「管理職の仕事が忙しすぎる…」
このような悩みを持つ方も多いでしょう。管理職は一般社員と比べて仕事量が格段に多く、長時間労働も常態化しやすいといわれています。
本記事では、管理職の業務負担を軽減するコツについて解説します。現在管理職として多忙を極めており、少しでも負担を減らしたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
管理職が忙しすぎるのは本当?

「管理職の仕事が忙しすぎる…」
このような声をよく耳にしますが、実際のところ、管理職はそれほど忙しいのでしょうか。
以下は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が全国の事業所を対象に実施した調査結果の一部で、管理職の月間残業時間の分布をまとめたものです。
月間残業時間 | 課長クラス | 部長クラス |
---|---|---|
0時間 | 21.5% | 27.9% |
1~5時間未満 | 7.6% | 5.9% |
5~10時間未満 | 6.5% | 6.4% |
10~20時間未満 | 16.0% | 16.4% |
20~30時間未満 | 17.9% | 17.8% |
30~40時間未満 | 10.2% | 11.6% |
40時間以上 | 20.3% | 14.0% |
平均 | 21.0時間 | 18.1時間 |
上記の結果を見ると、課長クラスの約5人に1人が月40時間以上も残業をしていることがわかります。
参考までに、「36協定」が適用される一般社員の場合、原則として月間残業時間の上限が45時間と定められています。
この上限と比較すると、月40時間以上の残業が常態化しうる管理職は「忙しすぎる」と言っても過言ではないでしょう。
長時間労働が常態化するとメンタル不調になる可能性あり
管理職は一般社員と比べて給与水準が高い分、業務負荷が大きくなる側面はありますが、それが過度な長時間労働を正当化する理由にはなりません。
だからといって、長時間労働が常態化している状況を放置してしまうと、十分な休息をとることができず、やがてメンタルに不調をきたす恐れがあります。
実際に、マイナビ転職が管理職を対象に行った調査では、管理職になってからの人生の変化について尋ねたところ、68.9%が「心身の健康が損なわれた」と回答しているほどです。
メンタル不調に陥ってしまうと、仕事だけでなく日常生活にも支障をきたし、最悪の場合には長期間の休養を余儀なくされるかもしれません。
社会人として理想的なキャリアを築くためには、長く健康的に働き続けることが何よりも大切です。
長時間労働によるメンタル不調を回避するためにも、現状の管理職の仕事が過度に忙しいと感じる場合は、その根本的な原因を分析したうえで、適切に対処する必要があります。
参考記事:
独立行政法人 労働政策研究 ・ 研修機構「管理職の働き方に関する調査」
マイナビ転職「「管理職になって良かった」と感じている人は約6割。一方で、管理職になって心身の健康が損なわれた人は約7割。」
管理職が忙しすぎる理由

管理職の仕事が忙しすぎるといわれる理由を解説します。
仕事が多すぎる
管理職が忙しすぎると感じる要因として、そもそもの仕事量が多いことが考えられます。
一般社員の場合は基本的に自分の仕事に集中すればよいのに対して、管理職は自身の業務に加えて、部下の管理や指導もしなければなりません。
また、部下の悩み相談に乗るなど、業務と直接関係のないことに時間を費やさなければならないケースもあるでしょう。
このように、管理職は限られた時間の中で幅広い業務を処理しなければならず、忙しすぎると感じるのも無理はありません。
管理職の負担を軽減する最も直接的な方法は、組織の人員を増やし、仕事を分散させることです。
しかし、国内の労働人口が減少している中で、人手を増やすのは決して簡単なことではありません。実際に、帝国データバンクが行った調査でも、51.7%の企業が人手不足に悩んでいるという結果が出ています。
したがって、管理職が忙しすぎると感じる場合は、まずは自身の仕事の進め方を見直し、効率的に業務を処理する方法を習得する必要があるといえます。
また、現在抱えている仕事を精査し、不要な業務を積極的に廃止することも重要です。
部下に残業させるのが難しい
2019年に始まった「働き方改革」により、部下の労働条件が厳しく規制されるようになりました。その結果、部下が処理しきれない仕事がすべて管理職に集中し、管理職の忙しさに拍車がかかっていると考えられます。
以下は、パーソル総合研究所が全国の企業を対象に実施した調査結果の一部で、働き方改革が「進んでいる企業群」と「進んでいない企業群」に分けたときの、両者の業務の負担感を比較したものです。
この結果からも、働き方改革によって管理職の負担が軽減されるどころか、かえって増えていることがわかります。
働き方改革が進んでいる | 働き方改革が進んでいない | |
---|---|---|
管理職の業務量の増加 | 62.1% | 48.2% |
組織の業務量の増加 | 69.0% | 36.3% |
人手不足 | 65.7% | 44.2% |
働き方改革によって部下の長時間労働が抑制されているのは好ましいことであり、この流れは今後も続くと予想されます。
この状況下で管理職の長時間労働を防ぐには、やはり限られた時間の中で、効率的に仕事を処理する方法を身につけることが重要といえます。
部下を信頼していない
管理職の業務量は非常に多く、一人ですべてをこなすのは難しいため、部下に適切に仕事を割り振ることが大切です。
しかし、部下を信頼していない管理職の場合、仕事を任せることができず、結果として多くの仕事を一人で抱え込み、忙しい状況を自ら作り出していると考えられます。
マンパワーグループ株式会社が管理職を対象に行った調査では、「あなたは仕事上で、どのくらい部下を信頼していますか」との問いに対し、15.6%が「信頼していない」と回答しています。
経験やスキルが不足している部下に重要な仕事を任せるのは、たしかに不安なことかもしれません。
だからといって、部下に仕事を任せなければ、自分一人が忙しい状況が続くだけです。また、部下も成長の機会が得られないため、組織としての発展も期待できません。
たとえ失敗のリスクがあったとしても、部下を信頼し、適切に仕事を割り振り、部下の成長を支援することも、管理職として必要不可欠な資質といえます。
参考:
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」
マンパワーグループ「中間管理職の約8割が「部下を信頼している」。信頼できる部下と、できない部下の違いとは?」
忙しすぎる管理職が負担を軽減するには

ハーバード・ビジネス・レビューの記事(以下、同記事)をもとに、忙しすぎる管理職が自身の負担を軽減するために、意識すべきポイントを解説します。
適度に手を抜く
管理職が忙しすぎる状況から抜け出すためには、適度に「手を抜く」ことが大切です。
もちろん、すべての仕事を完璧に仕上げることができればベストですが、それではいくら時間があっても足りません。
また、部下にとっても、上司から常に完璧さを求められることは大きなストレスとなり、結果的にモチベーションやパフォーマンスが低下する恐れがあります。
したがって、管理職は現在抱えているタスクそれぞれに「合格水準」を定めたうえで、手抜きができるポイントを適切に見極めることが重要です。
同記事では、仕事上で手を抜けるポイントを探すコツとして、以下の3つを自問することを提唱しています。
自問 | 具体例 |
---|---|
60点程度の完成度で止めたり、プロセスを簡略化したりできる業務はないか? | ・日報を文章ではなく箇条書きの形式で済ませる・小規模なプロジェクトの場合は、簡便的な計画書でOKとする |
業務の削減や簡素化について、上長や他の関係者に提案できる点はないか? | ・社内の申請フローを簡略化する方法を、関連部署に提案する・毎週上司に報告書を提出する形式から、口頭で報告する形式に変更できないか尋ねてみる |
業務効率化ツールを活用できる部分はないか? | ・会議の議事録作成にAIを利用する・タスク管理ツールを用いて、部下の進捗状況を一目で確認できるようにする |
無駄な業務を廃止する
現在職場内に存在する仕事は、必ずしもすべてが意味のあるものだとは限りません。中には、とくに理由もなく、ただ習慣として行っている業務もあるはずです。
忙しすぎる管理職が少しでも負担を軽減するためには、このような無駄な業務を積極的になくしていくことが重要です。
同記事では、職場内の無駄な業務を特定するコツとして、以下の2ステップを踏むことを提唱しています。
- ステップ1:部下も含めて全員で「廃止できる可能性のある業務」を考え、リストアップする
- ステップ2:「週の勤務日数を1日減らさなければならない」と仮定し、どの業務を廃止するかを検討する
なお、既存の業務を廃止する際には、他の関係者や組織の業績に悪影響がおよばないか、確認しておくことも大切です。
▼【具体例】無駄な業務の廃止
毎週金曜日に定例会議を開催しているが、とくに議題がない週も多々ある。そのため、重要な報告事項がある場合のみ会議を開催し、簡単な内容であればメールでの周知で済ませる。 |
部下との関わりを減らす
部下が円滑に仕事を進めるためには、管理職が積極的にコミュニケーションを取り、適宜サポートすることが大切です。
しかし、部下一人ひとりの仕事に深く関与しすぎると、それだけで管理職は多くの時間を費やすことになります。
管理職が忙しすぎる状況から脱却するためには、ときには部下との関わりを意図的に減らすことも必要です。
また、管理職が部下と適切な距離をとることで、部下は管理職に依存することなく、自分で考え、行動する力が身につくと期待できます。
同記事では、管理職が部下との関わりを減らすために意識すべきポイントとして、以下の5つを挙げています。
ポイント | 具体例 |
---|---|
自分が深く関与しすぎているプロジェクトはないか?100%部下に任せることができる業務はないか? | 自分が毎回行っている書類の承認作業を、チームリーダーに権限を付与して任せる |
自分の関与を減らしつつ、必要なときに部下をサポートするにはどうすればよいか? | 業務のチェックポイントを設け、部下がそのポイントに達したタイミングでフィードバックを行う体制を構築する |
効率的に情報共有できる、非同期的なコミュニケーションの取り方はないか? | チャットツールを活用し、自分の好きなタイミングで情報共有を行えるようにする |
会議への参加時間を削減することは可能か? | 会議で話し合う議題を事前に絞り込み、基本的な情報共有はチャットやメールで行う |
長時間会議をする代わりに、短時間で部下とコミュニケーションを取る方法はないか? | フォーマルな会議ではなく、5~10分間のスタンドアップ・ミーティング(立ったままの話し合い)を行う |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「膨大な仕事を抱えて部下にも任せられない時、どうすべきか」
まとめ
管理職が忙しすぎるといわれる理由や、管理職の業務負担を軽減するコツについて解説しました。
管理職は一般社員と比べて給料が高い分、多少仕事が忙しいのは仕方のないことです。しかし、長時間労働が常態化している場合は、心身に不調をきたす前に適切に対処することが重要です。
現在管理職として多忙を極めている人は、少しでも業務負担を減らせるよう、本記事の内容を実践してみてください。