このページのまとめ
- 戦略人事とは、経営戦略を人材面から実現する役割
- 戦略人事では、HRBPや人材開発、組織開発が必要
- 戦略人事は現場の理解も重要になるため、従業員の協力を得るようにする
戦略人事とは、企業の経営戦略に基づいた人材活用方法を考える役割のことです。通常の人事とは異なり、経営戦略を実現するための人事担当者を指します。戦略人事について、具体的にどのような業務を行うのか分かりかねている企業担当者も多いことでしょう。今回は、戦略人事に求められる役割や、具体的な業務内容について解説します。
戦略人事とは
戦略人事とは、経営戦略を実行するために、経営資源である人材を活用してマネジメントを行うことです。戦略的人的資源管理と呼ばれることもあります。戦略人事は、従来の人事よりも経営に深く関わる業務を担います。具体的には、経営戦略に合わせた採用活動の実施・人事異動のリスト作成・研修制度の整備などです。このように、戦略人事では、経営者の視点で人材資源を活用する戦略を立てることが求められます。
人事戦略との違い
人事戦略と戦略人事の大きな違いは、経営目標に影響を与えるかどうかです。人事戦略とは、現場目線の戦略を指します。人材を確保するだけでは、企業の経営にそこまで大きな影響を与えません。
一方、戦略人事では「売上1.5倍を実現するために、人材を5名獲得する」というように、経営目線に立った目標を立てます。
人事戦略は現場目線、戦略人事は経営目線と考えると分かりやすいでしょう。
| 項目 | 人事戦略(人材獲得) | 戦略人事(価値創造) |
| 役割 | 人材の獲得 | 経営戦略の実行支援 |
| 視点 | 現場視点・コスト抑制 | 経営視点・投資対効果 |
| 重視すること | 公平性 | 変革・競争優位性の構築 |
戦略人事に必要な機能
戦略人事を実現するためには、4つの機能が必要です。それぞれの機能の概要や効果を知っておきましょう。
HRBP(HRビジネスパートナー)
HRBPとは、経営者や経営責任者のパートナーとして、人材と組織面からサポートを行う人物のことです。コンサルタントに似た役割を持っており、人材資源を駆使して企業の課題を解決します。また、経営層と現場の橋渡しをするのもHRBPの役割です。経営者の意向を現場の業務に落とし込んだり、現場であがっている声を経営層に届けたりします。HRBPには、企業の経営方針を深く理解し、経営層と対等な立場で意見を交わすことが求められます。
COE(センターオブエクセレンス)
COEとは、経営層や現場をサポートする人事集団のことです。HRBPが実行したい施策を実行する役割をもちます。たとえば、HRBPが人事評価を変更したいと提案した際に、COEがもつ専門知識を駆使して適切な施策を考えます。経営層やHRBPだけでは実行が難しい内容を形にするのがCOEです。
オペレーション部門
オペレーション部門は、HRBPとCOEが作成した施策を実際に運用する役割を持ちます。
たとえば、人事評価が決定された際に、評価基準に基づいて評価を行うのがオペレーション部門です。ほかにも、採用や人事異動、給与支払い、社会保険手続きなどの幅広い現場業務を担います。
組織開発(OD)と人事開発(TD)
人事戦略を実現するためには、組織と人材の育成が重要です。組織面の育成を担うのが組織開発であり、組織体制の構築を主な業務とします。たとえば、部署を新しく作る際に従業員が働きやすい環境をつくり、業務が効率的に進むようにサポートする役割があります。
一方、人事開発は戦略を実現するための人材育成です。売上拡大の戦略であれば、目標達成のために営業部門の研修を行います。技術系の企業であれば、電気工事の資格取得者を増加させることもあるでしょう。戦略人事を実現するためには、組織開発と人事開発の働きが欠かせません。
戦略人事を実施するポイント
戦略人事を導入するためのポイントについて解説します。
従業員に戦略人事の説明を行う
まずは、戦略人事に関して従業員に説明を行いましょう。詳しい説明もなく戦略人事を実施すると、従業員の協力が得られず、失敗に終わってしまう可能性があります。自社がどのような戦略で経営を行っていくのかを従業員に共有し、そのために従業員にどのような働きを期待しているのかを伝えましょう。
新規事業に参加する
戦略人事では、新規事業のプロジェクトに参加し、企業で今何が求められているのかを理解することが重要です。企業の置かれている状況や課題を知ることで、具体的な施策が考えやすくなるでしょう。
外部の力も活用する
コンサルティングなど、外部の力も活用して戦略人事を行いましょう。自社だけの視点では、客観的な評価ができないためです。たとえば、コンサルティングを行うことで、戦略のズレや課題を発見できる可能性があります。第三者の意見をもとに、より良い施策を実行できるでしょう。戦略人事は幅広い視点で行うことが重要です。ときには外部の力も活用し、客観的な意見をもらうようにしましょう。
戦略人事で発生しやすい課題
戦略人事で発生しやすい課題には、次のようなものがあります。
経営者が人材獲得に消極的
戦略人事で人材が必要だと判断しても、経営者の許可がなければ実行できません。経営者との認識のズレは、大きな課題になるでしょう。たとえば、「新規事業を行うために新しい人材が5名必要」と提案しても、採用コストの問題で却下されるケースがあります。
「人材採用にどれほどのコストを投資できるか」という点で経営者と意見が食い違うと、戦略人事の実行は難しくなるでしょう。
人事と足並みがそろわない
現場の人事と足並みがそろわず、施策が上手くいかないケースもあります。戦略人事を成功させるためには、戦略を実行する現場の理解が必要です。そのため、企業の経営方針に理解の深い人事担当者と話し合い、戦略内容をすり合わせなければいけません。企業の経営に対する人事担当者の理解が不十分な場合は、経営方針を理解してもらうところから始める必要があります。
従業員が戦略人事を理解していない
従業員に戦略人事が浸透しないことで、効果が発揮されないこともあります。戦略人事では、人事異動や新規事業の実施などで組織体制が大きく変わります。従業員のなかには、新しい組織体制に反発する人物も出てくるでしょう。現場の従業員が戦略人事の役割と必要性を理解できなければ、何をやっても十分な効果が発揮されません。従業員の理解を得られるかどうかが、戦略人事をスムーズに進めるうえでの課題となるでしょう。
戦略人事の施策例
戦略人事を行う場合、具体的にどのような施策を実行するか知っておきましょう。
今回は、人材採用や人材教育の観点における戦略人事の施策例を紹介します。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、求職者に対し、企業側から直接アプローチを行う手法です。
人事戦略と判断される場合もありますが、経営戦略に基づいて求める能力を持つ人材を探し、ダイレクトリクルーティングでアプローチをかければ戦略人事となります。求める人材が明確に定まっている場合は、ダイレクトリクルーティングでの採用を検討してみると良いでしょう。
リスキリング
リスキリング(Reskilling)とは、デジタル化などの産業構造変化に伴い、新しい業務への適応や将来のキャリア構築のために、必要な技術・知識を学び直す「スキルの再開発」のことです。主に「企業主導」で、業務を続けながらスキル習得(AIやデータ分析など)を目指すために近年注目されています。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員の能力や個性を基準に、人材配置を行う方法のことです。事業やプロジェクトに応じて、必要な人材を招集します。通常の組織では部署が決まっており、部署のなかで業務を割り振るのが一般的です。一方で、タレントマネジメントは部署や役職に関係なく最適な人材を集めます。戦略を実行するには柔軟な変化が求められます。組織を柔軟に変化できるタレントマネジメントは、戦略人事を実行しやすい施策になるでしょう。
まとめ
戦略人事では、経営者の目線で人材を動かすことが必要です。経営者側の視点を持ち、経営戦略に基づいた人材の活用方法を考えられる人物が戦略人事にふさわしいでしょう。また、戦略人事を実施する際には、現場の従業員を含め、従業員全員が一丸となって施策に協力する必要があります。経営者目線の施策を考えるだけでなく、現場の従業員の理解を得ながら施策を進めていく力も求められます。人的資本の価値を最大化し、投資家や社会に対しても企業の持続可能性を示すことが現代の戦略人事にとって重要です。

