「職場に信頼できない部下がいて、扱いに困っている…」
「信頼できない部下は放っておいても大丈夫?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。一口に「信頼できない」といっても、そのタイプはさまざまなはずです。中には、周囲の真面目に働く社員に迷惑をかける者もおり、このようなタイプは放置することなく適切に対処することが重要です。
本記事では、信頼できない部下によくある特徴や、彼らを効果的に指導・教育するコツについて解説します。すべての部下と良好な関係を築き、職場全体の士気や生産性の向上を目指す方は、ぜひ参考にしてください。
「部下が信頼できない」と感じている上司は多い
人材派遣事業を営むマンパワーグループ株式会社が、部下を持つ中間管理職を対象に実施した調査によると、15.6%が「(部下のことを)信頼していない」と回答しています。この結果から、大半の部下は上司から頼りにされているものの、信頼を勝ち取れていない者も決して少なくないことがわかります。
上司が信頼できない部下を抱える主なデメリットとして、「メンバー間の業務負担に偏りが生じる」ことが挙げられます。信頼できない人間には、当然、大事な仕事を任せにくくなるからです。そうなると、必然的に一部の社員の業務負担が増加し、負担を多く強いられている社員は不満を感じやすくなるでしょう。
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事によると、同僚と比べて労働時間が120%長い従業員は、モチベーションが低い可能性が33%高く、上司に不満を持つ可能性が2倍になるとされています。したがって、職場に信頼できない部下がいる場合は、放置することなく適切な指導・教育を施す必要があるといえます。
参考:
マンパワーグループ「中間管理職の約8割が「部下を信頼している」。信頼できる部下と、できない部下の違いとは?」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「優れたマネジャーの日常に見る5つの行動パターン」
信頼できない部下の特徴
マンパワーグループ株式会社の調査結果をもとに、信頼できない部下によくある特徴を紹介します。
言われたことしかできない
マンパワーグループの調査によると、部下が信頼できない理由として、最も多く挙げられた意見が「指示がないと動けない(41.9%)」でした。職場に指示待ち人間がいる場合、以下のような問題が起こると考えられます。
- 課題やトラブルが発生した際に、臨機応変に対応できない
- 知識やスキルを自ら向上させようとする意欲が低く、成長が見込めない
- 逐一指示が必要となるため、指示を出す側の労力がかかる
上記のような問題点を抱えている部下と、信頼関係を構築することが難しいのは言うまでもありません。
もちろん、新入社員のようにまだ経験が浅い従業員は、ある程度指示待ちになってしまうのも仕方ないでしょう。しかし、それなりに経験を積んでいるにも関わらず、いつまでも指示待ち人間になっている場合は、主に以下が原因として考えられます。
- モチベーションが低く、言われたことしかやりたくない
- 失敗を極度に恐れ、自分の判断で行動できない
前者については部下のモチベーションを高めることで、後者については失敗の捉え方を変えることで解決できるかもしれません(詳細は後述)。
責任感がない
マンパワーグループの調査によると、信頼できない部下の特徴として、「責任感がない(40.3%)」という意見も多く挙げられました。ここでいう「責任感がない」とは、以下のような行動を指します。
- 仕事を最後までやり切らない
- 仕事の締め切りを守らない
- 遅刻や欠席、早退が多い
上記のような自分勝手な行動をとる部下に対して、上司が信頼して仕事を任せられないのは至極当然といえます。
部下に責任感が欠けている主な原因としては、元々の人格に問題がある場合を除けば、「仕事に対するモチベーションが低い」ことが考えられます。モチベーションが低く、「会社のために貢献しよう」という意欲がないからこそ、自分の行動によって周囲が迷惑を被ったとしても、何とも思わないのでしょう。
コミュニケーションが取れない
業務をスムーズに進めるためには、関係者間でのコミュニケーションが必要不可欠なのは言うまでもありません。そのため、うまくコミュニケーションが取れない部下は、上司から信頼を得られない傾向にあります。
マンパワーグループの調査でも、部下が信頼できない理由として、以下のようなコミュニケーションに関する意見が多く挙げられました(括弧内は回答者の割合)。
- 報連相ができない(29.0%)
- コミュニケーションを取って仕事を進められない(9.7%)
- 仕事を頼みにくい雰囲気(9.7%)
- 何度も同じことを質問する(9.7%)
なお、部下とうまくコミュニケーションが取れない場合、彼らのコミュニケーション能力だけに問題があるとは限りません。部下が上司に対して壁を感じており、気軽に報告や相談ができない可能性が考えられます。実際に、人材育成事業を営む株式会社コーチ・エィが実施した調査でも、「あなたの直属の上司は、あなたから見てどの程度「話しかけやすい」ですか」との問いに、21%が「話しかけにくい」と回答しています。
したがって、部下とのコミュニケーションを円滑にするためには、部下が気軽に話しかけられるよう、「親しみやすさ」を意識することが重要といえます(詳細は後述)。
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打たれ弱い
マンパワーグループの調査によると、信頼できない部下の特徴として、以下のような「ストレス耐性」に関する意見も多く挙げられています(括弧内は回答者の割合)。
- ストレスに弱い(25.8%)
- 気分の浮き沈みがあり、不安定(17.7%)
業種や職種に限らず、仕事には多少なりともストレスが伴います。そのため、些細な事で落ち込むような打たれ弱い部下には、「ストレスがかかる大事な仕事は任せられない」と考える上司が多いのでしょう。
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事によると、打たれ弱い人は完璧主義なケースが多く、何かしら失敗したり不安を感じたりした際に、「過度に自分を責める」傾向にあるといいます。自責思考は社会人として成長するために必要不可欠な考え方ですが、強すぎるとストレスが過剰にかかり、最悪の場合、精神的に不調をきたす恐れがあります。したがって、このようなタイプには自分の欠点や弱さを受け入れ、自分自身を思いやるよう促すことが重要です(詳細なやり方は後述)。
他責思考が強い
何かしら失敗したり問題が起きたりした際に、自分の非を認めない「他責思考が強い」部下は、上司の信頼を得られない傾向にあります。以下は、マンパワーグループの調査で、信頼できない部下の特徴として挙げられた意見です(括弧内は回答者の割合)。
- 人のせいにする(19.4%)
- 失敗を隠す・ごまかす(14.5%)
仕事をしていれば、人間誰しも何らかの問題に直面します。たとえば、営業職なら商談がうまくいかず、契約が成立しない場合もあるでしょう。このような失敗をした際に、原因を分析して解決策を考え、今後につなげることで人は成長していくはずです。
しかし、他責思考が強い人間は、失敗しても自分自身ではなく他者や環境のせいにするため、失敗から学ぶ機会を失うことが多いです。その上、言い訳ばかり並べて周囲を不快にさせるため、良好な人間関係を築くことも難しいです。
したがって、このようなタイプには、言い訳になり得る要素をあらかじめ排除し、自分の欠点や課題を認識させることが重要です(詳細は後述)。
参考:
Hello, Coaching!「約6割の人は、自分を「話しかけやすい人」だと思っている」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「自分に思いやりを示す「セルフトーク」の技法」
信頼できない部下を指導・教育するコツ
信頼できない部下を指導・教育する際に、上司が心がけるべきポイントについて解説します。
欲動を満たしモチベーションを高める
先ほども述べたように、上司が信頼できない部下の多くは、主体性や責任感が欠如している傾向にあります。このようなタイプは、仕事に対するモチベーションを高めるように働きかけることが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事によると、従業員のモチベーションを高めるためには、彼らの「欲動」を満たすことが効果的とされています。欲動とは、人間を無意識のうちに行動へと駆り立てるものを指します。同記事では、欲動を以下の4種類に分類しています。
- 獲得への欲動(drive to acquire):無形なもの(社会的地位など)も含めて、何か価値のあるものを手に入れること
- 絆への欲動(drive to bond):他の人々やグループと強い関係や結びつきを築くこと
- 理解への欲動(drive to comprehend):周囲の世界や自分自身について深く知ること
- 防御への欲動(drive to defend):自分自身や自分が大切にしているものを守ること
これら4種類の欲動は重要度を順位付けできるものではなく、すべてを満たすことが大切といいます。以下は、同記事が推奨する、4種類の欲動を満たす方法をまとめたものです。
欲動 | 会社でテコ入れすべき点 | 満たす方法(例) |
---|---|---|
獲得への欲動 | 報奨制度 | 成績が優秀な者とそうでない者のインセンティブに、明確な差をつける |
絆への欲動 | 企業文化 | ランチ会や飲み会など、リラックスした雰囲気で従業員同士が交流できる場を設ける |
理解への欲動 | 職務設計 | ジョブローテーションを実施し、従業員に幅広い知識やスキルを習得させる |
防御への欲動 | 業績評価 | 業績の評価基準を明確にし、従業員を公平・公正に評価する |
言い訳を排除する
先ほども述べたように、信頼できない部下の中には他責思考が強く、何かしら問題を引き起こしても他者や環境のせいにする者が多いといわれています。このようなタイプに対しては、言い訳になり得る要素を排除し、自分の非をしっかりと認めさせることが重要です。
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事では、従業員が言い訳をする原因として、以下の3つを挙げています。
- 認識のズレ:仕事の目的や期待されていることを理解していない。よい仕事とは何か、その基準が明確ではない
- 能力の不足:仕事を遂行するためのスキルや知識が不足している。必要な手順や方法を知らない
- モチベーションの欠如:仕事を成し遂げる意欲が欠けている。問題に直面したとたんに諦めてしまう
上記の解決策として、同記事では以下の3つを提唱しています。
解決策 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
仕事の目的や目標を明確にする | 事前に従業員とすり合わせる時間を設け、 仕事の目的を明確にした上で、達成すべきことやその意義を伝える。また、何が成功で何が失敗か、評価基準も明示する | 「このプロジェクトでは、新たな顧客管理システムを6か月以内に導入し、顧客対応の効率を20%向上させることを目指します。また、システムが予定通りに稼働し、社内満足度80%を達成できれば合格です」 |
業務のプロセスを説明する | 業務を遂行するための効果的なアプローチや、過去の事例を示す。ただし、時折相手の理解度を測る質問をはさみ、一方的な会話にならないよう注意する | 「この手順書に従って、新しいソフトウェアのインストールを進めてください。手順1はソフトウェアのダウンロードで、手順2はインストールの実行です。手順2の部分で何か不明な点はありますか?」 |
モチベーションの低下を防ぐ | 外発的な報酬(インセンティブなど)や内発的な報酬(仕事のやりがいなど)を用意する。また、挫折を防ぐために、想定し得る問題やその対処法を事前に共有する | 「このプロジェクトを通じて新しいスキルが身につけば、きっとあなたのキャリアアップにつながるでしょう。もし、不明点やトラブルが発生した場合は、すぐに私に相談するようにしてください」 |
親しみやすさを意識する
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事によると、多くの上司は「自分は親しみやすい人間だ」と思い込みがちですが、実際には「話しかけづらい」と感じている部下が多いといいます。したがって、部下とのコミュニケーションが不足している場合は、まず自分の「親しみやすさ」に問題がないか意識することが重要です。
同記事によると、人間は相手の人格(怒りっぽい、優しいなど)に関わらず、社会的な地位が上の者を恐れる傾向にあるとされています。そのため、部下に「いつでも相談してね」などの声をかける程度では、コミュニケーション不足を解消するのは難しいのです。
同記事では、上司が親しみやすさを示すためには、以下の2点を意識するのが効果的と述べています。
- 表情に注意する:人間は考えごとをしているときや不安なときなどに、無意識のうちに威圧的な表情になりがち。部下と話すときは、目の前のやり取りや自身の表情に意識を集中させる。もし、表情の癖を直すのが難しい場合は、そのことを事前に伝えておく(例:「考えごとをしているとしかめっ面になるけど、怒っているわけではないので安心してください」)
- 反論を受け入れる:部下が何かしら異論を唱えた際に、ネガティブな反応(怒る、無視するなど)を示せば、それ以降反論はなくなり、効果的なコミュニケーションが取れなくなる。ネガティブな内容であっても、部下が正直に打ち明けられるような、心理的に安全な文化をつくる
セルフコンパッションを実践する
先ほども述べたように、信頼できない部下の中にはストレス耐性がない者も多いです。このタイプは、ちょっとした失敗やトラブルが起きただけでも、なかなか立ち直れない傾向にあります。
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されている記事によると、打たれ弱い従業員に対しては「セルフコンパッション」を実践させることが効果的とされています。セルフコンパッションとは、「自分自身への思いやり」を意味する言葉です。セルフコンパッションを行うことで、「人間は誰しも間違いを犯す」「失敗することは問題ではない」などといったポジティブな思考ができるようになり、自分の欠点や弱さを認める余裕が生まれるといいます。
同記事では、セルフコンパッションの具体的なやり方として、以下の4つのポイントを紹介しています。
ポイント | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
重圧になるような言葉を捨てる | ネガティブな印象を持つ言葉を避け、自分自身がワクワクできるような言葉を用いて目標を設定する | ダイエットを「健康的な生活を送り、毎日を最高の気分で過ごせるように、活動内容や食事を選ぶ」と言い換える |
「やること」に焦点を当てる | 自分が「やめること」ではなく「やること」に着目し、ポジティブな行動目標を立てる | 「夜、ダラダラするのをやめる」ではなく、「夕食後は毎日20分読書する」ことを目指す |
小さな目標も設定する | 最終目標だけを目指すと挫折する恐れがあるため、そこに至るまでの過程の中で小さな目標も設ける | 「月に10件新規契約を取る」という最終目標に対し、「毎日30件以上見込み顧客にアプローチする」などの小目標を設定する |
失敗をプロセスと捉える | 目標に対して、当初想定していたプロセスから逸れたとしても、それを失敗と捉えず、目標に近づくための別のプロセスだと考える | 「取引先を怒らせたのはなぜだろう。原因を特定して、次は同じことをしないように気をつければ、もっと良好な人間関係が築ける」と考える |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「新しい動機づけ理論」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「言いわけばかりする部下のマネジメント法」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「自分が思うほど、あなたは「親しみやすい上司」ではない」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「セルフコンパッションの実践が目標達成の近道となる」
まとめ
信頼できない部下によくある特徴や、彼らを効果的に指導・教育するコツについて解説しました。
一口に「信頼できない」といっても、そのタイプはさまざまであり、中には主体性や責任感が欠如している者も多いといわれています。このようなタイプの人間は周囲の社員に迷惑をかける恐れがあるため、上司が早急かつ適切に対処することが重要です。
本記事で紹介したポイントをふまえ、すべての部下と良好な関係を築き、職場全体の士気や生産性の向上を目指してください。