エンゲージメントサーベイは、職場環境を改善し、従業員のモチベーションを向上させるための重要な手段です。しかし、質問の設計を誤ると、真意をつかめないばかりか、従業員の信頼を損なう可能性もあります。

この記事では、効果的なサーベイを実現するための質問作成のポイントや、従業員の本音を引き出す工夫、さらに回答データを活用する方法についてわかりやすく解説します。

エンゲージメントサーベイで設定するべき質問

エンゲージメントサーベイを効果的に活用するためには、目的に応じた質問を設定することが重要です。以下では、バージニア州アレクサンドリアに本部を置く人事の専門家会員組織のSHRMの記事を参考に、従業員のエンゲージメントや職場環境を深く理解するために役立つ代表的な質問例を解説します。

職場での幸福度はどのくらいですか

従業員の満足度やモチベーションを把握するための基本的な質問です。この回答により、職場環境が従業員に与える心理的な影響が明らかになります。

例えば、「最近のプロジェクトに満足していますか?」という補足質問を加えることで、具体的な改善点を探れます。

ワークライフバランスをどのように評価しますか

労働時間の過度な負担や職場文化におけるストレス度を明らかにするために有効です。従業員がプライベートと仕事の調和を保っているのかを確認し、バランスが崩れている場合には適切な対応を検討するための基礎データとなります。

知人に自社の製品やサービスを勧めますか

この質問は、従業員が会社にどれだけ信頼を寄せているかを示します。同時に、会社のネットプロモータースコア(NPS)の測定にも活用可能です。

例えば、従業員が製品やサービスに誇りを持っている場合、会社へのロイヤルティが高まり、離職率の低下につながります。一方で、従業員が組織の製品やサービスに信頼を寄せている場合、会社を成功させるために真剣に取り組んでいると考えられるでしょう。

ベストな仕事をするための障害は何ですか

これは職場の問題を特定し、具体的な改善策を講じるための詳細なフィードバックを収集する質問です。従業員が直面している課題を深く理解するためには、自由回答形式の質問を含めることが不可欠です。この質問は、従業員から詳細な回答を得ることを可能にします。

例えば、「作業ツールが使いにくい」「情報共有が遅い」といった課題が明らかになれば、迅速に解決策を実行できます。

福利厚生に関して提案はありますか

従業員の視点から福利厚生の改善点を特定するために効果的です。この質問により、「リモートワークの補助を増やしてほしい」や「メンタルヘルスサポートが不足している」といった具体的な要望が得られることがあります。

マネージャーや同僚から自分の貢献がどの程度評価されていると思いますか

評価や認知の文化を把握するための質問です。従業員が正当に評価されていないと感じている場合、モチベーションの低下や離職の原因になるため、適切な対策が必要です。

社内の情報は適切に共有されていますか?

職場での情報共有や意思疎通の透明性を測定する質問です。例えば、従業員が意見を共有しやすい環境を作ることで、問題解決やイノベーションの促進につながります。

現在の給与は適切だと思いますか

報酬制度に対する従業員の意見を把握するのに有効です。給与に対する満足度が低い場合、競合他社への転職リスクが高まるため、迅速な対策が求められます。

業務における権限は十分にあると思いますか

従業員が自分の仕事に対してどれだけコントロールできていると感じているかを確認する質問です。従業員がコントロールできていると感じる場合は、エンゲージメントと生産性のレベルが高く、会社へのコミットメントも強いことを示します。

マネージャーや上司は親しみやすいと感じますか

従業員が自分の懸念、アイデア、フィードバックなど、意見共有をしやすいかを測定する質問です。パフォーマンス、問題解決能力、コラボレーションの向上に役立ちます。向上につながります。

効果的なエンゲージメントサーベイを実施するためには、これらの質問をもとに目的に応じた項目を組み合わせ、従業員の声を丁寧に収集することが大切です。

参考:

SHRM“Top 10 Essential Pulse Survey Questions You Should Ask in 2024”

エンゲージメントサーベイの質問を設計する際に注意するポイント

エンゲージメントサーベイの質問設計は、従業員の真の声を引き出すための重要なステップです。不適切な質問や曖昧な内容では、正確なデータを得ることが難しくなります。以下では、従業員エンゲージメントサーベイにおける注意点について述べたSHRMの記事を参考に、効果的なサーベイ質問を設計する際に意識すべきポイントを解説します。

アンケートはわかりやすい質問を設計

アンケートはわかりやすく、実施や分析が容易であるべきです。 エンゲージメントサーベイでは、質問が複雑すぎると回答率が下がるため、簡単で理解しやすい設計が必要です。「あなたは職場に満足していますか?」のような短く明確な文にすると、従業員は直感的に答えやすくなります。

また、誘導的な質問や否定的な表現は避け、中立的な表現を用いるように心がけましょう

従業員が回答したくない設問は空欄回答を可能にする

給与、上司への不満、ハラスメントなど、デリケートな可能性のある設問には従業員への配慮が必要です。必須回答にせず空欄回答を認めることで、従業員が安心してアンケートに参加できます。

例えば、「上司との関係について感じていることを教えてください」という質問に対し、回答を強制しない選択肢を設けると、参加率の向上が期待できます。回答が任意である旨を事前に伝えることで、従業員の信頼も高まるでしょう。

具体的に回答できる質問を設定する

具体的な質問は、従業員エンゲージメントの測定に役立ちます。たとえば「私はこの会社を友人に推薦します」といった設問に、1〜5段階で評価する形式を採用すると、結果を数値化しやすくなります。この方法により、従業員の組織に対する忠誠心や満足度を具体的に把握することが可能です。

調査のタイトルはシンプルにわかりやすく

調査のタイトルは、回答者が混乱しないように簡潔にする必要があります。「エンゲージメント」という専門用語を避け、「職場環境アンケート」や「働きやすさ調査」など、親しみやすい言葉を使用しましょう。この工夫により、従業員の参加意欲が高まります。

エンゲージメントサーベイの回答後にするべきこと

上述したSHRMの記事によると、エンゲージメントサーベイを実施しただけでは、その効果を最大限に引き出すことはできません。重要なのは、サーベイ結果をどう活用し、従業員の声をもとに職場環境を改善していくかというプロセスです。ここでは、サーベイ後に取り組むべき具体的なステップを解説します。

調査後の分析方法

調査データから従業員全体の意識やモチベーションの傾向を分析し、より深い課題を発見するために非常に重要です。

必要に応じて、以下の視点でデータを細分化することで、より詳細な課題を明らかにします。

チームや部門ごとに分析する

組織の単位別に分析することで、生産性や意欲の違いを把握できます。その際、意欲の違いに注目することも重要です。「意欲的な従業員が多い部門」と「モチベーションが低い従業員が多い部門」、「従業員の満足度が高い部門」と「課題が多い部門」などのデータを比較すれば、モチベーションに影響する要因を特定したり、成功事例や改善ポイントを具体的に洗い出したりすることが可能です。

性別、年齢層など、人口統計データごと

性別や年齢層による意識差を分析することも有効です。例えば、若手社員が「キャリア形成への不安」を多く挙げていた場合、研修やキャリア支援制度の導入が必要であることが把握できます。

経営層もまきこみながら実施する

従業員エンゲージメント調査を成功させるためには、経営層を巻き込みながら実施することが不可欠です。調査を無視せず、従業員のフィードバックを組織運営に活かすことで離職率を抑制します。

1回でおわらず継続すること

エンゲージメントサーベイは一度きりではなく、定期的に実施することで、長期的な傾向や改善の効果を把握できます。複数回の調査を通じて、データを蓄積し、それを基に戦略を最適化することが重要です。

1回限りの調査では、一時的なデータに基づく判断に留まりがちですが、継続的に実施することで、従業員の満足度の変化や課題の解決状況を追跡できます。その結果、新たに問題が生じた場合でも、迅速に対応できるでしょう。

参考:

SHRM“Viewpoint:Carefully Craft the Employee Engagement Survey”

エンゲージメントサーベイを効果的におこなうことで得られるメリット

入念に設計、実施された従業員への調査は、従業員と経営陣双方にとって多くのメリットが得られます。

経営陣側のメリットとして以下が挙げられます。

  • 離職率低下:従業員の意見を反映した組織運営を行うことで、従業員のモチベーション向上、生産性向上、欠勤率の低下に繋がる
  • 組織文化の改善:組織全体のコミュニケーションが活性化し、風通しの良い組織文化を形成する
  • 顧客満足度向上や企業収益向上:組織全体の成長に貢献する

従業員のエンゲージメントレベルを把握することで、組織の強みと弱みを理解し、改善すべきポイントを特定できます。

一方、従業員側のメリットは、以下の通りです。

  • モチベーションの向上:自分の意見が組織に届いている実感を得られることで、組織への帰属意識や信頼感が高まる
  • 働きやすさ:組織の改善活動に参加することで、より働きがいのある職場環境を作る
  • キャリア形成:自身のキャリアプランを考えるきっかけとなり、自己成長を促進する

エンゲージメントサーベイを実施するだけでも、従業員に「意見が尊重されている」というポジティブなメッセージを伝える効果があります。これは、組織内の信頼感や一体感を醸成するのに寄与します。例えば、定期的に調査を実施し、その結果を全社で共有する企業では、従業員間の連帯感が高まったとの報告があります。

さらに、管理職は、調査結果から自分の部署やチームの課題を理解し、より的確なマネジメントが可能になります。例えば、管理職向けに部門別の結果を詳細に分析し、それに基づいたリーダーシップ研修を実施することで、チームパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。

ただし、調査を効果的に活用するには、フィードバックを真摯に受け止め、行動に移すことが重要です。調査を実施するだけで終わらせると、従業員の期待を裏切り、士気の低下を招く恐れがあります。そのため、調査後には、結果をもとにした具体的なアクションを明確に示し、改善を進めるプロセスが求められます。

参考:

SHRM“Managing Employee Surveys”

まとめ

エンゲージメントサーベイは、従業員の声を拾い上げ、組織の課題を明らかにするための強力なツールです。しかし、効果を最大化するには、質問設計や回答率向上の工夫、そして結果に基づく具体的なアクションが欠かせません。ただ実施するだけではなく、「従業員が大切にされている」と感じてもらうプロセスが必要です。

適切な質問とその後のアクションを通じて、従業員との信頼関係を築き、職場環境を改善することで、エンゲージメントの向上だけでなく、組織全体の成長も実現できます。この記事が、皆さまの職場での取り組みに参考となれば幸いです。