「部下の指導がうまくいかず、もう疲れた…」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。
部下の指導による疲労を放置すると、やがて心身に大きな不調をきたす恐れがあります。部下の指導に行き詰まり、日頃から疲れやストレスを感じている管理職は、早めの対処が必要かもしれません。
本記事では、管理職が部下の指導に「疲れた」と感じてしまう原因や、そのときの対処法について解説します。
部下を効果的に育成しつつ、長く健康的に働き続けたい方は、ぜひ参考にしてください。
部下の指導に疲れる原因

管理職が「部下の指導に疲れた」と感じやすい原因を紹介します。
性格が合わない
職場にはさまざまな人がおり、中には性格や価値観が合わない人がいるのも自然なことです。
しかし、管理職はそうした部下とも密接に関わり、指導しなければならないため、強いストレスを感じることが少なくありません。
実際に、株式会社R&Gが管理職を対象に行った調査では、83.3%が「職場に苦手な部下がいる」と回答しています。
以下は、同調査で「苦手と感じる部下の特徴」として挙げられた主な意見です。
- 反抗的な態度をとる(12.2%)
- 上司を馬鹿にしている(8.1%)
- 自分の非を認めない(6.7%)
もちろん、上記のような感じ方はあくまで上司側の主観であり、部下の人格に100%問題があるケースは稀でしょう。
上司として大切なのは、「部下との性格の不一致は仕方がないことだ」と割り切り、感情的な対立を避けることです。
そのうえで、お互いにとってより良い関係を築き、適切な指導方法を模索していくことが必要になります。
意思疎通が取れない
管理職が部下の指導に疲れる原因の一つに、「部下との意思疎通がうまくいかない」ことが考えられます。
株式会社アシロが管理職を対象に行った調査によると、約4割(39.7%)が「部下とのコミュニケーションが円滑に行われていない」と回答しています。
以下は、「部下に対するコミュニケーションの不満点」として挙げられた主な意見です。
- 指示をうまく理解できない:上司の指示の意図や重要性を理解せず、想定と違うことをしてしまう。何度も同じ説明を繰り返したり、手直しを加えたりする必要があり、時間と労力が無駄になる
- 報連相(報告・連絡・相談)がない:上司が部下の仕事の進捗状況を把握できず、不安やイライラを感じる。何らかの問題が発生しても早期に対応できず、結果として大きなトラブルに発展するリスクも高い
- 反応がない:上司の話や指示に対して、あいづちやうなずきといった反応がないため、内容が伝わっているか分からず、指導の手応えも感じられない
これらの結果から、部下との意思疎通がうまくいかず、ストレスや疲労を感じている管理職は少なくないといえます。
ただし、部下とのコミュニケーションの問題は、必ずしも部下だけに原因があるとは限りません。たとえば、管理職が普段から職場で威圧的な態度をとっていると、部下は萎縮してしまい、コミュニケーションを避けるようになるでしょう。
そのため、管理職は部下との意思疎通に課題があると感じた場合は、まずは自分自身の日頃の発言や振る舞いに問題がないか、振り返ることが大切です。
成長スピードが遅い
ALL DIFFERENT株式会社が管理職を対象に行った調査によれば、「部下の成長度合いとしてあなたの考えに近いものはどれですか?」との問いに、31.0%が「成長していない」と回答したといいます。
この結果から、部下の成長スピードが遅いことは上司にとって大きなストレスであり、疲労を感じる原因になるといえます。
部下の成長が遅いと、任せられる仕事が限られてしまい、結果として管理職自身の業務負担が増加します。本来部下が担うべきだった仕事が、期待通りに進まないために上司に戻ってきてしまい、疲弊する原因となるのです。
また、何度指導しても同じミスを繰り返したり、期待した成果が出なかったりすると、管理職は「なぜできないんだ」と感じ、指導への徒労感を覚えるようになります。
これが続くと、指導へのモチベーションが低下し、部下との関わりを避けるようになることもあるでしょう。
もちろん、部下が一向に成長しないのは、必ずしも部下の能力や性格に問題があるとは限らず、周囲の指導方法に問題があるケースも少なくありません。
そのため、管理職は部下がなぜ成長しないのかを分析し、自身の指導方法に問題がないかを振り返り、必要に応じて改善していくことが重要です。
トラブルばかり引き起こす
部下がトラブルばかり引き起こすタイプの場合、上司は指導に疲れを感じやすいでしょう。
もちろん、どれだけ気をつけていても、仕事上でトラブルを引き起こしてしまう可能性は誰にでもあります。そのため、トラブルを起こすこと自体はさほど大きな問題ではありません。
しかし、トラブルを頻発させるうえに以下のような態度が見られる場合、その部下はいわゆる「モンスター社員」である可能性が高いです。
- 謝罪や反省が見られない:ミスやトラブルを起こしても、自分の非を認めず、他者や環境のせいにして開き直る
- 指示やルールを守らない:指示を無視して自己流で進めたり、会社のルールやコンプライアンスを意図的に破ったりする
- 権利ばかり主張する:自分が起こしたトラブルの対応に追われる周囲を見ても、罪悪感もなく「定時だから」といって帰宅する
このようなモンスター社員は、指導しても改善が見られないばかりか、逆ギレしたり不合理な要求をしてきたりすることもあります。そのため、管理職は通常の指導の範囲を超えた、大きな疲労を感じることになるのです。
ウィンベル合同会社が人事・管理職・経営者を対象に行った調査によると、75%もの人が「職場でモンスター社員と呼べる人材に遭遇した経験がある」と回答したといいます。
この結果から、モンスター社員はどの職場にも現れる可能性があり、管理職としてその指導や対応に追われてしまうことも十分に考えられます。
もし、モンスター社員の指導が自分だけでは手に負えないと感じたら、一人で抱え込まず、上司や人事など、より上位のレイヤーに相談することが大切です。
参考:
PR TIMES「【苦手な部下の特徴ランキング】上司418人にアンケート調査」
PR TIMES「約8割の上司が部下に対して不満を抱えていると判明!部下を持ったことがある男女2,432人にアンケート調査を実施」
PR TIMES「【管理職1,070人の意識調査】管理職の悩みダントツ1位は「部下の育成」。“部下の成長を感じていない”管理職が5年前の3倍に」
PR TIMES「モンスター社員を見破る質問やチェックリストは?科学的採用術の福岡セミナーZOOM配信が決定」
部下の指導に疲れた状態を放置するのは危険

部下の指導で「疲れた」と感じた場合、その状態を放置することは危険です。その疲れは、「燃え尽き症候群(バーンアウト)」になる前兆の可能性があるためです。
ボストン大学の記事によると、燃え尽き症候群には以下のような症状が見られるとされています。
- 慢性的な疲労:一時的な疲れとは異なり、長期にわたって心身の疲労が抜けない状態。休暇をとっても回復せず、常に体が重く、頭に霧がかかったように感じる
- 冷笑的になり、意欲を失う:かつては仕事にやりがいを感じていたのに、仕事に対する関心ややる気を失ってしまう。自分の仕事に意味があるのか疑問を感じたり、他者や会社に対して冷めた見方をしたりするようになる
- パフォーマンスの低下:仕事の質や効率が落ちたことを自分自身で感じられる。以前と同じ成果を出すために、以前よりも多くの労力や時間が必要になる
一度燃え尽き症候群になってしまうと、週末に休んだ程度ではなかなか症状が回復せず、最悪の場合は元の状態に戻るまで長期間の離脱を余儀なくされるかもしれません。
以上のことから、部下の指導に疲れを感じたら放置せず、悪化する前に早めに対処することが大切です。
参考:
Boston University “Work Burnout Signs: What to Look for and What to Do about It”
部下の指導に疲れたときの対処法

ハーバード・ビジネス・レビューの記事(以下、同記事)をもとに、管理職が部下の指導に「疲れた」と感じた際に取るべき対処法を紹介します。
自分にとっての「生きがい」を見つける
管理職が部下の指導に「疲れた」と感じたときは、自分自身にとっての「生きがい」を見つめ直すことが大切です。
指導による疲労やストレスは、単に部下との相性や業務量だけでなく、仕事に対する情熱や目的を見失っていることに起因しているケースも少なくありません。
モチベーションが低下している状態では、どんなに指導方法や接し方を工夫しても、根本的な解決にはつながらない可能性が高いです。
同記事によると、以下の4つの要素の重なる部分が自分にとっての「生きがい」であり、これらを仕事に活かすことで、仕事への情熱が再び燃え上がり、やりがいを感じられるようになるといいます。
- 情熱:自分が心から楽しいと思えること
- 天職:自分が自然に得意なこと
- 使命:自分が社会に貢献できること
- 職業:自分が報酬を得られること
たとえば、部下の指導を単なる「義務」ではなく、「自分の知識や経験を分け与えることで、部下の成長に貢献し、会社の成功につなげる」という「使命」として捉え直すのです。
このように、指導が自分の「生きがい」の一部であると再認識できれば、疲労やストレスを感じたときにも、それを乗り越えるための前向きなエネルギーを得ることができるでしょう。
「初心」を忘れない
部下の指導に行き詰まり、疲れてしまったときは、「初心」を思い出すことが大切です。
ここで言う「初心」とは、単に過去の熱意を振り返るだけでなく、目の前の課題(部下の指導)に、新しい視点や好奇心を持って向き合うことを意味します。
人は物事がうまくいかない場合に、自分のこれまでの経験や固定観念に縛られ、視野が狭くなる傾向にあります。
たとえば、「この部下は何度言っても理解しない」といった先入観が、指導を自ら苦痛なものに変えてしまうこともあるのです。
このような状況で「初心」を大切にすると、以下のような効果が期待できます。
- 新たな可能性の発見:過去の経験にとらわれず、まるで初めて部下と向き合うかのような新鮮な気持ちで接することで、これまで気づかなかった部下の才能や成長のきっかけを見出せるかもしれない
- 好奇心と対話の促進:「なぜ、この部下はこう考えるのだろう?」「どうすれば、もっと伝わるだろう?」と相手に好奇心を持つことで、一方的な指導ではなく、より深く有意義な対話が生まれやすい
- プレッシャーからの解放:「すべての答えを完璧に持っていなければならない」というプレッシャーから解放される。自分自身も積極的に学ぶ姿勢を持つことで、部下との関係がより風通しの良いものになる
このように「初心」を思い出すことができれば、指導という行為が、再び発見と学びに満ちた、やりがいのあるものに変わっていくはずです。
周囲に「感謝」をばらまく
管理職が部下の指導に疲れを感じるとき、それは自分の努力が報われないと感じ、孤独や徒労感を抱いている状態であることも少なくありません。
しかし、管理職が「感謝」の気持ちを積極的に表現することは、このようなネガティブな感情を打ち破るだけでなく、以下のようなポジティブな循環を生み出すとされています。
- 自己の貢献度を認識できる:部下の些細な成長や努力にも目を向け、「ありがとう」「よく頑張ったね」と感謝を伝えることで、指導者である自分自身も、部下の成長に貢献できたという達成感を感じられる
- 部下のエンゲージメントを高める:感謝の言葉や、小さな功績を祝う行動は、部下に「自分は認められている」と感じさせる。その結果、部下は指導を前向きに受け入れ、自律的に成長しようとする意欲が高まる
- チームの一体感を強化する:感謝の気持ちを共有する文化が根付くと、チーム全体が互いを尊重し、支え合うようになる。その結果、部下との間に強固な信頼関係が築かれ、指導がより楽しく、やりがいのあるものに変わっていく
「感謝」は単なるマナーではなく、相手の心に火を灯し、自分自身の心も満たすための大切なツールです。
部下の指導に疲れたときは、まずは小さな「ありがとう」から、ポジティブな変化を起こしていくとよいでしょう。
「幸福のフォルダ」を作る
管理職が部下の指導に疲れたとき、自分のポジティブな思い出や記憶を集めた「幸福のフォルダ」を作ることが、活力を取り戻し、自己肯定感を高める助けになるとされています。
部下指導の疲れは、しばしば「自分は良い指導者ではないのかもしれない」といった自己肯定感の低下につながり、心のエネルギーを消耗してしまいます。
「幸福のフォルダ」は、以下の効果を発揮することで、このようなネガティブな感情を打ち消すといいます。
- ポジティブな記憶の引き出し:疲れたときに「幸福のフォルダ」を開くことで、過去に他者から受けた感謝の言葉や、仕事を通じて得られた成功体験を思い出すことができる。その結果、自分がしてきた努力や生み出した価値を再認識し、失われかけた自信を取り戻すことができる
- 自分への優しさを促進:自己否定のループを断ち切るためには、自己批判を緩め、「他人に与えているのと同程度の優しさや評価」を自分にも与えることが不可欠。フォルダの中身をチェックすることは、「自分には価値がある」というポジティブな自己対話のきっかけとなる
- モチベーションのチャージ:フォルダを見ながら自分自身をいたわり、ポジティブな気持ちでエネルギーを充電できれば、再び熱意を持ってチームや部下をサポートできるようになる
たとえば、かつての部下から「〇〇さんのおかげで、今の自分があります」といった感謝のメールが届いたとします。このメールは必ず保存しておき、指導がうまくいかないと感じたときに見返すとよいでしょう。
部下の言葉が、自分自身の価値や努力を再認識させ、もう一度頑張るための心の栄養となるはずです。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「何もうまくいかない時でもマネジャーの仕事を楽しむ方法」
まとめ
管理職が部下の指導に「疲れた」と感じてしまう原因や、そのときの対処法について解説しました。
部下の指導による疲労は「燃え尽き症候群」の前兆の恐れがあります。この状態を放置すると、やがて心身に大きな不調をきたし、元の状態に戻るまで長期間の離脱を余儀なくされるかもしれません。
部下を効果的に育成しつつ、長く健康的に働き続けたい方は、ぜひ本記事の内容を実践してみてください。