このページのまとめ

  • 一時帰休とは経営難に陥る企業が業績回復を目的に従業員を休業させる制度
  • 一時帰休は休業だが、一時解雇は解雇を行う点で異なる
  • 一時帰休の際は国からの助成金が利用できる

経営難に陥った企業は、業績回復に努めます。その際に利用される制度のひとつに、一時帰休があります。一時帰休は、従業員を休業させることで人件費を削減し、業績回復に努めることを指します。事業者は企業を運営させるとともに、従業員の雇用を維持する義務があります。その際に、業績の回復を見込みながらも、従業員の雇用維持を可能にする制度が一時帰休です。

一時帰休とは

一時帰休とは、経営難に陥った企業が、従業員を一時的に休業させる施策のことを指します。人件費削減を行い、業績回復を目指すためです。近年では、新型コロナウイルスの影響もあり、業績悪化に陥った企業が一時帰休を行うケースが増加しました。
一時帰休を行う目的は、人員を減らすことです。人員削減を行えば人件費が削減できます。そのため、支出を減らすことで業績回復までの時間を稼ぐことを目的とします。

一時待機や自宅待機は同義

一時帰休と似た言葉に、一時待機や自宅待機があります。どちらも、一時帰休と同じ意味になることを覚えておきましょう。一時待機や自宅待機も、休業を行うことを目的とした待機状態です。そのため、言葉は違いますが、内容は同じになります。

一時解雇(レイオフ)との違い

一時帰休と混同される言葉に、一時解雇(レイオフ)があります。一時解雇は休業ではなく、解雇にあたるので注意しましょう。一時解雇とは、再雇用を前提とし、従業員を解雇する制度です。一時帰休と同様に、人件費を抑え、業績回復を待つために使用されます。一方で、一時帰休は従業員の休業であり、解雇は行いません。そのため、一時解雇は再雇用を前提とした解雇、一時帰休は従業員の休業と覚えておきましょう。

一時帰休と一時解雇のどちらを選択すべきか

一時帰休と一時解雇では、一時帰休を行う企業がほとんどです。なぜなら、従業員が被るデメリットが違うからです。一時解雇は解雇であり、解雇期間の従業員は給与が支払われないデメリットがあります。
たとえば、一時帰休は休業のため、休業期間中も給与が支払われます。一方で、一時解雇は解雇のため、再雇用までは給与が支払われません。さらに、一時解雇は再雇用を前提としていることから、失業給付が受けられない可能性もあります。このような理由から、従業員の経済的負担を考慮し、一時帰休を選択する企業がほとんどになっています。

一時帰休の実施手順

一時帰休を行う際には、適切な手順を踏みましょう。手順を誤ってしまえば、従業員が不利益を被る可能性もあるためです。従業員の生活を守るために、正しい手順で一時帰休を実施しましょう。

条件確認

一時帰休を行う際は、一時帰休を行うことで業績回復につながるかの判断が重要です。一時帰休は一時的な休業であり、業績が戻れば従業員を復帰させる必要があるからです。たとえば、一時帰休を行ったのに業績が回復しない、復帰が未定などの状況を避ける必要があります。もし、一時帰休を行ったのにも関わらず、業績が回復しなければ、人件費削減に利用していると思われるリスクもあります。従業員の不満や裁判沙汰をさけるためにも、一時帰休を実施して業績が回復するか十分に検討しましょう。

対象者の設定

一時帰休の実施を決めたら、対象者を設定します。一般的には、従業員個人を選択する場合と、部署ごとに休業する場合があります。どちらの場合でも、選択に合理的な理由があるようにしましょう。また、対象者を選ぶ場合には、対象外の従業員の負担にならないことが重要です。もし、仕事ができる従業員や、特別なスキルを持つ従業員を休業させてしまえば、業務が成り立たない可能性もあります。休業者がでても事業が成立するように、一時帰休の対象者を設定しましょう。

期間と条件の決定

対象者を設定した後は、一時帰休の期間と条件を設定します。条件とは、主に休業手当です。一時帰休期間中の休業手当は、平均賃金の60%以上と定められています。この際、支給額の上限は決まっていないため、条件を満たしていれば、自由に金額を設定できます。

事業主として考えることは、従業員は休業を終えたら戻ってくることです。そのため、人件費削減の目的はありますが、支給額が少ないことで、従業員に不満が生まれる可能性を危惧しなければなりません。また、生活ができずに、退職してしまう可能性も想定できます。従業員と十分に話し合ったり、従業員それぞれの状況を想定して、条件を決定しましょう。

従業員への説明

条件面が決まれば、従業員に説明を行います。不明点や不満が出ないように、きちんと説明を行いましょう。また、労働組合との間で協定があれば、その協定に従います。さらに、取締役会がある企業は、取締役会での決議が必要です。一時帰休の実施には、正当な手続きを踏んで行いましょう。

一時帰休の注意点

一時帰休を行う際は、以下の点を押さえておきましょう。

アルバイトも対象

一時帰休は、アルバイトも対象になるので注意しましょう。一時帰休で支払う手当は、休業手当に該当するためです。労働基準法第26条では、休業手当の支払いに関して、正社員以外も対象にすると示しています。そのため、雇用形態にかかわらず、一時帰休の対象です。また、派遣社員の場合には、派遣先企業ではなく、派遣元の派遣会社が支給すると覚えておきましょう。

有給休暇の扱い

一時帰休中の有給休暇は、本来であれば対象外です。なぜなら、有給休暇は労働義務のある日に取得するものであり、一時帰休中は労働義務が発生しないためです。もし、従業員から有給休暇の申請があっても、許可する義務はありません。しかし、一時帰休の実施により、従業員は支給額が減少する場合がほとんどです。従業員の負担を軽減するためにも、有給休暇扱いとして、処理するのもひとつの方法です。

一時帰休期間中の副業

一時帰休中の副業を認める企業も増加しています。従業員によっては、副業で収入を得られる場合もあるためです。働き方の多様化も進み、短い期間や時間でも働ける職場が増加しています。従業員としては、働ける環境があるなら、少しでも稼いでおきたいのが本音です。通常は副業禁止としている場合でも、従業員の生活を守るために、副業の許可を与えるのも選択肢の一つです。

期間中も社会保険は適用される

一時帰休中も、社会保険が適用されることを押さえておきましょう。休業手当も賃金に該当するためです。通常の給与と同様に、社会保険料や雇用保険、労災保険が控除されます。しかし、一時帰休が3ヵ月以上続く場合は随時改定に該当するため、社会保険の等級が変わる可能性もあります。一時帰休によって社会保険料などに変化があるか、確認が必要です。

従業員へのフォローが重要

一時帰休は、事業主の都合と判断によって行う休業です。そのため、従業員には経済的にも精神的にも大きな負担が生じます。たとえば、生活は問題なくできるか、休業ではなく解雇になったらどうしよう、などの負担を抱えてしまうでしょう。一方で、企業側は復帰を行うことを前提に一時帰休を行っています。従業員が安心して戻ってくるためにも、フォローを欠かさないようにしましょう。一時帰休中もコミュニケーションをとったり、企業の状況を共有したりすることが求められます。

一時帰休に対する行政支援

一時帰休に対する行政支援として、雇用調整助成金と休業手当があります。

雇用調整助成金

雇用調整助成金とは、業績悪化など事業を縮小せざるを得ない状況であっても、雇用調整を駆使して雇用維持を行う企業に対する助成金です。一時帰休は休業に該当するため、従業員に支払う休業手当の一部が、雇用調整助成金に認められます。
雇用調整助成金を受けとるためには、要件を満たしたうえで、必要書類を提出します。支給金額の上限は15,000円です。また、休業手当が平均賃金の60%以下になる場合、雇用調整助成金の対象外になるので気をつけましょう。

参照元:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)

休業手当

一時帰休中の従業員に対する助成金には、休業手当があります。休業手当とは、一時帰休の対象者に、企業から支払われる手当です。基本は企業から支払われますが、不可抗力のある休業状態では、国からの支援を受けることができます。

不可抗力とみなされるためには、次の2つの条件を満たすことが必要です。

  • 業務外で生じた事故が原因
  • 事業主が最大の注意を払っても避けられない事態である

たとえば、新型コロナウイルスの流行による被害は、事業主が注意を払っても避けられない事態です。しかし、在宅勤務を実施していない、感染対策を怠ったなどの状況であれば、事業主の責任を問われる可能性もあります。不可抗力ではないと判断された場合、企業は平均賃金の60%以上を休業手当として支払います。一方で、不可抗力が認められた場合、中小企業では、休業手当が国から補償されます。従業員の経済的負担を軽減し、企業の負担も軽減できるため、申請を行うと良いでしょう。

参照元:厚生労働省「労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)

まとめ

新型コロナウイルスの影響に伴い、一時帰休を行う企業も増加しています。企業と従業員の両方を守る施策のため、実施には検討と適切な実施が求められます。もし、一時帰休を行う際には助成金を活用し、少しでも負担を減らすようにしましょう。また、一時帰休と同時に検討されるのが、一時解雇です。一時解雇は再雇用を前提としていますが、従業員を解雇します。そのため、実施企業は少なく、一時帰休を選択する企業が多いのが現状です。一時帰休を行う際には、企業と従業員を守るためにどの選択が良いのか、十分に検討して実施しましょう。