「部下が内心何を考えているのかわからない…」

「部下の本音を引き出すにはどうすればいい?」

このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。職場で本音を隠しながら働く部下は多く、本音を引き出すには上司から積極的に働きかける必要があります。

本記事では、部下が本音を言わない原因や、本音を引き出すためのコツなどについて解説します。部下が安心して本音を言うことができる、風通しのよい職場づくりを目指す方は、ぜひ参考にしてください。

部下が本音を言える環境が重要である理由

部下が本音を言える環境が重要である理由として、「組織が抱えている問題が浮き彫りになる」点が挙げられます。会社には経営層や管理職では気づきにくい、現場の最前線で働いている従業員だからこそ気付ける課題や問題があるからです。

以下は、現場で働く従業員が声を上げられなかったために、多数の犠牲者を出すことになった航空機メーカーの事例です。

▼ボーイング737MAXの墜落事故

事故を起こしたのは、大手航空機メーカーのボーイングが製造する「737MAX」。当時、製造現場で働く従業員は無理なスケジュールを強いられていた。しかし、彼らは意見を上げることで職を失うのを恐れ、製造工程で一部手抜きを行い納期に間に合わせていた。その結果、同機は2018年と2019年の2度にわたり墜落事故を起こし、計346名が犠牲となった

また、部下が本音を話すことで不満やストレスが解消され、彼らの「モチベーションやパフォーマンスの向上につながる」点もメリットとして挙げられます。

以下は、パーソル総合研究所が実施した調査の結果の一部です。同調査では、本音でコミュニケーションが取れている「本音度が高い」層と、そうでない「本音度が低い」層に分けた上で、各項目を数値化して比較しています(5点満点)。

項目本音度が高い層本音度が低い層
ワーク・エンゲージメント*3.4pt2.8pt
個人パフォーマンス3.8pt3.2pt
はたらく幸せ実感4.7pt3.8pt

*ワーク・エンゲージメント:仕事に対するポジティブな心理状態

上記の結果から見ても、職場で本音を言えている従業員ほど、仕事の質や幸福度が高いことは明らかです。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員が声を上げられる組織文化がなぜ重要なのか」

パーソル総合研究所「職場での対話に関する定量調査」

職場で本音を言わない部下は多い

以下は、バックオフィス業界専門のメディア「オフィスのミカタ」が、一般社員や管理職を対象に実施した調査結果の一部です。

場面「本音で話せている」と思う部下「本音で話せている」と思う管理職
上司との面談55.6%70.0%
チームの会議・ミーティング48.3%67.7%
職場で上司に対して53.2%62.6%
職場で同僚に対して60.0%70.1%
職場の打ち上げ・飲み会・食事会などの場48.7%68.4%

先ほど部下が職場で本音を話すメリットについて解説しましたが、上記を見ると、実際には本音を隠しながら働いている者が多いことが明らかです。

さらに詳しく見ると、部下が本音を話せているかどうかは、上司と部下で認識に大きな差があることがわかります。つまり、一見すると言いたいことをしっかりと述べられている部下でも、実際は本音を隠しているケースが多々あるといえます。

参考:

オフィスのミカタ「上司との面談、本音で話せてる?上司と部下のギャップやチーム満足度に影響する3つの要素が明らかに スコラ・コンサルト調査」

部下が本音を言わない原因

先ほど紹介したパーソル総合研究所の調査によると、「本音で話しにくい人」には、主に以下のような特徴が見られるといいます(括弧内の数値が大きいほど傾向が強い)。

  • 自分への無関心(3.15pt)
  • 漏洩不安(3.13pt)
  • プライドの高さ(3.11pt)
  • 正しさへの固執(3.07pt)
  • 多忙さ(3.06pt)
  • 詐欺的態度(3.02pt)

上記の結果をもとに、部下が職場で本音を言わない原因について解説します。

まともに取り合ってもらえなさそうだから

上司が部下の意見を軽視するタイプの場合、部下は本音を言わなくなる可能性があります。具体的には、以下のような態度をとる上司が該当します。

  • 部下の話に興味がない
  • 忙しく話を聞いてもらえない
  • 話を聞くだけで何もしてくれない

たとえば、部下が現在多くの仕事を抱えており、「手が回らないので業務量を減らしてほしい」と上司に相談したとします。このとき、上司が「忙しいから今度ね」「考えておくよ」など、その場しのぎの適当な返答をしたら、部下はどう思うでしょうか。おそらく、「まともに取り合ってくれないなら、もう意見を言うのはやめよう」と考えるのではないでしょうか。

部下に本音を話してほしいのなら、ただ話を聞くだけでは不十分です。相手の意見を受け入れた上で、自身の行動や組織の改善に役立てようとする姿勢を見せることが大切です。

周囲に話が漏れそうだから

部下が本音を言わない場合、自分の発言が周囲に漏れるのを恐れている可能性があります。

例として、とある部下(Aさん)が上司に対して、「先輩社員(Bさん)の私語がうるさいのでやめさせてほしい」と相談したと仮定します。その後、上司がこのことをうっかり無関係の社員に漏らし、噂が回りまわってBさんに伝わってしまうとどうなるでしょうか。AさんとBさんの関係は悪化するでしょうし、Aさんは情報を漏らした上司への信頼を失い、二度と本音を話さなくなるかもしれません。

職場には必ずといっていいほど「口が軽い」人がおり、噂話はあっという間に広がるものです。もちろん、噂話のすべてが悪いわけではなく、ときには従業員同士のコミュニケーションのきっかけとなる場合もあるでしょう。しかし、中には人間関係の対立を招きかねないものもあり、このようなネガティブな噂話はうかつに漏らさないよう注意が必要です。

関係が悪化しそうだから

相手に言いたいことを伝えて関係が悪化するのを恐れて、本音を言わない部下も多いと考えられます。とくに、相手が以下のようなタイプだと、この傾向はより顕著になるでしょう。

  • プライドが高く、自分の非を認めない
  • 理屈っぽく、反論が多い

例として、プライドが高く怒りっぽい上司が、ある日重要な会議に遅れてきたと仮定します。このとき、「時間を守ってください」と堂々と伝えられる部下は、はたしてどれだけいるでしょうか。おそらく多くの者が、「逆ギレされたらどうしよう」「自分の評価が下がるかもしれない」などと恐れ、何も指摘できないのではないでしょうか。

自分の至らない点を他人から指摘されることは、多くの人にとって決して気持ちのいいものではないはずです。しかし、従業員同士が分け隔てなく本音を言い合える職場文化を醸成できれば、人間関係が悪化するリスクを軽減できるかもしれません。

部下から本音を引き出すコツ

ハーバード・ビジネス・レビューの記事(以下、同記事)を参考に、部下から本音を引き出すために、上司が心がけるべきポイントを紹介します。

上司自ら批判を求める

先ほども述べたように、多くの部下は上司に改善してほしい点があったとしても、関係悪化を恐れて何も言わない傾向にあります。逆に、自分の至らない点を指摘してくれる部下は、それだけ上司を信頼し期待している証ともいえます。

たとえば、部下から「指示がわかりにくい」と指摘されれば、その直後は自分の能力不足を思い知らされ、「ショック」「ムカつく」などと感じるかもしれません。しかし、ネガティブな感情は時間が経つにつれて和らぎ、やがて何も痛みを感じなくなるはずです。そして、部下の指摘をもとに自らの行動を改善すれば、自分自身の成長につながるでしょう。

以上のことから、部下から本音を引き出すためには、上司は目先のネガティブな感情を恐れずに、自らに対する批判を積極的に求めることが重要です。

質問の仕方を工夫する

普段本音を言わない部下に対し、上司がいきなり「私の改善すべき点を教えてください」と伝えても、おそらく「とくにありません」などの回答が返ってくるでしょう。くり返し述べているとおり、多くの部下は本音を伝えることで、上司との関係が悪化するのを恐れているからです。

そのため、部下の本音を引き出すためには、質問の仕方を工夫する必要があります。同記事では、部下が率直に意見を述べられる質問の要素として、以下の3つを提唱しています。

  • 「はい」「いいえ」や「問題ない」と返答できるような質問を避ける
  • 自分が違和感なく発せられる、自然な質問を用意する
  • 相手に合わせて適宜質問を変える

▼【具体例】部下が答えやすい質問

「私はあなたともっとコミュニケーションをとりたいと思っていますが、私に何かできること、もしくは改善すべきことを1つ教えてください」

個人面談などの場で上記のような質問をくり返し投げかければ、やがて心理的安全性が形成され、部下も本音を言いやすくなるでしょう。

沈黙から逃げない

部下が上司に対して批判や指摘をするのは決して簡単なことではなく、意見を引き出そうとしてもしばらく沈黙してしまうかもしれません。沈黙状態は上司と部下お互いにとって居心地が悪く、つい上司の方から沈黙を破り、助け舟を出しがちです。しかし同記事によると、上司が沈黙から逃げることは、部下が本音を言うことから逃げさせることにつながるといいます。

そのため、上司は沈黙から逃げずに、部下が言葉を発するまで黙って耐えることが重要です。同記事では、沈黙に向き合うコツとして、質問を投げかけた後に「頭の中でゆっくり6まで数える」ことを提唱しています。多くの人は6秒間の沈黙に耐えられず、部下の方から何かしらの言葉を発する可能性が高いからです。

反論せず理解しようとする

部下から何かしらの意見を引き出せたときは、それに対してむやみに反論せず、理解しようと心がけることが大切です。部下が勇気を持って発した意見に対し、反論や言い訳をされれば、今後二度と本音を言わなくなる恐れがあります。

もちろん、部下の批判・指摘のすべてを真に受ける必要はありません。重要なのは、部下の意見から自分自身の行動や組織の改善につながる新たな視点を見つけることであり、納得できないからといってわざわざ反論するべきではないのです。

なお同記事によると、多くの人は相手を批判する場合でも、露骨な伝え方を避ける傾向にあるといいます。たとえば、部下によっては1つの批判を2つの賞賛ではさむ(褒める→批判する→褒める)、いわゆる「サンドイッチ式」のフィードバックをするかもしれません。したがって、上司は部下が発した言葉の中から、批判的な要素を逃さず見つけることが重要です。

話を聞くだけでなく、改善に移す

部下から批判や指摘をもらったら、その意見をもとに改善策を実施することが重要です。話を聞くだけで状況が何も変わらなければ、部下は「どうせ言っても意味がない」と考え、今後、本音を伝えてくれなくなる恐れがあります。

同記事では、部下から批判・指摘をもらったら、どのように行動を改善するのか、その場で宣言することを提唱している。たとえば、部下から「時間を守ってほしい」と指摘されたら、「今後は5分前行動を心がけます」など、自身の行動の改善案を述べましょう。また、実際に行動に移したら、適切に改善ができているか部下に確認することも大切だといいます。

このように、部下の批判・指摘がきちんと改善策に反映できていれば、部下は自分の意見が尊重されていることを実感でき、今後も本音を引き出せる可能性が高まると期待できます。

フィードバックが当たり前の文化を育む

会社はさまざまな人が一緒に働く場である以上、ほとんどの従業員は職場で何かしら不満を抱えている可能性が高いです。このような不満をずっと抱え続けることがないよう、従業員同士がお互いにフィードバックし合うのが当たり前の文化を育むことが大切です。

たとえば、とある従業員Aさんは、Bさんの私語がうるさいことに不満を持っていると仮定します。このとき、Aさんがその不満をBさんではなく他の社員へ愚痴として吐き出せば、Aさんは多少気がまぎれるかもしれません。しかし、不満を直接聞いていないBさんの行動が変わることはなく、結局本質的な問題は何も解決されません。

一方、フィードバックが当たり前の職場文化であれば、AさんはBさんに直接「私語をもう少し控えてほしい」と伝えやすくなるでしょう。もしくは、別の社員であるCさんがAさんに対し、「不満があるなら直接Bさんに言いましょう」と促す(場合によっては話し合いに立ち会う)かもしれません。その結果、Aさんは不満を解消でき、Bさんは自身の行動を改善するきっかけが得られるのです。

このように、フィードバックが当たり前の職場文化を形成できれば、従業員は相手との関係が悪化するのを恐れることなく、本音を言い合えるようになると期待できます。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーが部下から「徹底的なホンネ」を得るための6つのコツ」

まとめ

部下が本音を言わない原因や、本音を引き出すためのコツなどを解説しました。

部下から本音を引き出すのは決して簡単なことではありません。しかし、上司自らが部下に対して積極的に意見を求め、自身の行動や組織の改善につなげる姿勢を見せることで、徐々に本音を打ち明けるようになると期待できます。

本記事で紹介したポイントを実践し、部下が安心して本音を言うことができる、風通しのよい職場づくりを目指してください。