調査によると、年代が上がるほど昇進意欲は減少する傾向があり、特に男性では40代、女性では30代で「昇進したくない」と考える人が「昇進したい」と考える人を上回ると報告されています。

また、男性の約76.7%、女性の83.4%が「管理職になりたくない」と回答しており、特に女性の場合、昇進によって仕事と家庭の両立が難しくなることが懸念される要因の一つとされています。

管理職になることで業務負担が増え、プライベートの時間が減ることへの不安を抱える人が多く、昇進を避ける一因になっていると考えられます。

昇進を避ける傾向は日本だけの現象ではない

このような昇進を敬遠する傾向は、日本だけにとどまりません。海外の調査でも、同様の現象が確認されています。

米国の調査によると、42%の労働者が「現在の仕事に満足しているため、昇進を断るだろう」と回答しており、昇進を希望しない理由として、仕事の負担や責任の増加を避けたいという意向があるとされています。

特に近年では、バーンアウト(燃え尽き症候群)や仕事のストレスが、昇進を辞退する要因になっていると指摘されています。

なかには、昇進を避けるどころか、「キャリアダウン」を望むケースもあり、これまでの「昇進=成功」という価値観が変化し、より多様なキャリアの選択肢が求められる時代になっていることが分かります。

参考:

BUSINESS COACH「昇進・昇格に関する社員意識調査2023 ~ 一般社員の90%超が「社長になりたくない」 その真意とは? ~」

ITmedia ビジネスオンライン「社員に昇進を打診したら、本人が拒否──懲戒処分にできるのか?」

マイナビ「「マイナビライフキャリア実態調査2024年(働き方・キャリア編)」を発表」

CNBC Make It“Work ‘Not everyone is looking to move up the ladder’: Why 42% of workers say they’d turn down a promotion”

Fast Company“Burnout is leading more employees to turn down promotions”

なぜ部下は昇進を拒むのか? 心理的・組織的な要因

社員が昇進をためらう理由には、さまざまなものがあります。「責任が増えるのが不安」「今の仕事が好き」「昇進してもメリットを感じられない」など、個人の価値観や職場環境が影響していることが多いです。

以下では、部下が昇進を拒む主な理由を、心理的な要因と組織的な要因の両面から解説します。

責任が重くなることへの不安

管理職になると、チームのリーダーとして部下をまとめたり、大きな決断を下したりする場面が増えます。こうした責任の重さがプレッシャーとなり、昇進をためらう大きな理由のひとつになっています。

マイナビの調査によると、「昇進したくない」と答えた人のうち49.2%が「責任が重くなるから」と回答しています。また、SHRM(米国人事管理協会)の調査では、「管理職になると長時間労働やプレッシャーが増え、プライベートの時間が削られる」と考える人が多いことが指摘されています。

責任の増加と引き換えに、自分の時間や気持ちの余裕が奪われることへの不安は、日本だけでなく海外でも共通した悩みになっています。

今の仕事が好きで手放したくない

「今の仕事にやりがいを感じている」「専門的なスキルを活かしたい」という理由で、昇進を断る人も少なくありません。

SHRMの調査では、「昇進すると自分が好きな仕事が減ってしまう」と感じてオファーを断った社員のケースが紹介されています。特に技術職や専門職の人は、プレイヤー(実務担当)としての仕事を続けたいと考える傾向が強く、マネジメントの仕事に魅力を感じないことが多いようです。

また、組織行動学の「キャリアアンカー理論」では、技術や専門知識を重視する人は管理職よりも専門職として能力を発揮したがる傾向があるとされています。

さらに、現在の仕事や職場環境に満足している人ほど、昇進による変化を避ける傾向があるともいわれています。人間関係が良好だったり、ライフスタイルに合った働き方ができていたりすると、「今のままがいい」と感じやすくなるのです。

昇進が割に合わないと感じる

「責任ばかり増えて、給与や待遇がそれほど変わらないなら昇進したくない」と考える人も少なくありません。

ビジネスコーチ株式会社の調査では、「仕事量に対して給与が見合わない」と感じることが、昇進をためらう理由として上位に挙がっていました。

また、「昇進を打診されたら、まずは待遇や仕事の内容を確認する」という回答も多く、条件次第では受け入れるが、納得できなければ断るというスタンスの人が多いことがわかっています。

海外でも同様に、昇進に見合う昇給や待遇がない場合、昇進するメリットを感じないとする調査結果が出ています。

ワークライフバランスを優先したい

「仕事ばかりの生活にはしたくない」「家庭や趣味の時間を大切にしたい」という理由で昇進を避ける人も増えています。

マイナビの調査では、家庭との両立の難しさが昇進をためらう理由の一つになっていることが指摘されています。育児や介護、自分の時間を確保することを重視する社員にとって、管理職の責任が負担に感じられるのは自然なことです。

Z世代を対象とした人材ニュースの調査では、「出世よりも安定した生活を優先したい」と考える若手社員が増えていることが示されています。海外でも、「昇進すると家族との時間が減る」という懸念から、昇進を断る人が増えている傾向にあります。

「自分には向いていない」と思ってしまう

「自分は管理職に向いていない」と感じることも、昇進をためらう理由の一つです。との両立の難しさが昇進をためらう理由の一つになっていることが指摘されています。

マイナビの調査によると、「自分には管理職の適性がない」と考えて昇進を断る人は39.8%にのぼります。特に、「リーダーシップに自信がない」「人をまとめるのが苦手」と感じている人は、管理職になることに不安を感じやすいようです。

また、女性やマイノリティの社員にとっては、「自分が昇進してもうまくやれるのか」という不安や、周囲にロールモデルが少ないことが心理的なハードルになっているケースもあります。

さらに、「もう少し現場経験を積みたい」「今のキャリアプランとは合わない」という理由で昇進を見送る人も少なくありません。

会社の文化や制度が影響することも

昇進を避ける背景には、会社の風土や制度が影響を及ぼしていることもあります。「自分は管理職に向いていない」と感じることも、昇進をためらう理由の一つです。との両立の難しさが昇進をためらう理由の一つになっていることが指摘されています。

例えば、管理職が常に多忙で疲弊している姿を見ていると、「自分もああなりたくない」と思う社員が増えることがあります。また、「管理職になっても権限が少なく、板挟みばかりになる」といった状況では、昇進のメリットを感じにくくなります。

さらに、「昇進を一方的に命じられる文化」も、社員に抵抗感を与えやすい要因です。昇進を打診する際に、事前に本人の意思を確認し、納得できる形で話を進める企業もあります。

参考:

マイナビ「「マイナビライフキャリア実態調査2024年(働き方・キャリア編)」を発表」

BUSINESS COACH「昇進・昇格に関する社員意識調査2023 ~ 一般社員の90%超が「社長になりたくない」 その真意とは? ~」

Biz Hits「管理職になりたくない理由ランキング!男女500人アンケート調査結果を紹介」

日本人材ニュース「Z世代は「優しい上司・安定した生活」を求め、「出世に消極的・転職志向」 今試される企業の育成力」

LHH転職エージェント「昇進と昇格の違い| 昇進を断る方法も解説」

SHRM“Should You Ever Turn Down a Promotion?”

 Academy of Management“Promotions are Too Much Work: An Employee-Centric Approach to Promotion Decisions”

Fast Company“Burnout is leading more employees to turn down promotions”

昇進辞退が企業文化・経営戦略に与える影響

昇進を希望する社員が減ることは、企業にとっても無視できない課題です。管理職の候補が不足すれば、組織運営に影響を及ぼす可能性があり、職場の雰囲気や人材の育成にも変化が生じるかもしれません。以下では、昇進辞退が企業に与える影響を詳しく見ていきます。

管理職が不足すると組織が回らなくなる

昇進を希望する人が減ると、管理職の候補が少なくなり、企業の組織運営に支障が出る可能性があります。特に、中間管理職が不足すると、現場と経営層の間の橋渡し役がいなくなり、意思決定がスムーズに進まなくなることが懸念されます。

ビジネスコーチ株式会社の調査によると、多くの企業が「次世代の経営人材が足りない」と課題を感じており、昇進を希望する人が減ることで、将来のリーダーが育ちにくい状況になっていることが指摘されています。企業の成長戦略を実行するにも、それを担う管理職がいなければ計画通りには進みません。

「昇進したくない職場」の雰囲気が広がるとどうなるか

昇進を辞退する人が増える職場は、「管理職になっても大変なだけ」「頑張っても報われない」といったネガティブな雰囲気が生まれやすくなります。このような環境では、社員全体の士気が低下し、仕事への意欲も薄れていく可能性があります。

また、「どうせ頑張っても損をするだけ」といった空気が広がると、優秀な人材が成長の機会を求めて他社へ転職してしまうことも考えられます。昇進辞退が当たり前の職場では、挑戦する姿勢が失われ、組織全体が停滞するリスクがあるのです。

管理職を外部から採用すると起こる問題

社内で管理職を引き受ける人がいなくなれば、企業は外部からの採用に頼らざるを得なくなります。確かに、短期間でポジションを埋めることはできますが、長期的には「社内で管理職を育てる文化」が失われ、ますます昇進を希望する社員が減るという悪循環に陥る可能性があります。

さらに、新しく外部から迎えた管理職が社内の文化や価値観に馴染めず、社員との間に溝が生まれることも少なくありません。組織の一体感が損なわれると、チームの結束力が弱まり、職場の雰囲気にも悪影響を与えます。

管理職だけがキャリアの道ではなくなる時代へ

これまでの企業では、「優秀な人材は管理職になるべき」という考え方が一般的でした。しかし、昇進を望まない社員が増えている今、企業側も柔軟なキャリアの選択肢を用意する必要があります。

例えば、専門職としてのキャリアを選べる仕組みを整えたり、プロジェクト単位でリーダーシップを発揮できる仕組みを取り入れたりすることで、管理職以外の道でも活躍できる環境を整えることができます。

企業がこのような多様なキャリアのあり方を受け入れなければ、社員の力を最大限に活かすことができず、組織の成長にもつながらない時代になっているのです。

参考:

BUSINESS COACH「昇進・昇格に関する社員意識調査2023 ~ 一般社員の90%超が「社長になりたくない」 その真意とは? ~」

上司が取るべき具体的な対応策

以上の状況を踏まえ、部下が昇進を前向きに捉えられるようにするためには、上司としてどのような関わり方をすればよいのでしょうか。以下では心理学・組織行動学の知見も活かした実践的なアドバイスを紹介します。

まずは部下の気持ちを聞き、不安を明確にする

昇進をためらう部下に対して、いきなり「なぜ嫌がるんだ?」と問い詰めるのは逆効果です。まずは、部下が何を不安に感じているのか丁寧に聞き出すことが大切です。

日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の調査では、管理職が部下の不安要素(「仕事内容への理解不足」「スキルへの不安」など)を具体化し、適切にフォローすることで、昇進に対する抵抗感が和らぐことが示されています。

「責任が重そうで不安」「家庭の事情があって難しい」など、部下が抱えている課題が明確になれば、それに対して具体的な対策を講じることができます。まずは対話を通じて、部下が本音を話せる環境をつくることが大切です。

昇進後の役割や期待を明確に伝える

人は先が見えないものに不安を感じるものです。昇進後の仕事がどのようなものになるのか、具体的に説明することが重要です。

例えば、「課長になったら〇〇の業務が増えるが、△△の権限が与えられる」「マネジメント業務に専念するのではなく、今の専門分野の仕事も継続できる」など、昇進後のイメージを持てるように説明しましょう。

JMAMの調査では、上司の約80~90%が昇格の際に「求められる役割や期待」を説明したと回答している一方で、部下側は「説明を受けた」と感じた割合が50~70%にとどまるというギャップが指摘されています。

ただ伝えるだけでなく、部下の理解を確認しながら、昇進後のサポート体制や期待される役割をしっかり共有することが大切です。

いきなりではなく、段階的にマネジメント経験を積ませる

「いきなり管理職になれ」と言われると、プレッシャーを感じるのは当然です。そこで、実際に昇進する前に、段階的にマネジメントの経験を積ませることが有効です。

JMAMの提言では、社内に「管理職候補」としてのポジションを設け、課長業務の一部を経験させることで、本人がマネジメントの手応えや難しさを学び、スキルを身につける機会を提供することが推奨されています。

例えば、小規模なプロジェクトのリーダーを任せる、後輩指導を担当させるなど、「少しずつ経験を積む場」を用意することで、マネジメントへの苦手意識を和らげることができます。

心理学的にも、「自己効力感(self-efficacy)」を高めることで、人は新しい挑戦に前向きになりやすいとされています。小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にもできるかもしれない」と思えるようになります。

 昇進のメリットを伝え、納得感を持たせる

昇進をためらう理由のひとつに、「管理職になっても得られるものが少ない」と感じることがあります。昇進すれば給与や賞与が上がるのはもちろんですが、それ以上に「やりがい」や「成長の機会」があることを伝えることが大切です。

例えば、「チームで成果を出す喜びを味わえる」「会社の重要な意思決定に関われる」「キャリアの選択肢が広がる」といったメリットを具体的に伝えることで、昇進の価値をより明確に伝えられます。

PR TIMESの調査によると、管理職のやりがいとして「チームで成果を上げること」が多くの人にとって重要な要素になっていることが分かっています。

また、管理職の経験があることで、転職市場での評価が高まり、将来的なキャリアの幅が広がるという側面もあります。会社として昇進をどう評価するのかを明確に示し、納得感を持ってもらうことが重要です。

参考:

JMAM「「社員の管理職への昇進意欲は低いと感じる」約8割が回答 管理職候補への支援は6割が必要性を認識するも実施率は4割」

PR TIMES「【管理職に関する調査】出世欲がない…!? “管理職になりたくない人”7割超え!」

上司が心に留めるべきポイント

昇進を断る部下への対応は、現代のマネジメントにおいて重要な課題の一つです。

かつては「昇進して当たり前」という価値観が一般的でしたが、今は社員それぞれのキャリア観や価値観が多様化しており、管理職には部下一人ひとりの考えを尊重し、適切にサポートする姿勢が求められています。

昇進をためらう部下の気持ちを理解する

まず、「昇進を望まない=意欲が低い」と決めつけるのではなく、背景にある不安や理由を理解することが大切です。

多くの社員が管理職になることに消極的であるのは、個人の問題ではなく、社会全体の価値観が変化していることの表れとも言えます。

その上で、部下の不安や悩みに耳を傾け、対話を通じて気持ちを整理する機会をつくることが、昇進に対する前向きな気持ちを引き出す第一歩になります。

「この上司のようになりたい」と思われる存在を目指す

部下が管理職になりたくない理由のひとつに、「今の上司を見て魅力を感じない」というケースもあります。

もし管理職がいつも疲れ切っていたり、不満を口にしていたら、部下は「管理職になると大変そう」「自分には無理だ」と感じてしまうでしょう。

上司の働き方や姿勢は、部下にとって未来のロールモデルになります。適切なワークライフバランスを保ちながら成果を出し、前向きに仕事に向き合う姿勢を見せることが、部下の昇進に対するイメージを変える大きな要素となります。

キャリアの選択肢を広げ、成長を支援する

企業としても、管理職だけをキャリアのゴールとするのではなく、専門職としてスキルを活かしながら成長できる仕組みを整えることが重要です。

管理職以外のキャリアの選択肢を用意することで、社員は自分に合った形で成長でき、組織全体の活力も高まります。

昇進をためらう部下にも、「管理職以外の道でも活躍できる環境がある」と示すことで、長期的なキャリア形成を支援することができます。

参考:

BUSINESS COACH「昇進・昇格に関する社員意識調査2023 ~ 一般社員の90%超が「社長になりたくない」 その真意とは? ~」

まとめ

部下が昇進を辞退したときこそ、管理職としての真価が問われます。大切なのは、昇進を無理に勧めるのではなく、部下と向き合いながら本人にとって最適なキャリアを一緒に考えることです。

部下が納得できる形で成長できる環境を整えることが、結果的に組織全体の成長にもつながります。昇進を拒む部下に対しても、誠意を持って向き合い続けることで、やがて「挑戦してみよう」と思える日が来るかもしれません。

管理職は部下のキャリアの支援者としての役割を意識し、組織と個人の成長を両立させていくことが求められています。