「職場に挨拶をしない部下がいる…」
「部下が挨拶するようになるためにはどうすればいい?」
このような悩みや疑問を持つ管理職も多いでしょう。
挨拶は単なる社交辞令やマナーではありません。関係者と良好な人間関係を築き、仕事を円滑に進めるために必要不可欠な行為です。
本記事では、職場で挨拶をすることの意義や、部下に挨拶を促すためのポイントについて解説します。
「挨拶をするのが当たり前」な明るい職場を作りたい方は、ぜひ参考にしてください。
挨拶をしない部下は一定数いる

株式会社クロス・マーケティングが全国の社会人男女を対象に実施した調査で、「普段どの程度挨拶しているか」について尋ねたところ、70.9%が「よくしている/ある程度している」と回答しています。
この結果から、大部分の人は普段から習慣的に挨拶をしていることがわかります。
一方で、「あまりしていない/ほとんどしていない」と回答した人も16.9%おり、挨拶をしない人も一定数いることが浮き彫りになっています。
以下は、同調査の回答割合を年代別にまとめたものです。
よくしている/ある程度している | あまりしていない/ほとんどしていない | |
---|---|---|
20代 | 58.2% | 26.8% |
30代 | 62.2% | 21.3% |
40代 | 69.5% | 17.3% |
50代 | 80.0% | 10.8% |
60代 | 84.5% | 7.7% |
上記より、年代が上がるにつれて、挨拶が習慣化している人の割合が増える傾向が見て取れます。
年齢を重ね、長く社会生活を送ると、「良好な人間関係を築くためには、挨拶が必要不可欠だ」と多くの人が気づくでしょう。
しかし、社会人経験の浅い若年層は、挨拶の重要性を十分に理解していない場合もあり、その結果、挨拶を習慣化する割合が低くなっているのかもしれません。
参考:
PR TIMES「「挨拶」することで自分にも人間関係にも好影響 ちょっとした声かけや目礼でもよい印象に」
職場で挨拶する意義

心理学や神経科学の研究結果に基づいて、なぜ職場では挨拶するべきなのか、挨拶することでどのようなメリットが得られるのかについて解説します。
人間関係が構築しやすくなる
我々が普段何気なく交わす挨拶は、単なるマナーや社交辞令ではなく、良好な人間関係を構築するうえで必要不可欠なものです。
心理学の観点から見ると、挨拶には以下のような効果があるとされています。
- 相手の存在を認める:挨拶は「あなたの存在に気づいていますよ」というメッセージを伝える行為。挨拶により、相手は「自分は認められている」と感じ、自己肯定感を高めることができる
- 友好的な気持ちを示す:挨拶には「あなたに敵意はありません」「仲良くしたいです」といった、ポジティブな気持ちを伝える機能がある。挨拶をすることで、その後のコミュニケーションが円滑に進みやすくなる
- 安心感を与える:親しい人からの挨拶は、安全地帯にいるかのような安心感を与える。挨拶を交わすことで、脳が「この環境は安全だ」と判断し、無駄な緊張を解いてリラックスできる
また、先ほど紹介した株式会社クロス・マーケティングの調査でも、挨拶が人間関係に寄与するポジティブな効果が裏付けられています(下記参照)。
▼Q. 挨拶について感じていること
イメージ | 回答割合 |
---|---|
挨拶をしてくれる人には良い印象を持つ | 44.8% |
挨拶が会話のきっかけになることがある | 27.5% |
挨拶を交わすと気分が良いので積極的にする | 24.7% |
生産性が向上する
職場での挨拶には、生産性を向上させる効果があるとされています。
挨拶は、従業員同士が互いの存在を認め合う行為です。日常的に挨拶を交わすことで、職場に「心理的安全性」が生まれると期待できます。
心理的安全性とは、「自分の意見や考え方について、他者に否定されたり批判されたりする心配がなく、安心して発信できる状態」を指す言葉です。
心理的安全性が高まると、従業員は自分の意見や疑問、さらには失敗もオープンに共有できるようになります。その結果、活発な議論や建設的なフィードバックが促進され、新しいアイデアが生まれやすくなり、業務がよりスムーズに進むでしょう。
多くの仕事は一人では成り立たず、関係者同士の協力が必要不可欠です。
挨拶を通じてメンバー間に信頼関係が生まれ、連帯感が高まれば、個々のパフォーマンスはもちろん、チーム全体の生産性も向上することが期待できます。
挨拶をする本人にもプラスの効果がある
挨拶は受け取る相手のためだけでなく、発信する本人にとっても多くのメリットがある行為です。
過去のさまざまな研究により、挨拶にはストレスを軽減し、自己肯定感を高める効果があることが示されています。
▼挨拶の効果
- オキシトシンの分泌:他者と温かい挨拶を交わすことで、脳内で「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌される。オキシトシンは、ストレスを和らげ、安心感や幸福度を高める効果がある
- ドーパミンの作用:挨拶をした際に相手から笑顔や返事が返ってくると、「自分は認められた」と感じ、脳の「報酬」を司る部分が刺激される。「やる気ホルモン」であるドーパミンが放出されることで気分が高揚し、「また挨拶しよう」というモチベーションにつながる
- 自己効力感の強化:挨拶に相手が応じてくれることで、「自分は人と良い関係を築ける」という自信がつく。自己効力感は、何かを成し遂げるための重要な原動力となる
- 自己肯定感の醸成:挨拶を通じて相手に受け入れられていると感じることは、「自分は価値ある存在だ」という感覚を育む。自己肯定感は、メンタルを安定させるための土台となる
このようなことから、挨拶は他人のためだけに嫌々行うものではなく、自分のためにする行為だといえます。
参考:
中原こころのクリニック「挨拶からはじまる心の変化:心理学的・神経科学的視点からの考察」
挨拶しない部下の心理

部下が挨拶をしない場合、考えられるパターンは主に以下の2つです。
- 誰に対しても挨拶をしない
- 自分にだけ挨拶をしない
前者の場合、その部下は挨拶の重要性を理解しておらず、「なぜわざわざ挨拶をしなければならないのか」と思っている可能性があります。
しかし、ここまで説明してきたように、職場での挨拶は良好な人間関係を築き、仕事を円滑に進めるためには必要不可欠なものです。
少なくとも、挨拶をしないことで損をすることはあっても、して損をすることはありません。
このようなタイプの部下には、後ほど紹介するポイントを押さえて接することで、挨拶の重要性に気づいてもらうのがよいでしょう。
一方で、後者の場合は、上司である自分の過去の言動が原因で、部下から嫌われてしまっている可能性が考えられます。
たとえば、普段部下に対して高圧的な態度で接していないでしょうか。挨拶をしてきた部下を無視したり、適当に返事をしたりしたことはないでしょうか。
もちろん、職場は友人の集まりではないため、個人的な好き嫌いにかかわらず挨拶はするべきです。
しかし、部下が挨拶をしなくなった原因が自分にあるのであれば、まずは自分の言動を振り返り、改善することが必要でしょう。
また、安心して声を掛け合える土台づくりには、心理的安全性の理解と実装が欠かせません。以下の記事では心理的安全性について解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
部下が挨拶をするようになるためには

挨拶をしない部下が挨拶するようになるために、上司が心がけるべきポイントを紹介します。
上司自ら進んで挨拶する
部下に挨拶をしてほしいならば、まずは上司が自ら進んで挨拶しましょう。
目上の立場である上司が積極的に挨拶をしていれば、たいていの部下は罪悪感から「自分も挨拶をしなければ」と感じるはずです。
また、上司が自発的に挨拶をする姿勢を見せれば、その行為が周囲に伝染する「挨拶の連鎖」が起こると期待できます。
このことは、「社会的学習」や「同調行動」といった心理学の理論からも説明できます。
- 社会的学習:「人は他者の行動を観察し、模倣することで新しい行動を習得する」という考え方。単に真似をするだけでなく、「あの人が褒められたから、同じことをしてみよう」というように、行動の結果(報酬や罰)も見て学ぶ(例:上司や同僚が行っている効果的なプレゼン手法を学び、自分の発表に活かす)
- 同調行動:「人は周囲の大多数と同じ行動をとることで、集団に合わせようとする」という考え方。自分が集団から外れることへの不安や、集団の意見が正しいと信じることで起こる(例:会議で他の参加者が話に共感している様子を出しているので、自分も無意識にうなずく)
つまり、上司が自ら進んで挨拶をすることで、部下は「ここでは挨拶をするのが当たり前なんだ」という規範を学習し、自然と模倣するようになるのです。
質の高い挨拶をする
挨拶は、単に「おはようございます」「お疲れ様です」と言葉を発するだけではあまり意味がありません。
言葉だけでなく、非言語的な要素も意識することで、相手により多くのポジティブなメッセージを伝えられます。
以下は、質の高い挨拶をするために意識すべき3つのポイントです。
- 表情:相手の目を見て、笑顔で挨拶する。こうすることで、「あなたに良い印象を持っています」というポジティブな気持ちが相手に伝わりやすい
- 声のトーン:明るくはっきりした声で挨拶することで、活気ややる気を伝えることができる。反対に、不愛想な態度やボソボソとした声は、相手にネガティブな印象を与えかねない
- 最適化:余裕があれば、相手に合わせた一言を付け加えることで、さらに効果が高まる(例:名前を呼ぶ、体調を尋ねる)。こうすることで、「あなた個人を大切に思っています」という気持ちがより強く伝わりやすい
逆に、上記の要素が欠けていると挨拶はただの義務的な行為になり、人間関係の構築や生産性の向上といった本来の目的を達成することが難しくなるでしょう。
挨拶の言葉だけでなく、その背後にある敬意や好意を伝えることが、真の効果を生み出す鍵となるのです。
返事がなくても挨拶を続ける
上司が率先して挨拶する姿勢を見せることで、多くの部下は自ら進んで挨拶をするようになるでしょう。
しかし、中には挨拶を返してすらくれない部下もいるかもしれません。そのような場合でも、上司はめげずに挨拶を続けることが重要です。
毎日上司から明るく挨拶をされ続ければ、部下は無視し続けることに罪悪感を覚え、やがて挨拶を返してくれるようになるかもしれません。
また、先ほども述べたように、挨拶は受ける側だけでなく、発信する側にも多くのメリットがある行為です。
「自分が幸せな気持ちになるために挨拶をする」という意識を持てば、たとえ相手から返事がなくても、そこまで気にならなくなるはずです。
もし、どうしても挨拶を無視されることに耐えられない場合は、直接部下に「挨拶を無視されるのはつらい」「せめて返事くらいはしてほしい」と伝えてみるのも一つの手でしょう。
まとめ
職場で挨拶をすることの意義や、部下に挨拶を促すためのポイントについて解説しました。
挨拶は単なる社交辞令やマナーではありません。関係者と良好な人間関係を築き、仕事を円滑に進めるために必要不可欠な行為です。
また、挨拶は相手だけでなく、発信する本人にも多くのメリットをもたらします。
もし、現在職場に挨拶をしない部下がいる場合は、今回紹介した内容を実践してみてください。上司が率先して挨拶をすることで、職場の雰囲気は変わり、「挨拶をするのが当たり前」な明るい職場へと変わっていくはずです。