仕事上で部下がミスをしたり問題を起こした際に、適切に怒ることで正しい方向に導くのも、上司の重要な務めです。

しかし、近年では「パワハラで訴えられるのが怖い」「嫌われたくない」などの理由で、部下を怒ることができない上司が増えているといわれています。

本記事では、部下を叱ることができない上司が抱える問題点や、叱る際に心がけるべきポイントを紹介します。部下を効果的に怒るコツを知り、優秀な人材の育成に役立てたい方は、ぜひ参考にしてください。

部下を怒れない上司が増えている

近年では職場において、部下を怒ることができない上司が増えているといわれています。

Job総研が社会人男女を対象に実施した「2023年 上司と部下の意識調査」でも、「部下に熱量高く叱った経験の有無」について、64.3%が「経験なし」と回答しています。

「上司が部下を怒る」という行動は、怒られる側の部下はもちろん、怒る側の上司にとっても気持ちのいいものではないでしょう。そのため、部下を怒ることに気が進まない上司が多いのも無理はありません。

しかし、ミスをしたり問題を起こしたりした部下に対して、ときには怒ることで彼らを正しい方向に導くのも、上司の大事な務めといえます。

実際に米国で行われた研究によると、72%の労働者が「上司から批判的なフィードバックを受けることは、自分のキャリア開発において重要だ」と考えているといいます。また、率直なフィードバックをするスキルが高いリーダーの下では、従業員のエンゲージメント(組織への愛着度を示す指標)が高くなる傾向にあることもわかっています。

以上のことから、部下のパフォーマンスや士気を高めるために、上司は効果的な怒り方を理解する必要があるでしょう。

参考:

PR TIMES「Job総研による『2023年 上司と部下の意識調査』を実施 部下に叱れない上司が6割 世代価値観のギャップが弊害に」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下への厳しいフィードバックを恐れてはならない」

上司が部下を怒れない原因

部下を怒ることができない上司について、考えられる原因をいくつか紹介します。

パワハラと指導の区別がついていない

部下を怒ることができない上司にもっとも多い特徴として、「パワハラと指導の区別がついていない」点が挙げられます。

Job総研が実施した「ハラスメントの境界線調査」でも、「ハラスメントだと思う境界線の認識」について尋ねると、「正しく認識している」と回答したのはわずか28.0%だったといいます。

パワハラと指導の境界線が不明瞭なために、部下からパワハラで訴えられるのを恐れ、怒ることができない上司が多いのでしょう。

なお、厚生労働省ではパワハラを以下のように定義しています。

職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為

たとえば、上司から部下に対する

  • 同僚が見ている前で説教する
  • 暴力をふるう
  • 無謀なノルマを課す

などといった行為は、パワハラに該当する恐れがあります。

逆にいうと、上記にあてはまらない「業務上必要な範囲」での注意や指導は、パワハラに該当しない可能性が高いです。

以上のことから、上司はまずパワハラと指導の境界線を理解した上で、部下を怒るときは指導の範囲から逸脱しないよう心がけることが大切です。もし、自分の指導方法がパワハラに該当しないか不安な場合は、上長や専門の窓口に相談して客観的な意見を聞くのも有効でしょう。

部下に嫌われたくない

「他人から怒られる」ことは、多くの人にとっては決して気持ちのいいものではないはずです。上司は部下のためを思って怒ったのに、その部下から嫌われることも十分にあり得ます。

株式会社日本能率協会マネジメントセンター(JMAM )が実施した調査でも、「上司・先輩から叱られたら、その後、どのような関係を持とうと思いますか」との問いに、66.7%は「一定の距離を置きながら、あまり関わらないようにしようと思う」と回答しています。

会社は従業員がお互いに協力し合う場所である以上、上司と部下が良好な人間関係を築くことは大切です.。そのため、部下との関係が悪化することを恐れ、怒ることができない上司が多いのも無理はありません。

しかし、たとえどれほど優れた上司であっても、部下全員から好かれるのは難しいでしょう。「嫌われたくないから」と問題のある部下を放置していたら、別の社員から「上司なのに頼りない」と嫌われることになるかもしれません。

もちろん、相手に過度な不快感を与えないためにも、怒り方を工夫することは大切です。しかし、ときには嫌われることを恐れず部下を指導することも、上司の重要な責務といえます。

部下が打たれ弱い

株式会社ネクストレベルが30~50代の社会人経験者を対象に実施した調査によると、「若手に感じる価値観の違い」について、28.7%が「打たれ弱い」と回答しています。中には、「上司から注意を受けた翌日に退職した」という者もいたようです。

この結果から、近年の若手社員は怒られることへの耐性が低い傾向にあり、上司も怒りにくくなっていることがわかります。

もちろん、「大声で怒鳴る」「長時間説教する」などといった怒り方は、相手を必要以上に傷つけたり萎縮させたりする恐れがあるため避けるべきでしょう。しかし、いくら打たれ弱い部下だからといって、問題点を何も指摘しなければ、彼らが成長する機会も失われてしまいます。

そのため、相手を必要以上に傷つけることなく、問題点はきちんと伝えられるよう、怒り方を工夫することが大切です。

年上の部下がいる

日本には年功序列型の企業が多いものの、上司が必ずしも部下よりも年上とは限りません。サイボウズ株式会社が30~50代会社員を対象に実施した調査によると、21.6%は「直属の上司が年下」と回答しています。

優秀な社員だと若くして管理職になることもあり、年上部下の扱いに困るケースも多いでしょう。しかし、相手が年下だろうと年上だろうと、部下に何かしら問題がある場合は注意・指導するのが上司の務めです。

一方で、年上部下の中にも、年下上司から怒られることを快く思わない者も少なくありません。。そのため、年上部下を注意・指導する際は相手への敬意を忘れず、プライドを過度に傷つけないように心がけましょう。

参考:

Job総研「2023年 ハラスメントの境界線調査を実施しました」

厚生労働省「No!パワハラ」

JMAM 日本能率協会マネジメントセンター「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査」

PR TIMES「男女564人に大調査!職場で「ジェネレーションギャップ」を感じた瞬間トップ10」

PR TIMES「年下の上司に聞く「年上の部下へのマネジメント」調査」

部下を正しく怒る際のポイント

部下を効果的に怒るためのコツを解説します。

未来に意識を向けさせる

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、ミスや間違いを犯した従業員を指導する際には、「未来に焦点を当てた質問」を投げかけることが効果的だとされています。

例として、仕事でお粗末なミスをした部下に対して、上司が「次に同じような状況になった場合はどうしますか?」などと質問したとしましょう。

このような「未来」に焦点を当てた質問をされた部下は自分のミスを認めつつ、そこから何を学び、今後どうするべきかを示しやすくなるといいます。

一方で、同じ状況で上司が部下に対して、「お前は何を考えていたんだ」と問い詰めた場合はどうでしょうか。

このような「過去」に焦点を当てた質問をされた部下は、自分の責任を少しでも軽くしようと、つい言い訳めいた回答をしがちだといいます。その結果、上司と部下はお互いが納得のいく解決策も得られないまま、関係性だけが悪化することになりかねません。

もちろん、間違いやミスを犯した原因を特定するためにも、過去を振り返ることが不要というわけではありません。しかし、もっとも大切なのは解決策を考えることであり、そのためには部下が未来に意識を向けるよう、上司が導く必要があるでしょう。

感情を落ち着かせる時間をとる

上司も人である以上、部下がお粗末なミスを犯したときなどに、怒りの感情が湧き上がってくるときもあるでしょう。このような心理状態で部下を注意・指導してしまうと、相手を感情的に責めることが目的となり、関係性が悪化するだけで問題は何も解決しない可能性が高いです。

そのため、部下を怒らなければならないことが起きた場合でも、まずは感情を落ち着かせる時間をとることが大切です。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、人は自分の感情の背後にある欲求に着目することで、状況を客観的かつ冷静に観察できるようになるといいます。

今回のテーマだと、以下のような質問を自分自身に投げかけることで、自分が怒っている理由を分析するとよいでしょう。

  • 怒りの引き金となった部下の行動は?
  • 怒りの背後にある感情は?(恐怖、無力感など)
  • 冷静でいるためにはどうすればいい?
  • 最終的にはどのような結果を望んでいる?
  • その結果を実現するためには、どのようなステップを踏むべき?

上記のように、自分の怒りの感情を冷静に分析することができれば、部下との関係性を悪化させることなく、適切な指導や教育がしやすくなるはずです。

事実に焦点を当てる

部下を怒る際は、人格を否定することなく、事実のみを取り上げて指摘するのが望ましいです。人格否定の言葉(「だらしない」「給料泥棒」など)は相手を不快にさせるだけであり、投げかけても問題は何も解決されません。

一方で、問題となる事実だけを伝えた場合、相手は自分の反省すべき点が明確になり、今後の対策も打ちやすくなると期待できます。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、事実に焦点を当てた指導をする際のコツとして、以下のフォーマットを用いることを推奨しています。

  • 「〇〇ということがあり、その結果、△△という影響が生じた」

例として、重要な会議に遅刻してきた部下に対しては、「あなたが会議に遅刻したことで、ほかの参加者全員の時間を10分間無駄にしてしまいました」といった形で指摘するとよいでしょう。

相手との対話を心がける

くり返し述べているように、上司が部下を怒る目的は2人で問題点を共有しつつ、解決策を見つけることです。

しかし、部下を怒る際は「上司が部下を一方的に説教する」という構図になりがちです。これでは、部下が上司に萎縮したり不満を抱えたりする可能性が高く、適切な怒り方とはいえません。

したがって、部下を怒る際も通常のコミュニケーションと同様に、相手との対話を心がけることが大切です。

といっても、上司から怒られている最中は、率直な意見を言いにくい部下も少なくないでしょう。ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、部下から本音を引き出すためには、以下のポイントを意識すると効果的といいます。

ポイント概要具体例
質問の仕方を工夫する「はい」「いいえ」「問題ない」など一言で返答が終わるような質問を避ける「今後仕事の納期を確実に守るために、あなたが考えている対策を1つ教えてください」
沈黙から逃げない怒られている最中は、部下も発言しにくく沈黙が続く可能性が高い。部下が自ら発言するまで、上司は黙って待つ頭の中でゆっくり6秒間数えることに意識を集中させ、部下の方が沈黙に耐えられず発言してしまう状況を作り出す
反論せず理解しようとする部下から引き出した意見にはむやみに反論せず、理解しようと努める。反論された部下は、今後二度と本音を本音を話してくれなくなる恐れがある「納期を守るためには、仕事の優先順位をつけることが大切だと考えているのですね。たしかにそれはすごく重要なことなので、今後も常に意識し続けてください」

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下がミスを犯したら、上司はどんな言葉をかけるべきか」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「職場でアンガーマネジメントを実践する6つのステップ」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「サボる、手を抜く「怠慢な同僚」への賢い対処法」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーが部下から「徹底的なホンネ」を得るための6つのコツ」

まとめ

部下を怒ることができない上司にありがちな問題点や、部下を怒る際に心がけるべきポイントを解説しました。

部下が仕事上で何かしらの問題を抱えている際には、上司が怒ることが有効な解決策となる場合もあります。「パワハラで訴えられるのが怖い」「嫌われたくない」などの理由で、部下に対して言いたいことを言えないのは、上司として適切な振る舞いとはいえません。

本記事で紹介したポイントをふまえて、部下を効果的に怒るコツを知り、優秀な人材の育成に役立ててください。