「主任に向いているのはどんな人?」
「優秀な主任を育成するにはどうすればいい?」
このような疑問を持つ管理職も多いでしょう。主任はリーダーとしてチームを引っ張っていく存在であり、優れたスキルや人間性を持つ社員がなるべきポジションです。
本記事では、主任に向いている人の特徴や、優れた主任を育成する方法などを解説します。若手社員を優れた主任へと育て上げ、会社の業績アップを目指す方は、ぜひ参考にしてください。
近年の若手社員は出世欲がない

近年の若手社員には、出世欲がない者が多いといわれています。転職サイト比較plusが20代の社会人を対象に実施した調査でも、「将来役職者になりたいと考えますか?」との問いに、77.6%が「いいえ」と回答しています。以下は、「いいえ」と回答した主な理由です(括弧内は回答者の割合)。
- 責任のある仕事をしたくない(約27%)
- プライベートを大事にしたい(約23%)
- 目立ちたくない(約14%)
- 会社内の地位に興味がない(約12%)
さらに、先ほどの質問で「はい」と回答した人に対し、「どこまで出世したいと思いますか?」と尋ねたところ、20.8%が「主任クラス」と回答しています。この結果から、多少の出世欲がある若手社員も、多くは「重い責任を負うのは嫌だ」と考えており、役職者の中でも比較的責任が軽い「主任」というポジションを狙う傾向にあるのだと推測できます。
このように、近年の若手社員にはあまり出世欲がないため、主任の候補となる人材を選ぶのに苦労している企業も多いでしょう。そのため、本記事では主任に向いている人の特徴や、部下を優秀な主任に育て上げるコツなどを詳しく解説します。
参考:
ITmedia ビジネスオンライン「「将来、役職者になりたい」20代の2割 どこまで出世したい?」
主任に向いている人の特徴

ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事を参考に、主任に向いている人の特徴を紹介します。
テクニカルスキルだけでなくヒューマンスキルも高い
「テクニカルスキル」だけでなく「ヒューマンスキル」も優れている人は、主任に向いている可能性が高いです。テクニカルスキルとは「業務を遂行するための専門的な知識や技術」、ヒューマンスキルとは「仕事上の人間関係を円滑にする能力」を指します。
以下は、社会認知神経科学者のマシュー・リーバーマン氏が実施した、「テクニカルスキル・ヒューマンスキルとリーダーとしての優劣の関係性」を調査した結果です。
タイプ | 「優秀なリーダーだ」と評価される割合 |
---|---|
テクニカルスキルだけが高い | 14% |
ヒューマンスキルだけが高い | 12% |
テクニカルスキル・ヒューマンスキルともに高い | 72% |
会社で主任を務める社員は、テクニカルスキルが高い、いわゆる「仕事のできる人」であるケースが多いでしょう。業務上の知識やスキルが豊富であれば、チームメンバーに適切な指示やアドバイスができ、仕事を円滑に進められるからです。また、チームメンバーの立場から考えても、仕事ができないリーダーについていこうとは思えないはずです。
しかし、リーダーはただ仕事ができればいいだけでなく、チームメンバーと良好な関係を築き、協力し合いながら業務を進めることも求められます。そのため、優れたリーダーにはテクニカルスキルだけでなく、高いヒューマンスキルも必要なのでしょう。
権力に溺れない
権力に溺れることなく、謙虚な姿勢で仕事に取り組める人は主任に向いている可能性が高いです。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、人間の脳は「自らが権力を持っていると感じるほど、快感が得られる」傾向にあるとされています。そして、より大きな快感を得るために、さらに権力を振りかざすようになるといいます。そのため、権力に溺れやすいタイプがリーダーになると、チームメンバーは以下のような被害を受ける恐れがあります。
- 横柄な態度をとられる
- 現実離れした目標を課される
- 過度な期待を寄せられる
もちろん、チームメンバーに対して高い目標を掲げたり、期待を寄せたりすること自体が悪いわけではありません。しかし、それがいき過ぎると彼らにとっては大きなストレスとなり、結果的にチームの生産性や士気の低下につながりかねないのです。
以上のことから、役職を与えられても驕ることなく、チームメンバーを尊重し共に協力し合えることが、主任に求められる重要な資質だといえます。
未来志向を持っている
市場は変動し続けるものであり、トレンドやニーズの変化を予測し、適切に対応するためには、中長期的な視点を持つことが重要です。そのため、未来志向を持って仕事に取り組んでいる人は、主任に向いていると考えられます。逆に、未来思考を持たない人間が主任になると、市場の変化に対応できず、組織として成長できない恐れがあります。
米国で実施された研究によると、労働者の27%は、「5年先を考えることが『ほとんどない』もしくは『まったくない』」と回答しています。つまり、従業員の多くは未来志向を持っておらず、短期的な成果を出すことにばかり労力を割いているといえます。
ただし、未来志向を持つ部下がいないからといって、悲観することはありません。ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、未来について考え、予測する習慣は、トレーニングによって身につけることが可能だといいます(詳細は後述)。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「優れたリーダーになることを妨げる脳の3つの性質」
優れた主任を育成するコツ

部下を優れた主任に育て上げるために、上司が心がけるべきポイントを解説します。
企業文化を理解する
優れた主任を育成するためには、まずは企業文化を深く理解することが大切です。ここでいう企業文化とは、その企業特有の価値観や信念、行動規範を指します。企業文化に沿った育成戦略を導入することで、従業員は企業の価値観や行動規範を理解し、それに従った行動を取るようになると期待できます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、企業文化は組織によって異なり、大まかに以下の8つのタイプに分けられるといいます。
- 思いやり:人間関係や協調性を重視する
- 目的意識:社会や他者への貢献を優先する
- 学習:創造性や独創性を重んじる
- 楽しさ:仕事に対するやりがいや幸福度を大切にする
- 結果志向:成果を出すことを最優先する
- 権力:他者よりも優位に立つことを目指す
- 安全性:計画性がありリスク管理を徹底する
- 秩序:ルールを守り周囲に適合しようとする傾向が強い
上記の8つのタイプはそれぞれにメリット・デメリットがあり、優劣がつけられるものではありません。そのため、まずは自社の企業文化がどのタイプにあてはまるのかを分析し、自社の文化に合わせた育成戦略を立てることが重要です(例:「思いやり」タイプの職場に「結果志向」の戦略は相反するものであり、従業員は混乱しかねない)。
仕事を適切に任せる
優秀な主任を育成するためには、部下に対して適切に仕事を任せることが重要です。さまざまな仕事を経験することで、業務遂行に必要な知識やスキルが身につくからです。また、問題に直面した際に、自分で原因を特定し解決に導く力も養われると期待できます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、会社で優れたリーダーが育たないのは、部下に仕事を任せない「ボトルネック上司」がいることが原因のケースも多いといいます。以下は、ボトルネック上司によって職場で起こり得る悪影響の例です。
- 上司のスケジュールが過密になる
- 上司がいないと仕事が回らない
- 部下はやりがいのある仕事に挑戦できず、モチベーションが下がる
同記事では、上司がボトルネックを解消する方法として、まず現在行っている業務をすべて書き出すことを提唱しています。そして、それらの業務のうち、自分でなければできないもの以外はすべて部下に任せましょう(定型業務や取引先とのやり取りなど)。
これまで上司が行ってきた業務を部下に任せると、はじめは時間が余計にかかってしまうかもしれません。しかし、経験を積むことで仕事のスピードは上がり、やがて上司と同等以上のスピードでこなせるようになるはずです。そして、部下に仕事を任せたことで空いた時間は、会社の収益を向上させるための戦略やシステムの構築に費やすとよいでしょう。
以上のことから、部下に仕事を任せて権限を持たせることは、彼らの能力向上はもちろん、会社の業績をアップさせるためにも非常に有効だといえます。
キャリアの長期的な目標を設定させる
先ほども述べたように、優れた主任になるためには未来志向を持つことが重要であり、未来志向はトレーニングによって習得できるとされています。その訓練の一環として、部下に長期的なキャリアプランを設定させるのも一つの手です。また、キャリアプランを作成することで、目標達成のために必要な経験や習得すべき知識などが明確になる点も大きなメリットといえます。
ただし、周囲の環境や自身の価値観は変化しやすいため、長期的なキャリアプランを定めることは決して簡単ではありません。ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、長期的なプランを作成する際は、以下のポイントを意識するのが効果的といいます。
ポイント | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
「やりたくないこと」を明確にする | 自分が「やりたくないこと」「なりたくないこと」を明らかにし、それを避けるようなプランを作成する | 会計業務の補助を今後もずっと続けるのは嫌なので、ステップアップのための資格を取得する |
基礎的なスキルや知識を習得する | 一部の職種に特化した知識・スキルではなく、どのような仕事でも役立つものを習得する | ・プレゼンやスピーチなど、人前で話すスキル ・時間管理能力 などを習得する |
人生には浮き沈みがあることを理解する | 仕事に対して無気力気味になってしまっても、人間である以上仕方がないことなので焦らない。また、モチベーションの浮き沈みが起こり得ることを念頭に入れてプランを立てる | ここ2年間はモチベーションが低いまま仕事に取り組んでいたが、この期間はキャリアを長期的に成功させるための休養期間だったと捉える |
虚勢を張らない
優秀な主任を育てるためには、上司自身が虚勢を張ることなく、正直で誠実な姿を見せることが大切です。こうすることで、従業員とよりオープンな関係を築くことができ、チームの力を最大限に引き出せるからです。また、リーダーが自分のありのままの姿をさらすことで、従業員も虚勢や見栄を張ることがなくなると期待できます。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、リーダーが自分らしさをさらけ出すには、以下のポイントを意識することが効果的といいます。
ポイント | 具体例 |
---|---|
知らないことは素直に「知らない」と伝える | 部下の質問に対して、「私もあまり詳しくないので、一度調べてから共有しますね」と伝える |
困ったときは周囲に助けを求める | 「この分野についてわからないことが多いので、ここだけ作成をお願いしていいですか?」と資料作成の一部を依頼する |
ミスや間違いを犯したら、自分の非を認めて謝罪する | プロジェクトのスケジュールに遅れが発生した際に、「私の見積もりが甘かったです。申し訳ありません」と素直に謝罪する |
自分の課題や欠点を周囲と共有する | 「私は時間管理があまり得意ではありません。改善できるよう努めるので、皆さんも何かアドバイスがあればお願いします」と伝える |
共感力を養う
会社や組織はさまざまなメンバーが協力し合う場であり、主任としてチームを引っ張るには共感力が必要不可欠なのはいうまでもありません。しかし、先ほども述べたように、権力に溺れてしまう人間は自身の欲求に忠実になり、チームメンバーに共感し敬意を示すことがおろそかになりがちです。
こうならないためにも、日頃から自分自身も含めた従業員の共感力を養うことが重要です。ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、共感力を養うポイントとして以下の3点を提唱しています。
ポイント | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
他者の仕事を体験する | 他者の境遇を自分で直接経験することで、彼らの状況や心情、貢献などが理解できる | 新入社員研修で、コールセンターの業務を体験する(大手通信会社のベル・カナダで実際に行われている) |
ストーリーテリングを行う | 仕事に関する体験や考え方をエピソードを添えて詳細に説明することで、メンバーの当事者意識を高める | 新製品の開発プロジェクトについて、どのような流れで進めたのか、どのような困難に直面したか、どのような結果になったのかを、詳細に説明する |
協調性を高める工夫をシステムに組み込む | 従業員の意識が自分だけに向かないよう、自社のシステムの中に、メンバーが相互に関わり合っていると意識できる工夫を組み込む | 「他の従業員とどれだけ協力し合えているか」に重点を置いた人事評価を実施する(マイクロソフトで実際に行われている) |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下に仕事を任せない「ボトルネック上司」になっていないか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「変革は企業文化に従う」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「キャリアの長期目標を定めて、達成するために何をすべきか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーに必要なのは虚勢ではなく弱さを見せる勇気」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「謙虚で共感力の高いリーダーに変わる方法」
まとめ
主任に向いている人の特徴や、優秀な主任の育成方法について解説しました。
近年では出世意欲のない若手社員が増えており、主任の候補となる人材を選ぶのに苦労している会社も多いでしょう。しかし、中には将来経営層や管理職として、会社を引っ張っていこうと考えている志の高い者もいるはずです。
本記事で紹介したポイントをふまえ、若手社員を優れた主任へと育て上げ、会社の業績アップを目指してください。