退職者が多い会社の管理職の中には、以下のような悩みを抱える方もいるでしょう。

「戦力となる社員が育たない」
「採用・教育コストが無駄になっている」
「退職理由を把握できず改善点が分からない」

退職者が多い会社は、仕事にやりがいがなかったり、キャリアパスに期待できなかったり、職場環境に不満があるケースも少なくありません。

本記事では、退職者が多い会社の特徴や退職者が多いと起こる問題について解説します。記事の最後では、人材を維持する方法について紹介しているので、退職者の多さに悩む管理職の方は、ぜひ参考にしてください。

退職者が多い会社の特徴

退職者が多い会社の特徴について、アメリカ心理学会の経営学教授のジェイソン・D・ショー氏による論文を参考に解説します。

部下の満足度が低い

部下の満足度が低い職場は、離職率が高くなる傾向があります。逆にいえば、仕事への満足感が高いと、以下のような不満について我慢できますが、満足度が低いと我慢できず退職してしまう可能性が高まります。

  • 給与が低い
  • 仕事にやりがいを感じられない
  • キャリアパスに期待できない
  • 評価制度に公平さを感じられない
  • 労働時間が長い
  • 人間関係が悪い
  • 企業文化に賛同できない

これらの不満が蓄積されると、部下は転職を考えるようになり、実際に退職する社員も現れるでしょう。満足度が低いことによる退職を防ぐためには、社員の不満を早期に発見し、改善することが重要です。

部下への満足度調査の実施や、日々のコミュニケーションを通じて、部下のニーズや不満を把握し、適切な対応策を講じましょう。

リーダーシップに問題がある

離職率の高い職場では、リーダーシップに問題があるケースも考えられます。意思決定や情報の共有が、上司から部下への一方通行で行われており、部下の意見が反映されない職場は良いとはいえません。

また、適切な指導やフィードバックがないと、部下は上司への信頼を失い退職を選ぶこともあるでしょう。

一方的なリーダーシップは、部下のモチベーションやエンゲージメントを低下させます。上司は部下を尊重し、信頼関係を築けるリーダーシップが求められます。

職場環境が悪い

職場環境が悪いと、部下のストレスが溜まり、心身の健康問題を引き起こしたり、離職の直接的な原因となったりします。職場環境が悪い要因として、人間関係が悪かったり、長時間労働を強いられたり、ハラスメントが軽視されていたりといったことが挙げられます。

職場環境の改善が見込めない場合、部下はより良い環境を求めて転職活動を始めるでしょう。また、同僚が同様に不満を抱えていたり、既に離職しているケースが多い場合、退職への心理的ハードルが下がり、実際に退職することもあります。

特に、親しい同僚の離職は、強い影響力を持ち、連鎖的な離職を引き起こす可能性があります。このように、職場環境の悪化は、ストレスの原因となり、モチベーション低下や上司への不信感、そして同僚の離職など、様々な形で部下の離職を誘発します。

キャリア開発の機会が少ない

キャリアアップやスキルアップの機会が少ないと、部下は成長を実感できなくなり、モチベーションが下がる可能性があります。キャリアアップへの希望が見えない社員は、社内で改善を求める行動をとることもありますが、状況が改善されないと判断した場合は、転職活動を開始する可能性が高まります。

キャリア開発の機会としては、社内研修や資格取得支援、メンター制度など、様々な方法があります。部下一人ひとりのキャリアプランを把握し、それぞれのニーズに合ったキャリア開発の機会を提供することが重要です。

中心人物の離職

チームや組織の中心人物の離職は、組織全体の士気に大きな影響を与え、離職の連鎖を引き起こす可能性があります。ここでいう中心人物とは、必ずしも上司や管理職、優秀な社員だけを指すのではありません。たとえば、以下のような特徴を持つ社員も中心人物となりえます。

  • チームのムードメーカーとして他の社員を鼓舞する役割を担っている
  • プロジェクトの進行を管理しチームを目標達成に導く役割を担っている
  • 専門知識やスキルに長けており、他の社員から相談を受けることが多い
  • 部署をまたいでの情報共有を積極的に行い、組織全体の連携を促進している

中心人物は、高いコミュニケーション能力を持ち、他の社員にポジティブな影響を与える存在です。中心人物の離職は、他の社員のモチベーション低下やノウハウや知識の喪失、顧客満足度の低下など、組織に様々な悪影響を及ぼします。

また、残された社員は、中心人物の離職を正当化するために、自身の仕事や会社に対する肯定的な態度を形成しようとすることがあります。しかし、これは根本的な問題解決にはつながらず、更なる離職を招く可能性も懸念されます。

中心人物の離職を防ぐためには、結果だけでなく成果を出すまでの過程についても適切に評価し、働きがいのある職場環境を提供することが重要です。

参考:

Jason D. Shaw.John P. Hausknecht.(2017). One hundred years of employee turnover theory and research. Journal of Applied Psychology.https://leeds-faculty.colorado.edu/dahe7472/hom.pdf

退職者が多いと起こる問題

退職者が多いと起こる問題について、同論文を参考に解説します。

生産性への悪影響

高い離職率は、組織の生産性に関連する様々な側面に悪影響を及ぼします。まず、離職によって欠員が生じ、残された社員の負担が増加します。これは、既存の社員に過剰な仕事量を課し、ストレスや疲労、燃え尽き症候群のリスクを高める可能性があります。

また、新しい社員を採用・育成するには時間とコストがかかるため、生産性の低下につながります。さらに、離職はチームワークや組織文化にも悪影響を与えます。経験豊富な社員が離職することは、組織の知識やノウハウを失うことを意味しており、新しい部下が組織に適応し、生産性を向上させるまでに時間がかかります。

特に社内の中心人物の離職が、他の部下の離職の連鎖を引き起こす可能性が高まります。離職による生産性への悪影響は多岐にわたり、組織のパフォーマンスを著しく低下させる可能性があるでしょう。

採用・育成コストの増加

退職者が多いと、辞めた社員に変わる人員を確保するために、採用・育成コストが増加します。欠員補充のための求人広告や選考プロセス、新人研修などには費用がかさみ、離職率が高いほどこれらのコストは膨らみます。

間接的な影響としては、生産性低下による収益減少や顧客満足度の低下、組織の評判悪化などが考えられます。離職によって顧客対応の質が低下したり、プロジェクトの遅延が発生したりすることで、顧客満足度が低下し、結果として収益の減少につながる可能性があります。

また、優秀な人材の離職が続くと、組織の評判が低下し、優秀な人材の採用が難しくなるという悪循環に陥る可能性も懸念されます。

競争優位の喪失

高い離職率は、組織の競争優位の喪失につながる深刻な問題です。特に、経験豊富な社員や専門知識を持つ部下の離職は、組織の知識やノウハウを失う事であり、競合他社への顧客情報の漏洩、新規事業開発の遅延など、競争力を低下させる様々なリスクを伴います。

優れた人材は、組織の競争優位性を築き維持するための重要な資産です。優れた社員が競合他社に転職することで、組織は長年かけて培ってきた競争優位性を失い、市場での地位が危うくなる可能性があります。

また、高い離職率は、組織の評判を低下させ、優秀な人材の採用を困難にすることにもつながります。これは、組織が将来的な競争優位性を築くことを阻害し、長期的な成長を妨げる要因となります。

【離職防止】人材を維持する5つの方法

人材を維持する5つの方法について、フォーブスに掲載されているキャリアコーチのキャロリン・カストリヨン氏による記事を参考に解説します。

キャリア開発の機会を提供する

社員の研修や能力開発に投資することは、社員の定着率向上と満足度向上につながります。

キャリア開発の機会を提供するためには、まず、社員と将来のキャリアパスについて話し合う機会を設け、キャリア目標を明確化することが重要です。

その上で、目標達成のための具体的なキャリアプランを作成し、必要なスキルや経験を習得できる機会を提供します。社内研修や外部研修、資格取得支援、メンター制度、昇進機会の提供などのキャリアサポートをすると良いでしょう。

社員のキャリア目標やスキルレベルに合わせた適切な機会を提供することが重要です。また、社員の学習意欲を高めるため、研修参加や資格取得を評価制度に反映することも効果的です。

社員が自身の成長を実感し、キャリアアップへの道筋が見えることで、仕事へのモチベーションが向上し、退職リスクの軽減につながります。

部下の健康を気遣う姿勢を示す

部下の精神的・身体的な面への配慮をし、必要に応じて業務量や業務内容を臨機応変に調整することが大切です。精神面では、過大な負荷やストレスを軽減するため、業務量や期日の妥当性を確認し、必要に応じて調整しましょう。

また、メンタルヘルスについてオープンに話し合える雰囲気を作り、相談しやすい環境を整備することも大切です。身体面では、健康診断や休暇取得の推奨、健康増進プログラムの提供などが有効です。これらの取り組みを通じて、部下が安心して仕事に取り組める環境を構築しましょう。

ワークライフバランスを促進する

部下の退職を防ぐには、ワークライフバランスの促進が効果的です。仕事と私生活の両立を支援することで、生産性の向上や離職率の低下が見込めます。

休暇取得の促進や労働時間ではなく成果で評価する成果主義を取り入れることで、長時間労働を抑制し、効率的な働き方を促進できます。不要な会議を減らすことで時間の有効活用を促すことも効果的です。

上司が率先して休暇を取得するなど、ワークライフバランスを重視する姿勢を示すことも重要です。これらの施策を通じて、社員が仕事と私生活の両方を充実させられるようサポートすることで、退職を防止し、優秀な人材の定着に貢献できます。

風通しの良い職場づくりを心掛ける

風通しの良い職場づくりは、人材を維持するために不可欠といえます。上司からの一方的なコミュニケーションや意見が言いづらい職場では、ストレスによる健康被害だけでなく、モチベーションや仕事へのやりがい、帰属意識なども低下してしまいます。

上司と部下が、双方向のコミュニケーションを取り、意見が言いやすい風通しの良い職場は、社員のエンゲージメントを向上が期待できます。風通しの良い職場をつくるには、定期的な1on1を実施したり、匿名で意見を投稿できるシステムを導入したり、部下の意見を尊重したりすることが大切です。

このように、職場環境を改善し、社員の満足度を高めることで、離職率を下げ、優秀な人材の定着を図ることが可能になります。

適切に評価し称賛する

部下への評価は、金銭的な報酬だけでなく、昇進や昇格、スキルアップの機会の提供も効果的です。また、日々の業務での貢献に対しては、感謝の言葉や称賛を伝えることが重要です。同僚の前で表彰したり、感謝状を渡したり、称賛のメールを送るなど、様々な形で感謝を示しましょう。

さらに、部下それぞれのニーズや価値観に合わせた評価方法を検討することも大切です。何がモチベーションになっているかを理解し、できる範囲で、部下に合った評価への報酬や称賛をすることで、部下の満足度とエンゲージメントを高めることができます。

具体的な行動目標と成果を結びつけ、定期的なフィードバックを通じて成長を支援することで、部下の貢献意欲を高めることができるでしょう。

参考:

Caroline Castrillon.(2024).5 Ways Companies Can Reduce Employee Turnover And Retain Top Talent.Forbes.https://www.forbes.com/sites/carolinecastrillon/2024/11/24/ways-companies-can-reduce-employee-turnover/

まとめ

退職者が多い会社の特徴や退職者が多いと起こる問題について解説しました。退職者が多い会社は、仕事へのやりがいが感じられなかったり、キャリアパスに期待できなかったり、仕事への満足度が低い可能性があります。

その他にも、中心人物の離職に伴いモチベーションが下がったり、転職に希望を持ったりといった理由も考えられます。

退職者を減らすためには、できる範囲で、社員のニーズを満たすことが大切です。ワークライフバランスの重視や、キャリアパスの機会を与えるなど、長期的に働きたいと思える会社づくりを目指しましょう。