「部下が注意するたびに逆ギレしてきて困っている…」
このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。
部下の「逆ギレ」を解消するには、その原因を理解したうえで、上司が適切に対応することが重要です。
本記事では、上司に対して逆ギレする部下の背景(心理)や、適切な対処法について解説します。
部下の逆ギレを防ぎ、職場におけるコミュニケーションの円滑化を図りたい方は、ぜひ参考にしてください。
部下の逆ギレは上司にとって大きな困りごと

以下は、株式会社R&Gが管理職を対象に実施した調査において、「苦手と感じる部下の特徴」として挙げられた上位5つの意見です。
- 1位:報連相をしない(16.3%)
- 2位:反抗的な態度をとる(12.2%)
- 3位:上司を馬鹿にしている(8.1%)
- 4位:自分の非を認めない(6.0%)
- 5位:人の話を聞かない(6.0%)
上記のうち、「反抗的な態度をとる」「上司を馬鹿にしている」「自分の非を認めない」といった特徴は、まさに「逆ギレする部下」によく見られるものです。
この結果から、部下からの逆ギレが、上司にとって大きな悩みや困りごととなっている実態が読み取れます。
部下が仕事上で問題を起こした際に、注意や叱責をすることは、多くの人にとっては気が進まない行為ではあるものの、上司としては当然の責務といえます。
しかし、職場の秩序や部下の成長を思って指導しているにもかかわらず、そのたびに部下から逆ギレされてしまっては、上司が精神的に疲弊してしまうのは無理もありません。
まずは部下との日常的なコミュニケーションの質を見直すことが重要です。
定期的な対話の習慣がある職場ほど、感情的な衝突は減る傾向にあります。
参考:
PR TIMES「【苦手な部下の特徴ランキング】上司418人にアンケート調査」
逆ギレする部下は自尊心が低く打たれ弱い

日常的に逆ギレをする部下は、実は自尊心が低く、打たれ弱い可能性があります。
部下が注意や指摘を受けた際に逆ギレするのは、心理学でいう「心の防衛機制」のひとつと考えられます。
自尊心が低い人は、他者からの指摘や注意を「自分の存在そのものの否定」として受け止めてしまいがちです。
その結果、「逆ギレ」という攻撃的な形で相手に反撃することで、傷つきやすい自分自身を守ろうとしているのです。
ミシガン州立大学の心理学教授ブレント・ドネラン氏らの研究でも、「自尊心の低さ」は「他者への攻撃性」と深く相関関係があることが示されており、上記の心理的な背景を裏付けています。
なお、近年の若手社員は昔の世代と比べてとくに自尊心が低く、打たれ弱い傾向にあるといわれています。
実際に、株式会社ネクストレベルが実施した調査で、30~50代の社会人男女が「若手とのジェネレーションギャップを感じる点」として、「打たれ弱い(28.7%)」が2番目に多く挙げられたほどです。
したがって、上司は自身が若手だった頃の経験や先入観にとらわれるべきではありません。
今の若手社員の傾向を理解し、相手の自尊心を不必要に傷つけないよう配慮した指導法を取り入れる必要があるといえます。
参考:
PR TIMES「男女564人に大調査!職場で「ジェネレーションギャップ」を感じた瞬間トップ10」
上司に問題があり部下が反抗している可能性も考慮する

部下が逆ギレしたからといって、すぐにその部下の人格に問題があると決めつけるべきではありません。
上司の日頃の言動に問題があり、それが部下の怒りを引き出してしまった可能性も考慮する必要があります。
以下は、株式会社ネクストレベルが社会人男女を対象に行った調査で、「嫌いな上司の特徴」として、とくに多く挙げられた意見です(N=280、複数回答可)。
- 1位:ひいきする・好き嫌いが激しい(116人)
- 2位:感情的になる・怒鳴る(111人)
- 3位:嫌味を言う(103人)
- 4位:部下の意見を聞かない・聞き入れない(95人)
- 5位:他人の悪口を言う(90人)
不快な言動を日常的に受ければ、たとえ相手が目上の立場であっても、怒りの感情が湧くのは自然なことです。
上記のような言動を普段からしている上司が、いざ部下から反発されたときに「逆ギレだ」と不満を漏らすのは、客観的に見れば上司自身が逆ギレしていると言っても過言ではありません。
したがって、部下から逆ギレされた場合は、まず自分の注意や指導の仕方、日頃の言動に問題がなかったかを、上司自身が立ち止まって振り返ることが重要です。
上司側のフィードバックの仕方や、職場環境の透明性が信頼関係を大きく左右します。
従業員の本音を可視化することで、上司自身の改善点も明確になります。
建設的な注意・指導の方法
部下が仕事でミスや問題を起こした際、注意や指導を行うことは上司の重要な責務です。
しかし、不適切な方法で注意・指導を行うと、部下を不快にさせるだけで逆効果となり、逆ギレを引き起こす原因にもなりかねません。
ハーバード大学の記事では、部下に効果的な注意・指導を行うためのポイントとして、以下の5つが示されています。
- 安全な環境を用意する:他のメンバーに見聞きされない場所(個室や会議室など)で行う。会話内容が機密であることを伝え、部下が率直に話せるよう安心感を与える
- 「人格」ではなく「行動」に焦点を当てる:フィードバックは具体的な行動に限定し、人格の批判は避ける(例:NG「なぜそんなにだらしないんだ」→OK「資料の納品が締め切りを2日過ぎたため、クライアントに迷惑をかけることになりました」)
- 雰囲気に配慮する:攻撃的・批判的な言葉遣いを避け、落ち着いたトーンで話す
- 傾聴する:部下が自身の言い分を述べる時間を設け、真摯に耳を傾ける。上司が一方的に話すのではなく、対話になるよう配慮する(例:「締め切りに遅れてしまった原因について、率直な意見を聞かせてください」)
- サポートを提供する:今後の行動改善計画を一緒に立て、必要なリソースやサポートを提供することを約束する(例:「スケジュール管理に課題があるなら、業務の優先順位を一緒に見直しましょう」)
これらの配慮をして注意・指導を行ってもなお部下が逆ギレをくり返す場合は、後述する別の対処法が必要かもしれません。
参考:
PR TIMES「280人に聞いた嫌いな上司ランキング!1位は「ひいきする・好き嫌いが激しい」。重視しているのは仕事のできよりも人間性」
Harvard University “How to Give Negative Feedback to Employees”
部下の逆ギレへの対処法

上司の注意や指導に逆ギレをくり返す部下に対する、適切な対処方法について解説します。
部下の潜在能力をうまく引き出す
先ほども説明した通り、自尊心が低い部下は、自分自身を守るために「逆ギレ」という攻撃的な態度をとる傾向にあります。
このようなタイプは潜在能力をうまく引き出し、同時に自尊心を高めてあげることが効果的な対処法となるかもしれません。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、反抗的な部下の能力を引き出すためのアプローチとして、以下の3つを提唱しています。
【アプローチ1:部下の強みが活きる仕事にシフトする】
部下が逆ギレをくり返す場合、現在の業務が合っていないかもしれません。他者との関わりが多い役職は、苦手な人にとってはとくにストレスを感じやすい傾向にあります。
| 解決策 | 部下の得意なことを最優先に考え、苦手な業務を減らすか、専門性を活かせる部署や役割に配置転換する |
| 具体例 | 新人指導を任された部下が、育成手法を注意されると「口出しするな!」と逆ギレする→新人指導の役割を外し、チーム内の技術的な難題の解決に専念させる |
| 効果 | 自分の専門性を活かせる業務に取り組むことでストレスが軽減され、周囲に感情をぶつけることが少なくなる |
【アプローチ2:部下のスタイルには目をつぶり、知識と成果を評価する】
人は新しい環境や役割に変わったばかりで不安があるとき、特に反抗的になりやすいものです。
| 解決策 | 最初のうちは、不適切な態度をすぐに注意するのを我慢し、部下が持つ知識や過去の成果、貢献度といった仕事の質に集中して評価する |
| 具体例 | 部下がミスを指摘されると「うるさい!」と声を荒げる→「今回のミスは気にしないで。前回の企画書は素晴らしかったし、あなたの能力を信頼している」と、まずは仕事の質を認める |
| 効果 | 部下が「自分の価値は認められている」と感じると、上司への信頼感が生まれる。この絆が土台となり、関係が安定してから、態度やスタイルについて指導しても遅くない |
【アプローチ3:部下の主張に「正しい点」がないか検討してみる】
部下の異論や抵抗は単なる文句とは限らず、ときに的を射た意見である可能性があります。
| 解決策 | 上司はオープンな姿勢で、部下の主張を真剣に検討する |
| 具体例 | 若手のデザイナーが、上司の修正指示に「こんな修正をしても意味がない!」と怒る→部下のデザインの意図が、上司の目的よりも優れている点があれば、その部分を採用する |
| 効果 | 「自分の意見に耳を傾けてもらえた」「自分の専門知識が評価されている」と感じると、部下の態度は和らぎ、新しい取り組みにも協力するようになる |
部下の無礼を意識的に許す
逆ギレする部下から無礼な言動を受ければ、誰でもイライラや怒りといったネガティブな感情を抱くでしょう。
このようなネガティブな感情を抱き続けると、やがて大きなストレスとなり、上司自身の精神的・肉体的な健康に深刻なダメージをもたらす恐れがあります。
一方で、無礼を働いた部下自身は、上司を苦しめていることに気づいていない可能性が高いです。
つまり、部下への憤りを感じている間、苦しんでいるのは上司自身だけなのです。
したがって、部下への恨みを持ち続けるのをやめ、意識的に「許す」という行為は、自分自身の心の平安と自由を取り戻すために重要であるといえます。
なお、以下は「許す」に関してよくある誤解をまとめたものです。
- 「許す=容認」ではない:許すとは、部下の無礼な行動を承認したり、許容したりすることではない。許すとは、「自分のコントロールの及ばない物事を受け入れる」という考え方
- 「許す=責任追及の放棄」ではない:部下を許したからといって、その部下が自分の言動の責任を負う必要がなくなるわけではなく、正義や公正さが犠牲になるわけでもない。単に、上司が「自分が正義の審判を下す重荷」を抱え込まなくて済むだけ
- 「許す=利用される」ではない:部下を許した後も、上司として「部下と距離を置く」「許容範囲を明確にする」といった対処は可能。許すとは、一方的にじっと耐えることを意味しない
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、相手の無礼を「許す」ための具体的な手順として、以下の4ステップを提唱しています。
| ステップ | 具体例 |
|---|---|
| 【1. 自分の「許しの原則」を明確化する】自分の「許し」に関する信念を整理し、自分にとって何が大切かを確認する | ・「謝罪があれば一度は許す」を原則とする・「意図的ではなく、無知や不器用さによる言動であれば許す」ことにする |
| 【2. 感情と選択を切り離す】怒りの感情に流される行動を避け、冷静な行動を選ぶ | 感情に任せて部下を無視したり、同僚に愚痴を言ったりする行動は、「上司としての自分の価値観(冷静さ)」に反していると自問する |
| 【3. 全体の流れを振り返る】問題の原因を部下一人に押しつけず、自分自身の関与や全体像を見直す | 「部下が反抗的になったのは、自分が忙しすぎて適切な指導やフィードバックを怠ったせいかもしれない」と考える |
| 【4. 相手を許し、みずからの姿勢を正す】ネガティブな感情を手放し、自らの意思で態度を変える | ・部下の優秀な点や過去の貢献を書き出し、その良い面を意識的に見るようにする・翌日から、意識的に部下に冷たい態度ではなく、親切で温かい態度で接するという選択をする |
逆パワハラの場合は一人で解決しようとしない
部下に逆ギレされた際に、適切に対処することも上司の務めの一つです。
しかし、部下の言動が許容範囲を超えた、いわゆる「逆パワハラ」に該当する場合は、一人で無理に解決しようとする必要はありません。
咲くやこの花法律事務所によれば、部下から上司に対する以下のような行為は、逆パワハラにあたる可能性があるといいます。
- 尊厳を著しく傷つける暴言(例:「無能だ」「辞めろ」)
- 身体的な攻撃(例:殴る、蹴る、物を投げつける)
- 誹謗中傷(例:SNSに上司に関するありもしない噂を投稿する)
- 業務命令の拒否(例:正当な理由なく「嫌だ」と反発し、業務指示に従わない)
- ハラスメントの悪用(例:ありもしないハラスメントで「訴えるぞ」と脅す)
もちろん、部下がつい感情的になってしまい、多少無礼を働いた程度であれば、上司は寛大な心で許すべきでしょう。
しかし、上記のような度が過ぎる攻撃を受ければ、上司といえども深く傷つき、精神的に大きなダメージを負ってしまいます。
このような逆パワハラの事態においては、極力早い段階で上長や専門家に相談し、決して一人で抱え込まないことが大切です。
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「反抗的な部下をどのようにマネジメントすべきか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「職場のやっかいな人から自分を守る方法」
kigyobengo.com「逆パワハラとは?具体的な対処法を事例や裁判例付きで徹底解説」
まとめ
上司に対して逆ギレする部下への適切な対処法について解説しました。
部下が逆ギレする背景には、「自尊心の低さ」が隠れているケースが少なくありません。自分自身が傷つくのを防ぐために、上司からの注意や指導に対して「逆ギレ」という形で反撃しているのです。
ただし、上司の注意・指導方法が不適切なために、ただ部下が反抗しているだけの場合もあるため、「逆ギレ=部下の人格の問題」だと安易に決めつけるべきではありません。
適切な注意・指導を行ってもなお、部下が逆ギレをくり返す場合は、本記事で紹介した具体的な対処法を実践してみてください。

