「仕事はできるけど、言動や態度に問題がある部下の扱いに困っている…」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。
こうした部下を「優秀だから」と放置してしまうと、部下の言動が原因で周囲の士気やパフォーマンスが低下し、結果として組織全体の成果を損なうことになりかねません。
本記事では、能力は優秀だが扱いにくい部下に対して、上司がとるべき対処法について解説します。
従業員が互いに尊重し合い、気持ちよく働ける職場環境作りを目指す方は、ぜひ参考にしてください。
優秀だが扱いにくい部下の特徴

優秀ではあるものの、上司が扱いにくいと感じてしまう部下にありがちな特徴を紹介します。
反抗的な態度をとる
優秀でありながらも扱いにくい部下の特徴として、反抗的な態度をとりがちな点が挙げられます。
たとえば、上司の業務指示に対して「なぜそんな面倒なことをしなければならないんですか」などと異論を唱える行動が該当します。
実際に、株式会社R&Gが管理職を対象に行った調査でも、「苦手な部下の特徴」として、「反抗的な態度をとる(12.2%)」が2番目に多く挙げられているほどです。
優秀な人は自身の能力に自信があるため、上司の指示や既存のやり方に対し、「もっと良い方法があるのではないか」と疑問を抱きやすい傾向にあります。このような疑問を呈する姿勢が、ときに反抗的な態度として表れるのかもしれません。
部下の反発は単なるわがままや不満とは限らず、むしろ、組織をより良くするための建設的な意見であることもあります。そのため、部下が反発すること自体が一概に悪いとはいえません。
しかし、その反発が原因でチームの和を乱したり、周囲に悪影響を及ぼすことがあれば、上司は扱いにくさを感じることになるでしょう。
反抗的な態度が続くと、上司・部下間の信頼関係にも影響を及ぼします。
自分の非を認めない
仕事上で何かしら間違いやミスを犯すことは誰にでもあります。その際に、自分の非を素直に認められない部下は、上司から扱いにくいと感じられるでしょう。
実際に、株式会社ネクストレベルが管理職を対象に実施した調査でも、「困った部下の特徴」として、27.7%が「謝らない・言い訳ばかり」と回答しているほどです。
このタイプの部下は、自分の能力に自信があるからこそ、「自分がミスをするはずがない」と感じてしまう傾向があります。
もしくは、ミスを認めることは「能力不足を露呈すること」だと感じ、自身のプライドを守るために、無意識のうちに自らを正当化しようとしてしまうのかもしれません。
もちろん、自分の能力に自信を持つのは決して悪いことではなく、むしろ自己効力感を高め、社会人として成長するために必要不可欠なことです。
しかし、故意でなくてもミスをした際は誰かしらに迷惑がかかる以上、過ちは素直に認めるべきです。自分の非を認めず、謝罪もせずに言い訳ばかりするような部下は、上司に「扱いづらい」と思われても仕方がないでしょう。
個人プレーに走る
世の中にある仕事の多くは、一人ではなくさまざまな関係者で協力し合って初めて成り立ちます。
そのため、たとえ優秀でも周囲と協力せず、個人プレーに走りがちな部下は、上司から扱いにくいと感じられるでしょう。
実際に、株式会社ネクストレベルの調査でも、「困った部下の特徴」として、「報連相がない(29.5%)」「勝手に判断してしまう(28.9%)」などの意見が多く挙げられているほどです。
このようなタイプは、自分の能力に絶対的な自信があるため、「チームで協力するより、一人で進めた方が効率的だ」と考えてしまう傾向にあります。その結果、情報共有を怠ったり、周囲の意見を聞かずに物事を独断で進めたりするのでしょう。
しかし、いくら優秀な部下であっても、個人プレーに走るとチームの連携が崩れ、全体としての成果を損なう恐れがあります。
たとえば、Webサイト制作のチーム内に、独自の方法で作業を進め、品質基準を守らないメンバーがいれば、最終的な成果物の品質にばらつきが生じ、顧客の満足度を下げてしまうことになるでしょう。
報連相を軽視する傾向が強い部下には、基本的なコミュニケーションの型を再確認させることも有効です。
承認欲求が強い
承認欲求が強い部下は、たとえ優秀であっても、扱いにくいと感じる上司が多いかもしれません。
プレジデントオンラインの調査でも、「承認欲求が強い仕事仲間をどう感じますか」との問いに、管理職の52%が「扱いづらい」「厄介だ」と回答しているほどです。
承認欲求は適切に満たされれば、「もっと頑張ろう」という意欲につながり、成長を促すポジティブな力になります。
そのため、承認欲求が強いこと自体は、必ずしも悪いことではありません。
問題となるのは、その承認欲求が過剰になったときです。過剰な承認欲求は、以下のようなマイナスな行動につながる可能性があります。
- 他人の評価に一喜一憂し、自分を見失う
- 周囲の協力を軽視し、一人で成果を出そうとする
- 失敗を認めず、成長の機会を逃す
このような状態になると、承認欲求の強さが周囲に悪影響を及ぼすだけでなく、上司は常に部下の承認欲求を満たすような対応を求められるため、扱いにくさを感じてしまうのでしょう。
参考:
PR TIMES「【苦手な部下の特徴ランキング】上司418人にアンケート調査」
PR TIMES「166人の上司が選んだ「こんな部下は困る!ランキング」発表」
PRESIDENT Online「誰に、仕事で認められたいか? プレジデント調査室vol.14」
優秀だが扱いにくい部下を放置するのは危険

「優秀だから仕方ない」と、扱いづらい部下を放置するのは危険です。
先ほども説明した通り、このようなタイプの部下は周囲との人間関係を築くのが苦手なだけでなく、ときに無礼な態度をとることも多いからです。
過去に米国で行われた研究で、職場で無礼な扱いを受けた人々のその後の行動を調べたところ、以下のような傾向が見られたといいます(括弧内は該当者の割合)。
- モチベーションが低下する:仕事に費やす労力を意図的に減らす(48%)、仕事の質を意図的に下げる(38%)
- 時間を無駄にする:不快な出来事を思い出す(80%)、相手との関わりを避ける(63%)。
- パフォーマンスが低下する:仕事のパフォーマンスが下がる(66%)、会社への貢献意欲が薄れる(78%)
つまり、たとえ一人の部下がどれだけ優秀でも、その部下の言動が原因で周囲のメンバーのやる気やパフォーマンスが下がれば、最終的に組織全体の生産性が低下し、売上や社員の定着率にも悪影響を及ぼす可能性があるのです。
したがって、このような部下に対しては、無礼な態度を改善し周囲と調和がとれるよう、上司が指導・教育を行うことが必要といえます。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「「無礼」が利益を蝕む」
優秀だが扱いにくい部下の対処法

ハーバード・ビジネス・レビューの記事をもとに、優秀だが扱いにくい部下に対する適切な対処方法について解説します。
問題点をはっきり伝える
仕事はできるのに協調性がない部下は、自分の言動が周囲にどう影響しているか気づいていない傾向にあります。
成果を出すことに集中しすぎるあまり、「人間関係のトラブルは些細なことだ」と考えているのです。
そのため、「チームワークを大切にしよう」といった曖昧な表現では他人事のように聞こえ、聞き流されてしまう可能性が高いです。
このようなタイプの部下には、上司がはっきりと、具体的に問題点を伝えることが重要です。
具体的には、以下の3つのステップで問題点を伝えるのが効果的とされています。
ステップ | 具体例 |
---|---|
【ステップ1:相手の良い点を伝える】相手の成果や才能を褒め、リスペクトしていることを示す。これにより、相手は「頭ごなしに否定されているわけではない」と感じ、聞く姿勢になる | 「あなたのアイデアは本当に素晴らしいし、仕事の成果もチームでトップクラスです。あなたは会社にとってかけがえのない存在だと思います」 |
【ステップ2:問題点を具体的に伝える】あいまいな表現を避け、具体的な行動やその結果を伝える。感情的にならず、事実に基づいて話すことが重要 | 「あなたが長文で攻撃的なメールを送ることで、他のメンバーは意見を言いにくいと感じているようです。そのせいで、せっかくのあなたの提案がうまく進まないケースも出てきています」 |
【ステップ3:改善への期待と協力を示す】最後に、今後どうなってほしいか、そしてそのために自分がどう協力するかを伝える。「一緒に解決しよう」という姿勢を見せることで、相手の抵抗感を和らげる | 「もし周囲ともっと協力できれば、あなたは今以上の大きな成果を出せるはずです。あなたがより良い働き方を見つけられるよう、私も全力でサポートするつもりです」 |
このように、「褒める→具体的に指摘する→協力する」という流れで伝えることで、部下は反発することなく、「どうすればいいか」という建設的な思考へとスムーズに移行しやすくなるといいます。
出世への影響を理解させる
優秀で野心的な部下に対しては、「出世への影響」を理解させることが効果的です。
このタイプの部下は、自分の成長と成功に強い関心を持っています。そのため、自分の能力と成果がすべてだと考え、人間関係やチームワークを軽視しがちです。
しかし、「今のままでは、どれだけ成果を出しても出世できない」と伝えれば、部下は事態の深刻さに気づきます。
部下にとって最大のモチベーションである「出世」に結びつけることで、初めて自身の問題行動を直す必要性を真剣に考えるようになるのです。
具体的には、上司が以下のように伝えるといいでしょう。
- まず、相手の成果を称賛し、リスペクトしていることを伝える(例:「あなたが今期、契約をたくさん取ってくれたのは本当に素晴らしいことです」)
- 次に、上のポジションに必要なスキルを明確に伝えた上で、現状の課題点を指摘する
- (例:「ただ、上の立場になるほど、個人の成果だけでなく、チームをまとめる力や、周囲の協力を引き出す力が重要になります」)
- そして、その課題をクリアしない限り、昇進は難しいことをはっきりと伝える(例:「今のままでは、そのスキルが足りないから、会社はあなたを昇進させられないでしょう」)
相手への共感を示す
優秀な部下は、「なぜ周りは自分と同じようにできないんだ」という不満や、「自分ばかり頑張っている」という孤独感を抱えていることがよくあります。
高い理想や目標に向かって突き進むあまり、周囲との摩擦を生んでしまうのです。
もし上司が部下の努力や葛藤を理解せず、ただ一方的に「態度が悪い」と責めてしまうと、部下はさらに心を閉ざしてしまうでしょう。
そこで重要になるのが「共感」です。共感は、部下の孤独感や不満を認め、対話の扉を開くための第一歩となります。
共感を示す際には、以下の3つのポイントを抑えると効果的とされています。
ポイント | 具体例 |
---|---|
【相手の感情を言葉にして代弁する】相手のイライラや焦りの感情を否定せず、言葉にして共感を示す | 「あなたが周りのスピードにイライラする気持ちはよくわかります。誰もがあなたのようにやる気に満ちていたり、エネルギッシュだったりするわけではないですからね」 |
【自分の過去の経験を共有する】自分も同じような経験があったことを話すことで、共感がより本物だと伝わる | 「私も若い頃、あなたと同じように『なぜ周りは動いてくれないんだ』と悩んだ時期がありました。周りとの衝突も多かったし、このままではいけないと感じたのです。」 |
【相手の行動の根底にある良い意図を認める】問題行動の裏にある、良い意図や情熱を認めることで、部下のプライドを傷つけずに済む | 「あなたが同僚に厳しい言葉をかけてしまうのは、プロジェクトを成功させたいという熱意の表れだと私は理解しています。その思いは素晴らしいと思います。ただ、その情熱を違う形で伝えることができれば、周りはもっと協力してくれるはずですよ」 |
辛抱強く指導し続ける
人の行動や習慣は一朝一夕には変わりません。特に、長年にわたって成果を出してきた部下にとって、自身のやり方を変えることは容易ではないでしょう。
上司は、部下の言動や態度にすぐに改善が見られなくても焦らず、継続的に指導・教育を行う忍耐力が必要です。
また、部下に対しても「良好な人間関係を築き、周囲と協力し合うことは重要なスキルであり、習得には努力が必要だ」と伝え、忍耐強く取り組むよう促すことが大切です。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「同僚と良好な関係を築けないスター社員をどう扱うべきか」
まとめ
能力は優秀だが扱いにくい部下に対して、上司がとるべき対処法について解説しました。
仕事はできるものの周囲と協調できず、攻撃的な態度をとったり、チームワークを軽視し個人プレーに走ったりする社員は多くの職場に存在します。
たとえ優秀であっても、こうした部下を「仕事ができるから」と放置するのは危険です。部下の言動が原因で、周囲のやる気やパフォーマンスが低下し、結果として組織全体の成果を損なうことになりかねないからです。
本記事で紹介した対処法を実践し、メンバーが互いに尊重し合い、気持ちよく働ける職場環境作りを目指しましょう。